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『少年非行「スマホ普及が問題」』は問題か?

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
少年非行(写真:アフロ)

内閣府が19日まとめた「少年非行に関する世論調査」によると、少年の非行が増えていると感じている人が78.6%と2010年の前回調査より3.0ポイント増えた。どんな非行が増えたと思うか複数回答で尋ねると「掲示板に犯行予告や誹謗(ひぼう)中傷の書き込みをするなどインターネットを利用したもの」が63.0%で最も多かった。

出典:少年非行「増えた」78% 内閣府調査、スマホの影響懸念【日経新聞】

内閣府が今年7月末から8月上旬にかけて行った調査の結果が発表されています。上記の新聞にも書かれているように少年非行が増加したと感じている人が若干ですが増えています。刑事事件として取り上げられた少年犯罪件数としては減少傾向に有る事から、少年犯罪でも凶悪事件が盛んにニュース等で取り上げられる事から、その印象が数の感覚に少なからず影響しているのではと分析されています。

しかし、もう一つ少年非行が増えていると感じている以上に、少年非行の加害者や被害者が身近にいるということもあるかと思います。それはやはりネットに関係することでしょう。一般には「少年非行」とは必ずしも逮捕や補導に至る事案を指すわけではありません。不道徳な行いや倫理観に極めて劣る少年の行いもその類いに入る事でしょう。パソコンやスマホを通してのネット利用でのトラブルに巻き込まれる、特に加害者となり得る誹謗中傷やそれによるいじめが身近な事例として存在する事が影響しているのです。

「ネットの利用が少年犯罪の凶悪化や非行の原因につながる」と結論付ける事はできませんが、ネット利用に関わる非行が増加しているとの感想は、その悪影響への不安の表れである事は事実でしょう。古くは1960年代のマンガ、それに夜間の長電話、1970年代のTV放送、1980年代のテレビゲームと、それぞれが非行の原因にされ、それらを乗り越えてきました。今回、21世紀からのネットというある種の文化的革命は、それらとは比べものにならない大きな社会変動であり、また大人たちにとっても制御が難しいものです。それゆえ、以前にも増して「不安」がつきまとい、少年非行への危惧が増加しているという感想に結び付いています。

この調査を受けて、警察庁では、ネットの少年非行への影響に鑑み、保護者への対策を含めた説明を強化していくとのコメントを与えていますが、保護者自身のネットへの理解、そしてその安全かつ正しい利用法の習得が望まれるところです。この調査は、少年非行云々以上に、ネット社会への不安が現れた結果となっています。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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