スクープなのに「週刊文春」と言いたくない?テレビ局の記事引用で見る大手マスコミのダメダメぶり

日本テレビ『news every.』“賭け麻雀報道”(20日)筆者が画面を撮影

 週刊文春の電子版である「文春オンライン」が、黒川弘務東京高検検事長(当時)が産経新聞社会部の記者2人と朝日新聞の元検察担当記者と賭け麻雀をしていたことを写真つきでネット上で報じたのが5月20日(水)のことだ。

 フジテレビの夕方ニュース番組『Live News it!(イット!)』は「『文春オンライン』の報道によると」と出典を明示して伝えた。

 NHKの夕方ニュース番組『ニュース7』も「文春オンライン」という記事の出典を明らかにして報じている。

 ところがそういう局ばかりではなかった。

 テレビ局の中には「週刊文春」が報じたという表現を避けた局があった。

 例えば、TBSの夕方ニュース番組『Nスタ』は「一部週刊誌」という表現でこの問題を伝えた。

(TBS『Nスタ』の原稿)

「緊急事態宣言が出ていた今月1日、黒川氏が東京都内で新聞記者3人と賭け麻雀を行っていたと一部週刊誌が報じたのです」

 とはいえTBSの夜のニュース番組『NEWS23』では「文春オンライン」という名前を出して報道した。

 またテレビ朝日の夕方ニュース番組『スーパーJチャンネル』は系列の朝日新聞社への忖度なのか、ニュースの項目の中にこのニュースを入れなかった。

 たがテレビ朝日も夜のニュース番組『報道ステーション』では、「『週刊文春』の電子版が報じました」という表現で伝え、「記事によりますと」と記事の内容を引用した上で報道している。朝日新聞社や産経新聞社の反応も取材した上で伝えていた。

 ところが頑ななほど「週刊文春」や「文春オンライン」という表現を使おうとしなかったテレビ局がある。

 日本テレビだ。

(5月20日『news every.』のキャスター読み原稿)

「緊急事態宣言が出されている中、東京高検の黒川弘務検事長が都内で新聞社の社員と麻雀をしていたことが分かりました。

朝日新聞社によりますと、黒川氏と朝日新聞の社員は緊急事態宣言が出されている中、今月1日と13日に都内で麻雀をしたということです。その際、金銭を賭けていたかどうかは『調査中だ』としています」

 筆者も記者の経験があるのでおよそ想像がつく。

 ニュースで報じる場合には、「他のメディアによりますと」という形で伝えることは同じ報道の仕事をする人間としてのプライドが許さない。新聞社や他のテレビ局に先行された報道であれば、それを後追い取材をして、ウラが取れた段階で報道する。決して「**新聞が報じたところでは」とか「++テレビによりますと」という形では伝えないであくまで自社で裏づけが取れた事実だけで原稿を書く。

 ましてや相手は週刊誌だ。「きちんと記者クラブなどに常駐して記者のなんたるかを訓練しているとは思えない連中ではないか?」

 「『週刊文春によりますと』などという報道は絶対にやりたくはない!」

 そんな気分だったのではないか。

 『news every.』の原稿を読む限り、情報元はあくまで朝日新聞社であり、自分たちが朝日新聞を取材した時に、朝日新聞側が認めた事実を基にして記事を書いた印象だ。だから「週刊文春」という名前はあえて出さなくていいだろうという理屈なのかもしれない。事実、「文春」という言葉はまったく出てこない。

 ところがこのニュース原稿には「文春オンライン」を読んでいなければ記事に出来ないはずの表現が含まれていた。

(5月20日『news every.』のキャスター読み原稿・つづき)

「一方、社員が同席していたとされる産経新聞は『取材に関することは従来からお答えしていません』とコメントしています」

 日本テレビは朝日新聞が認めた情報を元に記事の原稿を書いたというスタンスだろう。

 だとしたら、朝日新聞の元記者に関する情報について原稿にすることまでは理解できる。

 しかし、産経新聞についての情報はどうか。

 産経新聞が「お答えしていません」という姿勢ならば、原稿の中にある「社員が同席していたとされる産経新聞」などと書いた根拠は何だろう。どういう情報が「…とされる」内容を示していたのだろう。

 文春オンラインの情報以外からこの(産経新聞の社員が賭け麻雀に同席していたとされる)事実を日本テレビが把握して記事を書いたのだろうか。そうであれば、その事実の出典を示すべきだ。そうでなければ「噂話」でも元にして産経新聞にぶつける取材をしたということになる。

 根も葉もない噂話を産経新聞にぶつけたのだろうか。それならまともな会社であれば「でたらめを言うな。名誉毀損で訴えるぞ」と怒り出すことだろう。

 もちろんだが、取材行為を「噂話」など不確かな情報を根拠に行ってはいけないことは報道の鉄則だ。

 報道機関としては、情報の出典を明らかにしないのはフェアではないし、突きつめていくとこのようにつじつまが合わない、不可解なことになってしまう。

 日本テレビでは夜ニュースの『news zero』でも文春オンラインの名前を出さず、朝日新聞社本社の建物の映像を使って、以下のニュース原稿で伝えていた。

(5月20日『news zero』のVTRナレーション)

「(朝日新聞のコメント)朝日新聞東京本社に勤務する50代の男性社員が5月1日と13日、東京都内で黒川氏とのマージャンに参加していたことは事実です」

 あくまで朝日新聞のコメントを元に記事にしたという姿勢だ。

 この後の産経新聞については以下のようにかなり「不可思議」というか「不自然」な原稿になっている。

(5月20日『news zero』のVTRナレーション)

