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愛子様に失礼ではないか!やはり小中学生のSNS規制に賛成すべき?

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
小中学生のSNS利用

「愛子さまは学校から東宮御所に戻られると、『LINE』をよくなさっているようです。時には夜中までおやりになることもあり、お友達たちも返すのが大変みたいで…。お友達のママの中には“愛子さまは遅刻しても大丈夫だけど、うちの子は遅刻できないから夜中までLINEをさせられない。でも、愛子さまのLINEはスルーできないし”なんて悩んでいる人たちもいるそうです」(学習院関係者)

出典:愛子さまが夜中までLINE お友達は「スルーできない」と悩む

愛子様がLINEで夜中までお話をされる事がある、という記事が流れています。極めて疑わしい内容ですが、小中学生のSNS(たとえばLINE)利用の問題点の本質をよく表しています。

岡山県教育委員会は、先月の11月から家庭内での小中学生のスマートフォン(スマホ)使用を午後9時までに制限する取り組みを始めました。具体的には、午後9時以降、小中学生のスマホは保護者が預かり、LINE等のSNSもゲームも出来なくなるのです。このような試みは先に愛知県刈谷市でも行われています。

この9時以降の利用を制限する試みですが、実は何ら強制力はありません。条例等の法制化をしているわけではありませんので、小中学生が9時以降に使用したからといって、罰せられるわけではなく、保護者がその利用を黙認したからといって、やはり罰せられるわけではありません。では、どのような効果があるのでしょうか。まずは第一に、小中学生が無制限にスマホでゲームやLINE等のSNSを使用しているという事実と、それに少なからず問題点があるという宣言です。親が常に子どもを見張っているわけではありません。特に夜になればなおさらです。子どもは自室にこもって、ベッドの中でスマホをいじっているかもしれないのです。第二に、子どもが夜にスマホをいじっているからといって、必ずしも好き好んでいじっていないかもしれません。その場合の抑止効果になるのです。LINE等のSNSではグループ通信機能があり、ある閉ざされたグループの中で、文字やスタンプと呼ばれる画像を貼る事によって会話、つまりコミュニケーションを取ります。それは、それぞれのいる場所や時間にとらわれることなく、そして望むと望まざるとに関わらず、無制限に続けられる場合も少なくありません。勉強する時間、あるいは寝る時間になれば、自分から進んで抜ければ良いのですが、仲間外れになる事を恐れて、誰もが抜けられなくなるのです。形式的な制限であれ、それが設けられる事によって、抜け出る口実になるのです。愛子様の例はこれに当てはまります。第三に、保護者が午後9時以降にスマホを預かるということによって、その話題を含めて親と子の話し合いの場が持てる可能性がある事です。

このように、午後9時以降の利用制限はそれが厳格に守られる事以外に様々な効果があるのです。

では、さらに極端にスマホ、あるいはSNSを小中学生が利用する事を一日中禁止すべきなのでしょうか。自己判断能力が乏しい小学校低学年はさておき、それ以外の児童生徒には一概に禁止することに問題がなくはありません。確かにスマホやSNSを使うことには危険性がつきまといます。しかし、社会に出てから、スマホやSNS自体は必須の道具になります。大学生になってからも事務連絡や学業で利用する事になり、就職活動にも必須の道具になっています。小中学生の段階から正しい使い方、そして危険性を回避する方法を学ぶ以上に、身につけておく事も大事かもしれません。そのためにもスマホやSNSの利用に関しては親子で話し合い、たとえ親がスマホのアプリやSNSが理解できなくとも、何か問題が起こったときには、すぐに話し合えるように下地を作っておくべきなのです。スマホやSNSは爆弾ではありません。ほんの一時の問題が大きな被害を及ぼす事はほとんどありません。その問題を放置し、積み重ねることによって大きな被害になるのです。

最後に愛子様を引き合いに出すのは大変失礼ではあるのですが、さもありそうな状況ゆえに、十分な事実関係がないにもかかわらず、事実であるかのように錯覚させてしまいます。それゆえに小中学生のSNS利用上の問題点における本質であり、十分の考慮する点なのです。

本稿は、筆者が連載している、ZAQ森井教授のインターネットセキュリティ講座「第46回 小中学生のSNS利用を禁止すべきか?」を加筆、修正したものである。

2015年3月20日、『やはり小中学生のSNS規制に賛成すべき?(続報)』を投稿しています。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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