「英国で生理用品への課税撤廃」ニュースが伝えた“生理の貧困”とは?

「生理の貧困」とは?

 筆者は日本社会の「貧困」問題を専門にするジャーナリストとして取材・報道を重ねてきた。

 派遣などの非正規労働や低賃金で不安定な雇用形態の人々や母子家庭の母親、生活保護を受ける家の子どもらなどと長くつきあってきた。

 大学教員になった現在でも「貧困」の報道は研究分野の一つにしている。

 それだけに「貧困」という言葉には人一倍敏感になってしまう。

 このため、テレビから「生理の貧困」という言葉が聞こえてきたときにすぐ聞き耳を立てたが、それが一体何を意味するのか、すぐに理解できなかった。

 3月12日(木)の日中放送されたNHK総合テレビのニュース。そこでこの言葉が放送されたのだ。

英 生理用品への付加価値税廃止へ 政府の決定に歓迎の声 (NHKニュース)

イギリス政府は、来年1月から女性の生理用品にかけられている付加価値税を廃止することを発表しました。イギリス国内では、経済的な事情から生理用品を購入することができない女性たちもいて、歓迎する声が上がっています。

イギリス政府は11日、新年度の予算案を発表し、この中で、来年1月から女性の生理用品にかけられている5%の付加価値税を廃止することを明らかにしました。

EU=ヨーロッパ連合から離脱し、ことしの年末までとされている移行期間が終了すれば、EUの法律に縛られず、税率を変更することができるようになるということです。

出典:NHK NEWS WEB(3月12日)

 報道そのものは「経済的な事情から生理用品を購入することができない女性たち」に関係するものだった。

 生理用品は女性が毎月のように使用する生活必需品だ。その商品にかかる付加価値税の税率をイギリス政府がゼロにするというニュースだった。 

 付加価値税はVAT(value-added tax)と呼ばれ、あらゆる商品を購入する際に加えられる、日本の「消費税」に匹敵する間接税だ。イギリスに住んだ経験がある筆者は皮膚感覚で多少わかるが、日本での生活感覚と比べてみるとイギリスの付加価値税(VAT)の税率はかなり高い。たとえば一般商品に対する税率は日本の消費税の2倍である。

イギリスの付加価値税「 標準税率」は20%

 加えてイギリスの付加価値税は軽減税率の対象が日本よりも多く、税率も低いことが特徴だ。一般的な商品が対象となる「標準税率」は現在20%で大多数の商品は標準税率がかかるが、他に軽減税率がかかるものや税率がゼロになっている商品もある。

 経済的に貧困といえる層にとっても必需品といえる品、たとえば灯油や電気、チャイルドシートなどには「軽減税率」の対象だ。しかも税率は日本のそれよりも低い。

「軽減税率」は5%

 これまで女性の生理用品もこの「軽減税率」の5%の対象になっていた。

 イギリスではこの他に、基本的な食料品や新聞・出版物、交通費、赤ちゃん用品、高齢者の移動補助費、子ども用の衣料・靴などは「ゼロ税率」か「非課税」になる。

 つまり消費者の側から見た場合には付加価値税が事実上適用されない商品がたくさんある。

「ゼロ税率」の対象に生理用品も加わった

これがこのニュースが伝えた主な情報だった。

 ところで日本では生理用品への課税の問題はどうなっているのだろうか。

 生理用品はイギリスのように他の商品とは区別されて軽減税率の対象になっているのだろうか。

日本で生理用品の消費税率は?

 日本では消費税が昨年(2019年)10月に8%から10%に上がった。

 このときに歴史上で初めて軽減税率が導入されて8%の税率が適用された。

 対象になったのは外食を除く食料品と酒類を除く飲料。それに新聞だけである。

 生理用品はその他の一般商品と同様に税率10%で課税対象になっている。

 イギリスのように軽減税率の対象にはなっていない。

女性にとって毎月、生理用品はどのくらいの経済的な負担になっているのか?

 男である筆者には想像がつかない世界なので家族や知人に尋ねてみた。

(Aさん)

1ヶ月あたりナプキン20個。他にタンポン4、5個。おりものシート。

1ヶ月の支出は600円〜800円くらい

(Bさん)

昼用と夜用があるため2種類を使い分けている。

30個で300円くらいのものと、400円くらいのもの。

1日平均で70円。5、6日で350円〜400円

 1人あたりで考えると大きな支出ではないように思える。

 しかし家族が多いと話は別だ。

たとえば年頃の娘が2人以上いる家庭となると母親も入れて3人分の支出になっていく。

そうすると1ヶ月1000円、2000円という出費になる。

 また、生理の量も個人差が大きく、月に4日で終わる人もいれば6日以上続く人もいる。さらにBさんのように生理用品だけでは済まない人もいる。

Bさんは生理痛がひどいために産婦人科で処方された低容量のピルを定期的に飲んでいてその出費もある。

初診料1000円。再診料500円。検査代6000円。薬代が2000円。生理だけで年間で3万5000円以上もかかる計算だった。

ただしBさんの場合、ピルを飲むようになってから次第に生理の量が減り、ナプキンなどの生理用品の使用量は半減してその部分での出費は減ったという。

 

 人によってかなり違いがあるということがわかった。

 女性たちに体験談を聞いていくと、生理用品の使用で「無理」をすることは相当な苦痛につながり、場合によって病気を引き起こしかねない切実な問題であることもわかってきた。

