”特殊詐欺”のドラマが妙にリアルな理由は「老人と若者たちの深刻な格差と貧困」か?

NHK『サギデカ』(第1回=8月31日放送)での「職場」の様子 画面を筆者が撮影

”オレオレ詐欺””振り込め詐欺”などの特殊詐欺に手を染める集団

 その実態をリアルに伝えるドラマがこのところ相次いで放送されている。

 詐欺グループがどういう場所で、どんなトレーニングを経て高齢者の自宅に電話をかけるのか、どうやって相手の番号などを入手して電話をかけているのか。

 それがくわしく描かれている。高齢者、若者、それを利用して甘い汁を吸う暴力的な組織の上層部など、いろいろとこの社会のありようを考えさせてくれる構図になっている。

 あくまで「ドラマ」という架空の話ではあるけれども、ドキュメンタリーでやってもいいような「実際にあった話」に裏打ちされているため、見ていて展開がスリリングなのと、少子高齢化で「外国人材」に頼らないとやっていけない老人大国ニッポンで、若者たちが夢を持ちにくい現状も投影されている。そこには若者と老人たちの格差や持てる者と持たざる者との格差が見え隠れする。

 まずは、最近、いろいろなテーマに挑戦していて何かと評判のいいNHK総合テレビの「土曜ドラマ」から。

土曜ドラマ『サギデカ』<全5回>

 まだ8月31日に全5回の第1回が始まったばかりだが、詐欺グループのアジトの情景描写がとてもリアルだ。

 朝の仕事は7時半にごく普通の会社同様にスーツ姿で集合。まず荷物検査から始まる。私物のスマホは持ち込みが禁止されている。かけ声とともにそれぞれのデスクの上に名簿を置いて電話をかける。

 木村文乃が女性刑事の主人公・今宮夏蓮を演じているが、第1回を見た限りでは犯罪集団の中で「かけ子」と呼ばれて、老人たちに電話をかけて巧妙にウソの話で相手を騙す若者(高杉真宙)と対峙するのが物語の柱のようだ。

 

 今宮は逮捕した若者を取り調べているとき、若者からこんな言葉を切り返されて一瞬ひるんでしまう。

(逮捕された若者)

「弱い者から奪うのは悪ですよ。でも僕らは強い者から奪っている」

(今宮)

「奪うという行為は犯罪です。それは仕事ではありません」

(若者)

「じゃあ、教えてください。僕らが今の社会で同じように努力したとして、振り込め(詐欺)と同じような額が稼げますか?」

 この言葉を聞いて、女性刑事・今宮は何も言えなくなってしまい、立ち上がって取調室から外に出てしまう。

 第1回の『サギデカ』では特殊詐欺事件で、ニュース番組やドキュメンタリー番組ではほとんど伝えられない事実が伝えられていた。

詐欺被害にあったことで自分を責め、自殺に追い込まれる高齢者がいるということだ

 今宮はそのデータを若者に示しながら問い迫る。

(今宮)

「何も悪いことをしていないのに『騙された方が悪い。悪いのはバカな自分だ』って自分を責めて、命を絶ってしまった人の数です。これでも詐欺は社会の役に立っている、と言える?」

(今宮)

「あなた方は高齢者と一括りにして、その顔を見ない。

見ないようにしている。じゃないと気づいてしまうから。

自分たちが本当は弱い者から奪っているんだってことに・・・、

気がついてしまうから」

(若者)

「相手に顔なんかない。ただバカなやつと信じ込む・・・。いいじゃないですか?

自分の正義だけ信じて、身内だけ愛して生きていくことの何が悪いんですか? あなただってそうでしょう?」

 名前も明かそうとしない若者は実は極端な貧困の中に育ったことが次第にわかってくる。

 やけにリアルだと思って一気に見ていたら、最後のスタッフクレジットに知った名前があって気がついた。

「取材・板倉弘政」

 NHKのこの名前を知らないテレビ記者はまずいない。彼がかつてNHKスペシャルで『ワーキングプア』や『無縁社会』などをキャンペーン報道して、現代の貧困や格差の問題を取材していた時期に、筆者も同じような現場を取材する人間として何度か顔を合わせたことがある。その後もいろいろな取材で実績を上げたNHK社会部のエース記者だ。詐欺グループの背後に貧困や格差が横たわっていることがテーマのドラマが妙に説得力をもっている背景には、そうした取材を深くやった記者の存在があったのだ。

