今年も攻めたNHK『バリバラ』(3)「恋人は幻覚という恋愛」

8月25日Eテレ『バリバラ』「2.4時間テレビ」(テレビ画面を筆者撮影)

『バリバラ』による『2.4時間テレビ』。

 2時間24分の番組は、1時間を過ぎた頃に視聴者から以下のツイートが届く。

「愛の不自由、愛はボクを救うの?←愛とセックスって生々し過ぎる。障がい当事者ですけど、見れない。」

 このツイートをきっかけにスタジオの話は「性教育をがテーマにと移行していく。

 スタジオにいる障害者が「生物がどうやって子孫を残すか、誠意と卵子の話までは教わってもそれ以上は学校で教わっていない」と打ち明ける。

「日本の性教育が時代遅れなんだよなー」

「教科書に書いていないことはみんな一緒」

 そんなツイートが流れた後、番組のコメンテーターで脳性まひを持つ社会福祉士・玉木幸則がデンマークでは小学校1年生から子どもをつくることやセックスを楽しむことを教えている、という情報を紹介する。また、1回だけ公費を使ってセックスするという経験をさせてくれるサービスがあるのだという。スタジオで「へえー!」という声が上がる。

「エアーセックス」?

 首から下が動かない重度の障害者同士が大画面でアダルトを見て、一緒に添い寝をして良い気持ちになる「エアーセックス」と名付けているとい女性もVTRで通常する。

女性の恋人は「まぼろし」?

 障害者の問題についてある程度くわしいつもりだったが、見て驚いたのが「恋はまぼろし」というVTRだった。ニックネームが「森のくまさん」という20歳の女性が登場する。健康的なごく普通の女性に見える。彼女が部屋で一緒に暮らしているという恋人が「ユキくん」。

「恥ずかしがり屋で本当にたまに『好きだよ』とちゃんと言ってくれる」

「いまその後ろあたりで笑っています」

 「森のくまさん」がそう言って手を指す方向には壁しかない。

 幻覚なのだという。絵を描いてもらうと、ユキくんは悪魔の姿をしている。

 彼女は統合失調症で幻覚・妄想などの症状のために「幻覚の恋人」が見えているという。 

 彼女は自分と同じように幻覚が見える人が集う「べてるの家」(北海道・浦河町)を訪ねてみた。

 そこは幻覚や妄想を包み隠さずに打ち明け合っている空間だった。

(統合失調症の女性1)

「私は、”最高神エンジェル”という位で、最高の天使は最高の神だということなんだそうです」

(森のくまさん)

「幻聴さんの恋人のユキくんという子がいるんですけど、その子は基本、私をバカにするようなことばかり言ってくるけど」

 彼女がユキくんの似顔絵をホワイトボードに描いていると、こんな質問がとんだ。

(統合失調症の女性2)

「天使が恋人なんですか?」

(森のくまさん)

「いや悪魔です」

(統合失調症の女性2)

「悪魔天使?」

(統合失調症の男性1)

「なんか壁ドンされたら、まいっちゃうようなタイプですね」

 室内のあちこちから「かっこいい!」という声が上がる。ここではユキくんのことを否定されずに受けとめてもらえた。

 森のくまさんが描いた絵に質問もあった。

(統合失調症の女性3)

「あえて名前をつけるとしたら何何ハウスですかね?」

(統合失調症の女性4)

「現実の人との会話とゆき君との会話に違いはあるんですか?」

(森のくまさん)

「ユキくんとの会話は響くっていうか、伝わってくるみたいな・・・」

統合失調症の男性2

「わかるそれは」

(森のくまさん)

「こんなに幻覚さんの話を聞いてくれるのは始めてで、すごくうれしいし、楽しくて、もうここに住みたいぐらい、楽しかった」

(会場にいた人)

「わ~」(拍手)

 このVTRの後で、「べてるの家」について、世界中から年間3000人が研究に訪れることや統合失調症が思考・感情・意欲も面に障がいが生じ、幻覚や妄想などが出現する精神疾患であるとが改めて説明された。毎年7月にここでは「べてるまつり」が行われ、「幻想・妄想大会」も開かれて優勝者も決まることも紹介される。

