“緊急事態”延長の首相会見でテレビが伝えた政府批判の「街の声」の中身は?

「緊急事態延長」での首相会見を「街の人」が評価したフジ『it!』筆者が画面撮影

“緊急事態”延長の発表記者会見でテレビは「人々の声」をいかに伝えたのか?

 長引く新型コロナ禍。5月4日夕方、安倍首相は記者会見で「緊急事態宣言」を解除せず5月末まで延長することを発表した。

ニュース番組や情報番組の中でどのように「街の声」を伝えるのかは番組の特徴や局の特徴が表れる。

 フジテレビの夕方ニュース番組『Live News it!』が記者会見の中継映像を流しながら、ちょっとユニークな放送をしていた。

 首相の中継映像を流しながら、それを見ている「街の人」らがフリップに感想を書いてみせるという放送だった。

首相会見当日に会見中に「街の人」に意見をフリップで掲げさせたフジテレビの夕方ニュース 

 フジテレビの『it!』は首相の記者会見の放送と同時に、教育評論家の尾木直樹さん、埼玉県戸田市でスーパー「マルヤス」を経営する松井順子さん、千葉県南房総市で割烹旅館を経営する女将の清都みちるさん、東京都北区赤羽で「やきとん大王」の店長を務める篠原裕明さんを生中継で結び、会見を見た感想をフリップで示してもらった。首相の会見の映像と同時にこの4人の中継映像をワイプ映像(小窓の映像)で放送するユニークなスタイルだった。

 安倍首相が“緊急事態”の1か月の延長の判断を断腸の思いだと話して企業への支援策などを話したところでは、4人のワイプ画面にそれぞれの人が書いた手書きのフリップが掲げられた。

(旅館の女将)

収入ゼロは本当に大変

(「やきとん大王」店長)

「個人経営のデリバリー支援を!

(スーパー経営)

「人手不足のため

求人費用の補助を

 

 尾木直樹さんは会見が教育の話になると次のフリップを掲げた。

(尾木直樹さん)

学校と先生に

人的支援を!

 首相が「10万円給付の追加対策」の有無について記者の質問に対して答弁した場面では以下のようなフリップが並んだ。

(旅館の女将)

「状況に応じた

追加補償を!」

(「やきとん大王」店長)

働く店がなければ意味がない

(スーパー経営)

継続的な支援をお願いします」

(尾木直樹さん)

「あと10万円追加

お願いします」

 番組では首相の会見を聞いたそれぞれの人たちに感想を聞いていた。

 旅館の女将として登場した千葉県の清都みちるさんは「お客様が来るか…再開しても不安」''''''とフリップに書いて語った。

(旅館の女将・清都みちるさん)

「総理をお気持ちは今回の会見で十分伝わってまいりましたけれども、やはり我々宿泊業界は強制はされていませんが、自主的に休業せざるえない状況にいます。また再開したとしてもお客様が本当に来ていただけるかとても不安になっています。観光立国であり、また日本の文化でもある宿屋をなんとか保っていただきたいと思います」

(加藤綾子キャスター)

「最初の方では『収入ゼロは本当に大変というフリップも上げていましたが、安倍総理の会見をご覧になって気持ちとしてはどうでしょう?」

(旅館の女将・都みちるさん)

「具体的なことはどうしても見えてきてないのでみんな不安に思っています」

 東京・北区赤羽「やきとん大王」店長の篠原裕明さんは「個人経営のデリバリー支援を!」とフリップに書いて感想を語った。

(「やきとん大王」店長・篠原裕明さん)

「いろいろ(総理が)言われていることはわかるんですが、けっきょく自分たちがやっているこういう商売に対して何も出してくれていないという一言ですね。この間から『デリバリーの支援もある』と言っているんですけど、もう私たちは仲間うちでデリバリ〜サービスを始めたんですが、そういうことに支援も一切ない。もう少しそういうのも考えてほしいと思います」

(加藤綾子キャスター)

「『新たな生活様式』を実際に行う上で準備費というのはやはりかかるということですよね?」

(「やきとん大王」店長・篠原裕明さん)

「そうですね。だから少しでも安く収められるように、仲間うちで最小限のものでみんな持ち合ったりしてやっているんですけど、(支援は)何もないかな?という感じです」

 埼玉県戸田市でスーパー「マルヤス」を経営する松井順子さんはフリップに「三密を避けるための安全対策費」をと書いて感想を語った。

(スーパー経営・松井順子さん)

「コロナウイルスが終息していない以上、緊急事態宣言の延長はやむをえないと思っています。ただ、今営業を続けている店舗。スーパーだけに限らず、三密を避けるための安全対策費がかなりかかっている。そういったところの支援をしていただくことができたら各店舗でもっと手厚い安全対策ができます。それが感染拡大を防ぐためにつながっていくと思っています」

(加藤綾子キャスター)

「(新型コロナで打撃を受けた事業主などに出る)持続化給付金についても早い方で5月8日から給付ということですすけど、これ早い方で、ということなってきますから、一刻も早い支援策、そして給付金が手元に届くようにしていただきたいです」

