小川彩佳『NEWS 23』最初の一週間で見せた“ジャーナリスト/キャスター”の予感   

TBS『NEWS 23』での小川彩佳キャスター(6月7日、自宅テレビを筆者撮影)

 最初の1週間が終わった小川彩佳キャスター。

 番組内でゲストとして糸井重里を迎えて思わず胸の内を吐露してしまった。

「私も月曜日にこの番組に加わって、口内炎も吹き出物も新しくできて、つらい状況なんですけど、余裕がなくて・・・」

 そう言いながら、等身大の「人間」としての弱さも“チラ見せ”しながら番組を進行させている小川彩佳の「ジャーナリスト」としてのスペックは「なかなかなレベル」と筆者は見ている。それがこの1週間の『NEWS 23』を見た印象である。

能力はNHKから日テレの『news.zero』に転身した有働由美子や『報道ステーション』の徳永有美の2人よりも上を行っているのではないか。

 もちろん、新しく番組が衣替えして最初の1週間というのは、どんな番組であっても全力を傾けるものだし、出演するキャスターらも全力投球するのが常だ。だから、今は『NEWS 23』に他の番組以上に勢いがあるのは、その点を割り引いて見る必要があるかもしれない。

 以下は筆者が毎日のようにニュース番組やドキュメンタリーを中心にした「報道番組」を見続けて研究対象にしている者としての批評である。つまり、小川彩佳という個人の能力というよりも、あくまで夜ニュース番組のキャスターとして画面に登場する彼女の力に注目して詳しく分析してみた所感である。

その1 ニュース原稿の読みが抜群にうまい!

 当たり前だと思われるかもしれないが、ニュースのキャスターはニュース原稿を「読む」ことが上手なことを求められる。かつて、1980年代90年代に「ニュース」を変えたと言われたテレビ朝日の『ニュースステーション』の久米宏、小宮悦子の2人も抜群にうまかった。

 この「うまい」というのは、単に読み方がスムーズである、ということだけを意味しない。久米宏は局アナの出身でもちろん読みは上手な人だったが、時にスタジオで見せる「表情」の中に、読む原稿の「行間」の意味を込めて伝えた。

 この1週間の小川彩佳のニュースの読みの場面を見ていると、「間」の取り方が絶妙にうまい。

 「間」をきちんと取ることはニュースを読むアナウンサーやキャスターにとって“生命線”ともいえるほど大事なものだ。

小川彩佳は、この「間」の使い方を本能的に備えているような感じを受ける。

 そうだとしたら、TBSが今回、小川をキャスターとして迎えたことはそうした小川の能力にも目をむけた「目利き」がいたことになる。

 実は『NEWS 23』に登場した小川彩佳を見て筆者が「気づいたこと」がある。「間」の取り方が以前よりもきっちりしていたことだ。『報道ステーション』時代の小川の読みに比べると、「1.1倍」まではいかないかもしれないが、「1.05倍」ほど、ゆったりした読みに聞こえてきたのだ。特に番組の冒頭のニュースの「リード」(ニュース番組の中で、VTRや中継などでニュースの中身に入る前にスタジオで概要を紹介する部分)の読みが以前よりも「気持ちゆったり」に聞こえたのだ。

 キャスターとして初回になった6月3日(月)のニュースで小川は以下のリード原稿を読み上げている。

「まず初めにお伝えするニュースは一昨日、東京・練馬区で起きた事件についてです。

農水省の元エリート官僚が同居する44歳の長男を殺害したとして逮捕されました。

逮捕された男は先週、川崎市で小学生たちが襲われた事件を念頭に、

長男が子どもに危害を加えるのを危険だと考えたと供述していることがわかりました。

長男はひきこもりがちだったということです」

(6月3日『NEWS 23』より)

 そこで小川の冒頭ニュースについて1分間あたりの読み原稿の字数を調査してみることにした。

 比べてみたのは、2015年2月2日の『報道ステーション』で女児の殺人事件のリードを読んだときの「読み」である。

テレビ朝日『報道ステーション』2015年2月2日放送での小川彩佳のリード(自宅テレビを筆者が撮影)
テレビ朝日『報道ステーション』2015年2月2日放送での小川彩佳のリード(自宅テレビを筆者が撮影)

