小川彩佳と有働由美子が“2強”キャスター時代へ 選挙報道と震災報道の対応力を見る

TBS『NEWS 23』で「党首討論」での小川彩佳(7月3日、テレビを筆者撮影)

 元々はテレビ朝日のアナウンサーで同局の『報道ステーション』でサブキャスターだった小川彩佳がフリーになってTBS『NEWS23』のメインキャスターになって1ヶ月あまりが経過した。彼女にとってはメインキャスターとして初めてとなる国政選挙である参議院議員選挙が始まっている。

 そこで小川を中心に、民放の夜ニュースの女性キャスターたちの「キャスターとしての能力」はどうだったのか。この1ヶ月あまりの報道で筆者が注目した点について、ふり返って「キャスターとしての成績評価」をしたいと思う。

 注目した点は(1)地震での緊急対応での「さばきぶり」(2)選挙報道での党首討論の「さばきぶり」である。

 報道番組のキャスターとしてはどちらもキャスターとしての「ちから」が試される大事なのである。(1)は「ニュース」のキャスターの力は緊急時にこそ測ることができる。一方、(2)「党首討論」では党首たちをどうさばくのか。どんな質問をぶつけるのかは、キャスターとしての「質問力」にも直結するもので、やや大げさに言うならば、その人の「ジャーナリスト」としての資質を露わにしてしまう。

【6月18日(火)】

 22時22分頃に新潟県や山形県などを中心に最大震度6強の大きな地震が発生、気象庁から緊急地震速報が出され、その後に津波注意報も発令されたためにテレビ各局は速報を字幕で入れた後にそれまで放送していた番組を中断して「緊急特番」を放送した。

●地震速報で前倒しスタートでも落ち着いた「さばきぶり」を見せたTBS『NEWS23』小川彩佳

 ドラマ『わたし、定時で帰ります。』の最終回を放送していたTBSは小川彩佳が画面に出てくるまでの「混乱ぶり」が目についた。TBSも緊急特番の対応を取りながらも報道のスタジオでは「編集長を呼べ!」など「迷走状態でのスタッフ同士の怒号」もそのまま放送された。また地方局の女性アナウンサーはほとんど寝起きでかけつけたのかという「素」の状態で画面に登場して不体裁が続いた。  

 しかし、22時44分過ぎに小川が「こんばんは。『NEWS23』です」と頭を下げて画面に登場するとTBSの画面は一気に「落ち着き」を取り戻した。『NEWS23』がいつもより少し早く、前倒しでスタートした。

 TBSの報道局には震災に詳しい福島隆史という解説委員がいる。大きな地震のたびに的確なコメントを発する高い専門性を発揮する記者だ。福島が「津波は繰り返し来るので海などに近づかないように」と繰りかえし、小川も落ち着いた声で現在の状況を伝え続けた。地方局からの中継はその後も混乱は続いていたが、小川の落ち着いた声が安心感と信頼感を与えた。

●定時スタートで「さすが有働さん」と言わせた日テレ『news.zero』有働由美子

 緊急特番は他のアナウンサーらに任せて、23時の定時に番組をスタートさせたのが日本テレビ『news.zero』の有働由美子だ。緊急特番の中継画面に有働の声が途中から「合流」するという流れだった。こうした時の有働の対応は「さすがベテラン!」というほかはない。落ち着いた声で必要な情報を的確に伝え続けた。有働が画面に出てきたのは23時30分頃で電話で地震の専門家にインタビューし、「日本海側で地震が発生すると(震源が)陸に近いのでほとんど発生と同時に津波が到達する」などという情報を聞き出していた。

 これに比べて、「お粗末」というか、番組としてのちぐはぐさを目立たせてしまったのが『報道ステーション』だ。

●地震報道でテレ朝『報ステ』徳永有美が口にしたのは「はい…」ばかり。「これではメインキャスターとは言えない」

 小川彩佳にとっては古巣といえるテレビ朝日『報道ステーション』は地震の対応でずっと話し続けていたのは富川悠太キャスターだった。「震災対応するのは俺だ!」と言わんばかりに徳永有美キャスターに口を開かせない。徳永が話したのは何度かの「はい…」だけだった。こういうときに垣間見えるキャスター同士のコミュニケーションの悪さ。富川も徳永と「張り合っている」感を満々と見せた。こうした大人げない姿勢は番組への信頼感を失わせてしまう。

 視聴者には、徳永有美が「メインキャスター」と番組ホームページに書かれてはいても実態を伴わない存在であることが伝わってしまった。こういうバラバラ感が透けて見えてしまえば、緊急時にテレビ朝日を見ようとは思わなくなってしまう。

