読売テレビ『ten.』の「不適切取材」 なぜ報道番組が間違えたのか

読売テレビ「かんさい情報ネットten.」で休止された「迷ってナンボ!」のロゴ

読売テレビの報道番組『かんさい情報ネットten.』で起きた「不適切な取材・放送」で責任があるのはテレビ局だ

 5月10日にこの番組で起きた不祥事で、番組のレポーターをやっていた芸人の藤崎マーケットへの批判まで出ているが、お門違いという他はない。こうした場合に全面的に責任があるのは放送したテレビ局にある。レポーターはあくまでテレビ局の指示の下で取材し、テレビ局のディレクターが取材には立ち会っている。放送する際にも局の側が編集してプロデューサーなど責任者がチェックした上で放送されているからだ。

 では、当のテレビ局はなぜ間違えてしまったのだろうか。

 『ten.』ではコメンテーターの若一光司(わかいち・こうじ)氏が放送中にスタジオで「放送していいのか?」「報道番組なのに」と声を上げた。若一氏が思わず口にした「報道番組」という問題が実はこの背景に横たわっている。「報道番組」というのは報道局が責任をもって放送している番組で「ニュース」がベースになっている。つまり局内での位置付けは基本的には「ニュース番組」なのだ。

読売テレビ『かんさい情報ネットten.』の番組HP
読売テレビ『かんさい情報ネットten.』の番組HP

 若一氏は今回の問題には「本質的問題」があるとまで指摘している。

単なる注意不足ということでは簡単に済ませられない、もっともっと本質的な問題がそこに潜んでいると思います。

出典:朝日新聞デジタル 5月16日 「これを見て震えている人がいる」 だから私は声上げた

 

 「テレビ報道」を専門としている筆者にもいろいろな報道機関からの問い合わせが来て返答していたが、この問題には筆者自身もかかわっていた、ある背景が存在することに気がついたのでテレビニュースの歴史を踏まえるためにもここで指摘しておきたい。

 それはテレビのニュース番組に全国的に生じた「情報ワイド化の波」である。

 現在、東京も大阪も名古屋も北海道も九州も、夕方の「ニュース番組」は単なるニュースだけ放送している局は数えるほどだ。ほとんどの局では芸能ネタや地域の流行や話題などのトピックスを含んだ「夕方情報ワイド番組」という形式を取っているのだ。簡単に言えば、本質的には「ニュース番組」なのに、ニュースだけでなく他のコーナーを合わせた形で「ごった煮」状態の番組として放送するようになったことが今回の問題の背景にある。

 

●ニュース番組の「情報番組化」が始まったのは1991年

 夕方のローカルニュースが全国的に大きく変革したきっかけとなったのは1991年のSTV『どさんこワイド』がきっかけとなった。

夕方情報ワイド番組の草分けSTV『どさんこワイド』HP
夕方情報ワイド番組の草分けSTV『どさんこワイド』HP

 STV(札幌テレビ)は日本テレビ系列で北海道をエリアとする地方局である。1991年秋、STVは夕方18時半から19時までの30分番組だったそれまでのローカルニュースを改編して、17時から19時までの2時間ワイド番組とし、その中に東京の日本テレビから送られてくる全国ニュースもすっぽり包み込む形に変えた『どさんこワイド120』という番組にリニューアルした。

 その際に、「生放送」「双方向」をコンセプトにして、札幌駅前からの視聴者が参加する生中継コーナーや地元の料理研究家がスタジオで主婦向けに夕食の一品の作り方を生放送で解説する「今日の一品料理」などのコーナーが視聴者から支持された。STVはラジオの兼営局でもあり、アナウンサーはフリートークに慣れている人が多く、番組も「アドリブ」で進行したことも、それまでのお堅いニュース番組のイメージを一掃して「親しみやすさ」を獲得する要因になった。

 またたく間に夕方の視聴率では連日20%を超える「お化け番組」に成長した。

●「夕方情報ワイド」は視聴率が稼げる!?

 その後に15時50分からの3時間10分の夕方ワイド番組として定着したが、この『どさんこワイド』の成功はテレビ関係者の間で大きな話題となって、日テレ系列だけでなく、民放の他系列、NHKからも番組見学の希望が殺到するほどになった。結果として、夕方のニュース番組は全国で『どさんこワイド』のように”情報ワイド化”が進んでいった。民放だけではない。NHKも各地で夕方情報ワイド化を進めていった。

