「雇用調整助成金」ほとんど使えない!『NEWS23』小川彩佳が報じた「制度と実際との乖離」

28日TBS『NEWS23』藤田孝典氏に話を聞く小川彩佳アナ(筆者が画面撮影)

 新型コロナのような経済的な苦境になっていると多くのニュースは「こういう救済制度がある」という報道にばかり走ってしまう。 

 理由は政府がそれをアピールするからだ。

 メディアも実際に制度が運用されている現場を取材しないと、政府の説明を報道で追認するばかりになってしまう。

 しかし「救済する制度が存在する」という法律上の問題と、実際にそうした「制度が運用上使いやすいか」はまったく別の問題である。

「雇用調整調整助成金」は実際には使いにくく、ほとんど運用されていない

 こうした実態を4月28日(火)のTBS『NEWS23』が特集した。

 

 「雇用調整助成金」の制度は、企業が休業中の従業員に支給する休業手当の一部を国が助成する制度だ。

 NHKでも民放でもニュース番組ではこの制度の説明をさかんに繰り返している。

 しかし実際には支給に至った数はわずか「0.1%」に過ぎないと番組は報じた。

 どういうことなのか。番組内容を振り返ってみる。

(ナレーション)

「感染拡大のなか問題となっているのがお金の工面。

重くのしかかっているのが事業者です」

(ハローワークで相談する飲食店の人)

「アルバイトは60%。正社員は100%を休業手当として支給したんですけど」

(ナレーション)

「都内のハローワーク。

今月に入って、企業の休業手当の助成制度、雇用調整助成金についての相談が相次いでいるといいます。

(ハローワーク渋谷・鈴木雅子部長)

「(相談は)」1日に150~160件。多い時は3時間の待ち時間です」

(ナレーション)

「雇用調整助成金とは従業員に対して休業手当を支払った企業が申請すれば、国がその一部を助成する、という制度です。

中小企業で働く従業員の月収をわかりやすくするために仮に10万円とした場合を見てみます。

企業が従業員に支払う休業手当は、最低でも『賃金の6割』と義務づけられています。この場合は6万円です。

このうち国からは休業手当の9割分、5万4000円分が助成されるため、企業は残りの1割。6000円で従業員に6万円を支払うことができます。

さらに3日前には政府が制度の拡充を発表。企業が休業手当を6割以上に引き上げた場合、その分についてすべて国が負担するとしたのです。

また休業要請に従うなど一定の条件を満たせば、企業の負担をゼロにすると発表。

いわゆる“10割助成”にまで踏み込んだのです。

しかし、この“10割助成”にはあるからくりが。

(国民民主党・大西健介衆議院議員=28日午後・衆議院予算委)

「10割に引き上げたということばかり言っていますけれども、実質、労働者に支払われた賃金の9割10割という話ではなくて、これは上限額8330円が維持されている限り、企業の持ち出しが多くなる」

(ナレーション)

「実は助成額には1日8330円という上限があるのです。

たとえば月収30万円の従業員の勤務日数が20日間だった場合、国から支給されるのは16万6600円が上限となります。

月収と同じ賃金をし払うには残る13万3400円は企業の負担となってしまうのです」

(国民民主党・大西健介衆議院議員=28日午後・衆議院予算委)

「総理の決断で(1日上限)8330円に上乗せすることを考えたいとここで言っていただけないか」

(安倍晋三首相)

「出せれば出せるほど当然いいのですが、これは雇用保険の中で行っていかなければならないわけで、その中においては8330円ということで均衡をとっている」

(ナレーション)

「そもそも雇用調整助成金の制度が使えず、苦しむ人たちがいます。

札幌市で母親と2人で生活する添乗員の石宮晶光さん(44)のその一人です。

旅行会社で24年間、添乗員をしています」

(添乗員の石宮晶光さん=44歳)

「Qこれ(通帳の249,563円入金)が6月25日(の給料の)修学旅行(添乗)分?

そうですね。去年の。

Q本当は稼ぎ時なんですね?

そうですね。

Q今の現状は?

現状だとマイナス20万円くらい」

(ナレーション)

「仕事の予定はすべてキャンセルとなり、今後の見通しは一切立っていません」

(添乗員の石宮晶光さん)

「不安でいっぱいで夜も眠れない日もありました。

貯金はだいたい50、60万円くらいはありますので、貯金を切り崩しながら何とか耐えて…」

(ナレーション)

「石宮さんの会社は先月から行政に対して雇用調整助成金の申請を行っています。

しかし添乗員という職業柄、『就業形態が不規則なことを理由に』」申請のやり直しが続いたといいます」

(添乗員の石宮晶光さん)

「ちょっと頭が真っ白になりました。

資格を持って一生懸命、頑張っている職業なのに、自分たちにはお金が出ないというのは納得がいかないというか、話を聞いてもすごく謎でした」

(ナレーション)

「なかなか進まない申請の手続き。

石宮さんの会社はきょうになって、会社が負担するかたちで添乗員に2か月間の休業手当を支払うことを決めました。

今後、短期のアルバイトをする予定だという石宮さん。

自身が受けとる休業手当への助成を会社が申請しなければいけない現状に疑問を感じているといいます」

(添乗員の石宮晶光さん)

「会社を通すと書類作成に時間がかかり、他の業務もあるので結構大変だと思う。

個人でやった方が断然早いと思います」

(ナレーション)

「雇用調整助成金について、支給のスピード感も問題になっています。

(菅義偉官房長官=20日の会見)

「(審査から支給まで)原則として1か月になるよう厚生労働省で取り組んでいる」

(ナレーション)

「では実際の支給件数はどうなっているのでしょうか?