【7月3日(水)・4日(木)】

 参議院選挙が公示されたのが7月4日(木)。選挙報道が本格化する中で各ニュース番組では「党首討論」が行われた。

 今回はそれぞれの番組で、回答するごとの党首の持ち時間は「30秒」や「40秒」などと制限された。

〇『報ステ』はここでも進行するのは富川悠太キャスター。徳永有美キャスターは記者が調べた情報を解説する役割

 『報道ステーション』は7月3日(水)に「党首討論」を実施した。生放送ではなく、その部分だけ当日夕方に収録されたという。

 各党首の回答に対して、徳永はフリップで前日に公表された厚労省の調査から「高齢者世帯の所得」が「公的年金・恩給だけ」が51.1%に上り、年金で暮らす人が多いことなどを示して、安倍首相に「年金はちゃんともらえるのか?」と質問した。

 ただ、この後でそれぞれの党首たちに質問していく役割は富川が担った。

 「(年金が)安心という意味では100年安心、『マクロ経済スライド』、持続性がある、ということですけれども、その言葉を使い始めたのは坂口力厚生労働大臣(公明党)だったですね?」(と公明党の山口那津男代表へ)などと話の流れに合わせて、仕切っていたのもすべて富川だった。与党側の2人、野党側の5人の党首、キャスターの富川、コメンテーターの後藤謙次、合計で9人の男性がいるなかでただ一人の女性である。徳永キャスターは存在感を発揮した、とはお世辞にも言うことはできない。徳永はトランプ大統領の日米安保をめぐる発言についてもフリップで示したが、こういう役割はサブキャスターで十分な役割である。事実、画面上では富川の”サポート役”という印象だった。これでは「メインキャスター」というのは看板倒れとしか言いようがない「党首討論」でのパフォーマンスだった。

 そもそも多様性の重要性が叫ばれて、「女性活躍」を前面に押し出す政権の「中間テスト」とも言える参議院議員選挙だ。その党首討論が黒っぽいスーツを着たおじさんばかりで唯一の女性である徳永は「はい…」という発言に徹している。この構図を『報道ステーション』の番組スタッフは変えるべきだとは思わないのだろうか。話が飛ぶが、財務次官による女性記者へのセクハラ問題での、テレ朝の対応のお粗末さはこういうところにも背景が透けて見える。

〇党首討論で安倍首相に絶妙なタイミングで質問を投げた小川彩佳

 『NEWS23』も7月3日(水)に「党首討論」を放送した。コメンテーターの星浩やTBSの政治部長を横に置きながらも、議論を回していたのは小川彩佳だった。討論に入る前に有権者に声を聞いたVTRが登場したが、ここでは男性も女性も中高年層も若者層も「多様性」を意識していることをうかがわせるものだった。

 また発言は「一回40秒」というルールにしたが、小川は安倍首相が年金問題について発言する中で時間を超えたときに「はい。40秒経ちました。40秒経ちました」と発言の終了を促し、それでも話し続ける首相に対して「後でお時間ありますので、ルールはお守りいただけたらと思います」と戒める場面もあった。

 議論は、安倍政権で経済指標は良い数字が出ているとする安倍首相の主張に対して、野党側が問題点を指摘する構図になった。安倍首相が「我々が政権を獲る前は今より100万人も失業者が多かった。最低賃金も上がっていて、新しい計算方法では過去最高になっている」などと実績をアピールしているときに小川が割って入った。

(小川)

「ただ、きのう厚生労働省から出た国民基礎調査で、『生活が苦しい』と感じている世帯が57.7%。これはどう受けとめればいいのでしょうか?」

 もちろん事前に番組スタッフと打ち合わせて作ったものだろう。だが、その質問のぶつけ方がうまかった。安倍首相が「いつもながらの持論」を主張して時間制限も守らない中で、条件反射的にぶつけたタイミングは絶妙だった。記事の冒頭の画像は、小川が質問した後に安倍首相が答えているときのものである。

 

 また小川は、自民党本部が候補者ら向けに配布した『フェイク情報が蝕むニッポン トンデモ野党とメディアの非常識』という“選挙冊子”で野党の党首たちをかなりデフォルメした似顔絵(立憲民主党の枝野代表はよだれを垂らし、共産党の志位委員長は犬として描かれている)で描いた点を質してもいる。

 小川ひとりの功績というわけではないが、『NEWS23』は、政権党のふるまいをチェックする、という、権力監視の姿勢を示そうとしたのである。

 

