小川彩佳が『NEWS 23』で見せた“生インタビュー”のチカラ  

TBS『NEWS 23』で小川彩佳と山口一郎の対談(6月5日、テレビを筆者撮影)

 月曜から金曜で、平日の深夜のニュース番組での最初の1週間が終わった。

 『NEWS 23』のキャスターに就任した小川彩佳アナウンサーのことである。

 この1週間で彼女が務めたニュースキャスターとしての仕事の中には、時代の寵児といわれる人たちへのインタビューがあった。

 VTRのインタビューもあれば、生放送のインタビューもあった。

 筆者が驚いたのは、特に彼女が見せた”生放送のインタビュー力”の高さである。

 実はニュースキャスターという仕事をしている人の中にも「インタビューが苦手、特に生放送でのインタビューは」という人が

少なくない。

生放送で相手の返答に合わせながらどんどん質問を変えていきながら会話を盛り上げて聞きたいポイントを聞き出す。

 それができる人が望ましいが、これは百戦連覇のテレビ記者でもなかなか持てない能力だ。得意なジャンルもあるが苦手なジャンルもあるなど、人それぞれだ。  

初日(6月3日・月)の特集のゲストは、西田亮介東京工大准教授と劇作家の鴻上尚史

 スタジオに2人を呼んでの生放送のインタビューだった。

テーマは「分断の言葉」

 「狂人化した売国奴」「ネトウヨなるゴミクズ」。ネットで果てしなく拡散される憎悪の言葉の数々がテーマで自民党の杉田水脈議員が大阪大学の牟田和恵教授に対して、SNSで攻撃した事件などを例にしてどうすればいいのか、ネット上の言葉にくわしい識者2人に生放送でインタビューした。

 けっして簡単なテーマではない。

 小川は、「口にするのも憚られるこうした言葉です」と言ってネットに広がる分断の言葉を紹介し、それを克服しようと取り組んでいる「スマートニュース」の鈴木健会長に自分でインタビュー取材した取材経験をゲスト2人にぶつけていた。

 3日目でインタビューするサカナクションの山口一郎のように、音楽好きという小川にとっては心踊るテーマばかりではないのがニュース番組だ。むしろミュージシャンなどのヤワネタよりも、こうした今日的なテーマこそがキャスターの「ジャーナリスト」としての見識が問われてしまう。

 ネット社会化が進行する現代、報道する側が何を、どう伝えるべきなのかという問題に直結するテーマだったが小川は力むこともなくこなしていた。 

TBS『NEWS 23』で小川彩佳と西田亮介、鴻上尚史の対談(6月3日、テレビを筆者撮影)
TBS『NEWS 23』で小川彩佳と西田亮介、鴻上尚史の対談(6月3日、テレビを筆者撮影)

2日目(6月4日・火)の特集では、ソフトバンククループ会長の孫正義と脳科学者の茂木健一郎

 テーマは「AI時代の天才」で、孫正義が孫正義育英財団で進めている天才を育てる教育について特集していた。

 孫正義会長はVTRでのインタビューだったが、天才をなぜ育成する必要があるのかを聞いていた。

「1人のリーダー、1人の天才が人類の未来を劇的に変える」

 そんな信念の言葉を孫会長から引き出していた。

 AIが今後、本格化していったときに、その暴走を止める「人類の代表」が、現在、彼が育成しようとしている「天才たち」だという。

TBS『NEWS 23』で小川彩佳と孫正義会長の対談(6月4日、テレビを筆者撮影)
TBS『NEWS 23』で小川彩佳と孫正義会長の対談(6月4日、テレビを筆者撮影)

 

 さらに茂木健一郎をスタジオに招いて生放送でインタビューした。

 茂木とは「AIの暴走を止めるにはどうすればいいのか」という話を茂木に聞いていた。

 AI時代に人間がやるべきことは「前例のないこと」だと茂木は語る。

 小川が「前例のないこととは?」とすぐに尋ねる。

「スティーヴ・ジョブズがアイフォーンをつくったときに、『ボタンのない携帯電話』をつくったのがその『前例のないこと』」だというのが茂木の答えだった。

「じゃあ、人間に創造できないことはAIには創造できないということ?」など、小川がどんどん突っ込みを入れて、会話が深まっていった。

TBS『NEWS 23』で小川彩佳と茂木健一郎の対談(6月4日、テレビを筆者撮影)
TBS『NEWS 23』で小川彩佳と茂木健一郎の対談(6月4日、テレビを筆者撮影)

3日目(6月5日・水)は、サカナクションの山口一郎

 VTR取材だった。

(小川)

「今の世の中に向き合うときに、曲づくりで絶対的にはずさない哲学だったり、こだわりだったりはどういうところにありますか?」

(山口)

「自分が音楽をつくるときに絶対に守りたいのは、言葉の美しさとリズム。それとメロディー。

それは自分の中で、0を1にするときに常にハードルを高く持っているところですね。

0を1にするときのパーソナルな部分はずっと変わらない」

 山口が自分のこだわりを多くの人とつなげているために大切にしていることは?