==尾木ママも痛烈に批判== 

 その後で登場した教育評論家の尾木直樹さんは「学校と先生に人的支援を!」とフリップに書いて感想を述べた。

(尾木直樹さん)

「僕はやっぱり学校の再開をするところがだいぶ増えると思うんですけど、再開の仕方については(総理も)いろいろと述べておるられるんですけど、これは学校の先生方だけでは絶対にできない。安全配慮、消毒して机の配置を変えたりしながら、子どもの勉強も見るわけでしょう?  不可能ですよ。ですから人的な支援をするということと、もう一つは1年と言わず、オンラインの整備ですね。これ1年ではダメです。5月中に完了しなければ、これから第2波、第3波が来たときにまた休校して、どんどん学力格差が広がってくるんですよ。これはダメですよ。うだから本当に急いで、もう予算化もされているとおっしゃっているわけですから、後は地方(自治体)とやる気の呼吸を合わせて、一気にやってほしいと思います。ニューヨークはわずか10日でやったんですから日本ができないわけはないと僕は思います」

(加藤綾子キャスター)

「安倍政権は教育に力を入れてきたと言って、教育格差についても『あってはならない全力で取り組んでいく』と総理も言っていますが、これについてはどうですか?」

(尾木直樹さん)

「(安倍総理の)主観的にはそうなんだと思いますが、今じゃオンラインで授業をやっているところとプリントだけしか配らないところ、何も(教材などが)ないところもあるんですよ。電話もかけてこない担任がいたりとかね。こんなに差がついちゃって。やっぱり教育現場のヒダヒダの部分が全然(総理などに)伝わっていないなという感じを持ちましたね。やっぱり現場の声を聞いて、ときには視察にでも行って、そして、これは大臣がやればいいんですけど、密着して、現場に添った支援をしてほしい。子どもたちの学習権というのは、憲法でも保障されているんですから、それをしっかりと守るのが僕たち大人の責任だと思います」

 安倍首相の会見そのものについては様々なメディアが伝えているため内容はそちらに任せることにして、この首相会見について各局のテレビ番組が「人々の声」をどのように伝えていたのかをまとめてみたい。

 というのも、この日のフジテレビの『it!』のように様々な一般の人たちの声を同時に伝えながら、首相の記者会見を報道していくやり方は非常にユニークなだけでなく、「庶民の実感」をどれだけ反映させているのかという点で報道番組の本質にもかかわってくる。

 ときに政府の「政策」「発表」に対して、批判的な視点も含まれてくる。

 「人々の 声」を放送する「街頭インタビュー」(テレビ番組の中では「街の声」などと呼ばれてよく使われる)は、テレビのニュース番組や情報番組の常套手段でありながら、放送のされ方に対して、政権がかなり神経質になってきた歴史がある。

 特に安倍政権は2012年の第二次政権以降、テレビ番組の「街の声」(街頭インタビュー)での批判に従来のどの政権に比べても神経をとがらせてきた。

 「街の声」は芸能人の問題から生活実感、経済的な状況など様々な問題について庶民の率直な実感が反映される。

 それだけではない。

そして時に「街の声」には政府批判も含まれてしまうのだ

 2014年の総選挙の直前、自民党はNHKや民放キー局に対して「放送の公平・中立・公平」に努めるよう要望書を出している。

 そのときの自民党の責任者は萩生田光一氏、現在の文部科学大臣だ。

 この文書には、「街角インタビュー、資料映像等で一方的な意見に偏る、あるいは特定の政治的立場が強調されることのないよう、公平中立、公正を期していただきたい」と書かれていたことで、各テレビ局の報道現場が過剰に委縮することになってしまった。

 街頭インタビューは極力、放送で使わないように、と記者に指示していた局もあった。

 筆者がこの前後のニュース番組や情報番組の内容を分析したところ、要望書の後でしばらくの間、国政選挙のニュースから「街頭インタビュー」が姿を消したテレビ局や番組が目についたほど影響があった。

 さて、5月4日18時から行われた安倍晋三首相の記者会見ではフジテレビだけでなく各局が夕方のニュースで中継した。

 NHKも18時からの『ニュース』の中で安倍首相の中継を40分以上伝えた後で、岩田明子記者がスタジオで首相が会見で伝えたことを要約して伝えた。ここでは安倍首相の会見の内容を首相の側に立って整理して伝えるだけで、フジテレビ『it!』では存在していたような、庶民の側から見た場合の「政策批判」はいっさいなかった。

 NHKはその後の『ニュース7』でも岩田明子記者がスタジオに登場して、安倍首相や専門家会議などの会見内容を「政府の側の代弁者」として解説していた。岩田記者の解説は、解説とはいっても安倍首相の発言を批判的にコメントしないことで定評がある。「安倍総理大臣は〜することにしています」などとして、主語はあくまで安倍首相であり、政府でその真意を伝えるやり方だ。

 『ニュース7』は、他方、事態宣言の延長決定で、飲食店や観光地、企業などへの影響についての「声」をVTR取材していた。

 東京都内で40年以上続く洋食店を経営している豊嶋正さん(69)の店では3月下旬から休業を続けて毎月の売り上げがゼロになった。

 従業員2人への給与の支払いも厳しくなっているという。

 この日、緊急事態宣言の延長を受けて、閉店を決めた。

(洋食店を経営・豊嶋正さん)