「生理が重い人ほど枚数が多くなったり、単価が高いものを買う傾向がある」

「生理は突発的に起きるので、急にコンビニで買うことになると100個入りで200円くらいの割高なものを買うこともたまにある」

「ナプキンを節約しようと一日中同じナプキンを使用して菌が入って膀胱炎になった」

「生理が楽になるピルを飲みたいが経済的な事情から断念している」生理用品をいつも使うものを買えないとタンポンではトキショック症候群(TSS)が心配だ」

 ちなみに上記のトキショック症候群というのは、バクテリアによって引き起こされる病気の一種だ。

非常に短い時間で重篤な病態を引き起こす敗血症の一種です。

TSSはまれな病気ですが、男性、女性や子どもも短い時間で重篤な病を問わず誰で態となる可能性がある病気です。

出典:JHPIA 一般社団法人 日本衛生材料工業連合会 ホームページ

と説明されていて、

報告されているTSS発症者の半数はタンポンを使用している女性

出典:JHPIA 一般社団法人 日本衛生材料工業連合会 ホームページ

だという。

 少し歴史を調べてみると、イギリスでは生理用品に課税される付加価値税は「タンポン税」と呼ばれ、税率についての論争が長く続いてきたことがわかる。 BBCの記事によると、生理用品はゼロ税率にすべきだとして署名運動まで行われてきた。イギリスでは付加価値税の税率は財務相による予算演説でアナウンスされると一気に変わってしまう。今回のNHKニュースも演説を受けて記者が原稿にしたものだと思われる。

 NHKはイギリスの財務相がこれまで生理用品にかけていた5%の軽減税率を撤廃し、ゼロ税率にすると発表したことを受けてニュースにしたのだろう。

 「生理の貧困」で検索してみると、いくつか記事などが見つかった。

「生理の貧困」の記事や情報は?

 ハフィントンポストが記事にしていた。

経済的な理由で生理用品を買えない「生理の貧困」という問題がある。発展途上国だけでなく、格差が広がる先進国でも問題となっている。英国では2017年、若い女性の10人に1人が生理の貧困に陥り、それを理由に年間13万7700人が学校を休んでいることが分かった。ソウル市は2016年から低所得者層の子どもへの生理用品の支給を補助している。生理用品を手に入れられるかは健康や生活の質、学校や働く機会を左右する深刻な問題だ。

出典:ハフポスト「イギリスで若い女性の10人に1人が陥る『生理の貧困』とは?」

 アフリカのタンザニアのような発展途上国だけでなく、「10人中1人」が“生理の貧困”に陥るというイギリス、それに韓国でもこの「生理の貧困」の問題がクローズアップされていた。 

 さらに「生理の貧困」の問題を自分たちの力で解決しようと活動している団体も見つかった。

 

「生理の貧困」をなくそう。レッドボックスジャパンは日本の学校へ生理用品を届けています。

出典:レッドボックスジャパンの紹介ページ

 「生理の貧困」は女性にとって切実な問題だという記事が日本語でも書かれ、すでに活動している人たちがいるというのはネット時代ゆえで情報のグローバル化がこれまでになく進んでいるせいかもしれない。

 

 とはいえ、まだ日本の現状はかなり立ち後れているという印象は否めない。

 イギリスでは生理用品は「軽減税率」の対象として元々ある程度配慮されていた。それをさらに一歩進めて「税率ゼロ」が決まったのだ。

 日本とは状況が違うと言うほかない。

 昨年、消費税率が10%に上がる少し前には、新聞記事でもおむつや生理用品を軽減税率の対象にするべきでは?という声が紹介されていた。

 

インターネット上では「生理用品」「おむつ」のほか、「トイレットペーパー」などが軽減税率の対象にならないことをめぐる“論争”が、盛り上がりを見せている。

出典:産経新聞ニュース(2019.8.26「【経済インサイド】『生理用品』『おむつ』も軽減税率? 現場対応できず困惑も]

 

 だが、あくまでネット上の盛り上がりにとどまって、イギリスのように署名集めなどの運動まで至らず、実際の政治的な影響力はなかったようだ。今回のNHKニュースを見ても、イギリスでは民間団体が実態を「調査」し、「社会問題」に発展し、政府の決定を「歓迎」する人たちの存在することまで伝わってくる。

イギリス国内では、14歳から21歳の女性のうち10人に1人が経済的な事情で生理用品が購入できないという民間の調査結果もあり、「生理の貧困」として社会的な問題となっていることから、今回の政府の決定を歓迎する声が上がっています。

出典:NHK NEWS WEB(3月12日)

 イギリスは連合王国として、イングランドやスコットランド、ウェールズ、北アイルランドという「国」が連合した形をとっている。それぞれの「国」では、さらに政策を進めてナプキンなどの無償配付の取り組みを進めている現状がある。 

各地ではさまざまな対策が進められていて、イングランドの学校では、ことし1月から生理用品を無料で配布する取り組みが始まったほか、スコットランドでは、必要とするすべての女性に無料で提供する法案が近く成立する見通しです。

出典:NHK NEWS WEB

 生理用品という小さな商品をめぐるニュースも調べていくと、それぞれの国や社会が見えてくる。

 生理用品を見る限り、日本という国は女性にやさしい状態とはまだ言いがたい。

 だが、経済的な事情から声をあげられずにいる人たちは日本にもいるはずだ。

「生理の貧困」

 この言葉を日本でも定着させて、同じ問題で苦労する女性たちがいないのか調査することから議論を進めてもいい。