投資信託協会の会長は、大和投資信託の社長です。他の金融商品取引法に基づく業界団体である日本証券業協会および日本投資顧問業協会では、会長職は専任ですが、投資信託協会では、会員代表者から会長を選んでいるのです。それはいいとしても、その会長が大和証券グループ本社の執行役副社長を兼職しているのは、さて、いかがなものか。

自主規制機関としての位置づけ

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最初に確認しておかなければならないことは、投資信託協会は、日本証券業協会や日本投資顧問業協会と並んで、金融商品取引法に根拠を有する機関であるということです。

各協会は、金融商品取引法に定義されている業、即ち、投資運用業や第一種金融商品取引業の健全な発展を図ると同時に、投資者の保護を図ることを、共通の目的としています。故に、各協会は、各業界の自主規制機関としての重大なる社会的責務を負っているのです。

この点において、同じ金融機関の業界団体といっても、全国銀行協会、信託協会、生命保険協会などとは、根本の建付けが違うのです。全国銀行協会等では、業界の少数の大手の会員代表者が、慣例に従い、持ち回りによって、会長に就任しているのですが、日本証券業協会と日本投資顧問業協会では、職責に相応しい人物を、専任の会長として、選出しているのです。

旧態依然たる投資信託協会長の選出方法

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ところが、投資信託協会では、慣例に従い、持ち回りによって、業界の大手の会員代表者が会長に就任しているのです。これは、おかしい。

しかも、投資信託協会の会長職の場合、大手の持ち回りというよりも、ここのところ長らく、野村アセットマネジメントと大和投資信託の社長が交替で就任する慣例になっています。これは、古く、証券四社の子会社の投資信託運用会社によって、会長職を持ち回りにしてきたことの名残です。結局、証券四社のうち、野村と大和だけ残ったのです。

自主規制機関だからといって、日本証券業協会と日本投資顧問業協会のように、専任会長を選ばなくてはいけないということではありません。要は、自主規制機関の長として、適任者が選ばれればいいわけで、それが、たまたま、会員代表者であっても、協会の事務局の体制さえしっかりしていれば、それでいいのです。

しかし、投資信託協会の場合は、野村と大和の慣例的交替によって会長を選んでいること、また、野村と大和という二社の選択が親会社の地位によって決まっていること、この二点は、どう考えても納得できないものです。特に、後者の点は、投資信託の運用会社が販売会社である証券会社の従属下にあることを推測させるものとして、適正さを欠くものです。

投資信託の運用会社の従属的地位

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そもそも、野村アセットマネジメントにしても、大和投資信託にしても、親会社と人事が一体化していることが大きな問題です。

投資信託協会長である大和投資信託社長は、同時に、大和証券グループ本社の執行役副社長を兼職しています。大和証券グループ本社の中核企業が大和証券であること、大和証券が大和投資信託の投資信託の主たる販売会社であることを考えれば、大和投資信託社長は、事実上、投資信託の運用者と販売者の双方代理になっているとみられても仕方ないでしょう。

この構造は、野村についても全く同じであって、野村アセットマネジメントの社長は、やはり、野村ホールディングスの執行役を兼務しているのです。

さて、このような条件のもとで、大和投資信託の社長が投資信託協会長に就任しているわけですが、これで、金融商品取引法上の自主規制機関として、その長に適任者を選び、適正な職務の執行ができていることを、証明できるのでしょうか。むしろ、反対の事実を強く推認させるものではないでしょうか。

少なくとも、最低限の措置として、大和投資信託の社長は、会長就任とともに、自主的に、大和証券グループ本社の執行役副社長の地位を辞すべきです。あるいは、協会として、兼職の整理を条件に、会長に就任させるべきです。このようなことは、ほんの最低限のことにすぎないのですが、それすら、できないのでしょうか。

投資信託協会のおかしな理事構成

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投資信託協会の理事の構成も、おかしい。販売会社の代表者が理事になっているのです。

投資信託協会の正会員は、もちろんのこと、投資信託の運用会社である投資運用業者です。ところが、別に、賛助会員というのがあって、これは、投資信託の販売会社と投資信託を受託している信託銀行によって構成されています。問題は理事の選出ですが、現状、賛助会員である大手の販売会社の代表者からも、理事が選ばれているのです。

そうすると、あるまじき奇怪な現象が起きるのです。

野村アセットマネジメントの前任の社長は、投資信託協会の理事だったのですが、現在では、野村證券代表執行役兼副社長に転出して、同時に、野村ホールディングスの執行役を兼務しています。こうした人事自体も、運用会社の独立性の確保という意味で、大きな問題なのですが、もっとすごいのは、新たなる野村證券代表執行役副社長の立場で、販売会社代表の理事に就任していることです。

つまり、投資信託の運用会社の社長として、投資信託協会の理事を務めていた人が、退任したとたんに、今度は、販売会社の代表執行役兼副社長として、改めて理事に就任しているということなのです。さすがに、これはいかがなものか。

曖昧な投資信託協会の性格

何よりも問題なのは、投資信託協会というのは、運用会社の協会なのか、販売会社の協会なのか、曖昧であることです。

金融商品取引法上、投資信託の販売会社には、証券会社と呼ばれている第一種金融商品取引業者と、窓販と呼ばれている銀行等の登録金融機関とがあるのですが、前者は、日本証券業協会の会員であり、後者は、同協会の特別会員となっています。

