テレ朝『グッド!モーニング』が医師コメント で“訂正放送”。「大変おわび」でも検証も反省もなし!

テレ朝『グッド!モーニング』で訂正放送するキャスター(12日、筆者が画面撮影)

 5月12日(火)、テレビ朝日『グッド!モーニング』は検察官の定年延長問題についてのニュースの後、7時31分過ぎからメインキャスターを務める坪井直樹アナウンサーが「ここで番組からご報告があります」として、以下の放送を行った。

 先週、5月7日(木)の放送で取材を受けた澁谷泰介医師が「恣意的な編集」で「真逆の報道」だったとしてSNSで「残念な気持ち」を明かしたことで番組に批判が集まっていた。

 筆者もこれは放送にとって大きな問題だと考えてヤフーニュースに記事を書いた。

Yahooニュース(個人)「恣意的な編集」で"真逆の報道”と批判のテレ朝番組 BPOは動くのか?(謝罪コメ追記あり)

 テレビ朝日がこの日(12日)、「訂正放送」を行うことを表明していたので、筆者は以下の点に注目した。

(1)医師が「言いたかったこと」を言わせて再放送するだけでなく、「恣意的な編集」と批判された点がなぜ起きたのか、プロセスを自ら検証する姿勢があるのか?

(2)番組出演者である坪井直樹アナウンサーらだけでなく、テレビ朝日の報道局長など番組制作の責任者が登場しているのか?

(3)「再発防止策」がきちんと示されているのか?

(4)視聴者に向けて、この番組やテレビ朝日の報道姿勢を信頼できるものだと感じさせる内容になっているか?

(5)この問題は放送局のお目付け機関であるBPOで議論されるのか

 この日の放送を振り返ってみたい。

 この(1)~(5)については番組を振り返ってから筆者の評価を後述するので、時間のない方は途中はとばして読んでいただきたい。

(坪井直樹アナウンサー)

「さて、ここで番組からのご報告があります。

先週、『グッド!モーニング』ではベルギーから一時帰国し、現在、横浜で非常勤をされている澁谷泰介医師に取材を行いました。木曜日に放送した際に『日本は疑わしい人だけにPCR検査をするという世界的に珍しい政策を取っていた』という澁谷医師のコメントの一部を紹介しました。

ただ、その後、同じVTRの中で別の学者の主張もお伝えしたことで、結果として、澁谷医師も『PCR検査をただちに増やすべきだ』という、そういう主張をしている印象となりました。

そこで今日はこの澁谷医師の取材時のご意見を改めてお伝えします

 この後で澁谷医師のインタビューのVTRが放送された。

【PCR検査について】

(澁谷泰介医師・6日取材)

「私、専門が心臓外科ですので、感染症(や公衆衛生)に関してはベルギーでは前線で診療している状態ではなかったので、そこだけご了承いただきたい。PCR検査を今後増やしていくこと自体は大事なことではあるのですけれども、今現在、現場で不必要な検査が増えることは現場としては全く望んでいません。と言いますのも、感染が心配な方からの電話が救急外来に今もひっきりなしにかかってきます。

たとえば僕が働き出した4月頭と比較しましても、体感としては相談のお電話が3倍、4倍、またはそれ以上になっています。

もちろん基礎疾患があるですとか、感染している家族と濃厚に接触していたとか、プラスアルファのものがある方には積極的に検査をする、またはそれができるように検査数を増やすことは大切なことですけども、今現在、急場で検査数だけ増やしてくれと言われても、ちょっと難しいなというのが正直なところです」

【医療従事者の現状について】

(澁谷泰介医師・6日取材)

「実際にウイルスで疑わしい人を診察する時に使うN95という特殊なマスクがあるのですが、やはり全く足りていなくて、みなさん『1週間やそれ以上、使うように』と病院から指示が出たりですとか、後は、ガウンといって防護服ですね。防護服も診察するたびに着替えなければいけないとか、そういうことがありますので、物資の面はかなり不足がまだ続いています。スタッフの中では大切な家族への感染が心配だということで、そのために自分は病院に泊まって勤務を続けていたりですとか、一人で家やホテルを借りて自主的に隔離を行っている方も実際にいます。そういった方へ配慮や応援だけでなくて、実際に泊まるところや金銭的な補助がないと、ちょっとやりきれないなあ、というのは思います。

