新聞取材に「アセクシュアル」「Xジェンダー」と回答した当事者 若者たちも見抜いていた

読売テレビ『ten.』で性別検査で相手の胸を触る場面(筆者が番組撮影) 

 読売テレビの夕方の報道番組『かんさい情報ネット ten.』が芸人レポーターによる大阪・十三地区での居酒屋の取材で「性別がわからない常連客がいる」という通報を受けて、当人に「下の名前は?」と尋ねたり、保険証を見せてもらったり、さらには胸を触らせてもらうなどして、当人が「男です」というまで「性別の確認」を行っていた問題は、番組の中でコメンテーターの若一光司氏が厳しく批判したことで社会問題になった。この問題で朝日新聞が5月31日、独自の取材を重ねた上で続報を伝えた。

 番組に登場した「常連客」に改めて取材し、「性」についての「指向」「自認」についての検証結果を報道した。

  

その結果は「アセクシュアル」で、「『Xジェンダー』に近い」という。

つまり、当の本人は「性的マイノリティ」の一人だと自覚していたのだ。

自身の性別については、「男性だけど、男の部分はいらない」という感覚だと話す。5年ほど前 にインターネットで性を表す様々な言葉を知り、自問自答してきた。恋愛感情や性欲のない「アセクシュアル」で、いずれかの性別には当てはまらない「X(エックス) ジェンダー 」に近いと考えているという。だが、ロケでは「言葉を知らない人も多いし、説明がややこしい」と思い「(彼女は)い ない」「男ですよ」と答えた。

出典:朝日新聞デジタル 2019年5月31日「性別確認の出演者、今は後悔『同じことされ嫌な人いる』」

 朝日新聞の報道では、当の本人は「アセクシュアル」だと自覚しているのだとわかる。

 

「アセクシュアル」とは何か?

BuzzFeed JAPAN は「アセクシュアル」の当事者インタビューを掲載している。

 

相手に対して性的欲求を持つことはない

出典:BuzzFeeD 2019年4月28日「性的欲求を持たない」アセクシュアルに話を聞いてみた

ということだという。

「アセクショナル」というのは「性指向」(自分がどの性に対して性的な欲求を持つのか)にかかわる、性的マイノリティーの概念だ。

では「Xジェンダー」とは何か?

Xジェンダーは、生まれ持った性別に関わらず、男でもないし女でもないという性自認を持つ人々です。

出典:NOISE 2018.4.5 「ジェンダーとは? 4つのタイプの特徴と診断方法 」

「Xジェンダー」は性自認(自分はどの性だと自覚しているのか)にかかわる性的マイノリティーの概念である。

 筆者は職業柄、ふだんから20歳前後の若者たちとかかわることが少なくないが、1週間ほど前にそうした若者たちに今回の読売テレビの番組を見てもらい、感想を寄せてもらった。

 一部紹介すると、若者たちの多くは放送がLGBTQなどの性的マイノリティーへのリスペクトを欠いた内容だったとして問題視していた。

【VTRをみた感想】

関西向けの報道番組であることを踏まえると、芸人を出演させていることから「笑い」を取り入れたコーナーなのは理解できるが、度が過ぎていると感じた。「地域の人の悩みを解決する」という内容は素晴らしいが、本来は依頼人のお店の女性が直接確認すべき内容であり、生放送ではなくロケであるため、番組側は丁重に断ることやカットして放送しないという判断もできただろう。つまり、番組のエンターテイメント性を優先させ盛り上げようと視聴率を気にしているのではないだろうか。

若一氏が仰ったように、人権を侵害した報道の仕方である。さらに、これは立派な性差別である。「オナベかもしれない」などと明らかに差別的な言い方をしていたため、報道するに値せず、番組制作側が放送を許可したことを踏まえると、LGBTQの人々へのリスペクトが欠如している。

VTRの途中で藤原氏が笑っていたこと、それをワイプで放送していることから人権の侵害など端から捉えていないことが伺える。また、若一氏の「許しがたい人権感覚の欠如ですね」というコメントの途中に、微かに笑い声が入っていたことにも同じことが言える。

 次の文章を書いた若者は、「性別調査」をされた人物がLGBTQなど性的マイノリティーである可能性について言及している。

 番組の様子から当人がかなり嫌がって答えていたことを映像から見抜いていた。

 朝日新聞の記事と合わせて読んでみると、放送する側がそうした可能性や本人の感情への配慮をほとんどしていなかったことを放送から把握しているのだ。

関西情報ネットten、見ました。関西で毎日見ていた番組だったのでかなりショックです。本当に不快な気持ちになりました。

十三は下町なので、百歩譲って町の人が下品で理解がないのは仕方ないと思います。そういう人もいると思うので。でも、それをテレビで放送するのは違うと思います。

男性なのか女性なのか普通に聞けばいいものを「苗字は?下の名前は?」と、触れちゃいけないものみたいに聞いてるのがまず不快でした。そういう風にコソコソ聞くのは嫌らしい感じがします。酒屋のおばさん?に報告するときも内緒話をするみたいで、嫌な気持ちになりました。

性別がどちらなのか聞くにしても普通に聞いて、もしその人がLGBTであっても普通に受け入れていれば問題なかったと思います。ああいう風な聴き方をされたからこそ、彼女(彼?)も男ですと言わざるを得なかったのだと思います。

最後に「おっさん!」と呼びかけたのも、見るに耐えませんでした。テレビに出ているオネエキャラの中には、そういう風にいじられることを許している人もいますが、それはテレビの中だけです。それを一般化するのはどうなんでしょう?

若一さんがコメントしてくれたのが救いでした。本当に同感です。こういう風に、コメンテーターとして呼ばれても、番組に媚びないひとは貴重だと思います。他の人は彼がどんなに問題であるかを話しても沈黙するだけだったり苦笑いするだけだったり。「ほんの冗談じゃないですか~」みたいな雰囲気が漂ってました。人を傷つけても、「冗談」で済ませようとするところにマジョリティの押し付けを感じてそこもいやでした。いじめっこみたいです。ほんとに。

 NHKドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る。』での性的マイノリティーの当事者たちが抱える悩みの切実さについて、筆者は記事を書いた時に番組のホームページの掲示板に「アセクシュアル」の人たちからの共感の声が寄せられていることも付記した。

「ドラマが『性的マイノリティ』について教えてくれること」

出典:「ドラマがヤフーニュース個人(水島宏明)『性的マイノリティ』について教えてくれること」

 アセシュナルという言葉の当人たちはデリケートな思いでテレビを見ていた。

 ドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る。』では丁寧な描き方をうけて主人公に共感しながら視聴していたことがわかる。

 他方、『ten.』では偏見に満ちた描き方だとして、批判する声が多い。

 この社会には様々な性指向や性自認をもつ性的マイノリティーが存在することは、テレビ局で働く大人たちより、若者たちの方が日常的な問題として感じている。

 そうした若者たちは読売テレビ『ten.』の放送は、性的マイノリティーの存在を嗅ぎ取り、問題をはらんだ放送だということに早くに気がついていた。

 今回、朝日新聞が当人を改めて取材したことで当人が実は「性的マイノリティー」であったことが判明した。

 なぜ読売テレビの関係者はそうした可能性への想像力が働かせることができなかったのか。

 そのことを関係者は噛み締めてほしい。