 その彼がかかわっていたのか・・・。ドラマが実にリアルだったり、自殺の情報まで入っていたりしたのは彼がかかわっていることが関係しているに違いない。

 さて、『サギデカ』はこの若者が証拠不十分で不起訴になり、釈放されるシーンで次に続く。

 この先の展開に期待したいが、NHKでは記者が取材した事実をベースにしたり、参考にしたりしながら、ドラマにするケースは最近、他にもある。

NHKスペシャル ドラマ『詐欺の子』

 3月23日の放送で、「このドラマは複数の事実と証言を基にしています」と冒頭に字幕が出てくる。

 「カラオケボックス」「貸別荘」「ラブホテル」などを転々としながら、特殊詐欺の実行犯の若者たちがどういうふうに高齢者の家庭に電話をかけて、相手を騙して現金を受け取っていたのかがリアルに描かれている。

 現金を高齢者から受け取る役割の「受け子」の仕事を同級生から誘われて、このグループに入ってやっていた中学生の少年がいた。ドラマの中に一部は本当に電話を受けた高齢者や騙した側の少年(現在は少年院に収容されている)たちもインタビューなどで登場する。最初の頃に手の指先にマニキュアを塗って触ったものに指紋を残さないようにする、とか、警察官から職務質問されても怪しまれないようにスマホに「ポケモンGO」を入れておくなど手口の細部も描かれている。

 学校や家庭であまり居場所がない少年が、犯罪グループの人間関係を「楽しい」と感じて次第にはまっていく様子など、実行犯の側の「さびしさ」なども描写されている。

 このドラマでは、「箱」と呼ばれるそれぞれの小グループを率いるグループの長で電話をかける役割の「かけ子」の大輔(中村蒼)と幼なじみで車で送迎する「見張り」の遠山(長村航希)、さらに「受け子」の少年を軸に詐欺の物語が進んでいく。

 ドラマで象徴的な場面は、詐欺グループのオーナーの男が、のちに「かけ子」と「見張り」の2人をグループに引き入れるときに、ゴルフ場で楽しむ高齢者の様子を見学させていることだ。ちなみに同じ様な場面が後述する「スカム」にも出てくる。 

「見てみろや、アレ・・・」

 何のことを言われているか分からない表情の2人に詐欺グループのオーナーはたたみかける。

「ゴルフやっているじいさん、ばあさんだよ」

(ゴルフのボールを打って「ナイスショット!」とかけ声が飛ぶ)

「このゴルフ場の会員権。いくらだと思う?」

「・・・」

「2000万だぞ。会員の平均年齢がだいたい68歳で、貯金が2000万。

18万の厚生年金もらってよ。持ち家だから家賃はなし。

大輔のお袋、スーパーでレジ打って月いくらだ?」

(大輔)

「いいときで13万です」

「おまえはスーパーの売れ残りで育ったんだろう?」

(大輔)

「はい・・・」

「あいつらの孫は毎日、うまいもの食ってよ。じじいになったら、ここでゴルフするんだろうな?

おまえらにゃ、絶対に無理だ」

(大輔)

「はい・・・」

「どうしてかわかるか? 

ああいう、じじいばばあが金を回さないからだよ」

 このあと、詐欺グループのオーナーは、ホワイトボードに

「金を取り戻せ!」

と書いて、グループのメンバーに檄を飛ばす。

「おまえらが死んでいる金を世の中に出せ!

いいか。

電話で話してすぐ100万、200万って出せる家は金が余っている家なんだよ。

(中略)

おれたちが食っていけねえのによ。

じじい、ばばあのところには金が有り余っているんだぞ!

おかしいと思わねえか?

なあ?

そりゃ、おれだってよ、『金がほしけりゃ、働け!』って言われたよ。

日雇いの、工事か、工場。

おまえらも働いていたよな?

