新型コロナから自分を守るため発表データをどう読み取るか?玉川徹が試みた「データ・ジャーナリズム」 

テレ朝『モーニングショー』が放送した区ごとの感染者数(4月3日・筆者が画面撮影)

新たに97人の感染者が判明した東京都では23区内に感染者が集中している

 冒頭の地図はテレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』が4月3日(金)に放送したものだ。

 東京都が発表している東京都の各市と区ごとの感染者数を表示している(地図内の数字は4月1日現在)。

 

 この番組が視聴者に評判がいい理由は、行政などが発表した「データ」を丁寧にグラフなどにして解説している点が大きいことは以前、原稿で指摘した。

「新型コロナ「感染者の推移」の数字へのこだわりが『モーニングショー』高視聴率の秘密だ!」

出典:ヤフーニュース個人(3月31日)「新型コロナ「感染者の推移」の数字へのこだわりが『モーニングショー』高視聴率の秘密だ!」

 この週末と週明けの都内の感染者の増加の推移次第では、初めて東京都で「緊急事態」が宣言されるかどうかという4月3日(金)。

 東京都が発表した「感染者のデータ」を丁寧に解説した。

 区別に感染者が多い順に地図の上に数字を出したのである。  

世田谷区 54人

港区   40人

新宿区  30人

杉並区  30人

品川区  24人

 このデータを示したところでコメンテーターを務めるテレビ朝日の社員・玉川徹が口をはさんだのだ。

(玉川徹コメンテーター)

「感染者をピンク色で人数を示しているところが『トップ5』でということですよね?」

(羽鳥慎一キャスター)

「はい」

(玉川徹コメンテーター)

「これ、感染者の数でいうとこうなるのですけど、

これを10万人あたりの人口で割ってみると

ちょっと様相が変わってくる。

10万人あたりで

1番目に感染者が多いのが港区になるんですよ。

2番目が中央区です。

3番目が台東区。

4番目が渋谷区。

5番目が新宿区です」

 

(玉川徹コメンテーター)

「僕、台東区だけはなぜ人数が多いかわからないんですが・・・」

(羽鳥慎一キャスター)

「台東区は病院でしょうね。(集団で院内感染が起きている)永寿総合病院」

(玉川コメンテーター)

「なるほど・・・」

(玉川コメンテーター)

「で、2番目に中央区が入っているんですよ。

中央区は感染者でいうとそれほど多くない(19人)んですけど、人口が少ないので。

それで考えてみると1位の港区は六本木とか赤坂がある。

2位の中央区は銀座がある。

3位の台東区はさっきの病院がある(ので感染者が多い)。

4位の渋谷区はもちろん渋谷です。

5位の新宿は歌舞伎町を含めた新宿の歓楽街・・・。

やっぱりそういうようなこと(歓楽街)と関連しているのは間違いないでしょうね」

(羽鳥慎一キャスター)

「そうですね。やはり小池知事も夜のそういう行動(自粛)をというところですが、

それがああいう注意警鐘につながっているのだと思います」

 玉川の番組でのこの発言を受けて、後から筆者が自分で算出してみた。

 その結果が以下の数字だ。

(1)港区   15.4人

(2)中央区  11.2人

(3)台東区  9.4人

(4)渋谷区  9.1人

(5)新宿区  8.6人

(6)世田谷区 5.9人

(7) 中野区  5.4人

(8)杉並区  5.2人   

(人口10万人あたりの感染者数  4月1日現在)

 感染者の実数が23区で最も多い54人の世田谷区も人口10万人あたりなら5.9人で6位。

 実数が30人と3番目に多い杉並区も5.2人で8位になってしまう。 

 銀座を抱える「中央区」が総数では世田谷区や杉並区よりも感染者が少ないのに人口比あたりの感染者数では上位に来ることは玉川の指摘した通りだった。

 メディアの研究者の間では知られることだが、玉川が行ったように「行政が発表したデータ」を自分なりに分析してみて「新しい事実」を発見する手法は「データ・ジャーナリズム」と呼ばれていて、デジタル時代の調査報道のひとつとされている。

 玉川が行ったのは、行政が日々発表するデータをそのままに報道するのではなく、自分なりのやり方で分析してみて「新しい事実」を見出すものだ。彼は東京都が発表した「各区の感染者数」というデータを人口10万人あたりで算出してみたら、「大きな繁華街を抱えている区は人口あたりの感染者が多い」という事実を発見した。

 もちろんデータ・ジャーナリズムというジャンルは本格的なものはコンピュータを使って分析していくのが通常で、日本の報道機関ではNHKが得意とするところだ。玉川がこの朝、披露したのはそのごくごく初歩的な手法といえた。

 ごく初歩的な手法だとしても、行政が発表した「データ」をそのまま報じるのではなく、自分なりに計算し直し”新たな事実”を見出そうとした玉川のアプローチは報道する人間の姿勢として注目に値する。歯に衣着せない言動で物議を醸すことも多い玉川だが、裏づけなく所感を述べる他局のコメンテーターたちと違って信頼感があるのは、彼がこうした「取材した事実」に基づいて話しているからだと思う。

 「データをどう読むのか」は報道する人間の基本動作といえるものだ。

 「データ・ジャーナリズム」はもともとは欧米で発達した「調査報道」の手法だ。行政などから豊富なデータが提供されるアメリカやイギリスなどではそうしたデータを科学的に分析して新しい事実を発見していく。こういう手法でこれまでピューリッツァー賞を受賞するような調査報道も次々に生み出されている。