「一方、同じく社員のマージャンが報じられた産経新聞は『取材に関することは従来お答えしていません』としながらも、『取材過程で不適切な行為が伴うことは許されないと考えています。そうした行為があった場合には適切に対処します』とコメントしています」

 「不可思議」「不自然」と表現したのは、このニュースがどこかのメディアによって「報じられた」ということはそれまで一切出て来ていなかったことだ。国会で野党側が質問している場面や与党側の答弁が出てくるだけだ。ところがこの原稿で初めて、この情報が何らかのメディアによって「報じられたもの」だということが伝えられる。

 「報じられた」のであれば、どのメディアによって報じられたことなのか、明らかにすることが報道の基本のはずだ。それなのにこの点が曖昧なままにニュースが進行していく。

  

 翌5月21日(木)の『news every.』で黒川前検事長が辞任することが決まったニュースを伝える際も「文春」は登場せず、あくまで法務省の調査が主語になっている原稿になっていた。この日は週刊文春の発売日だったため、同じ時間帯のTBS 『Nスタ』やテレ朝『スーパーJチャンネル』フジ『イット!』が週刊文春の誌面を撮影するなどして「『週刊文春』の報道」として経過を振り返ったのとは対照的な扱いだった。

 同じ日本テレビが放送している報道番組でも関西局の読売テレビが制作する『情報ライブ ミヤネ屋』もこの日に発売された週刊文春(5月28日号)の映像を出してその内容を詳しく引用していたが、キー局である日本テレビはどうしても「文春」という名前を出したくなかったらしい。

 5月22日(金)夜に黒川検事長がコメントを出した時も「この度報道された内容は一部事実と異なる部分もありますが、緊急事態宣言下における私の行動は緊張感に欠け」という文面を字幕に出して読み上げている。

 だが、もしも日本テレビのニュースだけを見ている視聴者がいるとしたら、「この度報道された内容」というのが何を指すのか理解できないだろう。それまでどこかが報道したということはまったく説明されていないからだ。朝日新聞が社内調査の末に発表した内容をこの「この度報道された内容」だと思うかもしれない。

 視聴者は理解できなくていいとでもいうような報道姿勢はおおいに疑問が残る。

 こうした姿勢は視聴者にはすぐに見抜かれてしまう。

 筆者は日本テレビが週刊文春の名前を引用しなかったのは間違いだったと考える。

 それは以下の理由による。

(1)週刊文春の情報に依拠して取材などを進めているのにそれを意図的に隠すのはフェアではない

(2)取材で先を越されたとしてもすぐれた報道はリスペクトすべきだ

(3)ネットの台頭でメディアが大きく変わろうとしている現在、テレビ、新聞、週刊誌などと旧態依然のメディアの形で分類する発想そのものが時代遅れで視聴者からは「オールドメディア」の象徴的なアナクロ姿勢だと受け止められかねない

(4)実際に政治を動かすような大きな影響を与えるスクープを連発している週刊文春を無視する姿勢はとても「器」が小さいことだと受け止められる

(5)テレビや新聞など既存メディアへの不信感が強くなっている(今回も検事長と新聞記者らとの「ズブズブの関係」が問題視され、さらに信頼を失った)時に「小さなプライド」にこだわって相手を認めないと既存メディアへの不信感がますます強くなりかねない

(6)むしろ一強政治が続くような中でメディア側の調査報道がやりにくいものになっている時にメディア同士が連携すべき

(7)このままの姿勢を変えないことは日本テレビの“狭量さ”を内外に示し続けることになり、企業のイメージにとっても大きなマイナス

 日本テレビのこの姿勢は土曜も日曜も変わることがなかった。

 ところが、5月25日(月)、突然、日本テレビの姿勢に変化があった。

 「週刊文春」という引用元を放送で示したのだ。

(5月25日『news every.』のナレーション)

「先週、週刊文春が報じたことで明るみに出た黒川弘務前検事長の賭けマージャン問題。その処分について野党が森法務大臣に質問しました」

 VTR にも「週刊文春」という字幕を入れた。

 

 筆者が確認した限りでは変化があったのはこの日の『news every.』だけだったので、今後、日本テレビのニュース全体でこういう方針に切り替えたのかどうかははっきりしない。

 しかし、「文春オンライン」が「前検事長と記者らとの賭けマージャン」をスクープ報道してからすでに6日目だ。

 つまり5日間も「文春」という名前を意図的に隠して不自然な報道、不可解な報道をしていたように思うがそれはなぜなのか。

 もうそんな時代ではないはずなのに、日本テレビの頑なな姿勢には「だからオールドメディアと言われるんだよ」とどこかから突っ込む声が聞こえてきそうなダメダメぶりだ。

 もし気がついたのなら、すぐに姿勢を改めてほしい。

 いわゆるマスコミと呼ばれる“オールドメディア”に対する不信感はメディアの中の人間が感じている以上にずっと深刻だと感じている。

 もちろん週刊誌だっていわゆる“オールド”と言える存在だが、「文春オンライン」はネット配信でスクープ報道を先出しする試みを実行して現在、それなりに成功している。

 それに比べると、テレビのスクープ報道をネットで先出ししたケースなど聞いたことがない。

 そんな有り様なのに週刊誌がスクープしても、その手柄を無視するなんて、あまりに器が小さいのではないか。

 そんなことでは“オールドメディア”はやっぱりダメだと後ろ指を指されるばかりだろう。