〇党首討論で抜群の「しきり」の巧さを見せた有働由美子

 公示日の7月4日(木)夜に放送された日本テレビ『news.zero』では、有働由美子が抜群の安定感を示した。

「中学生にもわかる!7党の政策くらべてみました」と、大きなボードに書かれた各党の政策を有働自身が解説しながら、その後で党首に質問していった。

 たとえば「年金」について、自民党の立場は「今の制度は大丈夫!」というものだ。

 その上で「未来の年金はこうします!」という点は「収入の少ないみなさんに年最大6万円(1ヶ月あたり5000円)上乗せします!」だと説明する。

 このボード形式の解説のやり方は言葉でのまとめ方も絶品といえる優れたものだった。とてもわかりやすい。

 有働はこうやって各党首たちに質問し、各党首のそれぞれの回答の時間を「30秒」と制限した。

 「未来の年金はこうします!」について言えば、「今の制度は不十分」だと言う国民民主党も「低所得のみなさんには月最低5000円を上乗せします!」という主張で、自民党と似ているのでどこが違うのかと有働は国民民主党の玉木雄一郎代表に質問した。玉木代表は違いを説明していたが、筆者の頭では正直違いを理解することはできなかった。

 「今の制度は変えるべき!」という共産党は「未来の年金」を「お金持ちからもっと保険料を頂き、みなさんを平等にします!」としている。この点について、有働の質問が鋭いものだった。

(有働)

「お金持ちはいくらぐらいの年収で、それ(負担)がどのぐらいになるのか。具体的に教えていただけますか?」

 これに対して共産党の志位和夫委員長は、以下のように答えた。

(志位)

「今の年金の保険料が年収1000万円がだいたいの上限になっていて、それ以上の年収は2000万円でも1億円でも保険料は変わらない。これをせめて健康保険なみの2000万円まで上限を引き上げる。そして給付は高額所得者には若干給付をセーブする(下げる)というアメリカでやっている仕組みを入れる。そうなるとだいたい1兆円くらいの保険料収入が出てきます。これも充てて、減らない年金にしていくというのが私たちの提案です」

 有働はこの回答が具体性に欠けると判断したのだろう。さらに質問を続けた。

(有働)

「具体的にはって、(数字が)出ていますか?

じゃあ、年収2000万円の人はどのぐらい増えるんだ?と…」

 志位委員長はこの質問に対しては、総額の数字を出して「その分を減らない年金に充てようということ」と述べたものの、有働が質問した「具体的」な形での回答は示さなかった。

 有働は、安倍首相の発言に対しても時間を超過すると「30秒以内でお願いします」と注意したほか、年金制度についての「健康診断結果」ともいえる「財政検証」が「5年に1度発表」とされながら、前回は2014年6月に発表されていることから、なぜ参院選挙の前に教えてくれないのか?安倍首相に質問をぶつけた。

 「数字が悪くなりそうだから隠しているわけではない」という安倍首相の発言を受けて、元財務官僚の玉木雄一郎・国民民主党代表に「7月の参院選前に出せないものですか?」と尋ねた。

 玉木は我が意を得たりとばかり「出せますよ」と言ってから安倍首相の姿勢を批判した。

 このあたりの会話の流れは、さすが有働由美子というべきもので、NHK「あさイチ」時代にも見せていたのと同様に、自然な形で会話の流れをつくる巧さは、政治報道での党首討論でも発揮された。

 有働のこうした巧さは、小川にとってはまだ及ばないものだろう。それは「あさイチ」という生放送番組のメイン司会を8年間も続けたベテランだからこそ可能なパフォーマンスだと言ってもいい。 

 こうして見ていくと、夜ニュースにおける女性キャスターたちの覇権争いでは、有働由美子がやはり一歩抜きん出ているものの小川彩佳も健闘して追いつこうとしていて、「2強」という様相を見せている。残念ながら徳永有美は脱落…というか見ている限り「ニュースキャスター」に関しては「器」ではないように思う。

 これからは参院選の開票特番もある。来年は東京五輪・パラリンピックもある。3月には東日本大震災の節目もやってくる。さらに今後は豪雨などの大きな災害がやってくるかもしれない。

 かつてテレビの夜ニュース番組では、久米宏と筑紫哲也という男性キャスターの2強時代が続いた時代があった。1980年代半ばから2000年代に続くテレビニュース番組の黄金期だった。『ニュースステーション』(テレビ朝日)の久米宏と『NEW23』(TBS)の筑紫哲也が活躍した時代。筑紫は「ジャーナリスト」であることを自他ともに認め、久米は「司会者」と自称する違いはあったものの、彼らが文字通りに時代を代表するニュースキャスターだったことに異を唱える人はいないだろう。

 有働と小川という女性キャスターたちはかつてのあの二人のようなライバル関係になるのだろうか。

 これからどんなキャスターぶりを見せてくれるのか、今後の報道が楽しみだ。