もう金融庁のいう顧客本位は古い

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 金融庁は金融機関に対して顧客本位の徹底を求めていますが、そもそも顧客とは何でしょうか。金融に限ったことではありませんが、顧客が問題なのではなく、顧客の求めるものだけが問題なのですから、真の顧客本位とは、顧客の求める金融機能を顧客の利益の視点で的確適正に提供することであって、金融庁が金融機関に求めるべきは機能本位の徹底なのではないでしょうか。

不要な生命保険

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 今の日本の家計の現実において、また超高齢化と人口減少のなかで、真の顧客の利益の視点で生命保険の適正需要を推計したときには、実際に生命保険業界が提供している付保総額を大幅に下回る可能性が高い、即ち、不要な生命保険を大量に提供することで、今の生命保険業界は成立していると推測されるのです。

 こうした事態は顧客の真の利益に反するものであり、生命保険の社会的機能からの逸脱なのであって、金融機関に顧客本位の徹底を求めている金融庁としては、当然に問題視しているわけですが、なぜ逸脱が簡単に是正されないのかといえば、技術的な問題として、生命保険の名のもとに節税機能と貯蓄機能が提供されている、より強い表現を用いれば、節税機能と貯蓄機能という実質を提供するために生命保険という形式が借用されているからです。

生命保険のアンバンドリング

 そうはいっても、少なくとも表面的には顧客の利益に適うようにできているからこそ、現在の生命保険業界の現実があり得ているのは間違いないことです。しかし、表面的には顧客の利益に適うようにみえても、顧客の真の利益には反する場合があり得るのであって、例えば、生命保険の衣を着せることで余計な費用が発生し、また実質的な手数料等が不透明になって顧客の不利益になる可能性もあるわけです。

 また、生命保険に固有の特殊な優遇税制は、その本来の目的に従って利用されるべきものであって、環境変化により目的の意義が希薄化し、単なる節税目的だけに利用されることの弊害が顕著になってくれば、税制の公正公平性を保つために、躊躇なく改正されなくてはならないのです。

 そして、実際に、金融庁が生命保険業界に顧客本位の徹底を求めるなかで取り組んできたことは、これらの論点へ切り込むことだったのです。しかし、こうした施策は、顧客本位の名のもとに括られるよりも、形式的な生命保険という名のもとにバンドリング(bundling)、即ち統合されている諸機能を解体することとして、アンバンドリング(unbundling)と呼ばれるべきであり、生命保険を生命保険に固有の機能に純化することとして、機能本位と呼ばれるべきでしょう。

 これは、いうなれば、顧客本位でない抱き合わせ販売を是正するということですが、ある金融機能は、他の金融機能と、あるいは他の非金融の機能と結びついて有効に働く場合も多いでしょうから、バンドリングが常に顧客本位に反する抱き合わせ販売だとは限りません。

 しかし、まずは徹底的に機能ごとのアンバンドリングがなされて、各機能の性能と費用が明確にされたうえで、改めて顧客の利益の視点でリバンドリング(rebundling)、即ち再統合される必要があるということです。

預金のアンバンドリング

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 アンバンドリングといえば、現下の課題は、預金のアンバンドリングです。

 預金には、三つの機能、即ち、現金を保管する機能、取引に対応して資金決済を行う機能、金利によって資産を殖やす機能がバンドリングされています。このうち、資産を殖やす機能は、とうの昔に金利がなくなったことにより失われてしまいました。そこで、金融庁は、預金に替わるものとして、投資信託による資産形成を重点施策にとりあげているのです。

 また、決済機能の高度化も金融庁の重点施策になっています。なぜなら、今や、テクノロジーの飛躍的な発展によって、預金から決済機能をアンバンドリングすることが可能になり、利用者の利便性を考えたときには、アンバンドリングしたほうが望ましい状況になっているからです。そして、預金から分離されたところで決済テクノロジー基盤ができたとき、それが金融機能であるかどうかは非常に微妙であって、金融庁としては非金融機能に整理してしまうことも視野に入れていると思われます。

