期日を守るから生産性が低いのだ

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 仕事の効率的な推進のためには、期日管理が重要な意味をもつわけですが、決められた期日を守るのは最低限のことにすぎず、より重要なことは、期日よりも前に作業が完了するように動機づけられていることであり、更に重要なことは、期日を早めることが同時に仕事の質の改善になるように、構造化されていることです。

メザニンとは

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 企業の資金調達には、株式の発行によって資本を増加させる方法と、社債を発行する、あるいは融資を受けることによって負債を増加させる方法がありますが、その中間には、有期で償還される負債性のある資本、または資本に転化し得る資本性のある負債を設計することができます。この中間形態は、資本を建物の一階、負債を二階に譬えることで、中二階、それを英語にしてメザニンと呼ばれます。

 メザニンが利用されるのは、企業が何らかの事由によって一時的な資本不足に陥っているときです。こうした局面では、負債調達は資本不足により困難であると同時に、一般的には株価が低迷していて資本調達も困難であり、仮に増資を強行すれば既存株主の権利の著しい希薄化を招くからです。メザニンであれば、一時的な資本不足が解消した段階で償還して、普通の負債調達に切り替えればいいわけです。

早期償還の利益誘因

 当然ですが、メザニンの金利は普通の負債よりも高く設定されますから、企業としては、できるだけ早期に償還する方向に利益誘因がありますが、償還できるためには資本不足を解消させる必要がありますから、結局、メザニンにおいては、企業経営者の速やかなる経営改革努力を促す方向に利益誘因があるわけです。

 しかし、投資家の立場からすれば、折角の高金利のメザニンが早期に償還されてしまうことは不利益です。そこで、資金を調達する側の産業界と運用する側の金融界との間に共通利益がなければ、持続可能な経済の成長はあり得ないのですから、満期を待たずに期前償還させる場合には、償還価格を額面よりも高く設計しておくことにより、メザニンの投資家にとっても利益となり、調達側と運用側の共通利益を生むようにするわけです。

早期回収が投資の本質

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 投資資金の回転を増すほど、また早く回収するほど、投資収益率は高くなりますから、メザニン投資を専門の投資運用業として行うときは、早く回収し、投資の回転率を高くすることに努めなくてはなりません。逆に、回収が遅くなることは、投資収益率の低下を招くだけではなく、仮に満期時に回収できなければ、株式転換等を強いられるわけですから、投資のリスク、即ち損失の可能性が高くなることでもあるわけです。

 メザニン投資において、期日に回収するのは最低限のことにすぎず、最低限のことを目指しても、投資のリスク、即ち期日に回収できない可能性を制御することはできません。そもそも、最低限のことを目指して、メザニン投資の専門家を自称することはできないのですし、最低限を目指せば、その最低限すら往々にして達成し得ないことは世間知です。

 期日前に回収しようと努力することは、要は、債務者である企業の経営改善に対して最大限の援助を行うことであり、そのことが企業自身の速やかな改革を促し、投資家は、より安全で、より高い投資収益を期待でき、企業は早期に経営を改善でき、そこに共通利益が発生する、これぞ投資の本質であり、金融の理念でなければならないのです。

飛ぶ矢の背理

 ここで、有名な飛ぶ矢の背理が参考になります。飛ぶ矢の背理とは、的へ向けて放たれた矢は、的までの距離の中点を通過し、更に残りの距離の中点を通過しますが、残存距離の中点は無限に生じるので、矢は的に極限まで接近するにしても、決して的に到達しないというものです。

 古来、この背理の解法は様々に論じられてきたわけですが、一つの解として、的の少し後ろに別の目標を置き、的を矢の通過点にある障害物とすれば、背理の適用そのものによって、矢は的に突き刺さります。そもそも、矢は、的に到達するまでの必要最小限の距離だけを飛ぶように放たれるはずもなく、的の先まで飛ぶように放たれるが故に、力余って的に突き刺さるわけです。

生産性の再定義

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 力余って、ということが鍵なのです。何かをするに、必要最低限の努力で完了させる、それが生産性の高い働き方だというのは誤りです。真に生産性の高い働き方とは、何かをするに、最大限の努力をもってし、その必要最低限を上回る余力によって、より早く、より質の高い仕事を実現することです。そこで、メザニンの仕組みと同様に、生産性を高める働き方について、利益誘因の設計が必要になります。

 例えば、ある明確に定義された仕事について一定の報酬が決められているとき、その仕事を半分の時間で完了させるように努力すれば、残りの半分の時間については、自分の好きなことに使うか、あるいは仕事を二倍にして報酬も二倍するか、どちらにしても働く人の利益になります。このように、時間ではなく、定義された仕事を基準に報酬を定めることで、生産性が高くなる方向に働く人の利益誘因を設計することこそ、働き方改革の本質です。

有期の組織

 期日を限り、その期日前に完了させる努力が促されるように利益誘因を設計すること、これが働き方改革だとしたとき、組織の永続性は大きな障害になります。故に、中期経営計画や年度計画が必要になるわけですが、ならば、いっそのこと、組織自体を有期にすることが検討されるべきです。

 特に、官庁の場合、予算制度との関係で、毎年の業務の反復継続に堕しやすく、変革対応力に極めて乏しいわけですが、他方では、巨大災害、金融危機、産業構造改革、地方創生のような局面においては、有期の機構が設置される例も珍しくないのですから、これからは、より多くの政策課題について、有期の組織を作って対処すべきでしょう。

 こうすることの最大の利点は、政策課題の多くは複数の省庁に所管が分属していることに対して、有期の組織を関係省庁から人を集めて作ることで、縦割り行政の弊害を打破できることです。また、民間からの人材の登用についても、有期の組織のほうが企業等からの出向などの弾力的対応をとりやすいはずです。

より早く組織を解散させる利益誘因

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 公務員改革においては、成果報酬の要素を導入することが望ましいのかもしれませんが、公務員の処遇制度の根幹は変え難いとの前提だからこそ、有期の組織の利用が工夫されるべきなのであって、公務員の働き方改革というよりも、生き方改革として、有期で、全く異なる環境のもとで具体的な使命感をもって働く機会を得ること、そのこと自体が価値のある処遇でなければならないのです。

 つまり、あからさまにいえば、組織が解散になったとき、原籍に戻らない公務員が少なくないという予想のもとでなければ、成果は期待できないということです。これは当然のことで、原籍に戻ることを目標に働くような人には、何の期待ももてないのです。

 公務員として、次の人生の大きな飛躍のために、できるだけ早く職務を完了させて組織を解散させ、その間に世間に知られるような仕事をしようと最大限の努力をするからこそ、組織として、より早く、より大きな成果を生むことができるのです。同じことは、出向等で参画する民間人にもいえますから、要は、有期の組織は、人材流動化の鍵になるということです。

有期の企業

 企業のなかに特定の課題解決のための有期の組織を作ることは、珍しくもありません。むしろ、企業の構造改革にとっては、企業自体が有期のものだという発想の転換のほうが重要です。つまり、事業があり、その事業に顧客があって、顧客の需要に適切に対応するために仮の組織として企業があるにすぎないという発想のもとでなければ、顧客の真の利益の視点にたった企業の永続的な改革などあり得ませんし、企業に働く人の働き方改革もあり得ないのです。