厚生労働省によりますと2月14日以降、

相談件数はおよそ20万件(字幕では19万1702件)で

実際に申請された数はおよそ2500件(字幕では2541件)

このうち支給が決まったのはわずか282件

にとどまります。

実際に申請をしたという中華料理店の店長は。

(東京・板橋区『300円楽楽屋』・望月由美子店長)

「うちは本当に(雇用調整助成金が)出るかどうか。

ここまで2週間で書類を用意して出なかったら本当に困りますね」

(ナレーション)

「書類を用意するだけでも大変で、申請はまだ1人分だけだといいます」

(望月由美子店長)

「手間がかかりすぎて。もうちょっとわかりやすく、(必要書類を)ちょっと減らしていただきたいです」

(ナレーション)

「それでも結果はまだわかりません」

(望月由美子店長)

「時間がかかりますとしか教えてくれませんでした」

(ナレーション)

「社会保険労務士からはこのような指摘が」

(特定社会保険労務士・須田美貴さん)

「(依頼の)数が多すぎてパンク状態なのと、日々、条件が変わったり、要件が変わって、その情報に追いつくのが大変で。

国は本当に給付する気があるんだろうかという感じですね」

(ナレーション)

「申請には労動条件通知書など、労務管理に必要な様々な書類が必要になります」

(特定社会保険労務士・須田美貴さん)

「整っていて『今すぐ手続きできます』という会社はほぼないと思います。タイムカードなどがない会社。何も記録をつけていないところもありまして、それをさかのぼって去年の分から(書類を)作るとなると偽装になります」

(ナレーション)

「申請に必要な書類が残されていない会社も多く、不正受給になってしまう恐れがあるといいます。

国会でも雇用調整助成金の申請についてのやりとりが」

(国民民主党・大西健介衆議院議員=28日午後)

「(相談件数)約20万円で割り戻しても

0.1%しか結局支給されていない。

これが現実なんです。だから、もう遅いじゃないですか」

(安倍首相)

「大変書類の手続き等が煩雑であると感じている人がたくさんいるんだろう。使いにくいと思っている方々もたくさんおられると思います。

さらにですね。簡便化に向けての努力をしていきたいと思っています」

 こうした報道を行うことは番組制作者や担当記者が問題意識を持って「運用の現場」を取材できているかどうかにかかっている。

 テレビの報道では、国会真偽でこの質問や答弁が出てから、現場で困っている当事者を探すのでは当日の放送には間に合わない。

 以前からこの問題を全国各地で取材していたことがうかがえる。

 なかなか手間暇をかけた労作といっていい、VTRだった。

 VTRの後で司会の小川彩佳キャスターがこうした貧困問題に詳しい社会福祉士・藤田孝典さんをスタジオに招いて話を聞いていた。

(小川彩佳キャスター)

「今回、発表された休業手当の10割助成ですが、10割助成がうたわれながら言葉通りにならないケースがあるということですが、藤田さんは実際に電話相談を受けていてどのような声が現場からは聞かれますか?」

(社会福祉士・藤田孝典さん=NPOほっとプラス理事)

「まず、あって、ないような制度だということ。

ほとんど休業補償がされていないという人からの相談が多数寄せられています

あれだけの膨大な資料をこの短期間で忙しい中で準備をするということは難しいですので、企業の経営者の側、事業所の側が断念してしまう。書類を揃えることを断念っしちゃうケースが相次いでいる状況です」

(小川彩佳キャスター)

「相当に手続きが煩雑だというお話ですが、VTRに出てくださった社労士の方も申請に必要な書類が揃っていない事業主の方が多いのではないかとおっしゃっていました。これ、かなりハードルが高い制度になっているということですか?」

(社会福祉士・藤田孝典さん=NPOほっとプラス理事)

「そうですね。かなりハードルが高いという状況で、結局、申請をしたとしても時間がかかるし、処理を行う現場のハローワークの方々ももう手一杯で目一杯頑張っても処理が追いつかない。

さきほども(政府は)1か月の間に原則として支給を始めたいと言っていますけれども、私の感覚からするととてもではないけれども処理しきれないという状況があるのではないかと思います」

(小川彩佳キャスター)

「厚労省では5月中にオンライン申請ができるように、と目指していて準備を進めているということですが、こういったスピードアップもなかかな難しいのでは、ということになりますか?」

(社会福祉士・藤田孝典さん=NPOほっとプラス理事)

