異変?潮目が変わった? NHKが「支持率が過去最低」を強調して安倍首相をブラジル大統領と並べて報道!

8月24日「ニュースウォッチ9」首相の支持率低下はブラジル並み*筆者が画面撮影

「歴代最長 安倍首相 連続在任期間」

「第2次安倍政権発足 2,799日」

 安倍首相の連続在任期間が歴代の首相で最長になった8月24日(月)。

 これまで安倍首相や安倍政権にとって「ネガティブな情報」をほとんど報道してこなかったNHKのニュース番組「ニュースウォッチ9」に”異変”が生じた。

 この日は安倍首相にとっては歴代最長となる歴史的な節目となるニュースだった。

 第2次安倍政権でこうした重要な節目の折にスタジオなどで解説する記者は「政治部の岩田明子記者」と相場が決まっていた。

 彼女は安倍首相の解散総選挙などの記者会見や日米首脳会談、G7サミット、中東歴訪など首相をめぐる大きなニュースの時には必ずと言っていいほど画面に登場して「安倍首相は…」と首相を主語にするような解説の仕方をする記者だ。記者として大局的な見地での政治情勢を分析して解説するよりも安倍首相べったりの解説で「記者というよりも首相を代弁するスポークスウーマン」などと揶揄されることが多かった人だ。

 ところがこの日、「ニュース7」も「ニュースウォッチ9」も岩田明子記者は登場しなかった。

 それだけなら、たまたま夏休み中で不在だったなどの理由があったのかもしれない。

 だが、異変は岩田明子記者が登場しなかったことだけではない。

 ニュースのスタジオ部分でVTR部分に入る前のコメント部分を「スタジオ・リード」と呼ぶが、このリード部分で「ネガティブな情報」が強調されていた。ほとんど毎夜ニュース番組をウォッチし続けている筆者の記憶でも2012年12月に第2次安倍政権が発足して以来初めてではないかという珍事に思えた。

 実際、この日の「ニュースウォッチ9」はどういう内容だったのか。

 いつもの番組の顔であるメインキャスターの有馬嘉男キャスターが夏休みで不在の日の放送だった。

(和久田麻由子キャスター)

「第2次内閣の発足以降、長期政権を築いてきた安倍総理大臣。その連続の在任期間は今日で2,799日。歴代最長となりました」

 その後の流れに筆者は仰天した。

(和久田麻由子キャスター)

「一方で、安倍内閣の支持率を見ますと(発足以来の支持率の推移グラフを見せて)、新型コロナウイルスの感染拡大以降、下がっていき、今月の調査で34%。調査方法が異なるため、単純に比較はできませんが、第2次内閣の発足以降、過去最低の水準になっています」

(一橋忠之キャスター)

「健康不安も囁かれる中で、新型ウイルス対策など多くの課題にどう取り組んでいくのでしょうか?」

  一橋キャスターの胸の前には「”歴代最長”も支持率最低水準に」というテロップが表示されていたのだ。

 この後にVTRが始まった。

 「支持率最低水準」という安倍政権にとってはありがたくない言葉でVTRが始まった。

 リード文の終わりに「最低水準」を強く印象づける。少し前のNHKニュースであれば考えられない扱いだった。

 なぜなら、第2次安倍政権でのNHKのニュースは異常といえるほど、政権にとってのマイナスな情報やそうした評価を出さないように気を使っていたからだ。たとえば消費増税の直後1か月の節目のニュースで、デパートなどで売上げが大きく減少していてもあえて強調せず「しかし高級品に商機」などと、ポジティブな面を恣意的に強調して報道するなど、安倍政権のネガティブな情報を極力出さないことを徹底して放送していたのがNHK「ニュースウォッチ9」だった。

 ところがこの夜の「ニュースウォッチ9」はリード文の後のVTR映像は、安倍首相が在任2,799日目の今日、慶應大学病院に向かった映像を伝えた。17日に続く2週連続の訪問だと説明した。

 

 VTRのナレーションにはこれまでNHKではなかったような表現があった。

(ナレーション)

健康不安が囁かれる中で大きな節目を迎えた安倍総理大臣…」

 「健康不安が囁かれる」という表現は通常、まったく根拠がない場合にはニュースの中ではしないものだ。

 ましてやNHKはそうした表現にはとりわけ慎重な局だ。「健康不安」はたとえひそひそ話として流れていても、政治家にとっては致命的だからだ。あえて「健康不安が囁かれる」と原稿で表現するからにはなんらかの重大な病気の疑いがある前提で慶應大学病院で検査を受けたとNHK政治部が見ていることは確かだと思われる。

 さらに驚いたのは支持率の低下のグラフをVTRの中で強調して伝えたことだ。

(ナレーション)

