小池知事会見のニュースで「news zero」が伝えた"若者向け”の3つのポイント

3月25日(水)放送の日本テレビ『news zero』(筆者が画面を撮影)

 3月25日(水)の夜、小池都知事が「感染爆発の"重大局面”」だと発表した記者会見。

 同じ会見映像を使ってテレビ各社が伝えたが、その中で日本テレビの『news zero』が他社とはひと味違う報道を行った。

 筆者が注目したのは、この「記者会見」の整理の仕方のうまさだ。

 同じ記者会見を取材していても、それを放送時間までの間にどのように料理するのかは記者や番組担当者それぞれの腕の見せどころだ。

 この夜の『news zero』は各社の夜ニュースの報道と見比べてみても、ニュース報道として抜群にわかりやすいものになっていた。

 同番組は「若い世代」を意識したニュース番組づくりをしている。筆者の周囲の若者たちに聞いても、夜ニュースはこの番組を見るという人が圧倒的に多いがこの夜の報道はそうした一端を垣間見せるものだった。

注目(1)知事だけでなく同席した都幹部や専門家の声も伝えた

 通常のニュースでは、東京都のトップである小池都知事が話す言葉だけを「音を生かした形で」編集するケースがほとんどだ。

 テレビ業界用語でこれを「オンをつかう」などと表現するが、こうした場合には「オン」は知事だけで、他の都幹部らは雑観映像で「オンでない」映像だけ放送される場合が多い。

 会見に同席する都の他の幹部や専門家などの「オン」(肉声)が伝えられることはめったにない。しかし、この夜の『news zero』では、そうした知事以外の人の説明の「オン」も時間をとって伝えていた。

 まずこの日判明した感染者41人のうち11人がすでに感染者が出ていた台東区の病院関係者だったことをめぐる幹部の説明を細かく伝えた。

(記者)

「今回クラスターとみられる2件目だと思うが受け止めは?」

(内藤淳・東京都福祉保健局長)

「この病院については一つ院内感染の可能性があると考えています。

ただ病院として一定のエリアに限定されていることから、

ここから先、全体を把握していく中でこれ以上の拡大をしないように封じ込めを行いたいと考えています」

 東京都では院内感染が起きたとみて調査を続けているという。

 筆者がとても感心したのはこの記者会見に同席した専門家の声をきちんと伝えていたことだ。

 感染の怖さを伝える上で「ある映像」に言及したと伝えたのだ。

(大曲貴夫・国立国際医療研究センター病院・国立感染症センター長)

「ああいう映像をつかって自分のありようを示してくださる方。

ものすごく尊敬しています。

あれによって伝わるメッセージは非常に強い」

 それはイギリスで新型コロナウィルスに感染した39歳の女性(ラングストンさん)が病床でこう言っている映像だ。

(ラングストンさん)

「もし誰かリスクを冒そうと思っている人がいたら私を見て。

私は集中治療室にいて、これ(酸素の吸入管)がないと呼吸もできない」

 病床で咳き込みながら涙で訴えるラングストンさんの姿。

 それは比較的若い世代にとっても重症化した場合には非常に怖い病気であることを物語っていた。

 大曲センター長の以下の言葉は若い年代にも届いてほしい大事なメッセージだった。

(大曲貴夫・国立国際医療研究センター病院・国立感染症センター長)

「この病気の怖さというのは8割の人は(症状が)本当に軽いんです。

歩けて動けて仕事にもおそらく行けてしまって、軽い。

ただ残りの2割の人は確実に入院が必要。

現場で患者さんを診ていてよく分かりますが、

悪くなるときのスピードがものすごく早い

「8割が軽いが残り2割は重症化して悪くなるスピードが早い」

 番組は大曲医師の発言の字幕に色をつけて強調して伝えていた。

 大曲医師が映像を公開したイギリス人女性のことを「尊敬します」と個人的な感想を交えて少し感情にも働きかけて伝えようとした言葉もうまくニュース番組の中で丁寧に処理していたと思う。

 しかもこの番組が日頃から意識する「若い世代」への働きかけを念頭に置いたニュース。「心に刺さった」若者たちもいたのではないだろうか。

注目(2)厚労省のこの時期の推計感染者は51人増だったのが実際には101人増と倍増

 厚生労働省のクラスター対策班が公表していた何も対策を講じなかった場合の感染者の推計値は以下のようになっていた。

3月19日~25日  51人

3月26日~4月1日 159人

4月2日~8日    320人

 それが最初の3月19日~25日で

101人

とほぼ倍になっていた。

3月に入ってから判明した感染者の半数近くが感染経路が不明

という事実も強調して報道した。数字の変化が持つ怖さを伝えていた。想定を超えた恐ろしさを突き付けられた感じだ。

  

注目(3)平日&夜間の"外出自粛”の呼びかけの意味

 小池都知事が呼びかけた、週末の不要不急の外出を控えることや平日にできる限り自宅で仕事してほしいなど、いくつかの要請の内容を「平日」「週末」などと、"どのタイミング”で何をしてほしいという内容か、細かく整理していた点も評価できる。

 同じような自粛要請はこれまでも何らかの形で行われているものだったが、『news zero』では「平日」の「夜間の"外出自粛”」という内容に注目した。

 スタジオでコメントした堀賢・順天堂大学大学院教授が解説した。

(堀賢教授)

「注目してほしいのは、平日の夜間の"外出自粛”というのはこれまでなかった。

どういうことかというと

若い人たちへの呼びかけという意味

と、もう一つは一歩踏み込んで、

「さらに外出を自粛していただきたい」

という強い願いが込められていると思う」

(有働由美子キャスター)

「なぜ若い人にあえて?」

(堀賢教授)

「若い人たちは(この肺炎に)かかっても症状が非常に軽いことが多い。

そういう人が動き回っていろいろな人に感染させてしまうと、クラスターが発生する。

そういう中に高齢者が巻き込まれると重症化しやすいということで若者がちょっとでも体調が悪ければ表になるべく出ないことが多くの人たちの命を救うことになるからだ」

 大学などの卒業シーズンを迎え、繁華街は例年よりは人通りが少ないとはいえ飲み歩く若者たちで賑わっていることに変わりない。

 筆者もそうした光景を目撃して「危機感をもっていない若者」の存在が気になっていた。

 東京都からの要請はそうした点にも警鐘を鳴らすものだったが、『news zero』はこの点を強調してあえて伝えた。

 番組内でも渋谷のスクランブル交差点からの生中継映像が入っていたが、ふだんほどではないにせよ若者たちで賑わう相変わらずの光景がこの夜も見られた。

 それだけにコーナー全体を見て、この番組が伝えようとする内容がしっかりと伝わってきた。

「若者たちへの目線」が随所にあった。

 ニュース番組ではこうした伝え方の細かい点はとても大事だ。

 『news.zero』も前述した都知事の会見のコーナーの後で伝えていたが、実はこの日、タレントの志村けんさんが新型ウィルスに感染していて重度の肺炎で入院していたという事実もニュースの大きな要素である。

 有名タレントの感染と入院という出来事は、テレビニュースでは人目を引きつけやすいために下手をするとニュース項目の冒頭などにもっていきがちだ。

 それなのに『news zero』がこの夜、この項目を都知事からの要請について、ひととおり詳細を伝え終えた後に回したことは担当デスクの見識の高さを感じさせる対応だった。

 日々ニュース番組を伝える側にとっても、たとえ各社横並びの記者会見の映像が素材になっている場合でも、それをどう料理するのかは担当者たちの「力量」と「見識」が問われることなのだということを肝に銘じてほしい。