どうなんだよ?」

 これに対して、集められた若者の1人が叫ぶ。

「外国人に仕事、盗られました。

向こうの方が日給安いので」

「なあ?働きたくても仕事なんか、ねーよなー?」

「いいか?ここから逆転しろ。人生変えるんだよ」

 こういう言葉で集められた若者たちが次第にその気になっていく様子が描かれる。

 このドラマには、記者たちが取材したリアルが込められているが、実際に詐欺グループが実行犯の若者たちに「老人」への怒りをかき立てていく過程が丁寧に描かれていた。

 ドラマの中ではアジトにしていたアパートの部屋に遮光カーテンなどを使ってどのように光や音が外に漏れないようにしていたのかを、元かけ子に協力してもらって再現する場面もある。高額納税者などの名簿は「名簿屋」に行けば買うことができるという再現もリアルで、名簿を買うときに店の職員がサービスでエナジードリンクをくれることがあるというエピソードも、記者たちの取材に裏打ちされたものだろう。こうした細かい点までリアリティーを徹底して追求していた。 

TBS系で放送された『スカム』<全9回>(毎日放送)

 名門大学を卒業して大手企業に就職したのに、リーマンショックのために入社半年で新卒切りに遭ってしまう草野誠実(杉野遥亮)が主人公。このドラマは「箱」の描写がリアルだった。電話をかける訓練を徹底してさせられる。演技して相手を騙すという「仕事」のために若者たちが汗をかき、電話で相手がお金を用意することを約束したら、電話の後で歓声を上げる。

 このドラマでも詐欺グループに入ったばかりの初心者の若者たちが高齢者への怒りをかき立てられるシーンがある。

 『詐欺の子』と同じようにゴルフ場でプレーする高齢者を見学するのだ。

 和田正人演じる、振り込み詐欺店舗の店長・毒川が叫ぶ。

(毒川)

「目ん玉にこの光景、よーく焼き付けておけ。

このゴルフ場が出来たのは1988年。バブルのまっただ中。

おまえらバブル経済ってわかるよな。

で、ここは会員制。会員権をもっている人間とそいつが連れてきた人間しかプレーできねえ。

ちなみに会員権は3000万。会員の平均年齢は68歳。

感想は?」

(若者A)

「こんな老後、送りたいなあ。じじいたちが遊ぶために、ずいぶん贅沢っつうか」

(若者B)

「芝生張るのだって、あんな色を保つのって、すげえ金かかるんですよ」

(毒川)

「おまえ、くわしいじゃん」

(若者B)

「親が造園屋だったんで・・・。ガキの頃、つぶれましたけど」

 このあと、高齢者が泳ぐ温水プールや高齢者が談笑する高級レストランを見学しながら、格差が広がっている日本で老人たちにはお金があるという認識を若者たちは次第に強めていく。

「老人は日本のガン」

 詐欺グループで複数の店舗(箱)を運営する”番頭”の神部(大谷亮平)が説明する。

 他の仕事に比べれば「この仕事は天国だよ」と言う。この神部は乱暴な振る舞いや言葉遣いはけっしてしない紳士的な男だ。

 ホワイトボードにマーカーで書きながらの説明の仕方もまるで学校の先生のようだ。

「なぜかというと、貯金ゼロの貧乏人から200万を奪うのと、

貯金2000万のクソの金持ちから200万だけいただくの、

どっちが罪深いかって話だ。

どっちが気分悪い?

詐欺の場合、ターゲット1人あたり200万だ。

これは貧乏人なら、首くくる額だが、年寄りなら、電話ひとつでポンと出せる額だ。

なぜか?

金に余裕があるから。

いいか、日本中の金の半分以上は、60歳以上の年寄りがもっている。

信じられるか?

信じられるよな。おまえらその目で見てきたんだから。

平日の真っ昼間から遊び呆けている年寄り連中。

俺らのターゲットはああいうやつらだ」

(誠実)

「でも、あの人たちだって、若い頃、必死にお金、貯めていたんじゃないですか?」

 主人公の誠実が疑問を口にする。

 神部は「かもなあ・・・」と一言おいてから続けるのだ。

(神部)

「だが、昔は今と違って、すげえ好景気だったんだ。

いいか。

60歳以上の年寄りの平均預金額、2000万。

年金は月18万だぞ。

若造が必死こいてもらえる手取りよりいいじゃないかよ。

おまえら、歳くったとき、年金、いったい、いくらもらえるっつうんだよ」

(若者C)

「そもそも払ってねえす」

(若者D)

「つうか、払えねえ」

(神部)

「だろう? 

そのうえ、やつらは

もらった年金の4割を使いきれずに貯金している。

結果、死んだときに残す金は不動産なんかも込みで、

なんと、平均3000万円」

(若者E)

「3000万?」

(神部)

「不思議だよな。俺も不思議でしょうがねえよ。

年寄りどもはなんでこの大金を使わない?

