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続・無線LANの不都合な真実!?【実践編】

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 教授
(写真:アフロ)

無線LANの利用は、一般家庭であっても、これらは注意すべき事柄ですが、厳格な運用が求められる組織では特に注意を要する点であり、安易に無線LANを推奨できない理由でもあるのです。

出典:無線LANの不都合な真実!?

先日、上記の記事を投稿し、無線LANへの過度な期待に対して不安となる要素を提示しました。一つは「必ずしも多くの人が一度に接続できない」、その結果でもあるのですが、データの伝送速度が著しく低下したり、接続が切れたりすることが有線LANと比較して少なくないのです。さらに不正アクセスの可能性が有線LANに比較して高い理由と、SSID詐欺という特有の問題についても説明しました。今回はSSID詐欺に関連する具体的な内容を説明します。

アクセスポイントが利用できたのは、大阪市内の繁華街のカフェ。昨春以降、しばらくの間、カフェに入ると使えるようになっていた。カフェが客に無料無線LANとして提供するアクセスポイントと思ったが、実際は違った。「心当たりはありません」。取材をすると、店側が提供していたのは別のアクセスポイントだった。外に出て、カフェから離れたら「FreePublic―WiFi」の基地局からの電波は途絶えた。カフェが客に提供しているものとは異なるアクセスポイントが店内にある可能性が高い。誰が発信しているのか――。

出典:その公衆無線LAN、大丈夫? 個人情報漏れる危険も【朝日新聞】

SSIDというのはアクセスポイントの識別子です。この名前でアクセスポイントを区別して、どれに繋ぐかを決定しているのです。SSIDのよくある手口は、例えば、正式なアクセスポイント名、つまりSSIDが「YAHOO-NET」だとすると、詐欺をはたらこうとする輩は、新たなアクセスポイントとして、SSIDが「YAH00-NET」のような紛らわしい名前で立ち上げるのです。現在ではスマホやタブレットを利用してのテザリングと呼ばれる機能を用いて、アクセスポイントを簡単に設定できることから容易に詐欺を行えるのです。もちろん、過去に接続したことのある正当なSSIDへ自動的に接続できるようになっている場合も多いのですが、新たに手動で設定しようとしたり、接続アプリによっては、その詐欺SSIDに接続してしまう事もあるんです。

上記の朝日新聞の記事中にあるように、単に他人の通信内容を眺めているだけであればまだしも、その中での個人情報を収集して、新たな詐欺や恐喝に使われる場合も有り得るのです。さらに、その詐欺SSIDから悪性のサイトに飛ばされて、悪質なマルウェア(コンピュータウイルス)に感染してしまう事も十分有り得るのです。

この誰でも容易に設定できるSSIDですが、思わぬ使い方が示されています。

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あなたのSSIDを「BeQuietApartment1121(お静かに!ルーム1121)」とか「TurnDownYourMusic(音量を下げてください)」などに設定しましょう。こうしておけば、隣人がインターネットをしようとWiFiネットワークを探しているときに、あなたのメッセージを目にすることになります。

出典:騒音をたてる隣人にどうやって感じよくクレームを伝えるか【lifehacker】

SSIDは任意に設定できますので、そこへメッセージを載せようというのです。現在では日本語表示も可能ですので、「立ち入り禁止」や「おこしやす(^○^)/」といったユーモラスなSSIDを設定していて笑いを誘っています。しかし笑えないような「ウイルス感染」だとか「死亡宣告」だとか不安を誘う文言が含まれる場合も有ります。

無線LANの導入には考慮、検討するべき点が少なくないことは先にも書きましたが、既存の無線LANへのアクセスには注意を要するとともに、不用意にアクセスポイントを立ち上げる事は避けるべきであり、ふざけたSSID名を付ける事はトラブルの原因にもなり、場合によっては誹謗中傷と捉えられるかも知れません。SSIDもメッセージと見なされる可能性もあるのですから。

神戸大学大学院工学研究科 教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、現在、神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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