新型コロナ「中国は何を隠ぺいしているのか?」をめぐるテレビ番組から見えたこと

NHK-BS1スペシャル『デジタルハンター』の場面(5月17日)筆者が画面撮影

トランプ大統領の新型コロナでの中国批判。いつもの自国ファースト?

 米国のトランプ大統領が新型コロナをめぐって中国や「中国寄り」だとしてWHOへの批判を強めている。

 トランプ米大統領は18日、オンライン会議形式で年次総会を開催している世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長に宛てた書簡をツイッターで公開した。新型コロナウイルスの感染拡大の対応で「WHOは驚くほど中国からの独立性を欠いている」と、中国寄りの姿勢を批判。30日以内に実質的な改善が見られなければ、停止中のWHOへの資金拠出を恒久的にやめ、脱退も検討するとした。トランプ氏は「現在のWHOの状況は米国の利益にならないのは明らかだ」としている。

 トランプ米政権は4月、WHOの姿勢が「極めて中国寄りだ」と批判し、WHOの対応を検証する間、資金拠出を停止すると発表していた。情報開示に消極的な中国の言い分をWHOがうのみにしているとの主張で、中国に圧力をかけつつWHO改革に向けて強い影響力を発揮するのが狙い。

出典:毎日新聞(5月19日)「米、WHO脱退も視野 中国寄りを批判 トランプ氏、テドロス氏への書簡で」

 トランプ大統領の書簡ではWHOおよび中国への批判はかなり具体的なものだ。

 4ページにわたる書簡では、新型コロナウイルスが中国の武漢で広がり始めたとする、去年12月ごろからのWHOの対応を時系列で記し、感染に関する信頼に足る情報を無視し、ヒトからヒトへの感染を示す情報を世界に共有しなかったうえ、ウイルスに関して不正確もしくは誤解を招く説明を繰り返したと主張しました。

さらに、テドロス事務局長に対し、中国の国内での移動制限措置を称賛する一方、アメリカの中国からの入国禁止措置には反対するなど政治的な対応をとったと主張し、「あなたとあなたの組織のたび重なる失策が世界に極めて甚大な犠牲をもたらした」と非難しました。

出典:NHK NEWS WEB (5月19日)「トランプ大統領 WHOに改善なければ加盟考え直す 新型コロナ」

 このニュースをどう見ればいいのか。

 解説が欲しいが、ほとんどのニュース番組や新聞記事は背景や解説を加えないままニュースだけを報道した。

 いつもの「自国ファースト」ばかり訴えているトランプ大統領がまたもや国際社会で物議を醸したという印象だけが残ってしまう。

 現在の新聞記事や「ニュース番組」の多くが、情報を受ける側のニーズに応えられずに不十分な点があるのではないかと筆者は考えている。

 このニュースについて注目して見たところ、テレビ番組で解説していたのは「ニュース番組」ではなく「ワイドショー」だった。

テレビの「ワイドショー」だけが“背景”を解説した

 テレビ朝日『大下容子ワイド!スクランブル』は5月20日(水)の番組冒頭でこのニュースを取りあげた。

「トランプ側の事情」を重視したテレ朝『ワイド!スクランブル』

 VTRでトランプ大統領の言葉などを伝えた後で、コメンテーターの柳澤秀夫氏が解説した。

(ジャーナリスト柳澤秀夫氏)

「国内で新型コロナウイルスに対する対応がまずかったと批判を浴びてますよね。その批判をかわしたいというのがトランプ大統領の思惑だと思う。面白いのは直接、中国を批判するのではなく、WHOという機関を批判しているところです。30日以内にどうするかというのを具体的にはしていませんから、この後いろいろ含みをもたせた対応をとってくるのだと思います」

 国際記者が長かった人らしい立場から「トランプ氏の思惑」に重点を置いて解説した。

 

 「中国側の責任」を重視して、かなり長時間報道したのがTBS『ひるおび!』だった。

「中国側の責任」を重視したTBS『ひるおび!』

 TBS『ひるおび!』も5月20日(水)、トランプ米大統領がWHOのテドロス事務局長に宛てた書簡をツイッターで公開したことについて、総計でおよそ50分の時間を使って背景を掘り下げて伝えた。

(恵俊彰キャスター)

「八代さん、このコロナの話題になった当初から、考えてみれば、中国がいろいろなものを隠ぺいしていたんじゃないかという話にはなっていましたよね?」

(八代英輝弁護士)

「なっていましたね。当初のウイルスというものを公開しなかった、とか、他の国に提供しなかったとか、それから、いわゆる第1の感染者ですよね。『ペイシェント・ゼロ』と呼ばれる人を明らかにしなかったり、もっともっと前から、実は2019年の年末から、ヒト-ヒト感染という状況をつかんでいながら、他の国への情報提供を断ったと。WHOのルールに違反しているんじゃないかということはかつてから言われてました」