 スタジオで、森のくまさんの症状について精神科医による説明がなされる。

 彼女の場合は、自分を外の世界から守るためにユキくんという幻覚が現れているのかもしれない、と考えられるという。

 現在は森のくまさんは作業所などに通って、少しずつ現実の世界に愛を踏み入れているのだという。

 森のくまさんのケースは、「恋愛」という問題も本当に人によっていろいろなパターンがありうることを私たちに教えてくれる。

 「エアーセックス」もあれば「幻の恋人」まで登場する。そのそれぞれに人間という生き物の、なんとも不可思議な心のありようが見えてくる。

 画面の下には視聴者からのツイートで「否定されないのはいいよね」「自由な番組だなあ」という言葉が浮かぶ。

 

 さて、この後で紹介されたVTRも仰天ものだった。

「愛に制限あり?」

 新ジストロフィーの羽富拓成さん。難病で指先以外はほとんど動かないため、ほぼ24時間介助を受けて暮らす。食べるときの飲み込みもあまりよくないため、つまってしまうと救急車を呼ばねばならず、食事はいつも集中して食べる「闘い」だと話す。

 その彼が毎週土曜日は朝5時半に起きて、介助者とともに3時間かけて70キロ離れた場所に住む恋人の住む街を訪れる。車を降りると羽富さんは電動車イスを猛スペードで走らせて恋人の美雨さんの家へ。彼女も進行性筋萎縮症とウェルドニヒ・ホフマン病で身体が動かなくなる難病患者だ。腕が上がらず寝返りもほとんど打つことができない。限られた動きしかできない2人だか、互いを求め合う。そんなときは介助者に頼んで身体を動かしてもらう。

 「キスして」とせがむ彼女。

 「左手をもうちょっと前に出してほしい」「体回して」「もうちょうい左」「もうちょっと右」

と羽富さんは身体の向きを微妙に調整していく。

 2人がキスしているときは介助者が羽富さんの身体を支えているが、その間、画面の下には視聴者からのツイートは流れる。

「最高 この2人大好き (そして良い感じにエロい)」「やばい絵面がエロい」

 確かに制限されているのに、いや、それゆえなのか、普通に唇を合わせるだけのキスなのに、とてもエッチな感じが伝わってくる。

 2人は介助されながらの不自由なキスについて、このように話している。

(羽富さん)

「緊縛されているってことだね」

(美雨さん)

「もどかしいのもいいんじゃないですか?

透明なリボンに縛られている感覚。不自由だからこそ甘美なこともあるのかなと思っているの」

 このVTRが終わる頃には、「バリバラ」ついにトレンド1位というツイートが寄せられる。

 またトレンド1位を獲得した後は、障害を持った人たちが一生にわかってつきまう場合もある「親の愛」のVTRが紹介される。

 VTRの中では36歳になった町田正さんには知的障害がある。彼の悩みは親との関係が悩みの種。母親が歯磨きから部屋の片付けまで注意される。親に内緒でエロ本を買っていたが、母親にバレてしまう。障害者の場合には結婚するときもも反対するなどいろいろと口出しをしてくる。

 そんな親たちに対して、スタジオの障害者たちの声は辛辣だ。

障害者の男性

「自分は自分で本当はやっていきたい、頼らずにやっていけるものなら、というのは前からあって、今でもそう思っています」

障害者の男性

「親の愛情はありがたいこともあるけど、僕のやりたいことと違うことがる。親にはどこかで諦めてほしい」

 司会の山本シュウも、ここは持論を述べたいとばかりに話し続ける。番組としてのメッセージだろう。

「あのね、昭和世代の僕ら、子どものために、子どものために、で指示待ち人間をずっとつくっていった。この間。これからの時代は自分で考えて自分で行動できるということとか、あと、一つ大きな勘違いしているのは、自分で自分で生んだ子は自分でなんとかしないと世間様に迷惑をかけちゃならんという・・・、それは意味を広げすぎ。だから事件あったよね。自分の息子を殺しちゃったとか。だから、みんなに支え合うというのと、迷惑をかけるという境目を僕ら昭和世代は、僕自身もそうやけど、考えていかなあかんなという時代来ているよね。ここから(この番組から)得た情報で何かを感じてほしい」