 こうして、実は、金融庁においても、顧客本位とは少し異なる視点において、自明視されてきた金融サービスを分析して内包されている金融機能へ着目することがなされているのですが、それは主として決済との関係において、金融と非金融の境界を再定義する課題として登場しているのです。

アンバンドリングによる預金と融資の純化

 預金の三つの機能は利用者の視点によるものであって、その裏には金融機関の視点があり、融資の原資を調達するという第四の機能があるわけです。しかし、個人の資産保有における預金から投資信託へという流れは、当然のことながら、反対効果として、企業等の資金調達における融資から株式や社債等の発行へという流れを生じさせる、即ち金融の主舞台を資本市場へ移転させる結果を生じさせるわけですから、融資の原資を調達するという預金の機能も縮減に向かいます。

 もちろん、資本市場へ移転するのは主として長期資金の調達ですから、企業の運転資金等に対応する短期資金の調達における融資の必要性はなくならず、この融資の短期的性格は現金を保管する機能としての預金の短期的性格に適合することになるのです。こうして、預金の徹底的なアンバンドリングは、預金を現金保管機能へと純化させ、それに対応して融資を短期資金供給機能へと純化させるのです。

市場機能の強化

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 資本市場には、企業が株式や社債等を発行して資金を調達する機能と、その反対側に、投資家が発行された株式や社債等に資金を運用する機能とがありますが、金融庁にとって重要なのは投資家の機能です。つまり、投資家には、単に受動的に企業の資金調達に応じるのではなく、調達資金が適正に事業活動に投じられ、持続可能性のある付加価値の安定的創造につながるように、企業に能動的に働きかける社会的使命があるというわけです。

 いうまでもなく、投資信託等の顧客資産を運用する投資運用業者は、投資家のなかでも特に重要な責務を負うものであって、その適正な活動により企業のガバナンス改革と成長をもたらし、それを投資成果の改善につなげることで顧客資産を増殖させ、経済の持続的成長と国民の安定的資産形成に貢献しなければならないのです。そして、この資本市場における投資家の機能の徹底こそ、投資運用業者における顧客本位の徹底にほかなりません。

資産形成と投機

 資本市場には投機が必要です。例えば、外国為替市場で貿易や資本取引のための巨額な為替取引が円滑になされているのは、FX等を通じた投機家の資金が大量に流入しているからであって、この事情は株式市場や債券市場でも同じことです。実は、資本市場で株式や社債等が円滑に取引されるためには、投機資金の活発な活動が不可欠なのであり、投機には立派な社会的に重要な金融機能があるのです。

 つまり、資本市場は、一方では、株式や債券への直接投資や投資信託を通じた投資によって、資産形成の場として機能しているわけですが、他方では、株式の信用取引、デリバティブ取引、短期的に売買を繰り返す行為等によって、投機の場としても機能しているのであって、この二つの機能は、密接に連関しながらも、本質的に異なるものなのです。

 しかし、資産形成と投機とは、全く同じ法令の適用のもとに並立していますから、例えば、金融庁が証券会社に対して顧客本位の徹底を求めるとき、資産形成の顧客についての顧客本位と投機の顧客についての顧客本位との間に明瞭な差異を認識し得るかといえば、決して簡単なことではないと懸念されます。むしろ、どの金融機能にも、それに適合した顧客がいるとの前提にたてば、顧客本位というよりも、機能本位の徹底を求めるほうがいいと思われます。

投資信託の機能本位による分析

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 最後に、投機性の強い投資信託が大量に存在する日本の現実について、それらが資産形成に不向きであるとの観点から、金融庁は顧客本位に反した実態をみるのでしょうし、事実、その見解に大きな誤りはないでしょうが、改めて機能本位の視点から再考し、投資信託で投機を楽しむ顧客層があるのかを検証することは無意味ではないでしょう。

 また、高額な販売手数料についても、金融庁は顧客本位に反した実態をみるのでしょうし、事実、多くの場合、そこに大きな誤りはないでしょうが、改めて機能本位の視点から再考し、資産運用のコンサルティング機能を求めている顧客層があり、その対価として販売手数料を払っているつもりなのかを検証することは非常に有意義でしょう。