新型コロナ対策で注目の“ネットカフェ難民”支援「不正受給2億円」。スクープ報道はなぜ黙殺された?

5月8日(金)東京新聞の一面トップ「ホームレス就労講座で不正受給」(筆者が撮影)

 冒頭画像は5月8日(金)の東京新聞朝刊の写真である。

 新聞社のロゴのすぐ左横にある「一面トップ」と呼ばれる場所に見出しがおどった。

「ホームレス就労講習 国ずさん管理」

「受託費不正 2億円」

「都内業者 受講者水増し」

 ネットカフェ難民やホームレスなど特定の住所をもたずに生活が不安定な人たちのための支援制度の運用で不正があったという報道だ。

 そうした人たちのために、国が税金を投入して民間の業者に就労支援を委託していた事業で、その民間業者が実際に受講していない人の分も「受講者を水増し」して国の委託費を受け取っていた事実を調査報道で記事にした。

 この記事を読んだときの筆者の感想は、現在、新型コロナウイルスの感染拡大で様々な仕事が滞って生活困窮者が増え続けているなか、ネットカフェ難民やホームレスなど住所を持たずに生活が不安定な人たちの支援策に影響が出るのではないか?というものだった。

 新型コロナウイルスの感染拡大で解雇や派遣切りが相次いでいる中で、一番、収入や住居が安定しないネットカフェ難民やホームレスの人たちを支援する事業で「不正」があっては、そうした支援策の拡大について国民が賛成してくれなくなる可能性が出るからだ。

 記事の内容を引用すると以下のようになる。「税を追う」という同紙が続けている税金の使い道をたどっていくキャンペーン記事の一環の記事だ。

 ホームレスらの就労を支援する厚生労働省の講習事業を巡り、事業を受託した東京都内の業者が二〇一八年度までの十年間で、少なくとも二億二千万円を不正受給していたことが、同省や業者への取材で分かった。ホームレスから名義を借り、受講者数を水増しするなどして過大に請求していた。厚労省は、この業者に加算金と遅延損害金を加えた三億千万円の返還を求めている。 (中沢誠)

 不正受給をしていたのは合同会社「東京しごと応援団」(新宿区)。ホームレスの支援にかかわってきた人たちが〇八年に設立し、厚労省の「日雇(ひやとい)労働者等技能講習事業」を一九年度まで受託していた。

 同社は厚労省から〇八~一八年度で、事業の委託費として計十四億四千万円を受給。このうち二億二千万円が不正受給と判明したが、大半は経理書類が残っていた一四年度以降の分で、それ以前は十分な確認が取れなかった。

 同社の池田昌光代表は取材に対し、受講者の人数を水増ししたり、請求額を書き換えたりして経費を膨らませて請求していたと不正受給を認めた。「一部は事務所経費に流用した」と説明しているが、書類がなく記憶もあいまいで、使途の全容は分かっていない。

 不正は一九年十二月、厚労省の定期監査で発覚。翌月、契約を解除した。厚労省は一九年度の委託費を精算中で、さらに不正受給額が膨らむとみられる。

 この講習事業では、事業計画に基づき厚労省からいったん仮払金が支払われ、終了後に講習の受講実績に応じて経費を精算する。

 池田代表は「受講者数が計画に届かず、委託費を減額されるのが嫌だった」と説明。厚労省の返還請求に応じる構えを見せているものの、返済能力が乏しく焦げ付く恐れもある。

出典:東京新聞(5月8日)「<税を追う>ホームレス就労講習 国ずさん管理 受託費不正2億円 都内業者」

 不正が行われた期間は、厚労省が確認しているだけで2008年度から2018年度までの間で、2019年度についても現在、精査が行われているという。

■生活困窮者支援制度の一つに着目して検証した“すぐれた報道”

 問題となった厚生労働省の「日雇労働者等技能講習事業」というのは、ホームレスやネットカフェ難民など向けの就労支援策で、今年の1月30日の段階で厚労省が問題の事業者の契約を解除したと記者発表していた。

日雇労働者等技能講習事業に係る委託契約の解除について

1 概要

厚生労働省は、令和元年度の日雇労働者等技能講習事業(※)の受託団体である「合同会社東京しごと応援団」に対し、令和元年12月に平成30年度委託分の監査を行ったところ、一部の講習経費について過大請求がある等の不適正な経理処理が確認されたことから、同団体との「平成31年度日雇労働者等技能講習事業委託契約」を令和2年1月30日付けで解除しました