1分あたり310字程度

 この1分間あたりの原稿量は、『報道ステーション』に出ていた頃とほとんど変わっていない。

 それにもかかわらず小川の読みが筆者に「ゆったりと」感じられるということは、小川が強調するなどでとるべき「間」はきちんと取っていて、それ以外の文章では比較的早めに読んでいるからだと推測できる。つまり、簡単にいえば、「間の取り方」がうまくなったのだろう。

 

強調すべきところを強調して読む読み方のうまさ

 この初回の『NEWS 23』では、小川は2つ目のニュース項目で以下のような原稿を読んでいる。

「さて、続いてはさきほど入ってきたばかりのニュースですが、

また高齢者の運転による事故が起きてしまいました。

運転していた80歳の男は、アクセルとブレーキを踏み間違えたと供述しているということです」

(6月3日『NEWS 23』より)

 こうニュースではキャスターは若干の「感情」を読みに載せて伝える。

 このときには小川は「また」に感情を載せた。「呆れ」「怒り」「悲しみ」などといった感情だ。

 ただニュースキャスターはあくまで「事実」を伝えるのが最大の役目なので、あまりに強く感情を載せると糾弾調になってしまう。下手なキャスターはそういうことをやってしまう。だがキャスターが感情的になりすぎると、伝えるニュースの信頼性が落ちてしまう。

 感情を伝えるにしても「ちょうどいいさじ加減」が求められるのだ。このときの、小川が発した「また」は、その意味で「ほどよい」感じだった。

その2 「合いの手力」が絶妙!

 

 ニュースキャスターとしての小川の能力が高いなと筆者が感じた2つ目の点は、「合いの手」のチカラである。筆者は独自に「合いの手力」と名付けているが、スタジオなどでのゲストらとの対話ではそうした能力が高いと感じた。

 ニュースキャスターは、現地からの中継リポートや専門家や取材した記者の解説などをスタジオで受けることが多い。もともとニュース番組はあまり時間的な余裕がないので、記者も専門家も自分に与えられた1分なり30秒なりに情報をギュウギュウに詰め込んで情報を伝えようとする。

 ともすれば、一方的で情報過多の放送になりがちだ。

 そうした記者の報告や解説の途中で、キャスターには「見ている視聴者の代表」として、どこまで、一方的な報道にならないようにするか、双方向の感じを入れて視聴者が(擬似的にであっても)参加しているかのように視聴するように持っていくのかが腕の見せ所である。

 かつて、久米宏は『ニュースステーション』をやっていた頃は、現地から生中継する記者に向かって「今の解説、聞いていてもよくわからなかったんですけど、もう一度わかりやすく伝えてもらえますか?」などと質問していた。相手の記者はたまらなかっただろう。これはニュース番組のために取材して放送している他のスタッフを放送で批判することになるので、久米ほどの大物だからできた芸当だといえる。 

 

 だが、小川は先述した6月3日の放送で、農水省元事務次官による長男殺害事件で容疑者が川崎市での子ども襲撃事件を念頭に置いていたというVTRを受けて以下の反応を見せた。

VTR(元次官による長男殺害事件) 

小川

「ん~・・・。川崎市の事件が念頭にあってこうした犯行につながってしまった? 村瀬さんどうなんですか?」

(6月3日『NEWS 23』より)

 小川の「ん~・・・」は、VTRを見て考えさせられたという、「視聴者を代表した反応」を示している。

 このあたりの反応が自然な感じでとてもいい。

 テレビ番組は、どこか「わざとらしい」とか「一方的な解説」とか「偉そう」とかいうものがあると、見ている側は「違和感」や「不自然さ」を感じてしまう。

 「自然な形で進行が流れていく」というのは、一見簡単にできるようで実は難しいことなのだ。それを小川が生放送でやってのけることには、『報道ステーション』で鍛えられてきた蓄積が感じられた。