 『ひるおび!』はトランプ大統領の今回の書簡での指摘にはもっともな点があるとして、読売新聞の記事を元にこの書簡の要旨をパネルで展開した。

(5月20日の読売新聞の記事をまとめた『ひるおび!』のパネル)

WHOは、中国の武漢で昨年12月初旬かそれより前にウイルスが広がっているという信頼できる情報を無視し続けた。WHOの北京事務所は12月30日までには武漢で深刻な公衆衛生上の懸念があることを知っていた。ウイルスが新しい病気を引き起こし約180人を苦しめていると報告した。

次の日まで台湾当局はWHOに対し、ウイルスが人から人に感染することを示した情報を伝えたが、WHOはこの非常に重要な情報を世界に提供しなかった。おそらく政治的な理由があった。

(5月20日の読売新聞の記事をまとめた『ひるおび!』のパネル)

1月14日にはWHOは「中国の調査では武漢での人から人への感染の明確な根拠は得られなかった」としてウイルスは人から人へは感染しないとする中国の主張をむやみに繰り返した。

 さらに『ひるおび!』では自分たちがどのように報道していたかについてもパネルにしている。

 するとトランプ大統領の書簡に書いてあるように、武漢市での新型コロナウイルスの感染の広がりは去年12月初旬かそれよりも前だったと振り返っている。

 去年12月8日、武漢で最初に新型コロナ肺炎患者が発生。

 12月31日、武漢市当局 初めて感染者27人の存在を認める

 大半が市内の海鮮市場関係者で「ヒトからヒトに感染する明確な証拠はない」と説明

 中国当局 新型肺炎の事例をWHO中国事務所へ通知

 トランプ書簡にあるように台湾もWHOに警告していた事実を番組で伝えていたと振り返る。

(台湾政府で新型コロナウイルス対策本部のトップの陳時中・衛生福利部長によると)

WHOに対し、12月31日に武漢で原因不明の肺炎にかかった人がいることについてWHO側に電子メールで通報。「複数の患者が隔離治療されている」としてヒトからヒトへの感染の可能性を示唆し警告したものの無視されたという。

 こうなってくると、中国やWHOが新型コロナウイルスに関連して、何かを隠ぺいしていたのかという問題になってくる。

 こうした点での調査報道ではNHKが5月17日(日)に放送したBS1スペシャル『デジタルハンター~謎のネット調査集団を追う~』というドキュメンタリー番組の中で非常に興味深い場面があった。

 このドキュメンタリーは、インターネット上にある画像や動画、情報などをテクノロジーを使って分析する「オープンソース・インベスティゲーション」と呼ばれる新しい調査報道の手法に焦点を当てたものだ。アメリカやイギリス、オーストラリアなどの国際的なメディア組織やシンクタンクなどが天才的な専門家をスカウトして、世界中の重大事件の真相を解き明かしている事例を紹介した。

 その中では米紙「ニューヨーク・タイムズ」が行った武漢市での新型コロナウイルス感染に関する調査報道のシーンがあった。

NHK-BS1『デジタルハンター』中国の感染者らの投稿の削除と復旧を追跡した米紙を報道

 

 米紙「ニューヨーク・タイムズ」のビジュアル・インベスティゲーションチームのクリストフ・ケトルさんは今年2月に中国の武漢市について、インターネットで調査していたときに興味深い動きに気がついたという。

 市民の窮状を訴える動画や画像が中国国内のSNSで拡散されていた。

 「もう嫌だ!倒れている人々を運び去ってくれ!」という医療従事者や医療機関で泣き叫ぶ人々。「助けて!誰か来てください!」と叫ぶ患者等の動画などが一時期拡散されていたのが、次々に削除されていた。

(クリストフ・ケトルさん・「ニューヨーク・タイムズ」ビジュアル・インベスティゲーションチーム)

「中国では検閲が頻繁に行われています。新型コロナウイルスはその最たる例です」

 さらに調べると、YouTubeなど、中国政府の検閲が及ばない海外のサイトやSNSに削除された画像などが再びアップされていることが分かった。さらに、ITに詳しい人が利用するサイトに記事やブログなどが保存されていた。

 意図的にこうしたデジタル情報を集め、当局による削除を防いでいる人たちがいたことをインターネットで突き止めて、ケトルさんは5人の若者たちにインタビューして動画などでオンラインで報道した。

(中国の若者=女性)

「私の使命はこの情報が削除されないようにすることです」

(中国の若者=女性)

