NHK×フジ×ヤフーの震災企画で見えた「受信料の使い道」。NHKの災害映像をもっと民放に開放すべきだ

メディアの垣根を越えた番組制作

 3月11日(水)15時50分からの1時間、フジテレビが放送した震災特番「わ・す・れ・な・い 死者をゼロにする報道とは」は今後のメディアのあり方を考えさせられる番組だった。

 フジテレビとNHK、ヤフーが共同企画して、いつかまた同じような大震災が起きたときに死者をゼロにするための災害報道を探る「メディア連携」の試みだという。

 民放テレビ、公共放送、インターネットという3つの大きなメディア同士。それぞれが放送や通信という分野でのメディアの「公共的な役割」を意識しての共同企画だろう。

 災害時に何ができるかを模索するという番組だったが、全体的に「連携することに意義がある」というトーンになっていて自己PR色が強い総花的な番組だった。また番組独自の取材というものがあまり見受けられず、フジテレビの取材力の弱さをさらけ出して痛々しい印象だった。

 この3社が大きくピーアールしていたわりには掛け声倒れという内容に終わっていたというのが筆者の評価だが、他方で見所もあった。それはフジテレビがNHKの「映像」と「情報」を利用して、災害報道のあり方の検証番組として成立している部分があったことだ。

 

 筆者が気がついたのは、違う会社同士で報道の中身を検証することで報道内容がより信頼できるような仕立てになっていたことだ。

9年前に大津波警報が発令された際に第一波が到達する沿岸の様子を生中継で伝えるNHKの「伝え方」をフジテレビが検証した

 もしNHK自身がNHKの災害報道を検証したのであれば、内容がたとえ真っ当なものであっても視聴者から見ればどこかに「ウソくささ」を感じさせるものになったと思う。それがNHKの映像を元に、フジテレビの制作者が当時実況したNHKのアナウンサーにインタビューして検証をしていたので、緊張感がある放送になっていた。

 2011年3月11日、津波の第一波が岩手県釜石市に押し寄せたときに中継映像に東京のスタジオから実況コメントで伝えた男性アナウンサー(横尾泰輔アナ)は当時のNHKの緊急報道の番組映像を見ながら語った。

(NHKアナウンサー横尾泰輔)

「(街中が)浸水というのはわかるんですけど、ただどうなっているのかというのが・・・、(水が覆っている)ここが元々何だったのかが実はこのときわからなくて私も少し混乱しました。船と車が同じ状態で浮いているという・・・」

 元の状態を知らない者が伝える難しさがある中、映像からわかる情報だけで横尾アナは懸命に住民に避難を促そうとしたことを番組は伝えていた。

 番組では、津波が押し寄せる釜石市の街中を逃げ惑う姿が映像に映っていた女性の行動を検証している。女性は結果的に津波に巻き込まれて亡くなってしまったが、NHKが釜石市への津波到達を報じてから女性が実際に津波に巻き込まれるまでわずか10分。その間に伝えられた情報が生死を分けた可能性があった。女性の遺族は、津波が迫って来る映像が住民にテレビを通じて伝わっていなかったことが結果を左右したのではないかと考えていた。

(亡くなった女性の娘)

「テレビだったら(津波が来る)映像が出ますよね。今これくらいとか。ここを越えましたとか。そういうのが見えたら大変だと思うのは確実で、上に上に逃げていったんじゃないかと思います」

 停電でテレビがつかない状態の中でNHKのこの緊急報道を見た人間は実際にはほとんどいなかった。そうした中で釜石市に津波が押し寄せ始めた午後3時21分のNHKの映像をテレビで見て助かった数少ない男性がいた。

 充電式のポータブルテレビで映像を見ていたのだという。

(釜石市の男性)

「やっぱり映像の力ってすごいですね。もうすれば脳裏に焼き付けるって感じで、これヤバいなって気持ちになったので」  

 男性がその映像を見たのは津波に自宅が押し流されるわずか3分前だった。  

 この男性はたまたまポータブルテレビを持っていたので逃げて助かったが、そうした手段を持たない人たちに避難を呼びかけたのは防災無線だった。加えて、強い口調で避難を促した消防団のポンプ車の存在があった。ポンプ車で避難を呼びかけた消防団員は、津波が家屋を押しつぶすときに生じた土煙で津波の接近を知ったという。