「毎日、調理場で料理を作っていたが、ここ2か月半くらいほとんど料理を作らない生活が続いてモチベーションが全然上がらず、心が折れてしまっています。これだったら閉めるしかないというのが本当の実感」

 那覇でシャッターを下ろした店が目立つ国際通りの飲食店の男性は緊急事態宣言の延長に失望していた。

「7日になればシャッターも開いて人通りも少しは戻ってくるのなというやさきに、ほんとにショック。この状況を乗り越えれば、またいつかいいときが来ると思いながら頑張るしかない」

 介護の現場でも、サービスの利用が減少したことで経営が難しくなっているという声が上がっている。

 東京・世田谷区の「デイサービス博水の郷」の管理者もそうした実態を訴えた。

(「デイサービス博水の郷」管理者・佐藤朋巳さん)

「(非常事態宣言が)5月6日で終わっていれば、この後のがんばり次第では昨年同様の数字になるかもしれないですが、これが続くようですと(元の状態が)復活したとしても年間赤字になる。経営の厳しさを感じています。小さい事業所は緊急事態宣言が終了してもその後の経営ができなくなって給料が払えない、家賃を払えないということで介護事業を撤退する恐れがあります」

 夕方ニュースで他のテレビ局の報道を見てみよう。

 日本テレビ『news every.』はフジテレビのように安倍首相の記者会見を同時に見てもらうというスタイルではなかったが、緊急事態宣言の延長の感想を「街の人」として放送していた。

(2人の子供がいる40代女性)

「先が見えない中で家で頑張り続けるのはきついですね」

(30代会社員女性)

「人としゃべらなかったり、人と接する機会が減っているのが、考える時間が多くなりすぎて、ネガティブになっちゃっている」

(都内の大学に通う女性)

「学費は満額とられているので仕方ない状況だと思うけど、学費に見合った授業は受けられないんじゃないかな」

 同番組では飲食店の経営者らの困難な状況を伝えていた。

 東京・板橋区のラーメン店「麺’sBar らーめん勇人」は東京都の休業要請に応じて、夜の営業時間を4時間短縮していたが、緊急事態宣言の延長に肩を落とす。

(鈴木真由美店主)

「いやー、もう相当にきついと思います。いつ自分たちもつぶれちゃうのかとか、毎日危機感をもってやっています」

 この店ではデリバリーやテイクアウトを本格的に始めているという。 

 先月8日から営業を自粛していた東京・三家茶屋の漫画喫茶「まんがの図書館ガリレオ」は安倍首相の発言を聞いてこう話す。

(まんがの図書館ガリレオ・上関久美子代表)

「5月6日までということで希望を持って進めてきたので、もうこれ以上は無理だなと。本当にギリギリまで追い詰められたなと。本当に先が見えない」

 一時は廃業を検討したもののお客さんの寄付で持ち堪えてきたが、5月末で営業を再開できないと本当に廃業するしかないという。

 都内で渋谷など3か所で映画館「アップリンク」を経営する浅井隆さんも「先行きは見えない」と話す。

 休業したことで月5000万円の売上げがゼロになっている。

(アップリンク・浅井隆代表)

「あと1か月を休館しろということは売上がゼロということで、映画館としては限界を超えているのが現状です」

 緊急融資などを利用するつもりだが、現金がいつ手元に来るか分からず、経営的に深刻な状況だという。Tシャツをオンラインで販売するなど工夫もしているが、売上げは微々たるものだと話していた。

 テレビ朝日『スーパーJチャンネル』でも小売り業や飲食業などの悲痛な声を伝えた。

 広島市の観光スポット「お好み村」が20軒以上の広島風お好み焼き店が集まる場所だが、現在は臨時休業が続いている。

 「お好み焼き」は店側と客側が構造的に対面式のため通常通りの営業再開は難しいという。

(お好み村組合・豊田典正理事長)

「一応7日の日はテイクアウトで対応させていただくように準備を進めている」

「Q延長になると死活問題?」

「それはありますよ。みんな思っていること」

 スーパーからも自粛の延長に悲鳴が上がっている。

(東京・練馬区のスーパー「アキダイ」・秋葉弘道社長)

「GW明けまでは、という節目があったので『そこまではがんばろう』とスタッフの間でも話していたが、でも正直、ダメだねと」

 GW中は客が2割増えたために感染対策も増えた。一方で休校でパートスタッフは減ってしまい、個々のスタッフの負担が大きくなっているという。

安倍首相による「緊急事態宣言の延長」記者会見は「出口が見えない」などの批判が集中している

 各局のニュース番組を見る限り、「街の声」はそれぞれの人たちの悲痛な境遇を訴えながらも、適切な対策をとってくれない政府や政権トップへの批判の色合いが次第に濃いものになっている印象だ。

 第二次安倍政権以降、テレビであまり放映されていなかった「政権批判」のトーンの「街の声」。それがここに来て放送においても増加している印象だ。それは何を物語っているのだろうか。