DHCなどを“実名報道”のNHK 民放にはできない“攻める”ニュースの意義を考える

4月9日NHK「おはよう日本」でDHCへの抗議ビラを配る人。テレビ画面を筆者撮影

 筆者はテレビ報道の現場を経験し、いまは研究する立場でニュース番組や情報番組、報道ドキュメンタリーなどを網羅して見ている人間だ。

 ニュース番組は毎日ほとんどを見るのでテレビ局や番組による放送姿勢の変化には人一倍敏感なつもりだが、4月9日(金)、朝のニュース番組「おはよう日本」には驚いた。 

 政治報道などで忖度が目立っていた最近のNHKでは珍しいほど「攻めの姿勢」に徹していたからだ。テーマは「差別」の問題だった。

DHCなど企業名を実名で報道

 「攻め」の姿勢は、1つ目は特定の人種や民族などへのあからさまな「差別的な表現」や「ヘイト表現」などで人権意識を問われている企業の「実名」を出して報じた点に表れていた。

 名前を出されたのは大手化粧品会社のDHC。昨年11月、企業の公式サイトのコラムで競合他社のCMに起用されたタレントについて根拠を示さないで「ほぼ全員がコリアン系」だと記述。その上で在日コリアンをさげすむような表現をしていると報じた。

 2月に東京・新宿区で30人ほどの人たちが抗議のために署名を集める様子が流された。

 この活動に参加したジャーナリストの安田浩一さんは次のように話す。

「偏見を植え付け、差別をあおる行為がそのまま会社の名前で流布されていること、これは絶対に看過できない」

在日コリアン4世でDHC製品を愛用してきたという匿名の女性は戸惑いを隠せない印象で話す。

「大企業がここまで露骨にしてきたかと思うとびっくりしましたね。開き直ったかのようにずっと(ホームページ上に文章を)載せているのはただの失言という域を超えて、私たちが直接攻撃されているようなそんな気持ちにもなってしまいます」

 筆者は今回のNHKの報道の仕方について「攻め」の姿勢を見せながらも、他方で慎重な姿勢を維持していると感じた。その理由は「DHCを愛好する在日コリアン」を登場させたからだ。差別やヘイトが「許されない」行為だとしても、経営者が思想信条から「確信犯」としてやっている場合にはなかなか改善するよう説得することは難しい。

 だが、営利企業にとっては客が離れることは避けたいものだろう。DHC製品を愛好するユーザーのなかにも在日コリアンがいて、ホームページの掲載が続くことで戸惑っている様子を示したことは説得力がある伝え方だった。

 ふだんは企業を取材しても企業名をなるべく出さないなど、企業名の報道には民放と比べても驚くほど慎重なのがNHKだ。それが企業名を出して、しかも「差別」というネガティブな文脈で報道するのはよほどの覚悟と自信があってのことだろう。裏付け取材や報道の仕方も検討した上でのことだと思う。

他の企業も実名で

 2つ目の“攻め”は、DHCだけの問題にしないで他の企業についても取り上げていたことだ。東証1部上場で従業員が1000人ほどの企業で起きた裁判。在日コリアンの女性が社内の民族差別的な行為によって精神的な苦痛を受けたとして会社を相手取る裁判を起こし、損害賠償を求めて一審で勝訴したケースをやはり企業名を明かす形で紹介している。経営理念に関する従業員の感想文で会社側が抜粋した文章に「(韓国人は)嘘を付くことを習慣としている民族(原文ママ)」など差別的な表現が目立つようになって苦痛を感じていたという。NHKはこの会社の人事責任者にもきちんとテレビカメラでインタビュー取材をしていた。文章を読み上げたようなインタビューで説得力がある釈明ではなかったが、会社側をカメラの前に出したことは評価できる。

 他の企業も出したことで、この問題がDHCというひとつの企業だけの問題にとどまらずに他の企業にもある大きな社会問題なのだというスタンスをNHKは見せた。

相手側の言い分をそのまま伝えた

 そして、3つ目の“攻め”はその企業に対して取材班が取材を申し込んで、企業側の「言い分」をそのまま伝えていた点である。

 DHC吉田嘉明 代表取締役会長・CEOからの回答文を文字で映し出しながら、アナウンサーがきっちりと読み上げていた。多少長くても、理解不能な言葉であっても、相手の言い分を伝えるという報道の基本姿勢を守ったといえる。

 民放のニュース番組と比べて、比較的時間を調整する裁量があるNHKだからこそともいえた。

「小生のことをマスコミ(これもコリアン系ばかり)は人種差別主義者だと言うが、人種差別というのは本来マジョリティがマイノリティに対して行う行動を指すのであって、今や日本におけるコリアン系はマイノリティどころか日本の中枢をほとんど牛耳っている大マジョリティである。」

 NHKの取材に対する感想も言わせている。

「NHKに対してひと言感想をと言われれば、『NHKは日本の敵です。不要です。つぶしましょう。』」

 本来であれば、ここはあえてニュース番組のなかで伝える必要はない部分だ。ただ。相手はマスコミ全体を敵対視して、独特の信念をもって主張している以上はこの部分も入れるのが公平だと考えて入れたのだろうと考える。

 DHCは2017年にTOKYO MXテレビが放送してBPO(放送倫理・番組向上機構)から「重大な放送倫理違反」と「人権侵害」があったと認定された番組「ニュース女子」を制作したDHC テレビを傘下に持っている。「ニュース女子」の放送では米軍基地反対運動に参加する沖縄の住民への偏見をあおるものとしてBPOから厳しく指摘されたが、「人権侵害」とされたのは在日コリアンの女性に対するヘイト放送もあったからだ。

国や社会全体の問題だという報道姿勢

 さらに4つ目はこの問題を東京オリンピックが近づくなかで五輪憲章にも根絶がうたわれている「差別」などの人権問題につながる普遍的なテーマだと視聴者に示した点だ。 

 去年、政府が初めて策定した「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)でも多様性や社会的包摂が尊重されていることや国会の衆議院法務委員会での自民党・武井俊輔議員の質問や上川陽子法相の答弁や法務省の担当者の話、日本経済団体連合会(経団連)の常務理事に取り組み姿勢を取材して伝えていた。

 もちろん法務省担当者のインタビューなどを聞く限り、「この“ヘイトスピーチ許さない”という言葉であるんですけれども、これも主語はまさに皆さまお一人お一人だと思っています」など煮えきらない姿勢だ。つまり国が「許さない」と積極的に取り締まるという姿勢ではないのだ。「このような努力を地道に続けていくしかない」という。

 このように行動計画を策定しても限界があることが伝わってきたが、報道そのものはグローバル化が進む世界で日本の有力企業のなかで「差別」や「ヘイト」が根強く残っているという問題を提起したすぐれたニュースだったと評価できる。

民放では難しい?

 この問題は、実はスポンサーがいないNHKだったからこそできた報道だといえる。

 スポンサーが存在する民放だったらどうなるかというと、TOKYO MXで問題になった「ニュース女子」の問題も、スポンサーであるDHC が局にそのまま持ち込む「持ち込み番組」という形で局にとっては営業上はありがたいスポンサーだったことが分かっている。 

 民放でももちろん覚悟を決めれば放送が絶対に無理だとは言わない。だが、DHC「差別」問題を同じような形では放送できなかっただろうと考える。

 公共放送だからこそ、国や経団連も巻き込んでできた報道だ。

 法務省の担当者が思わず発言していたようにこの問題は会社経営者の企業理念にもかかわることなのでなかなか是正を求めることは難しい。そうしたなかでNHKの「攻め」の報道が社会に一石を投じたことは確かだと思う。