この人をスルガ銀行の社長にしていいのか

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 スルガ銀行の組織的不正に関する第三者委員会の調査報告書は、同行の異常な内実を具体的に記述していて非常に興味深いですが、取締役会の機能不全の実態や各取締役の個別の責任を検討しているところは、同行固有の問題を超えて、日本のコーポレートガバナンスのあり方全体に決定的な影響を与えるのではないかと思われます。さて、どこが凄いのか。

従業員から選任された取締役の責任

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 スルガ銀行の第三者委員会調査報告書は、同行の組織的不正を具体的に詳細に記録したものとして非常に面白い読み物ですが、取締役会の機能の実効性に重大な疑義を表明していることは、同行の特異な問題事象を超えて、日本のコーポレートガバナンス一般について深刻な反省を強いるものであり、その産業界全体への影響は決定的なものになるでしょう。というよりも、むしろ、産業界は決定的に重要なこととして受けとめなくてはならないということです。

 例えば、報告書は、取締役一人一人について、責任の有無と重さを認定しているのですが、なかでも有國取締役に関する記述は極めて重要な意味をもっています。

 まず、「有國取締役は、取締役に就任する前、2012年6月より4年間、経営企画部キャスティング部(現人事部)の部長を務めている」という事実があり、組織的不正の中核にいた麻生専務執行役員による人事への介入等の問題事象について、「部長在任中、当該実態を認識していた」とされています。

 そして、報告書は、「有國取締役は、経営企画部キャスティング部の部長として審査部の人事に営業の意向が色濃く反映されている状況を具体的に認識しており、審査が無力化し、与信リスクが発現する可能性を具体的に認識し得たと言い得る」と認定したうえで、次のような決定的に重要な指摘を行っています。

 「経営企画部キャスティング部の部長としてこうした状況を目の当たりにし、自身も認めるように「それでけん制が効くのかっていう疑問」も有していた有國取締役としては、少なくとも取締役就任後、遅滞なく当該問題を取締役会に報告する等の方法により、審査部(とりわけ審査第二)の人事の正常化に努めるべきであった。人事起案権の所在が不明な中で、明らかな善管注意義務違反があったとまでは断定できないまでも、一定の経営責任は免れないものと思量する。」

なぜ有國取締役が新社長なのか

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 報告書は、岡野会長、米山社長のほか計六名もの取締役について、善管注意義務違反および一部法令違反まで認定しているのですが、有國取締役については、それは否定されて、「一定の経営責任は免れない」という表現にとどめているのです。

 では、具体的に、「一定の経営責任」が何を意味するかというと、それは報告書を纏めた弁護士にもわからないはずです。今後、訴訟等の何らかの展開を通じて、取締役の法的責任追及がなされざるを得ないのだろうと想像されますから、有國取締役の「一定の経営責任」も、そのなかで明らかにされるほかないのです。

 それにしても、誰しも思うことは、その有國取締役が新社長に就任したのはおかしくないかということです。背景としては、金融庁の検査が未だ終了しておらず、いずれ近いうちに、検査結果に基づく行政処分が発表される予定になっていることがあるでしょう。

 この報告書からも窺い知られるように、かなり厳格な処分にならざるを得ず、そこでの指摘事項も考慮して、改めてスルガ銀行の新経営体制が構築されるのでしょうから、比較的に責任が軽く認定された有國取締役が暫定的に社長になっているだけだと想像されます。

不可能を強いることの衝撃

 それにしても、従業員のときに知り得た不正な事実について、「取締役就任後、遅滞なく当該問題を取締役会に報告する等の方法により」是正すべきだというのは、あまりにも酷な要求であり、事実上、不可能を強いることではないかと考えられます。

 日本では、取締役が従業員から選任されるのが普通で、しかも昇格というような従業員身分との連続で運行されている実態があるのですから、従業員と取締役との法律上の立場の断絶を意識する人など、皆無だと思われます。故に、仮に有國取締役と同じ立場にたたされたとしても、取締役会で不正を暴き、改革を提言する人がいようとは想像すらできないことです。

 報告書は、従業員から選出された新任取締役に対して、日本社会の慣行に照らしたときは、明らかに不可能を強いているわけです。しかしながら、取締役の法律上の責任に照らしたときは、より明らかに正論を主張しているのです。法律上なすべきことよりも、慣習上せざるを得ないことを優先させているのは、取締役の行為規範だけではなく、日本のあちらこちらにみられる現象です。

 この報告書は、この日本社会の構造欠陥を正面から突いたところに画期的な意味があるのですが、画期的すぎて、産業界に深刻な戸惑いを起こすことは必定です。反論の余地のない正論なるが故に、逆に反発を感じることは人間の自然な心理でしょう。

必ずしも不可能を強いることではないか

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 そもそも、日本社会の慣行と法律上の責任が矛盾するということ自体、おかしいと考えられます。この点、柳沢取締役の扱いが注目されます。