「私、ずっと現場で相談を受けていますけれど、

労働者自身が自分から声を上げて申請できるものではありませんから

企業の方がやっていただかないといけないものですので、

政策と現場との乖離が激しいという状況になっている

と思います」

(小川彩佳キャスター)

「どうして政策と現場との乖離が生まれてしまうと思いますか?」

(社会福祉士・藤田孝典さん=NPOほっとプラス理事)

「まずは現場の実態を、きちんと政治、政策を行う方たちが把握してほしいと思っています。

雇用調整助成金がありますよ、というふうにはよく言われるんです。

(制度が)あるということと機能しているということはまったく別物

ですので、かなり実態と合わない現実があるんだということですね」

(小川キャスター)

「機能していないとすれば、たとえば、今必要なのはどういった制度なんでしょうか?」

(社会福祉士・藤田孝典さん=NPOほっとプラス理事)

「実態はもう休業補償もされていないし、失業保険も受けられていないという労働者が大量にいるということですね。

東日本大震災の時には(政府が)何をしたかというと、(特例措置として、災害による休業を余儀なくされた労働者を“みなし失業”=

失業とみなし、失業手当を受給できるようにした)、雇用調整助成金の申請も必要だとは思いますが、ぜひ労働者本人が申請できるように、もう休業しているよという方々に対しては、もう“みなし”として失業しているものと捉えて、“みなし失業”を、東日本大震災で取ったように、災害指定をしていただいて、これの申請を受け付けていく、ことが大事だと思います。とにかく休業補償もされない。失業補償も受けられていない。何の補償もない中で今自宅待機を命じられている労働者が大量にいる状況があります」

(小川キャスター)

「雇用調整助成金は企業が申請するもの。雇用主。事業主が申請するものですけれども、労働者が自身で申請できる制度が必要ということになりますよね」

(社会福祉士・藤田孝典さん)

「まずは企業の側にも申請してもらう制度が必要ですし、それは引き続きやってほしいと思います。

後は労働者自身も自分たちから申請するということ(それが可能な制度)はやはり大事だと思いますね。

制度は絵に描いた餅ではあってはならない

と思いますので、

いくら『こういう制度がありますよ』と言われても0.1%の利用率はとてもじゃないがありえない実態ですから、これを真摯に受け止めて、具体的に労働者が助かる制度に変えてほしいと思います」

(小川キャスター)

「そう言っている間にも日々、状況が悪化していて、職を失う人もどんどん出ています。

先日、生活困窮者を支援する方にお話をうかがったんですが、リーマンショック時の派遣村が生まれた前夜の状況の様相を今呈しているという話があったんですが、藤田さんの感覚ではそういったものがありますか?」

(藤田孝典さん)

「リーマンショックあるいは東日本大震災の規模をはるかに超える、全産業、全年代、全雇用形態、と言っていいくらい深刻な経済的なダメージだと私たちは捉えています。今後も失業者、倒産、あるいは生活困窮という状況が増えていくのではないかと危惧しています」

(小川キャスター)

「今の制度の枠内で従業員や労働者はどのように乗り切っていけば当面の間はいいんでしょうかね?」

(藤田孝典さん)

「政府も懸命にご尽力いただいているとは思いますね。

たとえば中小企業であれば無利子、無担保の融資、貸付制度がありますので、最大限そういった制度を利用しながら、まずは従業員。これは懸命に企業を支えてきたのは従業員ですので、この方たちにちゃんと報いるということは大事だと思いますから、まずはあらゆる制度を活用しながら雇用をきちんと守っていく。労働者、働いている個人についても様々な貸し付け制度もありますし、家賃の補助もあります。あらゆる制度を活用しながら、懸命にこの期間を耐えていくということが大事だと思います」

 日々のテレビのニュース番組や情報・報道番組を見続けている筆者の印象では、「雇用調整助成金」という制度の実際に「使いにくさ」や実際に困っている人たちからの相談を受けている人の話を中心に、救済制度の盲点をついたすぐれた報道だったと思う。

 生活に困った人のための「制度」はあっても、実際の運用」ではうまく機能していないということは、たとえば生活保護制度をひとつとっても言えることで、筆者も貧困問題を取材していた時期に番組づくりをする上では藤田さんのような現場で「生の声」を聞いている人の言葉を聞かずに政府などの説明だけを聞いていては「乖離」が生じるというケースをたくさん見て、痛切に感じてきた。

 ただ、こうした現場の実態を実際に取材した上で報道する行為は、時間や手間暇がかかってしまい効率は悪い。現在はテレビも新聞もそうした効率が悪い取材を避けたがる傾向があることで報道の質が劣化していると感じている中、この日の『NEW 23』は久しぶりに「現場の実感」を伝えようとする迫力あるものだった。

 テレビニュースも新聞でも、こうした「制度」がある、というだけでなく、制度が本当に機能するものなのか。今困っている人の元に届くものなのかを検証しながら伝えてほしい。そうでなければ、政府の広報機関と同じことになってしまう。

 『NEWS23』を見て、今の状況でニュース番組が本来果たすべき役割を果たした例を見たように思う。