で、また今後、この感染症が長引いてきますと、精神的なサポートももちろん必要になってくると思います」

 この澁谷医師の4分ほどのインタビューを流した後で、坪井アナはスタジオで以下のように話した。

(坪井直樹アナウンサー)

「(VTRを受けて)はい。つまり、PCR検査が増えることについては澁谷医師は取材の中で、『一般の人、心配だと思っている人たちにとっては良いこと』だとおっしゃっているのに対して、一方の医療現場では『ただひたすら数が増えるのは医療崩壊、医療の逼迫につながるおそれがあるのでその辺については望まない』とおっしゃっているんですね。

私たちはこの医療現場の声の部分を放送につなげる、その受け止めを疎かにしていました部分がありました。

この辺については大変おわびいたします」

 坪井アナはこう言って頭を下げた後で続けた。

(坪井直樹アナ)

「では澁谷医師から新たに番組に寄せられたコメントをご紹介いたします」

 この後で澁谷泰介医師のコメントをパネルにしたものを一語一語読み上げていった。

(澁谷泰介医師のコメント)

「取材の依頼内容は、コロナウイルスへのヨーロッパと日本の対応の違い、また、現在の医療現場の生の声を聞きたいとのことでした。

ただただ現場の声を届けることができればという思いでしたので、

このような形とはなってしまいましたが、メッセージを届けることができ、十分に満足しております。

最後に私のメッセージをお伝えさせてください。

たくさんの方が外出を控えていただいたことで、たくさんの方が救われています。

家にいなければいけないつらさ、隔離疲れたよといった声ももちろんわかります。

ただ生きるか死ぬかのところで今もまだ必死にがんばっている医療従事者とその家族達もいます。

どうかみなさん長くつらいところではありますが、引き続きご自分の行動を見つめ直していただければ一医療従事者として大変ありがたいと思います」

 この長文のコメントを読み上げた後で、坪井アナはカメラに向かって話して、このコーナーを終えた。

(坪井直樹アナ)

「私たちも今後、より丁寧に放送に努めてまいります」

正直、この「訂正放送」には筆者は大きく失望した。

 筆者が注目していたポイントを見てみよう。

(1)医師が「言いたかったこと」を言わせて再放送するだけでなく、「恣意的な編集」と批判された点がなぜ起きたのか、プロセスを自ら検証する姿勢があるのか?

 このポイントはNOだ。

 ここでは澁谷医師が言いたかったことを改めて言わせて再放送しただけで終わっている。

 「今後、より丁寧な放送に努めて」というものの、何がどのように問題だったのか検証されていない。

「検証」が一切ないのだ。

 なぜ「恣意的な編集」が起きたのかは視聴者にはっさっぱりわからないものになっている。

 これでは誰かを取材して一度、その取材を編集して放送したものの、相手が文句を言ってきたから、相手の言いたいことをすべて言わせてやった、というような場当たり的な対応と同じだ。

 視聴者としても何を見せられているのか、わからない。

 この5分の間、澁谷医師に納得してもらうためだけの、視聴者不在の放送を流していた。

 取材で澁谷医師が話した内容と、実際の放送を比較して説明したわけでもないので、一般の視聴者にとっては何を見せられているのかよくわからない内容だったと言っていい。

(2)番組出演者である坪井直樹アナウンサーらだけでなく、テレビ朝日の報道局長など番組制作の責任者が登場しているのか?

 登場したのは坪井アナだけ。

 このポイントもNOだ。 

(3)「再発防止策」がきちんと示されているのか?

 (1)の「検証」がきちんとできていない以上、もちろん再発防止策も示されていない。

「再発防止策」はなかった。

 このポイントもNOだ。

(4)視聴者に向けて、この番組やテレビ朝日の報道姿勢を信頼できるものだと感じさせる内容になっているか?