 報告書は、善管注意義務違反を認定した柳沢取締役についても、有國取締役について指摘したのと同様に、「取締役就任前からシェアハウスローンについての懸念を有していたのであるから、取締役就任後速やかに、取締役会や経営会議などで、シェアハウスの問題や是正の必要性をより強く指摘すべきであったと言える」と述べています。しかし、同時に、取締役就任後、「収益不動産ローン全体の是正に向けて積極的に行動をしており、その点では取締役の職務執行として肯定的に評価することができる」ともしています。

 ここには、極めて微妙な問題があるのです。法律が社会の現実を規定するわけではなく、社会の現実に対して法律が適用されるのですから、日本社会の慣行と法律上の責任とが完全に相反する状況というのは稀有なはずです。有國取締役にも、おそらくは、当時のスルガ銀行の異様な状況においてすら、別の行動が可能だったのでしょう。

難しくなった取締役の立場

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 近時に報告されている例から推して、スルガ銀行に限らず、不正が長期にわたって社内に横行している事案は決して珍しくないと想像されます。ならば、不正を従業員として知る立場にあった人が取締役に選任されていることも珍しくないはずですから、それらの人は、報告書が有國取締役に認定したのと同じ責任を負っている可能性があります。さて、それらの人は、今、何を考えているのでしょうか。次の取締役会で勇気を奮って発言すべきか、煩悶し、苦悩しているのでしょうか。

 特に、銀行の取締役は難しい立場にあるのかもしれません。確かに、スルガ銀行の事案は逸脱の程度において極端であって、他行に同様の事態を推定することはできないと考えられますが、同時に、本質の問題ではなく、程度の問題にすぎないとも考えられ、金融庁が指摘してきたように、法令および行内規則を厳格に遵守した形態においてなら、不動産関連ローンの積極的な創造を行っている銀行は他にもあるのです。

 金融庁の行政手法は、効率を高めるために、いわゆるリスクベースアプローチをとっていると思われますから、スルガ銀行において認定された問題事象を分析し、外形指標と属性を抽出して、それを他行に当て嵌めて類似の事態を早期発見するように努めるのだと思われます。だとすると、全ての銀行において、同様の手法を用いて自己点検をしておく必要があるでしょう。

 つまり、銀行の取締役は、スルガ銀行の問題事象の構造を知ってしまった以上、自己点検の実施を求め、その結果報告を求めるべく、取締役会で積極的な発言をしない限り、後日、責任追及される可能性を残してしまうのだと思われます。

最高リスク管理責任者の責任

 実は、「有國取締役は、2016年6月に取締役に就任した直後から2017年6月まで監査部管掌兼CRO(最高リスク管理責任者)を務めていた」とされています。そして、その任務の執行については、「監査部が実施していた内部監査にも少なからず問題はあった」との指摘を受けていて、消極的ながら責任が認定されているのです。

 実際、スルガ銀行の場合、著しく傾斜のついた積極的な営業展開のなかで不正が慢性化していたのですから、外貌上、顕著な指標が検出可能であったはずです。従って、リスクベースアプローチをとっていれば早期是正がなされ得たのではないのかという疑問が残るわけであって、それを実施すべき職責にあった有國取締役の責任は重大であると推測されるのです。

 しかし、報告書は、「リスクベースアプローチの監査が実現していないことから、直ちに、今般発覚したような各種不正のリスクを認識し得たかと言うと、必ずしもそこまでは言えないようにも思われ、監査部管掌兼CRO(最高リスク管理責任者)としての約1年間の在任期間における有國取締役の職務が、明らかに善管注意義務違反に該当するとまでは認められない」と結論付けたのです。

 いうまでもなく、「少なからず問題はあった」とか、「明らかに善管注意義務違反に該当するとまでは認められない」という表現は、責任がなかったという意味ではなく、責任はあったが、それを積極的に認定する根拠に欠けるという意味でしょうから、責任認定が先送られただけのことです。

不明な任命責任

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 報告書は、リスクベースアプローチの監査について、「各種不正のリスクを認識し得たかと言うと、必ずしもそこまでは言えない」という評価に傾いていますが、ここは、別の見方もあり得るように思われます。特に、スルガ銀行の場合、異常を示す顕著な指標を検出し得たようにも思えるのです。

 有國取締役は、第三者委員会に対して、「基本的に当社の監査部っていうのは、要は業務回りの書類がしっかり整っているかとか、その規程どおり行われているかと。そういうところに主眼を置いた監査になっておりまして、私も引き継いだ当初は、あまり監査の業務は詳しくなかったので」という発言をしています。

 他行における平均的な監査業務やリスク管理の水準と比較したとき、リスクベースアプローチの監査とほど遠いスルガ銀行の実態は、どう評価されるべきか、その結果によっては、「各種不正のリスクを認識し得たかと言うと、必ずしもそこまでは言えない」という判断も見直される余地があるでしょう。

 また、この発言は、監査部管掌兼CRO(最高リスク管理責任者)という職責を全うする資格要件を欠いていたことを自認しているようです。そもそも、同行においては、根源的問題として、自身が新社長に就任したことも含めて、任命責任の所在が不明のようです。