 筆者は『どさんこワイド』の番組開始の時には海外支局の特派員をしていたので番組の立ち上げには関与していないが放送開始の半年後からニュース部分の特集担当デスクなどとしてかかわった。筆者の記憶によると、広島テレビ(HTV)『テレビ宣言』や福岡放送(FBS)の『めんたいワイド』など、『どさんこワイド』と同じように早めにローカルニュースを夕方情報番組にリニューアルして、視聴率的に成功していく局が相次いだはずだ。民放キー局も夕方ニュースをワイド化していき、現在のように2時間から3時間の「ニュース番組」が定着するようになる。当然ながら、放送されるのは本来の「ニュース」ばかりでは番組は埋まらない。「行列ができる人気ラーメン店」も「大型連休中のオススメ穴場スポット」などの話題も放送されるようになる。これが現在の夕方ニュースの姿だといっていいだろう。

●「ミソもクソも一緒じゃないか!」という現場からの抗議

 「夕方情報ワイド」には長所と短所がある。

 長所は、視聴者から見られているということで制作現場のモチベーションが上がる。また、視聴率が高いと視聴者からいろいろな「独自情報」が寄せられるようになる。筆者も様々な「スクープ」につながるような「タレコミ(視聴者から提供された)情報」をえることができた。

 とはいえ「情報ワイド」になるといろいろなことが曖昧になってしまう。

 たとえば、報道局が責任をもつ「ニュース」が中心の番組なのに、それ以外の要素も出てくる。

 たとえば、駅前からの視聴者が参加する生中継のコーナー。ここでは視聴者が様々な告知(高校生が自分の高校の文化祭の告知をする、など)をするものだったが、ここに「営業持ち込み」の「告知」=つまり、局のスポンサーから依頼されて営業局経由で回ってくる、事実上のコマーシャル情報も紛れ込むようになった。

 

 このため、報道の側の現場責任者だった筆者が「ミソもクソも一緒にするな!」などと番組プロデューサーと口論したのは一度や二度ではない。「本質は報道番組である」ということを現場の人間たちが強く認識していないと、視聴率稼ぎで「面白おかしさ」を追求したり、「お金稼ぎ」で不自然な商品PRをしかねず、本来の趣旨を忘れてしまいかねない「危うさ」を当時から感じていた。

 だからこそ、番組の最終チェックや番組の進行には「報道記者」などの「目利き」がきちんと目を光らせることが大事なのだ。

●放送中に進行は止められない!

 問題となった読売テレビの『かんさい情報ネットten.』の「迷ってナンボ!」のコーナーの放送を改めて見てみると、「大阪の十三地域」についての地域情報という体裁を取っていることがわかる。放送時にはスタジオに報道記者である解説デスクも存在した。しかし放送を見てみると、コメンテーターである若一氏がVTRの問題をスタジオで抗議するように指摘すると、他の出演者も解説デスクも顔色を変えながらも「次のコーナー(お天気)への進行」をスムーズにさせようと意識していたことがわかる。限られた時間の放送の中で、若一氏の「予想外の発言」を受けておそらく放送の残り時間がキツキツだったのだろうと想像される。

 時間枠にもっと余裕があれば、解説デスクが「この内容は確かに問題がある。これは重要なテーマなので後日、改めて放送したい」などと釈明することもできたのかもしれない。結果的には何事もなかったかのように「いつも通りに」進行されていた。

●テレビの歴史の流れをきちんと見た議論を

 読売テレビのこの不祥事について、考えるべき問題を筆者はヤフーニュース個人で提起してきた。

 昨今、夕方の報道番組とりわけニュース番組を見ていると、限りなく両者の境界が不明確になっている。どちらも北朝鮮のミサイル問題、改元、事件事故、芸能ニュース、生活ネタなどが渾然とした作り方になっている。これは全国放送とローカル放送を問わず、全国各地で生じている問題である、

出典:ヤフーニュース個人(水島宏明)5月13日 「読売テレビ『ten.』の”不適切取材” TBS『ビビット』の悪のりホームレス取材との類似点と相違点」

 

 この問題は本記事で指摘したように、テレビのニュース番組の歴史と結びついている。

 情報番組とニュース番組との区別がつかなくなっていくなかで、ともすれば、「テレビ報道」と(あるいはどんなジャンルであっても、ジャーナリズムという要素からは逃れることができない「テレビ番組全体」と)つながっている問題でもある。

 

テレビ各局にとって、今回の読売テレビのような「不適切な問題」はいつ自分の身にふりかかってもおかしくない問題である。

出典:ヤフーニュース個人(水島宏明)5月14日「なぜテレビは他社の「不適切な取材・放送」を報じないのか 読売テレビの件で考える」

 情報ワイド化で視聴率重視の戦略を取らざるを得ない各放送局が軽視してしまいがちなデリケートな問題について、報道機関として丁寧に扱う習慣をつけること。それがないと読売テレビ以外でも同様の問題が起きるのは時間の問題だと思う。