奇抜なショータイム

 司会者がメッセージをかなり長い時間、語り、ここで番組も終わりかと思ったら、突然、ここで「ショータイム」という声と音楽がかかり、性的少数者として2人の白人女性(エミリーとケイティ)がレオタード姿で登場して、エミリーが英語で自分の過去を一種の詩にしてカメラ目線でそらんじる。

” I Love Women 愛のめばえ”(エミリー・メイナード&ケイティ・ヒル)

「私は女が好き 女たちを笑わせるが好き  赤面させるのが好き 

そして何より、女たちをイカせるのが好き」

(中略)

「日本に来るまで 男としかつきあったことがなかった 5年間、結婚もしていた

最初は結婚生活もいい感じだった たくさんセックスした

(中略)

でもだんだん興奮しなくなって 当たり前になって

気がつけば・・・・わかるわよね?

夫に操られているみたいだった。

料理の注文は細かいし勝手な趣味の家具を買うし、

(中略)

本当につらかったとき 私を救ってくれたのは男じゃなくてあるオンナだった

(中略)

どんなオンナもイカせられるしね マジで

指や舌 ロープやおもちゃも使う

(中略)

彼女が絶頂に達するまで全力を尽くすの!」

 そこまで自分の詩を語った後で、スタジオの出演者たちの前にやってきて、こう言うのだ。

「あえいでみなさい!」

 これに合わせて、司会者たちが「オー、イエス!」とかスタジオの出演者たちが性的なあえぎ声を出す。

 身体はオンナ、心はオトコという、男性の和服を着た「もっこり芸人」万次郎による講談「珍宝記」が行われる。

「私は生まれたときは女性でしたが、現在は男性として生活しているトランスジェンダー。F To Mというやつでして・・・」と語り始めた万次郎は「10歳のとき」「のりこ」という名前だった北海道で「股間から生えるはずの財宝」を待ち続けたという。親の目を盗んで股間にコンソメを振りかけて「財宝」が生えてくるのを待ったという。思春期になるとホームセンターに行って材料を買って「財宝」をDIYでつくったという。そのうちいろいろな女性に告白するがうまく行かず、「財宝」が「チンチンが本物ではないからだ」というふうに考えるようになったという。当時の自分はチンチンのあるなしでしか物事を考えられなかったという。

 だが違ったのだと言う。そこだけに固執ぜす、傲慢にならず、相手と向き合い、正しくコミュニケーションを取れば、相手も自分も気持ちよくなることができる。親や友だちにだって紹介ができる。結婚だって、子どもを授かることだってできる。だから、たくさんの人たちに私は伝えたい。

「チンチンにあぐらをかくな!」

(笑)

 最後は日米合同の「ジェンダー体操」で締めくくられる。

 さきほどのエミリーが再び登場。ケイティも万次郎もレオタード姿で現れる。

 エミリーは「グレイト・ジョブ!」などとエアロビ体操の教師のノリで叫ぶ。

 音楽に合わせてステップを踏みながら「SEX.SEX.SEX.SEX」と叫び続ける。

 これもなかなか台詞が奥が深い。

「男性 女性 両方 その他もろもろ」

「アイデンティティーって何?  アイデンティティーって何? アイデンティティーって何? アイデンティティーって何?」

「それは自分自身をどう思っているかってこと」

「男 女 中間」

「クイア エイジェンダー トランスジェンダー」

「アンデンティティーは社会の風潮にも影響されるわね」

 最後の回にこの番組のサブのテーマである「表現」が顔を出すのだ。

 

「表現ってなあに? 表現ってなあに? 表現ってなあに? 表現ってなあに?」

「表現はこの世界に向けて あなたをどう見せるか」

「服とか髪型とか ふるまいとか 手をひらひらさせて!」

「男らしさ 女らしさ」どちらでもない 中間」

「セックス(性別)」「アイデンティティー」「エクスプレッション(表現)」

 

 最後はさきほどと同じようにスタジオの出演者たちの席の真正面に来て踊る。

「セックス(性別)」「アイデンティティー」「エクスプレッション(表現)」

「これがジェンダーダンス」

「Sex.(セックス=性別)」「Identity.(アイデンティティー)」「Expression.(表現)」

「これがジェンダーダンス」

 最後にエミリーはこう言葉を残す。

「Remenber.(忘れないで)」

「Gender is groovy combo of sex,identity,and expression.(ジェンダーってのは性別とアイデンティティーと表現を生かしたコンポ)」