どうして若くて苦労しているおまえらには分け与えようとはしないんだ。

だから老人は日本のガンだっていうんだよ!」

 前述した『詐欺の子』とも重なる場面だが、詐欺グループがこうした言葉を使って、新しく来た若者たちの抵抗感を減らしていき詐欺に加担させていくリアリティーあふれる場面だ。この神部の言葉には、心の中でうなずく若い世代は少なくないことだろう。

 ドラマの原案は鈴木大介の『老人喰いー高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書)で、取材に基づいたノンフィクションがベースにあるからこれほど説得力があるのだろう。残念ながら、ドラマは8月28日が最終回。すでに地上波での放送は終わってしまったが、Netflixでは視聴が可能だ。

 ドラマの見どころは、詐欺集団の若者たちが電話で様々な「設定」を演じながら、高齢者を騙していく「お仕事」としての特殊詐欺の描き方だ。若者たちがぴしっとスーツを着こなして時間通りに出勤する姿だ。地域社会に隠れたかたちで、若者が出勤していく、ある「職場」の赤裸々な実態だ。

「息子が痴漢を働いていて捕まった」「万引きをして捕まった」「交通事故を起こしてしまった」。

 たとえば一つの設定でも、若者たちは息子本人、鉄道警察、弁護士、警官、痴漢された女性の父親など、様々な人物をとっさに演じ分けていく、という猿芝居が次第に上達していく。それらを「仕事」として、真剣に練習し、工夫して、仲間と連携する「仕事」・・・。

 このドラマなどに登場する「老人はガンだ」というロジック。だから、現金をもらってもいいのだという理屈は身勝手といえるものの、若者たちに罪悪感を抱かせないで犯罪に関与させるにはすごく説得力がある言葉でもある。

 

 ドラマだけではない。

ドキュメンタリーでも詐欺集団の実態に肉迫した番組が目に付く。

 7月にNHK名古屋放送局が制作して放送したNHKスペシャル『半グレ 反社会勢力の実像』でも、暴力団に代わる暴力集団「半グレ」のグループが特殊詐欺のひとつ「振り込め詐欺」に手を染めた実態を「詐欺グループの中枢にいた男」が証言している。

「お金がなくて、どうやってお金を作れるかなってみんなで考えたときに、

やっぱり詐欺系になっちゃったんですね」

(Qどのぐらい稼ぎました?)

「自分がたぶん50億円ぐらいですね。手取りで」

(Qグループ全体だと?)

「数百億円あるんじゃないですか」

 この人物は、詐欺を行う実行役は末端のグループで互いに分断されているため、仮に捕まっても他のグループのことや組織全体については知らないので、「絶対に捕まらない」と豪語した。

 詐欺グループで実行役を担っていた、という沖縄出身の20歳の男性は中学を卒業した後に職を転々としてきたという。

 この仕事に気持ちが傾いた理由の背景に、「クーラーの付いているところでの仕事」への憧れもあったらしい。

「最初、始めたのが建築だったんで、こういう、ずっと朝起きて行くというのが途中から面倒くさくなって行かなくなりましたね。

涼しいクーラーが付いているところで仕事できるのないかなと思って」

 この男性は同棲する同い年の女性がいたが、2人とも沖縄で定職がなく、収入は乏しかった。あくせく働いているときに「儲かる仕事がある」と友人から誘われて、「やばい仕事かもしれない」と思いながらも、誘いにのって東京に出た。

 行ってみると一室に沖縄の若者ばかりが集められた「振り込め詐欺」のグループ。仕事は詐欺の「受け子」だった。騙した高齢者から現金を受け取る役目で報酬は2万円の約束だったが、受け取り先の公園ですぐに逮捕されてしまう。当時は未成年だったので鑑別所に送られた。このように警察が検挙するときは彼のような末端だけが捕まりがちだ。

半グレの中枢には捜査機関の手はなかなか及ばない。

 「特殊詐欺」を扱った最近のドラマは、どれもこうした報道取材の「リアリティー」をかなり丁寧に反映させている。

詐欺グループの末端といえる「実行役」を担うのは、格差社会の「底辺」にいると言っていい若者たち。

 そこでは「半グレ」などの詐欺グループの「中枢」が莫大な利益を吸い上げていく一方、自分たちには足がつきにくいシステムを構築している。

 ドラマでもドキュメンタリーでも、映し出されているのは日本社会の悲しい現実の姿だ。

 事実を丁寧に取材した土台に立っているドラマはウソがないので社会を知ることもできるし、大人としても楽しめる。

 始まったばかりの『サギデカ』がこれから楽しみだ。