今後、不適正な経理処理が行われた額を確定し、同団体に対し当該金額の返還請求を行います。

出典:厚生労働省ホームページ(2020年1月30日)「日雇労働者等技能講習事業に係る委託契約の解除について」

 東京新聞はこの厚労省からの発表情報を元に独自に不正の詳細や当事者の言い分などを取材してこの日、記事として報道していた。

 東京新聞は、不正をしていた合同会社「東京しごと応援団」の手口について、同社が厚労省に提出した請求書と実際に行っていた作業との違いを比較しながら、不正の手口を明るみに出している。

関係者によると、水増しされていた受講者数は年間三百人前後に上る。厚労省に経費請求していた人数の三分の一が架空だった計算だ。同社が企画した四十近い技能講習のうち、不正請求を行っていたのは、受講者が集まらない人気のない科目だった。

 その一つのフォークリフトの技能講習に関し、同社の池田昌光代表は本紙の取材に、水増しの理由として「技術系の講習は参加が少なく、このままでは委託費を返金しなければいけないと思った」と話した。

 池田代表は一人で新宿区内などを回り、数合わせに協力してくれるホームレスを探した。講習の申込書に名前を書き取ると、後日、人目の付かない場所に呼び出し、「講習に行かなくてもいいから」と封筒に入れた現金を渡した、と説明している。

 現金は講習費や交通費・食費に相当する額で、多いときには十万円を超えたという。池田代表は「協力してくれたホームレスに施しのつもりで渡した」と話しているが、新宿で野宿者支援を行っている複数の団体は「もし現金を渡していたらうわさになるはずだが、一度も聞いたことがない」と不審がる。

 関係者によると、請求のあったフォークリフトの受講者から厚労省が無作為で約百人の記録を調べると、実際に受講した人はゼロだった。厚労省は「池田代表の説明を裏付ける証拠はなく、路上生活者に十数万円もの現金を渡すことは合理性を欠く」とし、不正と判断。判明した不正受給額二億二千万円のうち、同様の手口による不正は九千六百万円に上る。

 このほか書面上で受講者を水増ししたケースもあった。本紙が入手したハウスクリーニングの講習の書類には、はっきりと水増しの証拠が残っている。

 技能講習を実施した団体から東京しごと応援団への請求書には、講習費が一人当たり二十万円とある。一方、同社は厚労省への報告書に一人当たり五十九万七千円で受講したとして請求していた。

 池田代表は取材に「当初見積もった金額に近づけるため、精算のときに数字をいじっていた。従業員の生活もあり、会社を続けていくためだった」と経費の水増しを認めている。

出典:東京新聞(5月8日)<税を追う>支援業者不正受給 ホームレス誘い数合わせ 「講習に行かなくてもいい」

■新型コロナ禍で注目される生活困窮者対策の一つ

 新型コロナウイルスの感染拡大で様々な人たちが仕事を失い、生活困窮の状態にさらされている。

 中でもホームレスやネットカフェ難民など特定の住所を持たない人たちの問題もそれぞれの支援団体が支援活動に動き出しているほか、国や自治体もそうした生活困窮者の支援に動き出すように要請を行なっている。

 そうした中での生活困窮者の支援するための事業に「不正」があって、多額の税金が無駄遣いされていたという。

 所管する厚生労働省の姿勢が問われることになるが、東京新聞の記事は以下のように「ずさんぶり」を記している。

 ◆受給額突出… 監査2度すり抜け

 厚労省の日雇労働者等技能講習事業を巡り、十年にわたり不正が続いた背景には、厚労省のずさんなチェックがある。

 この事業は、ホームレスや日雇い労働者、ネットカフェ難民らにパソコンや重機などの無料の技能講習を開き、就労を支援する取り組み。二〇〇一年度から東京や大阪、愛知など全国五地域で実施し、年間二千人前後が受講している。一八年度は総額二億四千万円のうち、「東京しごと応援団」が突出して一億円を受給していたが、厚労省はその不正を見抜けなかった。

 厚労省は三年ごとに事業の受託団体に監査を行っており、同社も発覚前に二回監査を受けていた。その際、各講習を実際に受けた人数を確認し、同社の請求人数と突き合わせれば、水増しに容易に気付けたはず。契約で定めた上限額を超える請求もあった。経費の過払いは監査のチェック項目になっているが、過去二回の監査では素通りだった。