 山口がたとえたのが、アメリカの企業が開発した四足歩行ロボットだったという。

(山口)

「蹴飛ばされて、倒れないように踏ん張って、踏ん張りながら、また元に戻って歩いていくという映像を見たときに、かわいそう、と、すごい、という感情が同時に起きたんです。かわいそう、と、すごい、が今まで同時に起きたことがあかったから、なんか新しい感情だなあって思ったんですね。新しい感情を発明するには混ざり合わない物を混ぜ合わせたときの”良い違和感”

違和感がないと僕は人に引っかからないと思うんですよ」 

 音楽好きだと自負する小川だけあって、山口のいう「感覚的な言葉」に反応を示して、共感しながらインタビューしていた。

TBS『NEWS 23』で小川彩佳と山口一郎の対談(6月5日、テレビを筆者撮影)
TBS『NEWS 23』で小川彩佳と山口一郎の対談(6月5日、テレビを筆者撮影)

4日目(6月6日・木)は、特集でのゲスト対談はなかった

 ゲストを呼んでの対談がなかったかわり、フィールドキャスターの村瀬健介が取材した飛行機の墜落事故の背景にあったコンピュータの暴走問題について特集。スタジオでは村瀬と対談する形であらゆるものにコンピュータ制御が行われる時代のリスクについて語り合った。

TBS『NEWS 23』で小川彩佳と村瀬健介の対談(6月6日、テレビを筆者撮影)
TBS『NEWS 23』で小川彩佳と村瀬健介の対談(6月6日、テレビを筆者撮影)

 小川は外国で起きた飛行機事故での「コンピュータの暴走」と、最近、横浜で起きた自動運転の新交通システムシーサイドラインの事故を結びつけて質問していた。

(小川)

「先日もシーサイドラインの事故がありました。あれを思い出してしまいますね」

 この番組全体が「AI時代」に対する問題意識を強く感じさせるが、小川は「コンピュータの暴走」はAI時代のリスクとして懸念も投げかけていた。

(小川)

「航空業界以外にも(航空機事故と同じように)こういう危険があると?」

5日目(6月7日・金)が、糸井重里だった。

 糸井は、コピーライターで日刊ほぼにち代表取締役社長。

特集のテーマは「生き方のヒント」を探るというもの。「愉しく生きるには?」をテーマに糸井に話を聞いた。

 その際に糸井が自分の会社で経営理念としてキーワードにしているという、「やさしく」→「つよく」→「おもしろく」→「やさしく」→という循環について、小川は次々に質問をぶつけていった。

(小川)

「『やさしく』が出発点?」

(糸井)

「そうですね。『やさしく』ないと、事を決めたら後で後悔しません? 前提は『やさしく』だよね、と決めました」

(小川)

「それから来るのが『つよく』・・・」

(糸井)

「今までの会社は『つよく』が先に来ていたと思うんです。『やさしさ』を実現するには強くないと。自分が誰かに頼っていても強くないんです。誰かを手助けするにも、つよくないと『俺、手伝うよ』と言われても『かえって邪魔なんだ』となっちゃうんで、『つよく』も磨く必要ある。後、前提はあくまでも『やさしく』ですね」

(小川)

「『おもしろく』がその後に来るわけですね?」

(糸井)

「『おもしろく』は、これは飯のタネですね」

(小川)

「飯のタネ?」

(糸井)

「つまり、『やさしく』『つよく』まではやればできる。

でも『おもしろく』やらないと、誰も注目してくれません。

『おもしろく』するから、真面目なことでも『あっ、俺も手伝うよ』とか、『おもしろく』が僕らのご飯を食べさせてくれる部分です」

(小川)

「これがクルクル循環するようなマークになっていますけど?」

「『おもしろい』と、やっぱりお客さんからの信用が得られますし、お金も入ってくる。

 その余裕がまた『やさしさ』を保証してくれる。

 食うに困って『やさしく』と言っても精一杯ですしねっていうサイクルを・・・」

TBS『NEWS 23』で小川彩佳と糸井重里の対談(6月7日、テレビを筆者撮影)
TBS『NEWS 23』で小川彩佳と糸井重里の対談(6月7日、テレビを筆者撮影)

 この会話の中で小川は思わず、自分の置かれた状況について弱みを見せている。

(小川)

「なかなか『やさしく』『つよく』って、いられるのは難しいなと。

私も月曜日にこの番組に加わって、口内炎も吹出物も新しくできて、つらい状況なんですよ。日々、余裕がなくて・・・。

なかなか『やさしく』『つよく』いられない状況って人間ありますよね。

そういうなかで『やさしく』『つよく』『おもしろく』って保っていけるんですか?」 

 小川のこの言葉は、愚痴にも聞こえるが、糸井が語るやや抽象的な「理念」は実際には多くの人にとっては難しいのでは?という批評性のある質問にもなっている。

 これに対する糸井の答えは抽象的なものだったが、小川の心には刺さったようだ。

TBS『NEWS 23』で小川彩佳と糸井重里の対談(6月7日、テレビを筆者撮影)
TBS『NEWS 23』で小川彩佳と糸井重里の対談(6月7日、テレビを筆者撮影)

(糸井)

「こうすればいいんだというのはわかんないだけれども、

『やさしく』ありたいと思っているかどうかじゃないのかと思う。

心の中ドス黒いことを考えていても、やはり『やさしく』ありたいという方向に人は行くと思う。

まず、『ありたい』かどうか・・・」

(小川)

「『ありたい』かどうか・・・」

(糸井)

「言っているとなるんだよ。たぶん」

TBS『NEWS 23』で小川彩佳と糸井重里の対談(6月7日、テレビを筆者撮影)
TBS『NEWS 23』で小川彩佳と糸井重里の対談(6月7日、テレビを筆者撮影)

 よほど心に響いたのか。小川が次のような言葉で締めくくった。

「少し癒される時間でした」

 番組のメインキャスターという役割をこなしながら、『やさしく』『つよく』『おもしろく』という糸井のいう人生を愉しむコンセプトも自分のものとしてグレードアップをはかろうとする小川彩佳。

 等身大の「人間」として、報道の仕事に向き合って、大化けする日が来るのかもしれない。

(敬称略)

TBS『NEWS 23』で小川彩佳と糸井重里の対談(6月7日、テレビを筆者撮影)
TBS『NEWS 23』で小川彩佳と糸井重里の対談(6月7日、テレビを筆者撮影)