池上彰になれるのか?「週刊こどもニュース」2代目お父さん鎌田靖が「年金問題」の解説で見せた切れ味

8月28日(水)のTBS『ひるおび!』で年金を解説する鎌田靖(テレビを筆者撮影)

「週刊こどもニュース」2代目お父さん

 鎌田靖は、池上彰の直系の後輩である。池上彰の足跡をたどってきたと表現してもいいほどだ。池上彰が「週刊こどもニュース」の初代の「お父さん」なら鎌田靖は2代目だ。

 2人ともNHKを退職して現在はフリージャーナリストとして活動している。ただ、池上が自分の名前を冠した番組を抱えて、いくつも出演し続けているのと比べると、鎌田の登場のスケールはそれほど大きいものとはいえず、NHK退職後の2人のその後は今のところは大きく違っているように思う。(以下、番組出演者については敬称を略して記述する)

 偶然だが筆者は鎌田とほぼ同年代。筆者も民放で”貧困問題”をメインテーマに活動してドキュメンタリーやニュースを放送してきた。

鎌田はNHK時代には『ワーキングプア』や『無縁社会』シリーズなど、”社会の貧困”に光を当てる番組でキャスターを務めている

 NHK退職の直後にTBSの『あさチャン!』に解説者として出演したこともあって(筆者もこの番組に少しの間だけピンチヒッター解説で出演していた時期がある)、テレビ記者出身者として「気になる」存在でもあり、不思議な縁を感じて注目してきた。だが、残念ながら、フリーになって以降の彼は出演番組も『あさチャン!』から『ひるおび!』に変わるなど必ずしも順風満帆とは言えないものだった。

 ところが、つい最近、年金をめぐっての解説で久々に「鎌田靖らしさ」を発揮したのを目の当たりにした。

鎌田が注目した「参議院選挙の前になぜ出さなかった?」

 8月27日(火)、厚生労働省が年金の「財政検証」を発表した。鎌田は8月28日(水)のTBS『ひるおび!』でこの問題について解説した。

 「財政検証」は、年金制度の健康診断とも呼ばれるもので、100年先を見越して将来の年金の給付水準を予測するものだ。「5年に1度」というタイミングで実施されるもので今回で3回目になる。

 2009年、2014年とこれまでの2回については、厚労省の専門委員会が最終報告を出してから、およそ3ヶ月で財政検証が公表されてきた。

 ところが今回は最終報告が出た3月13日から3ヶ月経った6月になっても財政検証は公表されなかった。

 3月13日の最終報告の後には6月に金融庁のワーキンググループの報告をめぐって”老後2000万円問題”が浮上し、麻生金融相が「受け取り」の拒否を表明。

 年金問題は参院選の最大の争点に浮上した。

 安倍首相は参院選をめぐる党首討論でも野党側から、「出せるはずなのに出さないのはおかしい」と批判されたが参院選の投開票日の前には公表されず、けっきょく最終報告から5ヶ月以上も経った8月27日にやっと公表された。

「財政検証」いろいろ前提条件がついてわかりにくい 

 鎌田の解説によると、この「財政検証」は2004年の年金改革で、当時の小泉純一郎首相が「少なくとも『現役世代の平均年収』の50%の給付水準を維持する」と表明したことで始まって、年金制度は「100年安心」をうたった、とのことだ。

 つまり、

「現役世代の平均年収の50%以上を年金の給付水準」=「所得代替率50%以上」

の維持を法律上約束したという。

厚労省が公表した内容によると「現在の給付水準」では、現役世代=現役男性の平均月収(手取り)は35万7000円だいう。

 一方で年金を受け取る側は、夫が勤続40年のサラリーマンで65歳で妻が専業主婦というモデル世帯で考えると、基礎年金13万円+厚生年金9万円=22万円になるという。所得代替率=61.7%になる。

