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不動産投資における投資対象は不動産ではないのだ

森本紀行HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長
すべての画像:123RF

 不動産投資は、不動産に投資することではなく、不動産から生じる賃料収入に投資することです。一般に、投資は、物や権利を単に所有することではなく、物や権利が生むキャッシュフローを得ることなのです。

証券投資の意味

 債券や株式は、総称して証券と呼ばれますが、投資対象としての証券は、財産権を表章するものにすぎず、証券の価値は、その基礎にある財産権にあります。財産権が証券という形態をとるのは、譲渡の簡便性を高めるための技術的な工夫なのです。

 あるいは、財産権としての側面からいえば、証券の意味は、第三者に対する権利の対抗要件にあります。法律上、財産権を第三者に対抗できなければ、投資対象として成立しませんが、証券であれば、占有によって権利を主張できるわけで、逆に、その容易さが譲渡可能性を規定しているのです。

 そして、債券の財産としての価値は、利息と元本償還金を得る権利であり、株式の財産としての価値は、配当を得る権利です。要は、証券の財産としての価値は、証券が生み出すキャッシュフローを得る権利なのであって、債券や株式を投資対象として取得することは、それらが生み出すキャッシュフローにかかわる権利を取得することなのです。

不動産投資の意味

 債券や株式の投資においては、投資対象は、証券なのではなくて、証券が表章する権利であり、更には、その権利が生み出すキャッシュフローです。同様に、不動産投資とは、不動産に投資することではなく、不動産が生み出すキャッシュフロー、即ち、賃料収入に投資することになります。故に、不動産の全体が投資対象なのではなくて、賃料を生む不動産だけが投資対象となり、例えば、賃料を生まない更地は、投資対象としての不動産にならないわけです。

不動産を所有する目的

 確かに、不動産投資は不動産の所有権を得ることですが、それは、不動産が生み出す賃料にかかわる権利を取得するためであり、その権利を第三者に対抗するためです。また、そもそも、賃貸に供するという不動産の利用自体も、所有権を前提にしたことです。

 つまり、不動産を投資対象にすることは、不動産を収益物件化すること、即ち、賃貸の仕組みを構成して、その仕組みから生じる賃料について、受け取る権利を保全することですが、その全過程において、不動産の所有が前提になっているわけです。

 故に、不動産投資は、方法的前提として、不動産所有になるのですが、理論的には、所有しなくても同等の経済効果と同等の権利の法律上の保全を実現できるのならば、所有は、必ずしも必須の要件ではありません。しかし、実際には、不動産利用の方法における自由度の確保は、その利用から生じる賃料収入の量と質にとって決定的に重要な要素となっており、自由度を確保するための所有権の取得は不可欠なのです。

不動産投資と不動産投機

 さて、何が目的で、何が結果にすぎないのかは、哲学の問題です。例えば、不動産価格が上昇するから、賃料が上昇するのか、賃料が上昇するから、不動産価格が上昇するのかは、決し得ないのです。そこで、哲学的に、賃料収入が不動産投資の目的だと考える限り、賃料が上昇するから、不動産価格が上昇すると考えるほかなく、不動産価格の上昇は、賃料上昇の結果であって、目的ではないことになります。

 そもそも、投資目的での不動産の取得は、賃料の上昇を見込まないでも投資採算が合う価格でのみ、実行されるのですから、不動産価格の上昇がなくても、取引条件に従って、不動産投資は収益を生むわけです。それに対して、敢えて、価格上昇を目的として、不動産を取得するのならば、それは、多くの場合、短期的な転売を目的としたもので、投資ではなく、投機なのです。

 もちろん、賃料が上昇し、価格が上昇するときは、取得価格よりも高く売却できるので、所有期間の投資収益率を非常に高いものにできます。しかし、不動産投資の目的が長期的に安定した賃料収入を得ることであるのならば、売却することで、その機会を失うことは、投資の目的に反します。

 また、不動産の時価が上昇しても、取得簿価は変動しないどころか、減価償却により低下していき、簿価に対する賃料収入利回りは上昇していくのですから、不動産投資の目的とは、長期保有によって、この簿価利回りの上昇を享受することだともいえるわけです。

 実は、投資の世界においては、時価主義が定着することで、価格上昇による売却益の稼得が投資の目的であるかのような誤認を生じさせ、投資の投機化を招き、投資の本質を見失わせた側面は否定できません。これは、不動産投資だけの問題ではなく、投資の全ての領域において共通にみられる問題です。

投資対象の入れ替え

 資産価格の変動は、資産毎に跛行し、同じ資産種類のなかでも、個別銘柄、個別物件毎に跛行しますから、そこに有利な入れ替えの機会が発生します。つまり、例えば、価格上昇時においては、相対的に価格上昇率の高い資産を売却し、相対的に価格上昇率の低い資産に入れ替えることができるわけです。

 不動産の場合、物件の種類、所在地、築年数等の様々な条件に応じて、価格変動の跛行が生じやすいわけですから、常に保有物件の有利な入れ替え機会がある一方で、取引に要する費用が高いという難点もあり、こうした問題を解くところに、不動産投資の技法があるのだと考えられます。

賃料水準と稼働率

 賃料収入が低下する事態には、賃料の水準が下落することと、稼働率が低下することとの二面があり、この二つは、稼働率が低下するから、賃料水準が低下するという関係にあるはずです。つまり、商業用にしても、住宅用にしても、物件の供給が過剰になれば、空室が生じ、空室を埋めるためには、賃料を下げざるを得ないわけで、物件の供給と需要の関係が賃料を規定するのは、一般の経済原則と同じです。

 故に、不動産投資においては、賃料と稼働率の関係を適切に管理することが重要です。賃料を下げてでも、高い稼働率を維持していれば、キャッシュフローを生み続けることはできますが、稼働率が一定限界を下回れば、賃料キャッシュフローは経費を下回り、投資価値が失われます。こうした判断にも、不動産投資の技法があるわけです。

 また、経済環境等によって、全ての物件の稼働率が平均的に低下することはあり得るにしても、地域、立地、規模、築年数、用途などの物件毎の固有の性格によって、稼働率は違ってきます。また、管理技術の差、立地に適したテナント政策、外装や共有部分の整備などによっても、賃料や稼働率は異なってきますし、更には、思い切った用途の転換、改築、改装などによっても、不動産の価値を高めることができるわけで、ここにこそ、不動産投資の最も高度な技法があるのです。

不動産投資と資金力

 東京などの大都市で進行中の巨大な開発案件をみますと、もはや、これは単なる不動産開発ではなくて、大規模な都市改造だと思わせます。普通は、立地条件は与件ですが、都市改造のような超大型開発は、立地条件自体を変更するものとして、不動産の価値を高めるという意味では、究極の戦略なのです。

 問題は、開発に必要な資金の調達です。巨大開発を行うためには、巨額な資金を投入する必要がありますが、資金調達は、金額が大きくなればなるほど、難易度が上昇していきますから、不動産投資には、資金調達の高度な能力が不可欠の要素になるのです。

 そして、不動産開発の立場からみたときの資金調達は、投資の立場からみたときには、不動産投資の機会です。不動産投資は、不動産に投資することではなくて、賃料に投資することであり、更には、不動産開発にかかわる金融の機会に投資することなのです。

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長。三井生命(現大樹生命)のファンドマネジャーを経て、1990 年1 月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。 2002 年11 月、HC アセットマネジメントを設立、全世界の投資機会を発掘し、専門家に運用委託するという、新しいタイプの資産運用事業を始める。東京大学文学部哲学科卒。

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