「連続の在任期間が歴代最長となった安倍総理大臣。しかし今、支持率は低下しています。第2次安倍政権以降の支持率の推移です。支持と不支持が逆転する危機を何度か迎えましたが、そのたびに持ち直し、政権を維持してきました

 そうした第2次安倍政権の「持ち直し」のパターンが崩れた、という分析を示したのだ。NHKの政治部がかつてないほどにかなり踏み込んだ解説だった。

(ナレーション)

「政治学者の御厨貴さんはその背景に選挙が大きく関係していると指摘します」

 通常、ニュース番組では政治学者などのインタビューはほとんど使うことがないNHKの政治ニュースが学者を登場させて、なおかつ、支持率低下の理由を語らせていた。

 登場した東京大学名誉教授の御厨貴さんの解説が的確だった。

(御厨貴・東京大学名誉教授)

「最初の頃から野党にせめられるところがあって問題が起きるが、その問題を国会の中では解決しない。最後は選挙で一挙にやるわけ。結局、選挙に勝てばもうあとはいろんな問題が起きてもそこ(選挙)で解決する方法が確立した」

(ナレーション)

「支持と不支持が逆転する危機も選挙に勝って乗り越えてきた安倍政権。ところがコロナ危機の中、またもや逆転。支持率は34%まで落ち込み、第2次安倍内閣の発足以降、最低の水準となりました」

(ナレーション)

「安倍政権が支持率を下げる一方で、世界にはコロナ危機を境に、支持率を上げたリーダーもいます。WHOがパンデミックという認織を示す前と現在で各国のリーダーたちの支持率がどう変化したか。日本とブラジルは10ポイント以上下落。アメリカはほぼ変わらず。そしてニュージーランドとドイツは10ポイント以上、上昇していました」

 ここは報道の仕方としては非常に興味深い。

 なぜなら安倍首相の支持率低下を出す時に、ブラジルのボルソナロ大統領と並んでの低い数字を示したのだ(この記事冒頭の画像)。

 ボルソナロ大統領は新型コロナウイルスを「ちょっとした風邪」と言い続けて軽視し、マスクもせずに自ら感染した人物でブラジルを世界第2位の感染大国にしてしまったトンデモ大統領として知られている。

 支持率低下の数字が同じレベルとはいえ、そのブラジルの大統領と安倍首相を同じように扱ったのである。

 これまで安倍首相周辺の評価を異様なほど気にしていたNHKニュースとは明らかに一線を画す扱いだった。

 そして、ドイツとニュージーランドの2人の女性首相たちが新型コロナ対策で10ポイント以上支持率を上昇させたことを示すVTRでは、両リーダーのそれぞれ知的で国民に訴えかける言葉を使っていた。

(ドイツ・メルケル首相)

「第2次大戦後、これほど団結が求められる試練に直面するのは初めてだ」

(ナレーション)

「異例のテレビ演説で強い危機感を示して国民に呼びかけたドイツのメルケル首相。自身も物理学の博士号を持つ科学者として、コロナ対応の先頭に立って指揮をとってきました」

(ナレーション)

「ニュージーランドのアーダーン首相は国民に寄り添う”優しさ”を大事にしています

(ニュージーランド・アーダーン首相)

「いろいろやりながらなのでカジュアルな服装なのは許して」

(ナレーション)

「厳しい外出制限を始める直前にはSNSでライブ配信し、国民の不安や疑問に直接回答。分かりやすい言葉を使って笑顔で説明し、一緒に乗り越えようと呼びかけました」

(ニュージーランド・アーダーン首相)

「家にいて、強く、優しくあってね」

 コロナの危機にあって、国民に強い結束を呼びかけ、優しさで連帯を呼びかける他国のリーダーたち。

 それと比べると、日本の現在のリーダーの「ふがいなさ」を思わずにはいられないような映像の組み立てになっていた。

 本来はこういう危機的な状況にある時の国のリーダーとは、こうした言葉で国民をまとめるべきものだといわんばかりの報道の意図が伝わってきた。

(ナレーション)

「安倍政権はなぜ支持率を下げているのか。専門家は?」

(御厨貴・東京大学名誉教授)

「リードするところが難しかったんだと思います。安倍さんは自ら正面に出てやる指導は結局できなかった、このコロナでは。これが大きい。毎日、記者会見を受けて、あるいは記者会見を自ら開いて、今日の状況はこうだと談話を出す(ことが求められる)。安倍さんの場合はもうしばらく、ある時期からやらなくなった。やっはり国民は見ている

 実は安倍首相の記者会見での新型コロナ対策についての質疑応答が極端に少なくなっていることは、この1か月ほどの間に、他局のニュース番組や情報番組、さらにはバラエティー番組でも民放ではたびたび批判的に報道されてきた。