 この後で、フィールドキャスターの村瀬健介が、引きこもりが長期化している「8050問題」について解説する。

TBS『NEWS 23』での小川彩佳キャスターと村瀬健介取材キャスター(6月3日、自宅テレビを筆者撮影)
TBS『NEWS 23』での小川彩佳キャスターと村瀬健介取材キャスター(6月3日、自宅テレビを筆者撮影)

小川の「合いの手」のコメントの入れ方がまた自然だ。

(村瀬)

「こちら8050問題、耳にされたことは多いかと思いますが・・・」

(小川)

「はい・・・」

 川崎の20人殺傷事件でも、今回の元次官による長男殺害事件でも背景として登場した「8050問題」。それを解説しようとする取材キャスターが話しやすいようにと「合いの手」を自然に繰り出す。これも「自然な形で」できるよう会話的に進めることは実際にはなかなか難しい。

 村瀬の解説は、長期的な引きこもりの人間が家族にいると、高齢者世代は周囲にそれを明らかにして支援を求めることをしたがらない傾向があり、特に80代くらいの「団塊の世代」の人間には「恥ずかしい」という思いが強くて、孤立しがちだという流れで締めくくられた。

 このニュースの最後で小川が発したコメントは、彼女なりに考えたものだろう。

(小川)

「恥ずかしいという思いから孤立していってしまう。

また引きこもりといっても、一色ではない。一括りにできない。

さらに川崎市の事件が念頭にあって、こうした事件に発展してしまったことを考えると、

何か悲しい事件があったときは、私たちはどういうことを発信して、どういう訴えをしていけばいいのか。どういう取材をしていけばいいのかということを改めて考えさせられますね」

 答えは簡単ではない。でも、きちんと背景にある問題も含めて伝えていくぞという小川のキャスターとしての信念が伝わってきた。それは一人のジャーナリストとしての決意表明にも聞こえてきた。

 残念ながら『news.zero』の有働由美子や『報道ステーション』の徳永有美からこうした「ジャーナリストとしての決意」が聞こえてくることはほとんどない。小川が長く『報ステ』でニュース報道にかかわってきたことだけでなく、彼女自身の「報道への思い」の強さがあるのかもしれない。

 

その3 番組全体が「小川彩佳」が中心!

 こうした小川の姿勢に対して、今のところ、TBSの番組スタッフや他の出演者も「小川を盛り立てよう」としているように見える。

 筆者は実はTBSの人たちのプライドが小川の足を引っ張るのではないかと心配していた。TBSの報道局は今でも「報道のTBS」を自負する誇り高い集団だ。その人たちから見れば、小川はしょせん「外様」だし、「テレビ朝日ごときの出身者にTBSの看板番組のキャスターが務まるか?」という思いを心の底に抱える人も少なくないだろう。

だが、始まって1週間の放送を見る限りでは『23』ではすべての中心は小川で、小川こそが番組の方向性を決めていくのだという「番組のかたち」が見える。

 これは小川自身が志向する「ジャーナリスト」としての自分を実現させるパワーになっている。

 前の時代の『NEWS 23』から出演している星浩も、でしゃばらずに小川中心の番組進行を静かに見守っている。でも、そこがいい。星浩はしゃべりすぎない方がいい。

 一方で、『news.zero』は有働がメインキャスターなのに、周りを記者やアナらが取り囲んで「司会者」でしかないということは、番組の冒頭部分を見れば一目瞭然だ。有働は司会者として番組を回している印象があるが「ジャーナリスト」といえる才能や見識はあまりなかったのだろう。

『報ステ』などは徳永有美、富川悠太、コメンテーターの後藤謙次など、どこが中心なのかはさっぱりわからない。中心がないように見える。

 今回、『23』について放送の内容まで言及できなかったが、特集でも「ネットによる社会の分断」など意欲的で今日的なテーマに挑戦し、それぞれに小川がからんでいる。このままの放送が続いていけば、夜ニュースをめぐる各局のせめぎあいは『NEWS 23』が次第に存在感を増していくのではないのか。

そのときにジャーナリストとしてのキャスター小川彩佳が微笑むのであろう。

6月7日の『NEWS 23』の小川彩佳(自宅テレビを筆者撮影)
6月7日の『NEWS 23』の小川彩佳(自宅テレビを筆者撮影)