 消防団で避難を呼びかけた人。それに応じて避難して助かった人。番組ではそれぞれの人たちを取材し、そのときの様子を話してもらって再現している。

 津波が家屋を押しつぶしていく中で土煙が上がっている様子を撮影したNHKのカメラマンの映像など、当時の状況が再現されていた。

 さらに当時、テレビでの避難の呼びかけ方にも反省すべき点があったことを当時のアナウンサーらに語らせている。

(NHKアナウンサー横尾泰輔)

「やはりもっと強い呼びかけ・・・。避難行動をしっかり起こしていただく、行動していただく呼びかけですね。それが必要だなというふうに感じています。我々、情報を伝える側としてはまず『あなたが当事者なんです』ということを強く認識していただくための言葉が必要かなと思いますね」

 その後、テレビ放送で津波警報などでの注意喚起するときの言葉は、より切迫感を伝えるものへと変化し、現在ではNHKも民放も「すぐにげて!」「今すぐ避難」などと、命令調の言葉を使うようになってきた。

災害当時のNHKの映像をフジテレビが検証することで「より深い」報道が可能になっていた 

 

 このようにNHKと民放が垣根を超えて、災害での犠牲者をなくすために互いに連携する報道。

 試みとしては新鮮だった。

 その中で筆者が強い印象を受けたのは、NHKの災害映像の、民放に比べたときの圧倒的な豊富さである。

 そこで以下のような疑問が浮かんだ。 

NHKの災害映像はフジテレビとの共同企画の今回だけ民放側が使えるものなのだろうか?

NHKの災害映像は、公共性の高い映像としてすべての民放が「共用」できるようにするのが本来望ましい姿ではないのだろうか?

 NHKの過去のニュース映像などを民放が使用する際には、NHKから「購入」する形を取るのが一般的な使用方法だ。

 なかなか手続きが面倒な上に値段も高い。NHKの「ライブラリー映像」を民放が使用する場合には1秒単位でNHK関連会社であるNHKエンタープライズから購入しなければならない仕組みだ。1秒ごとに3600円などと料金がかかってしまう。筆者も購入するためにNHKエンタープライズに赴いて「映像探し」に行ったことが何度かある。

 この際、NHKエンタープライズには結果的に使用しない場合でも、映像を検索してもらうだけでも時間制の料金がかかってしまい、納得しにくい料金体系だったことを記憶している。

 だが、民放の番組も含めて、防災番組は公共性が高い、という理屈に立つなら、本来なら全民放の防災番組に対して、NHKは映像を開放すべきではないだろうか。

 NHKの受信料の問題は「NHKから国民を守る党」の国会への進出でにわかに注目されたが、法律上は「NHKの番組を見ない」という人にもテレビ受像機を持っているだけでNHKとの間で受信料契約を結ぶ義務が生じる。その理由は、つきつめればNHKが持つ公共的な役割にかかわってくる。

公共放送のNHKには民放以上の「公共性」がある

 難視聴地域の解消やすぐれた報道番組、すぐれた教養番組、あるいはすぐれた娯楽番組などを放送するという公共性・・・。

 

 今年3月からNHKが事実上、同時配信に乗り出したことで、NHKは「公共放送」から「公共メディア」という一面がより強くなった。

 「同時配信」のサービス開始で、テレビ映像のポータルサイト「NHKプラス」経由で大半の番組をネット経由で視聴することが可能になった。

 他方で、民放局はまだ一斉に「同時配信」に移行するにはほど遠い状態だ。権利処理面での課題や費用面などの課題を抱えていて、踏み出すことができない状態の民放とNHKとの差は広がるばかりだ。

災害時に住民の命を救う、という以上に強い公共的なニーズはない

 そのためのNHKの災害映像の共有化と無償提供は今後は制度上も積極的に考えていくべきではないか。

 今回のように、フジテレビと共同企画だから、という限定的な条件ではなく、NHKの過去映像では特に災害に関するものについては原則無料で提供する、というようなことが望ましい。フジテレビだけでなく、他の民放テレビ局もNHKの災害映像を使えるようになれば、より内容が充実して、より公共性の高い、ドキュメンタリーや報道番組を制作することがもっとやりやすくなる。

 NHKがNHKだけでなく、民放のためにも公共的な役割を果たす。災害放送というジャンルで、公共性が高く、クォリティも高い番組が増えていくことは国民生活の「公共の福祉」にも合致するはずだ。

 そういう形でNHKの受信料が使われるなら、国民の受け止め方も納得感があるものになる。

 NHKとフジテレビとヤフーが組んだ今回の共同企画。

 フジに限定することなく、すべての民放に門戸を広げていくような議論を始めてほしい。