「So if you stay open,and be flexible,,(だから 心を開き しなやかでさえいれば)」

「Everyone cam have fun !(誰でも幸せになれる!)」

 性とアイデンティティーと表現がキーワードだというメッセージが伝わった。

 最後に番組内でエミリー、ケイティ、万次郎が他の出演者たちと会話する時間が少し残されていた。講談として紹介された万次郎が股間にコンソメを振りかけて男性器が生えてくるもを待ったというエピソードは実際にやったことだという。

 最後に番組内ではLGBTの中でも「異性同性どちらにも恋愛感情を持たないアセクシュアルだという20代の「つきさん」からのメールが商会される。「性的交渉の欲求が持てないので子どもを保たずに生きるつもり」だという。「現在の日本社会は、少子化に歯止めをかけるために積極的に恋愛・出産をしてほしいと、育児支援や働く女性の支援が進んでいますが、この先、子どもを持たないつもりの自分がどんな目で見られるのか不安です」

 「生産性」という言葉で、人が人として自分らしく生きることを否定しがちな空気に対して、ちょっとそれは違うぞ、と言いたげなメールの読み上げだった。実際、出演者の中からも「生産性」は子どもを産むことだけではないはずだという指摘があった。

 司会者の山本シュウが締めくくった。

「こうあらねばならないと言った瞬間にそこからはみ出た人たちがどれだけ寂しさや苦しさや怒りを感じるか、もう生きててもしょうがないとないじゃない、それはよくないね」

驚きの”愛のかたち” 

 番組の最後に放映されたVTRもぶっ飛んだ内容だった。

 今は手術を経て女性としてスナックを営むマキママこと吉田義文さん。髪が長く女性の格好をしている。そのパートナーは「一応マスター」と呼ばれるみっちゃん。こちらはどうみてもごく普通のおじさんだ。みっちゃんがプロポーズを繰り返して2人は結婚式を挙げた。そんなマキさんの家を毎月必ず訪れる女性がいる。マキさんの本物の奥さんだという。マキさんが男性だったときに結婚した妻の孝子さんだ。マキさんの提案で、みっちゃんは2人の養子になったという。3人は親子として家族になったが、みっちゃんは孝子さんのことは自分の「本当のお袋」だと思い、マキさんのことは「かみさん」だと思っているという。

 孝子さんはそんな関係を「わからないわなあ、他人には」「(理解するのは)難しいよね。難しいと思う」と話す。

 孝子さんは髪の毛の量が若い頃から少なく、ウイッグをかぶっていたが、義文さんが結婚を申し込んだときに初めて打ち明けたという。「それは個性だからかまへん」と言ってくれたという。途中から女性になってしまっても、私を選んでくれた人だから他にはおらんと思うので別れるつもりはない。マキさんとみっちゃんが結婚式を挙げたときは「腹が立った」「二重婚だ」と思ったという。

 孝子さんとみっちゃん、マキさんの3人は絶妙なバランスをとって一緒に暮らしている。

 いろいろな愛の形があるということを最後に伝えた。

 こうして『2.4時間テレビ』は終了した。

なんともぶっ飛んだ番組だった

 見終わった感想としては唖然、呆然、でも挑発的でありながらも目が釘付けになってしまう衝撃的な番組だった。

 だが、人生の「愛」や「性」、そして「表現」の自由や不自由も、個々に生きる人間たちの人生をきちんと見つめていくことで、考えていくためのヒントが得られるのだと教えてくれる番組だった。

 おそらく民放ではできない。また同じNHKでも総合テレビであれば放送できなかっただろう。

 でも『24時間テレビ』に多くの国民が熱狂する中で、「いいもの」を見せてもらった。

 したたかで笑いに包んでこの番組を放送した制作陣には拍手を送りたい。

 タブーに挑戦し、愛と、性と、そして表現の「自由」について考えさせてくれた。

 また、来年もバージョンアップした姿を見せてほしい。