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投資信託の質の「見える化」は可能か

森本紀行HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長
すべての画像:123RF

 金融庁は、資本市場へ金融の中核機能を移転しようとしています。この歴史的大転換の結果として、国民貯蓄は、投資信託等を通じて直接に資本市場に流入するのですから、国民の利益を保護することが使命の金融庁にとって、投資信託の質の抜本的改善は最重点課題になっています。そこでは、数多ある投資信託の質の差を測る尺度を導入し、国民の合理的選択を促すことで、不良品の淘汰が目論まれているのですが、さて、そのような尺度はあり得るのか。

金融構造改革

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 現在の金融庁は、金融機関の監督官庁というよりも、金融行政を通じて経済の持続的成長を実現する経済官庁としての色彩を濃くしています。そして、その最重点施策が金融機能の中心を資本市場に移転することなのです。

 なぜ資本市場かというと、産業界に対する資金供給の形態として、預金を原資にした銀行等の融資では、預金に元本保証が付されているために、銀行等がとれるリスクに限界があるのに対して、元本保証のない社債や株式等の形態で資金供給を行えば、金融界として、より大きなリスクをとることができるからです。

 ところが、金融界が大きなリスクをとろうとしても、産業界が成長のために積極的にリスクをとらなければ意味がありません。そこで、企業のガバナンス改革が必須なのですが、企業の資金調達の主たる舞台が資本市場に移転すれば、企業経営者は投資家の視線を無視できなくなり、改革が促されると期待されるわけです。

投資信託の質の「見える化」

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 さて、こうした金融構造改革のもとでは、理屈上、国民貯蓄は預金から株式や社債に移転しなければならないわけです。株式や社債に直接に投資する人もいるでしょうが、国民貯蓄の主流は投資信託になると考えられます。そこで、金融庁が直面する深刻な課題は、国民の利益を守ることが使命である以上、劣悪な投資信託に国民貯蓄を誘導することはできないということです。

 預金には元本保証が付されていますが、金融庁は、保証の裏付けとなる銀行等の自己資本に厳格な規制を課すことで、国民に対する責任を果たしています。投資信託には、元本保証がありませんから、それに替わる何らかの品質保証を導入しない限り、金融庁として、国民に対する責任を果たせません。まさに、ここに金融庁の喫緊の政策課題があるのです。

 まず、2016年10月に公表された金融行政方針において、金融庁は「見える化」を掲げました。そこには、「「見える化」を通じて、金融機関の取組みが顧客から正当に評価され、より良い取組みを行う金融機関が顧客に選択されていくメカニズムの実現を目指す」と書かれています。ただし、「各種手数料等の開示の促進」とある以外には、具体的に何が「見える化」されるのか明らかにされていませんでした。

 次いで、2017年11月に公表された金融行政方針では、「金融機関が顧客に対し長期的にリスク・手数料等に見合ったリターンを提供しているかなどを示す、金融機関間で比較可能なKPI等の公表による金融機関の取組みの「見える化」を一層進める。こうしたKPI等の公表を通じて、単純な手数料引下げ競争ではなく、顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供に向けた金融機関間の競争を促していく」として、一段と踏み込んだ記述がなされました。

KPIの策定

 問題は、「金融機関間で比較可能なKPI等の公表」とは、具体的に、どのような内容のものなのかということであり、それが金融界の大きな関心事なのですが、実は、未だに金融庁から示されていないのです。ただし、KPI(Key Performance Indicator)というとき、何が測定されるべきパフォーマンスとして考えられているかというと、金融行政全体の整合性から判断すれば、間違いなく、顧客との共通価値の創造になるのです。

 共通価値の創造とは、金融機関が「顧客に対し長期的にリスク・手数料等に見合ったリターンを提供」できていれば、そこに顧客の利益があると同時に、金融機関としても、顧客の支持を得て事業が拡大することを通じた利益があるわけですから、顧客と金融機関の共通価値が創造されているはずだという意味です。

 そこで、論理的には、KPIは、第一に、創造された顧客の利益を測定するものであり、第二に、顧客の利益創造を通じて金融機関に創造された利益を測定するものであり、第三に、顧客の利益と金融機関の利益との間にある適正な均衡を測定するものになるはずです。そして、この第三の観点から、手数料等の適正性が評価されるわけです。

インベスターリターン

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 KPIの仕組みは、観念的には簡単ですが、技術的には相当に難易度が高いのです。

 例えば、ある投資信託について、一定期間のリターンを計測することは極めて容易で、それは客観的なたったひとつの数値になりますが、しかし、いわゆるインベスターリターン、即ち、それを保有する顧客の利益を測定することは、特定の顧客の、特定の期間についてならば、客観的な数値上の事実として簡単にできても、多数の顧客について平均的なところを測定するとなると、購入と解約のタイミングが各人で異なるのですから、事実としての数値から離れて、仮定に基づいて修正を施したものとしてしか計測され得ません。

 この点については、業界に先駆けてKPIを公表しているセゾン投信の優れた取組みがあります。まず、金融庁の施策は、金融機関が自分自身のKPIを策定することを前提としています。問題は、各社固有のKPIは自己点検の道具であり、自己評価の指標なのですから、他社比較ができないことです。それでは、「より良い取組みを行う金融機関が顧客に選択されていくメカニズム」としては、少し弱いものになります。