 このポイントもNO。

 明らかになったことは、テレビ朝日という会社は報道の姿勢や放送倫理に真摯に向き合おうとせず、クレームをつけてきた相手にだけ目を向けて問題を処理しようとする体質が根強いということだろう。

テレビ朝日の報道姿勢は示されなかった。

 この点には筆者は大きく、失望した。

 もちろん、会社組織として上層部の意思決定があったとしても、番組制作に携わっているスタッフや出演者たちはこれで何の痛痒もないのだろうか?

 前日、坪井アナが「私からおわびします」と言っていたことで、それぞれ放送人としてのプライドや思いがあるのだろうと想像していた。

 しかし、今朝、彼はまるでロボットのように「今後、より丁寧に放送に努めてまいります」とおきまりのきれいごとを口にしただけだった。

 

視聴者の存在、視聴者の信頼を裏切ったことへの反省の言葉は一切なかった。

 では今後この問題はどうなっていくのだろうか?

 筆者が注目していた以下の点にかかわってくる。

(5)この問題は放送局のお目付け機関であるBPOで議論されるのか

 テレビ朝日の姿勢としては、取材を受けて放送の後で一度は批判していた澁谷医師の「言い分」をそのまま放送したことで、この問題は「解決済み」として処理したいということだろう。

 テレビ局の取材を受けてクレームをつけた本人(この場合は澁谷医師)がその後の対応に納得しているのであれば、BPOなど第三者が改めて口をはさむことは難しいということは一般論としては言えるだろう。

 しかし、視聴者の側からすれば、この問題は「解決済み」などと言えるものではないのではないか?

 少なくともこの日の放送を見ていても、なぜ「恣意的な編集」だと取材を受けた当人が感じ、「真逆の報道」だと受け止めたのかのプロセスは筆者には理解できるものではなかった。

 VTRの編集で何を実際の放送で使い、何を使わなかったのか。これはメディアというものも本質にかかわる問題だ。

 それについて詳細に検証しないことには再び同じようなことが起きてしまう。

 クレームをつけた相手に言いたかったことを事後に放送して、それで事を荒立てずに終わりとしようとするのがテレビ朝日の報道姿勢なのだろうか?

 今回の医師による異議申し立ては正当なものだといえるケースだが、それを局の側がどう受け止めてこのような放送に至ったのかが明らかにされていない。

 取材して相手がクレームをつけたケースにはいろいろな場合がある。もしクレームをつけてきた相手が政府の権力者ならば? それでも同じように対応するのか?

 では、反社会的勢力なら? では、宗教団体なら?  あるいは今回の医師のようにそれなりに社会的に評価される職業の人だけ、こういう対応をするのか? 

 もっと無名の一般市民の場合でも、もし不十分だと本人が感じたら、後から「言い分」を改めて放送するのだろうか?

 今回の医師によるクレームの問題は小さなように見えるが、これは放送局の自立や報道の姿勢にかかわる非常に重大な問題だと思う。

 そのためにはテレビ朝日がこの番組で「訂正放送」を行ったように、一医師が納得するのかどうかという問題に矮小化することなく、報道を行う時の映像の編集のあり方はどうあるべきだと考えるのか。それを明らかにすべきだろう。あるいはどういうケースで今回のような「訂正放送」を行うのか、という基準も明らかにすべきだろう。

 これはすべてテレビ報道の本質にかかわる大きな問題だ。

 その意味でもBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会はこの問題で関係者から事情を聞いて調査に動くべきだ。 

 検証も反省もない「訂正放送」でお茶を濁すままなら、この局にテレビ報道(ジャーナリズム)を務める資格はないはずだ。

 それをそのままでよしとするままなら、放送というメディアにもジャーナリズムの資格がないことになってしまう。

 だから、テレビ局は偏向報道するのだ、とか、恣意的な放送をよくするのだ、などという一般の人たちに広がっている“誤解”を解消するためにも今回の問題は深く、検証されるべき問題だと筆者は考える。