「当局にどの情報が検閲されるかわかりません。先手を打っています」

 中国政府は武漢市の都市封鎖が解除されてウイルスの制圧が進んでいると世界にアピールしているが、その実態はどうなのかニューヨーク・タイムズは当局と人々のインターネットをめぐるせめぎ合いについてその後も取材を進めている。

(クリストフ・ケトルさん・「ニューヨーク・タイムズ」ビジュアル・インベスティゲーションチーム)

「人々の声を聞いて届けることが重要です。政府は一部の情報しか出していない。新しい病院を建設するとか、『すべてアンダー・コントロールだ』とか良い話を伝えますが、実際は混乱しているはずです」

 この『デジタルハンター』というドキュメンタリーでは、「オープンソース・インベスティゲーション」について欧米ではメディア組織同士などの間で国際的な連携が進み、少しずつ成果を見せているという現状を伝えていた。

 日本のメディアがこうした分野の取材をやっているという話は筆者はまだ聞いたことがないが、日本でも今後は必要な分野だと思う。

 たとえ当局がいくら隠そうとしても、そのうちにこうした手法で明らかになっていく情報は数多いに違いない。

 隠された事実を掘り起こす最先端の調査報道の「質」を高めていく。

 さらに「正確な事実」を元に「議論」をして「世論形成」を進めていく役割。

 ネット時代のメディアにとって求められる役割だと思う。特に後者は現状では民放テレビのワイドショーが果たす役割が大きい。

 TBS『ひるおび!』はアメリカだけでなく、イギリスやドイツ、オーストラリアなども中国政府に対しては批判的な姿勢だと紹介しつつ、コメンテーターとして中国問題の専門家・興梠一朗(こうろぎ・いちろう)神田外語大学教授に話を聞いていた。

 興梠教授のコメントは日頃から中国情勢をウォッチしている人ならではの興味深い情報にあふれていた。

(興梠一朗・神田外語大学教授)

「地方政府は武漢市の市長が証言していまして、『中央政府に伝えた』と。『だけど中央が抑えた』と生のインタビューで言ってしまっているんですね。

中国外交部の報道官がツイッターで、(去年)10月に武漢市で軍人の運動会があったんですが、そのときに『アメリカ人が(ウイルスを)持ってきた』というような、それを思わせることを言っていた。だったら(去年)10月に(新型コロナウイルスに)感染していたことを証明したようなことになりますよね。これは掘れば掘るほど、(新型コロナウイルスの感染を中国政府が知ったのが)いつなのかというの(問題)が出てくるんです」

 新型コロナをめぐっては、米中という大国がいがみあっている場合ではない、もっとお互いに協調してこの世界的危機に立ち向かうべきではないかという意見が根強くある。それも世界的な状況を見れば正論であると思う。だが、残念なことにリアルな国際政治の世界では理想は脇へ追いやられて互いの国益をめぐる綱引きがどうしても影を落としてしまう。

 一方、大国側の言い分であっても、実態を反映しているのではあれば細かく事実を検証していくのも報道機関の役割だし、それを伝えていくことには意味があると思う。 

 この日の『ひるおび!』も時間を割いて伝えていたが、米中のつばぜり合いは新型コロナのワクチン開発をめぐる大国同士の「権益争い」という様相を見せている。こうした視点からの報道もこれからも必要になってくるだろう。

「正義」はひとつではないというメディアの姿勢が大事では?

 今、テレビのワイドショーが多く展開する「報道」は、新聞社の記事などを素材にしてわかりやすいパネルにし、そこに詳しい背景情報を知る識者らに解説コメントを求めるスタイルが多い。ニュースになる「事実」を集める一次的な取材や報道は、「ニュース番組」や「新聞記事」などに委ねて、自分たちは「整理」して「解説」していく部分に専念する姿勢にも見える。

 新型コロナに関しては多様な情報があふれる中で、ワイドショーの視聴率が比較的高めで安定していることは、こうした番組制作の姿勢が視聴者からは受け入れられているせいだと感じる。一つの「正しさ」だけを求めるのでなく、いろいろな情報を整理して「多角的に提示」して、場合によってはその都度、修正(アップデート)していく柔軟な報道スタイルだが、出演者が多角的に議論しつつ進めるこのやり方が、多様な情報が大量に流れるインターネット時代には好ましい報道といえるだろう。

 テレビ報道も、欧米のように国家のウソを明るみに出すなど「調査報道」の質を高めることが求められる一方で、正確な事実をベースにした「議論の場」をつくる役割へのニーズも大きい。

 新型コロナをめぐる中国の現状についての最近のワイドショーやドキュメンタリー番組は、そうしたテレビの役割について改めて考えさせるものだった。