 そこで、金融庁としては、「金融機関間で比較可能なKPI等の公表」にまで進めたいのですが、そのKPIは、当然のこととして、金融庁において策定されるほかありません。しかし、金融庁の共通KPIは、各社のKPIを基にして、その標準化として策定されるのが望ましいのですから、先行した好事例であるセゾン投信のものは大いに注目に値するわけです。

セゾン投信のKPI

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 セゾン投信によれば、「当社では、生活者の経済的自立の実現のためには、目的に合った商品を選択することに加えて、積立で購入を行うことなどにより 相場の状況に左右されることなく、計画的に購入することが重要であると認識しているため、基準価額の騰落率だけでなく、お客さまの運用による成果を測る指標であるインベスターリターンを重視しています」としていて、インベスターリターンの定義は、「日々のファンドへの純資金流出入額と、期首及び期末のファンドの純資産額から求めた内部収益率を年率換算したもの」とされています。

 つまり、インベスターリターンですと、タイミングの効果が含まれるのです。インベスターリターンがファンドのリターンを上回るときは、基準価格の低いところで資金流入があり、また、基準価格の高いところで資金流出があったときです。

 しかし、セゾン投信の経営方針として、そのように上手にタイミングを計る顧客を得たいのではなく、「積立で購入を行うことなどにより 相場の状況に左右されることなく、計画的に購入することが重要であると認識」のもとで、同一金額を定期的に購入すること、いわゆるドルコスト平均法を推奨したいのでしょう。実際、ドルコスト平均法を実践しても、インベスターリターンはファンドのリターンを上回るわけです。

 なお、いうまでもなく、KPIとして公表されるインベスターリターンは全ての投資家の平均的リターンなので、個々の投資家のインベスターリターンは異なるわけですが、仮に、大多数の顧客が定期積立を選択していれば、顧客間格差は小さくなるわけで、KPIとしての意味は大きくなります。

経営理念との整合性

 故に、定期積立の割合も重要なKPIになります。実際、セゾン投信では、「評価時点における全総合取引口座のうち、定期積立プランを利用している割合」もKPIに採用されています。

 そして、定期積立の比率が高いということは、勤労層の顧客が多いと考えられ、老後生活資金形成を目的とした投資家だと推定されますから、セゾン投信が掲げる「生活者の経済的自立の実現のためには、長期投資の理念に立脚した資産形成が必要不可欠との考えから、その業務を行ってまいります」との経営理念にも適合するわけです。

 さらに、また別のKPIである平均保有期間、即ち、「各期の平均残高を年間解約額で除したもの」も低くなると想定されることになり、このようにして、各KPI間の整合性を評価することで、KPIとしての信憑性を高めていくことができるわけです。

 ここに顧客の年齢分布を分析に入れることも一案です。セゾン投信の掲げる経営理念のもとでは、解約が生じるとしたら、勤労層の不時の出費による都合を除けば、年金受給層の資産取り崩しですから、そうした顧客層の年齢分析からも、有意義なKPIができるでしょう。

 なによりも大切なことは、KPIは、第一義的には、経営理念にそった業務運営がなされていることの自己点検の指標だということです。実際、セゾン投信のKPIは、経営理念の達成度を測定するものとして設計されています。そこが優れているのです。他社も、よく研究して見習わなくてはなりません。

顧客との共通利益の創造

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 ここで重要なことは、経営理念が実現していれば、運用会社としても最善の利益がでているということです。企業というのは、自明の理として、経営理念を実現することで利益を生むものですから、KPIによって経営理念の実現度を測定することは、同時に企業業績を測定することと全く同じことになるのです。

 そして、運用会社である以上、経営理念にインベスターリターンを大きくすることを掲げるのは当然ですから、KPIは、顧客の利益と運用会社の利益が一致していることの整合性の評価指標として、機能するわけです。

 そこで話が戻るわけですが、KPIは各社の経営理念に対して整合的であるべきだとしたら、金融庁として、「金融機関間で比較可能なKPI等の公表」は可能なのかということです。これは、難しいかもしれませんが、究極のところでインベスターリターンという共通尺度があるわけですから、可能なはずです。

 いずれにしても、どのような共通KPIを金融庁が公表しようとも、顧客の誤解を招く等の苦情や不平をいう金融機関はあるでしょう。金融庁に同情しますが、そのような金融機関に限って、自社のKPIができていないわけで、共通KPIの前提として、各社が工夫を凝らしたKPIを公表することが先決なのです。

 そもそも、まともなKPIの公表ができないということは、経営理念が不在であり、顧客の利益を顧みない金融機関だということを「見える化」してしまうわけですから、その段階で、金融庁の目的は、一定程度、達成されているのです。

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長。三井生命(現大樹生命)のファンドマネジャーを経て、1990 年1 月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。 2002 年11 月、HC アセットマネジメントを設立、全世界の投資機会を発掘し、専門家に運用委託するという、新しいタイプの資産運用事業を始める。東京大学文学部哲学科卒。

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