新型コロナ NHKが“独自”スクープとして伝えたニュースの意味

2020年3月12日正午のNHK「ニュース」での独自報道(筆者が画面を撮影)

 3月12日(木)、NHKは正午の定時全国ニュースの中で、新型コロナウィルスの感染拡大で欧米諸国の入国制限や株価下落などを伝えた後の3項として「独自」ニュースを伝えた。

「独自」はひと昔前なら“スクープ(特報)”と表現したニュースだ

 あくまでメディア業界用語で、わかりやすく言うと「政府などの記者会見や発表に基づく各社横並びの報道ではなく、そのメディアが独自に発掘した情報ですよ」という意味である。ただ、民放や週刊誌などが何でもかんでも「スクープ」と銘打って報道したことで、この言葉そのものが信用を失ってしまい、現在ではNHKを中心に「独自」ニュースという表現でかつての“スクープ”を伝えることが多くなった。

 

 新型コロナに関連しては、政府や自治体などの記者会見もののニュースが続いているが、「独自」としてわざわざ持ってきたからには報道機関として伝えるべきだとNHK報道局が判断して放送したものとみなしてもいい。

入院中の女性[独自] “かぜと思った” 初期症状で感染疑えず

 これが放送時にスタジオで原稿を読むアナウンサーの姿にかかったテロップだ。

 左下画面にピンク色で「独自」という文字が誇らしげに入っている。

 ニュースの内容そのものはネット上にNHKの公式ホームページでもすでにテキストとしてアップされている。

“初期症状だけでは感染疑えず” 20代感染者が証言 札幌

 放送の際にはあった「独自」の表記はネットの方にはないが、内容は以下の情報だ。

新型コロナウイルスの感染者が相次いでいる札幌市のライブバーの従業員の娘で、自身も感染して入院している女性が、NHKの電話インタビューに答え、「最初は軽いせきと頭痛で、かぜと思った。従業員の母の感染が先にわかり、それがなければ病院に行かなかったと思う」と述べ、初期の症状だけでは感染を疑えなかった状況を明らかにしました。

電話インタビューに答えたのは、今月5日に新型コロナウイルスへの感染が確認され、入院して治療を受けている20代の女性です。

女性は今月3日に感染が確認された札幌市のライブバーの60代の従業員の娘で、このライブバーでは合わせて6人の感染が確認されています。

出典:NHK NEWS WEB(3月12日)

 放送ではこの女性が「症状が出始めたときの状況」について以下のように話したとして電話インタビューが続く。

(感染して入院中の20代の女性)

'''「起きて何か頭が痛いなというのと

軽いせきが2、3回こんこん続くようになったな、というのが最初の印象。

普通のかぜかなと思っていました」'''

 女性はその上で“身近に感染者がいなければ病院にかかることもなかった”と述べ、初期の症状だけでは感染を疑うことができなかった状況を明らかにした。女性の言う通りの症状で自ら病院に行って検査を受けようと考える人は少ないだろう。今後の検査体制のあり方などに示唆に富む経験談だ。

 女性は38度を超える熱が出たこともあったが、現在、症状は落ち着いているという状況を説明した上で、入院して病院で受けている治療について以下のように話している。

(感染して入院中の20代の女性)

「普通のかぜで使う解熱剤をここの隔離された病室で普通に出されています。あとはどうすることもできない。(病院からは)『自力で治してください。この部屋から出ないでください』という形ですね」

 重症化しない限りは解熱剤を投与されるだけで後は隔離が続くという入院生活。今後の感染者や患者の処遇をどうすればいいのか考える上でも参考にすべき実態だと思う。

 女性が取材に応じたのは、“感染した経緯や症状について広く知ってもらい、その理解と対策にいかしてほしい”という思いからだと伝えている。

 このニュースの放送時間はスタジオ部分も合わせて2分20秒弱に過ぎない。

 

新型コロナでは感染して入院中の患者本人の肉声が報道される機会は少ない

 だからこそ、正午のニュースのデスクもスクープ報道として伝えるべき価値があると判断して「独自」のマークを入れて放送したのだと思う。患者本人が以下の事実を伝えたことにこのニュースには意味があったと思う。

 

初期症状は風邪だと勘違いしやすい

 20代の女性患者の話を聞く限り、風邪のような症状でせきが出る程度ならば、わざわざ新型コロナ肺炎の検査を受けることなど考えもしないだろうというリアルな実態が伝わってくる。

入院中の治療も隔離されて普通の解熱剤を処方されるだけで病室外にも出られない無力な状態

 今後は全国的に増加する可能性がある感染者の入院も、その処遇の実態をリアルに伝える報道だった。

 ところで実際に放送されたニュースでは記者が電話でインタビューした女性の肉声が放送されているのに対して、NHKニュースのウェブ版では女性が話した内容を情報として要約した文章にしていて、若干の違いがある。このニュースはもともと札幌放送局の記者が取材して原稿にしたものだと思われるため、この正午のニュースで「独自」ニュースとして報道する前にいろいろな原稿やVTRのバージョンがあるのだろうと想像する。

 その中で、全国ニュースでは放送されなかったものの、ウェブ版では報道されていた以下の部分が筆者はひっかかりを覚えた。

また、女性の80代の父親も感染が確認されていて、「母は回復に向かっているが、父は体調が悪くなっていてどうなるかわからない。誰のせいでもないと言ってくれる人がいる一方で、ほかの家族も含めて冷たい目で見る人もいると思う」と述べ、残された家族も含め周囲からどのように見られるのか不安だと話していました。

出典:NHK NEWS WEB(3月12日)

新型コロナに感染すると家族が周囲の差別や偏見にさらされる恐れがある

 はっきりとそこまで原稿にしていないが、感染者本人や家族に対して周囲が向けるかもしれない「冷たい目」。そのことを女性が口にしていたことがうかがえる。電話インタビューでは女性が涙声になる瞬間もあったようだが、そうした一人ひとりの感染者や家族の現状に少しでも肉薄してその実態を伝えていくことが報道機関の役割なのだと思う。

 新型コロナウィルス問題では、当局や専門家などの発表や記者会見に追われるばかりの記者が多く、なかなか独自ネタを取りにくい状況だろうとは想像できる。 

 その中でも感染して入院中の感染者の本人の状況を伝えたニュース。NHKが記した「独自」の表記にふさわしい報道だった。