 毎年度の経費精算時でも不正に気づかず、行政の「丸投げ」ぶりを露呈した。

 所管する厚労省就労支援室の担当者は「長年不正に気付かなかったのは、私どもの落ち度。提出資料の裏付けの確認が不十分だった」と釈明する。

 そもそも毎年度三億円前後の予算を投じているが、その効果は表れていない。厚労省のホームレスの生活実態調査で「求職活動をしている」と答えた人の割合は減っており、最新の一六年では11・4%まで落ち込んだ。

 新宿を拠点に野宿者を支援するNPO「スープの会」世話人の後藤浩二さんは「講習事業はニーズにあっておらず、就労につながっていない」と懐疑的だ。

出典:東京新聞(5月8日)「<税を追う>ホームレス就労講習 国ずさん管理 受託費不正2億円 都内業者」

■書いた記者はいわゆる“スクープ記者”

 書いた記者は社会部の中沢誠記者。これまで長時間労働で過労自殺や過労死などに追いこまれた人たちについて特集記事を書いたり、または沖縄の辺野古基地の拡張計画での軟弱地盤の問題、森友・加計学園問題なども調査報道を行なうなどで様々な“スクープ報道”を放ってきたことで知られている。

 中沢記者は今回の記事もその一つに含まれる「税を追う」連載の記事で昨年、日本ジャーナリズム会議(JCJ)から大賞を受けて表彰されている。

 優れたジャーナリズム活動に贈る第六十二回日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞の贈賞式が十七日、日本プレスセンター(東京・内幸町)で開かれ、「税を追う」キャンペーンで大賞を受賞した東京新聞(中日新聞東京本社)に賞状とトロフィーが贈られた。本紙の大賞受賞は二〇一四年の「論点明示報道」に続き四回目。

 本紙は昨年十月から、税の流れを追い、無駄遣いや利権・既得権につながっていないかをチェックする調査報道を始めた。米国製兵器の輸入拡大で急増する防衛費や沖縄・辺野古の米軍新基地建設、東京五輪・パラリンピック予算や巨額の税金が投入されている十兆円の薬剤費を主なテーマに報道してきた。キャンペーンは今後も継続する。

出典:東京新聞(2019年8月18日)「本紙にJCJ大賞 税を追う報道 『利権明るみ高く評価』」

■本当の“スクープ”は他社が後追いする? 

 筆者はこの記事を他のメディアも後追いするのだろうと考えていた。

 新型コロナ対策としても注目されているネットカフェ難民やホームレスの人たちなど、住居不定の不安定労働者を対象にした国の支援策にかかわることだったからだ。

 ところが、東京新聞が記事を掲載して丸1日経っても、他の新聞社やテレビ局が後追いする気配はない。

 これは筆者もテレビ報道の現場にいた時期に経験したことだが、まだ報道などで知られていない「事実」であってもあまりに独自のルートで取材していて他社がすぐに追いつく可能性がないと、後追いしてもらえない。

 この件に関しては、すでに所管する厚労省が「不正」の事実そのものは発表していたので、厚労省に問い合わせてもそれ以上は教えてもらえない。そうすると東京新聞に追いつくには不正の詳細を自分たちで調査するしかない。

 そうなると、わずか1日では追いつくことができない。

 そのために他の社は東京新聞の記事を黙殺したのだと考えられる。

■あまりに先行していると他社が後追いしてくれない? あるいは他の理由も?

 また単発の記事ではなく「税を追う」という一連のキャンペーンだったため、他社の食指が動かなかったことも考えられる。

 だが、筆者はこの記事が「新型コロナ感染拡大」での経済的な困窮者対策とつながるという評価ができなかったことが最大の理由だと考える。 

 新聞もテレビでも「記者」という仕事をしている人間は、浅く広く知識をもっているものの、専門的な知識は自分が担当している分野について勉強する程度であることが多い。今回の制度についてよく知っているという人はそう多くはないはずだ。このため、こうしたマニアックな制度について詳しく知っている記者はほとんどいないなかで「これは東京新聞にやられた!」と感じるデスクや記者がいなかったのだろうと想像する。現在、生活困窮者への支援拡大策に反対する人は多くないと考えるが、そうした世論を考えると東京新聞のように「厚労省の(チェックな)ずさんさ」を強調する記事を書くことへの抵抗感があった可能性もある。

 今回の記事は、ホームレスやネットカフェ難民に関連する「不正」だとは書いてあっても、新型コロナ対策との関連ではその重要性が強調されているわけではない。このあたりは東京新聞の記事掲載の仕方に欲がなかったとも言える。しかし、それゆえ他の社が後追い報道をすることもなかった。

 それはとても残念だし、新型コロナでの生活困窮者支援策との関連ではもっと注目すべき記事だと考えるので、ここに記しておきたい。