 これが2040年度に65歳を迎える、現在44歳の男性の場合は

(今から21年の間に物価が上昇して)現役世代の手取り年収が43万700円になって、年金給付額は23万4000円で所得代替率=53.6%。

 さらに2060年度に65歳を迎える、現在24歳の男性の場合は、

(今から41年の間に物価が上昇して)現役世代の手取り年収が54万3000円になって、年金給付額は27万6000円で所得代替率=50.8%

となっていく。

 ただ、これはケース3の場合で、経済成長率が「0.4%」あるというのが前提だ。

 財政検証では、

ケース1では経済成長率「0.9%」という前提(モデル世帯の所得代替率51.9%)。

ケース2では経済成長率「0.6%」(モデル世帯の所得代替率51.6%)。

ケース3が前述したように、経済成長率0.4%(モデル世帯の所得代替率50.8%)となっている。

だが実はケース4では経済成長率「0.2%」(モデル世帯の所得代替率46.5%)、

ケース5は経済成長率「0.0%」(モデル世帯の所得代替率44.5%)、

ケース6では経済成長率「-0.5%」(モデル世帯の所得代替率36%~38%)などと、

所得代替率が50%を割り込む事態

もシミュレーションとして想定されている。

 こんなに前提条件が違ってきては結論がいろいろ変わってくるのでよくわからない。

 この種の問題は、前提条件がいろいろあるにしても、実際はどうなりそうなのか、を示すことがとても大切だ。

専門家に自ら取材してコメントした鎌田

 スタジオで解説するだけの役割であっても、実際に専門家や当事者に取材をした上での解説しているのかどうかはとても大事だ。

 そこが本当のジャーナリスト経験がちゃんとある人かどうかの差が出てしまう。この日のスタジオでの鎌田の話しっぷりを聞く限り、自分で専門家に聞いた上で解説していることをうかがうことができた。

 鎌田はフリップでニッセイ基礎研究所の井出真吾・上席研究員による

「一番、現実的なのはケース3」

という評価を前提にして説明を進めていた。

 その後で鎌田は井出上席研究員が今回の財政検証について

「5年前の財政検証と比べて変化はあまり感じない」

と評価したと解説した。

 ここから結論を導き出した解説が鎌田の記者としての経験に裏打ちされていたものだった。

「(今回の財政検証は)問題になった『老後資金2000万円不足する』という、今の年金だけでは足りないんだ、という結論を導き出した金融庁のワーキンググループの報告と、前提がほとんど変わらない、ということになるので、あの報告の内容は、2000万円なのか、何千万円なのかなどの具体的な数字の試算はいろいろありますが、方向としては間違っていないということです。

あのときに麻生大臣は『政府のスタンスと違う』とおっしゃいましたけど、前提が同じということは、導き出された結論、あるいは方向性は同じなわけで、そうしますと、やっぱりそうした不都合な事実は出した上で・・」

という鎌田の指摘は明解だ。

「選挙前にやってほしかったな」

と司会者の恵俊彰が合いの手を入れた。

「そう。まさに・・・。その議論をするのが嫌だったから、これだけ後回しにしたのではないか、というふうに思わざるをえない」

と鎌田が応じた。

 実は「財政検証」については、7月上旬に各社がニュース番組で放送した参院選をめぐる党首討論でも、重要な争点になっていた。野党側はとっくに発表ができる状態になっているはずなのに政府が意図的に発表を遅らせているのではないのか?という疑問を安倍首相にぶつけていた。首相は「そんなことはない」とそのたびに否定していた。

 何気ないことに聞こえるかもしれないが、鎌田は専門家の見立てなどを引用して評価した上で、年金の財政検証の公表が遅れたことに

「政治的な意図」

が存在した可能性を指摘したのだ。

 年金の「財政検証」の解説で、かつてNHKで貧困問題や社会保障問題の番組もやっていた頃の片鱗を発揮した鎌田。

 『ワーキングプア』や『無縁社会』、あるいはギャラクシー大賞に輝いた『追跡 復興予算19兆円』での活躍は池上彰以上に社会に衝撃を与えた。

 まだまだ、作法がNHKとは違うのか「民放への遠慮」が見え隠れして、どこか大人しい印象が残るが、そろそろ本領を発揮してほしい。