 ところがNHKだけはこの問題について、取り上げることがほとんどなかった。

 ニュース番組でも決して触れなかった。

 ところがこの夜、御厨名誉教授のコメントという形をとってはいるが、明確に批判的な姿勢で、新型コロナの第2波が来ていて国民が不安になっている状況下で「記者会見などで談話を出さない首相」を遠回しながら問題視する姿勢で伝えた。

 国民に対して呼びかけて結束を図ったドイツやニュージーランドのリーダーたちと対比する形だった。これは本来あるべき報道だといえるが、NHKの政治部のニュースではこのところ見られなかったニュースの組み立て方だった。

(政治部・花岡伸行記者)

「なぜ自らが正面に出て、リードすることができなかったのでしょう?」

(御厨貴・東京大学名誉教授)

それはやったことがないから。こんな疫病なんて初めてだから。これまでの問題は経済問題。社会保障問題。あるいは外交問題、全部目標があってそれに対する最短の道がないか探してくる。『やっている感』が続くように『やっているぞ』と課題を出しては解決する方向でやってこれた。ところがコロナだけは最終的な目標が見えないわけ。最初から。だから何をやっても批判される。結局、コロナでは『やっている感』が出せなかった

 この御厨貴・東大名誉教授のコメントは、安倍首相が打ち出す「やっている感」の政策が新型コロナに対しては歯が立たなかったと評価したに等しい。

「やっている感」を出して支持を得てきた首相なのに、コロナに関しては「やっている感」さえ出せないというのだ。

 国の舵取りをまかされている政治リーダーにとっては致命的ともいえる評価だった。

 首相としての安倍氏の能力の限界をNHKの視聴者に示した報道だった。

 NHKのニュースの中で、これほど安倍首相の姿勢を低く評価する専門家のコメントがそのまま放送されるのは久しぶりのことだった。

 おそらく第1次安倍政権の退陣の頃以来ではないか。

 なぜ、この夜、NHKのニュースの扱いが急に変わったのか。

 その理由は何か?

 考えてみれば、こうした政治ニュースで政権や首相の扱いに気を使うのは、政治の力でにらみをきかせているからだ。

 NHKの場合は国会や経営委員会などを通じた経営への介入などが恐ろしいはずだ。実際にそれは第2次政権でも「かんぽ生命」をめぐる介入に代表されるようにたびたび繰り返されてきた。

 それも盤石の「安倍一強政治」が続けばこそだ。

 ところが政権の力が弱まってくれば恐れるべき対象ではなくなってくる。

 そうした中で「一強」に綻びが生じたのではないか。

 NHKの政治部が安倍首相を見限ったのではないか。

 理由が首相本人の健康不安なのか、あるいは次の首相をめぐる動きが活発化したせいなのかは分からないが、政治リーダーとしての安倍首相の求心力が急速に低下していることだけは確かなのだろう。

 「安倍一強」とされた権力構造の中で、安倍首相に対する忖度や気遣いを露骨なほどに見せていたNHKニュース。

 それが安倍首相の連続在任記録が歴代最長になったこの夜、安倍政権が急にレームダック状態になったような扱いに転じた。

 

 「一強政治」の中で批判すべきことさえ批判できなかった状態の窮屈な報道から、コロナ禍でこの国の舵取りをするにふさわしいリーダー探しに目を転じる報道になっていくのであれば、それは本来あるべき政治ニュースへの健全な「変化」と言えるものかもしれない。

 とはいえまだこの日の「ニュースウォッチ9」だけでは、本当に潮目が変わったのかどうかは判然とはしない。

 政治ニュースは敏感なほど、政権への距離感が表れるものだ。

 ちなみにこの夜のNHK「ニュース解説 時事公論」のテーマは「”最長政権”の行方 新型コロナと政局」で政治担当の伊藤雅之解説委員が担当した。

(伊藤雅之解説委員)

「第2次政権の発足から7年8か月。『一強』と呼ばれる政権は新型コロナウイルスの影響で厳しい局面を迎えています

「ニュースウォッチ9」では詳しく触れられなかったことが指摘された。新型コロナ対策で「10万円の一律給付」や「GoToトラベル 」などで政策の撤回や変更が相次ぎ、”官邸主導”とされた政策の意思決定が揺らいでいることも強調されていた。

  NHKの政治部記者が安倍政権の評価への変化を明確に示した例だと言えるだろう。

 NHKニュースの安倍政権への姿勢をめぐる潮目がこの日を境に本当に変わったのかどうか。もう少し観察して見極めたいと思う。

 いずれにせよ、新型コロナ対策で国政上かつてない長期政権となった安倍政権も”終わり”がNHKのニュースではっきりと見えた瞬間だった。