つまり、販売会社は、全て、日本証券業協会に組織されていて、そこの自主規制に服しているわけであって、投資信託協会としては、投資運用業のうち、投資信託を運用するものによって構成される自主規制機関として、投資者保護の視点から、商品企画や運用のあり方、また信託報酬等の適正性について、検討を行えばいいわけです。

更に、投資運用業者全体の自主規制機関としては、日本投資顧問業協会があります。投資信託を運用する投資運用業者の多くは、実は、日本投資顧問業協会と投資信託協会との両方に加入しているのです。投資信託協会だけに加入している投資運用業者は、投資信託専業者ですが、現状、その数は多くはありません。

こうした背景を考えると、投資信託協会の投資運用業者の自主規制機関としての機能は、日本投資顧問業協会に、また、販売会社の自主規制機関としての側面は、日本証券業協会に、それぞれ移管することによって、投資信託協会を解散するほうが、よほど合理的であるように思われるのです。

投資信託における販売と運用の一体性

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曖昧な投資信託協会が存続してきた背景としては、投資信託における販売と運用の一体性が、今日まで、無反省に前提とされてきたことがあります。

投資信託における販売と運用の一体性は、投資運用業界の心ある人にとっては、また、現在の金融庁にとっても、悪弊以外の何物でもありません。しかし、おそらくは、投資信託の悪弊に染まっている人からすれば、何が問題であるかすら、理解できなくなっているのでしょう。

野村や大和の組織構造や人事のあり方をみても、投資信託の販売と運用を一体のものとみなしていることは明らかです。こうした業界の体質が、現在の投資信託協会の構造に、そのまま反映しているのです。

ただし、この点については、業界側にも一定の論理があるのです。それが、顧客ニーズということなのです。投資信託の場合、直販方式をとらない限り、投資家である顧客との接点は、販売会社に依存せざるを得ません。顧客ニーズをとらえるためには、販売会社との連携は、不可欠とも考えられるのです。

顧客ニーズと真の顧客ニーズ

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ただし、それは、顧客ニーズのとらえ方によるのです。販売会社は、投資家の利益のために、真の顧客ニーズをとらえているというよりも、顧客ニーズの名のもとに、販売会社の利益になるように、商品企画をしているのが現実です。

この点こそ、まさに、金融庁が、「金融モニタリング基本方針」のなかで、重点施策の第一番に、「顧客ニーズに応える経営」を掲げたとき、着目した論点なのです。

金融庁は、「各金融機関が、真に顧客のニーズに応え、顧客の利益になる経営を行っているかとの観点から検証を行っていく」、あるいは、「手数料や系列関係にとらわれることなく顧客のニーズや利益に真に適う金融商品・サービスが提供されているか」について検証を行っていくとしていて、「真に」ということを強調しているわけです。

例えば、投資信託の商品企画において、毎月分配型、通貨選択型、繰上償還条項付、限定追加型などというものが次々に作られているのは、真の顧客ニーズに基づくものとは言い切れず、販売会社としての売り易さとか手数料の増獲といった営業政策に基づく側面を否定できません。

また、どこの販売会社でも、投資信託の販売額のランキングを作っています。これは、明らかに、売れ筋こそ顧客ニーズの動向を示すものだという論理に基づくのですが、実は、売れ筋を示すことで、逆に、売れ筋商品への顧客ニーズの誘導がなされている側面のほうが強いと思われます。

こうして、金融庁が指摘するとおり、販売会社が顧客ニーズと称しているものと、真の顧客ニーズの違いを検証しなければならないのですが、そのためには、投資信託の運用会社として、販売会社の影響下から脱して、真の顧客ニーズに向き合う取り組みを始めなければなりません。

改革の動き

実際、業界には、改革の動きも出てきたのです。

三井住友アセットマネジメントは、大手としては初めて、4月1日より、販売会社を経由しない投資信託の直接販売を開始しました。これは、非常に素晴らしいことです。

三菱UFJフィナンシャルは、4月30日に、傘下の投資信託運用会社二社を統合して作る新会社について、「新会社では、経営会議の諮問機関として、アドバイザリー・コミッティを設置いたします。アドバイザリー・コミッティは外部の有識者によって構成され、信託報酬水準の妥当性や新規商品の顧客適合性、説明資料の適切性等について、お客さまの視点から意見具申を行います。」との発表を行っています。

投資信託協会には、この重要な改革の局面で、自主規制機関として、指導的役割を演じてほしいものです。それが当然の社会の期待ですが、残念ながら、投資信託協会には、少なくとも、いまのところは、何らの動きもみられません。何しろ、協会長が社長を務める大和投資信託において、何の改革の動きもみられません。

投資信託協会長よ、どうされるつもりなのか。金融庁が投資信託の抜本改革を断行しようとするとき、協会自身の組織改革を行い、会員各社の改革を後押ししていかなくてはならないことは、明らかではないのか。やるべきことは、たくさんある。他の職を辞して、専任でやっても、やりきれないくらいある。

さあ、投資信託協会長よ、どうするのだ。