 しかし日本では「データ・ジャーナリズム」の本格的な調査報道というと、NHKが太平洋戦争中の沖縄戦の戦死や阪神淡路大震災や東日本大震災などでの死亡要因などの分析で試みている例がいくつかある程度でまだ発展途上といえる段階にある。

 そこで、テレビや新聞などメディアの機関で「報道」にかかわっている人たちにお願いしたいことがある。

もっと「データ・ジャーナリズム」を活用してほしい

 毎日のように行政が公表するデータをそのまま垂れ流すのではなく、それを独自に分析して新型コロナ感染の”実態”が見えるような「新しい事実」を伝えてほしい。

 それはやろうと思えば、玉川がやったように初歩的な手法からでも意識すればできる。

 つまり、すでに手に入るデータからの「読み取り」をもっと深くやってほしいという要望だ。

行政のデータをもっと細かく開示させてほしい

 玉川が行った区ごとの感染者数のデータは、行政側は実はもっと細かく出せるはずである。

 実際にそれぞれの区では人口調査データなどをもっと細かい年齢層別や各区内の住所ごと、日本人と外国人別などにまとめて公表している。

 新型コロナウイルス感染に関連しても、現在、報道されているような「ざっくりしたデータ」だけでなく、もっと細かい住所のデータ、たとえば、「中央区銀座」とか「新宿区歌舞伎町」などがあるはずだ。

 もしこれが報道の側に提供されていないのであれば、行政側に出させるように働きかけて分析すればどの住所地で感染が広がっているのかがわかるはずだ。

テレビ朝日『報道ステーション』(4月2日・木)

 この番組では新型コロナウイルス感染を封じ込めるために、韓国では感染した人の個人情報をインターネット上に共有して国民に注意喚起を促し、それなりの効果を出していることを報道していた。 

(『報道ステーション』(4月2日))

「韓国は大規模な感染拡大が発生しながら新規感染者数を抑えることができた数少ない国だ」(ニューヨーク・タイムズ)

 国際的なメディアが注目する韓国の例を同番組は伝えていった。

『報道ステーション』が伝えた韓国での感染者情報(4月2日放送・筆者が画面を撮影)
『報道ステーション』が伝えた韓国での感染者情報(4月2日放送・筆者が画面を撮影)

(番組ナレーション)

「韓国が43万件以上の検査を行い、陽性者を隔離しているというのは有名な話ですが、

その検査結果は徹底的にデータベース化されて公開されるところに特徴があります。

たとえば感染者がいた場所と日時は地図に落とし込まれて公開。

感染者が出た場合、その近隣に住む人のスマホで警告音を鳴らし、注意喚起するといったものもあります。

それ以外にも・・・」

(記者レポート)

「こちらは韓国メディアのホームページなんですが、

ソウル市内の病院の集団感染で、この人のマークをクリックすると、

韓国の34歳男性と”個人情報”が出てくるんです」

(番組ナレーション)

「自分は誰かと濃厚接触した可能性があるのではないか。

それは瞬時に調べることができます。

こうした個人情報の扱いに批判がないわけではありませんが、

おおむね支持されているようです」

(韓国の若い男性)

「プライバシーの侵害という部分も少なからずありますが、

警戒心を起こさせるからね」

(韓国の若い女性)

(Q感染者が訪れたお店などは来客もなく商売にならないそうですが・・・)

「商売をされている方たちも安全が第一。

(こういう方法は)必要だと思います」

 日本でもこうした、細かい地域ごと、あるいは施設ごと、また場合によってはプライバシーといえる個人情報でさえも可能な限りで「共有」して感染爆発の防止に取り組むべき段階に来ているのではないだろうか。

東日本大震災の教訓を思い出してほしい

 今回の新型コロナウイルス感染拡大をめぐる報道で、筆者が思い起こすのは2011年3月の東日本大震災に伴って起きた福島第一原発事故での放射能汚染をめぐる報道の教訓だ。

 事故の後で、どの地域でどの程度の放射線量になっているのか。

 中央官庁も地元自治体などの行政も、そしてメディアも詳細がしばらく分からないまま「現場から離れて」活動を行った。

 そんななか、それぞれの地域で一部の研究者らとメディアなどが協力して放射線の線量を測定して、次第に詳細な「放射線地図」を作り上げていった。 

 代表的な調査報道がNHKのETV特集でシリーズ放送された

『ネットワークでつくる放射能汚染地図』

だ。

 文化庁芸術祭大賞をはじめ、様々な賞を総なめした調査報道の番組だった。

 報道各社がそれぞれの社を記者らの安全を守るために原発から半径何十キロには立ち入りさせないという取材制限を自主的に定めていたなかで、この番組のスタッフは放射線測定の専門家に同行して福島の原発周辺近くの地域まで取材。くわしい放射能汚染地図を作り上げた。取材の過程で高線量地域にとどまっていた住民を避難させた場面はドキュメンタリーとして感動的な場面だった。

 多くのメディアが原発から半径80キロメートルとか100キロメートル以内では取材しないという社ごとの制限を設けて立ち入らず、地元住民だけがそれと知らずに危険地域に取り残されて被爆していった報道機関の”不作為”の歴史は繰り返されてはならないと思う。

 住民の命を守るために報道機関としての役割を果たしていってほしい。

 もちろん今回はその場に行くことで高線量の放射線にさらされるという原発事故後の福島の状況とは違うが、放射線もウイルスも「見えない敵」を相手に闘うという点では共通している。

私たちは新型コロナ汚染地図をつくるべきではないのか。

 玉川徹が示そうとした「データ・ジャーナリズム」の模索。

 外国での個人情報を一部犠牲にするような情報共有の先行例。

 そうした報道を応用することによって、私たちは「見えない敵」と闘うために必要な情報を身につけることができるのだと思う。