読売テレビ『ten.』の”不適切取材” TBS『ビビット』の悪のりホームレス取材との類似点と相違点

TBS「ビビット」で問題になった放送(2017年)。後日、TBS は謝罪した

 読売テレビが関西ローカルの報道番組『かんさい情報ネット ten.』で性的なプライバシーについて”人権侵害”といえる取材を行って放送していたことには 驚いた。

読売テレビ(大阪市)は10日、夕方の報道番組内のロケ企画で「男性か女性かどっち?」と一般客に確認するシーンを放送した。生放送中に、番組コメンテーターで作家の若一光司(わかいちこうじ)さんが「許し難い人権感覚の欠如」と指摘。同局総合広報部は「プライバシー情報に関する不適切な取材だった。視聴者並びに関係者の皆さまに深くおわびします。事態を重く受け止め、再発防止に向けて取り組む」と説明している。

出典:ヤフーニュース朝日新聞デジタル:出演者が苦言「よう平気で放送できるね」 TV企画物議

 問題の場面は「報道番組」の中で放送されたという。なぜ「報道番組」でそんなことが起きてしまうのだろうか。

 LGBTなど性的なマイノリティをはじめとした”人権”の問題に人一倍敏感で、そうしたデリケートなテーマを日頃から扱っているはずの報道番組。通常は制作するスタッフも報道の記者経験者が多い。だとしたらこうした問題は起きないはずではないか。2つの番組のケースを振り返って考えてみた。

TBS『ビビット』ホームレス報道との類似点

 

 テレビの報道番組や情報番組の「不適切な問題」をウォッチしている筆者は、2017年に社会問題になったTBSの情報番組『白熱ライブ ビビット』での多摩川ホームレスの不適切放送との類似点が気になった。

 そこには、現在のテレビの報道番組や情報番組の制作現場が抱える問題点が浮かび上がる。

 ではTBS『ビビット』の問題とは何だったのか。

 

 この問題は最初に問題提起を行ったのが筆者で、ヤフーニュース個人を舞台にして動いていった事件だったので、その間の経緯は「ヤフーニュース個人」でたどることができる。

1月31日、TBS「白熱ライブ・ビビット」を見て絶句した。

あるホームレスの男性のことを一方的に「悪質」「違法者」と断罪していた。

タイトル画像のイラストはその時のものだが、河川敷で犬を多頭飼いして、

「犬男爵」と呼ばれるホームレス男性が

「人の皮をかぶった化け物」ホームレスだという説明で登場する。

出典:ヤフーニュース個人(水島宏明)『MXと似てる?TBS「ビビット」もヘイト放送!』(2017年2月2日)

 犯罪を犯して逮捕されたわけでもない人物に「犬男爵」とか「人の皮をかぶった化け物」という放送を行っただけで”アウト”といえるケースでホームレス支援団体の関係者らも問題視して発言していたのに、TBSは問題を軽視していた印象で、重大問題だとして動き出したのは1ヶ月近くして、番組取材で「やらせ」があったのではないかと筆者が指摘してからだった。

 

Sさんに聞いたところ

「この場面はTBSに頼まれた」

「カメラマンが向こうで待ち構えているところに『怒鳴って来てくれ』と頼まれて、言われた通りに演技した」と言います。

 「ビビット」で放映された場面を見ると、レポーターを始めとしてTBSのスタッフがSさんが不在の時に犬のケージなど、Sさんの住居周辺を勝手に撮影しているとSさんが戻ってきて、怒鳴って注意する、という流れになっています。

 しかし、これはSさんの説明では「やらせ」の場面だったということになります。

出典:ヤフーニュース個人(水島宏明)2017年2月27日『「TBS『ビビット』にヤラセを頼まれた」とホームレス男性が証言』

 結果的にTBSが謝罪放送をしたのは「やらせ」指摘から数日後のことだった。

この放送について、ホームレスの方々に対する差別や偏見を招くものであったという厳しいご指摘をいただきました。

放送内容と制作過程を改めて検証し、取材した男性を傷つける表現や不適切な点があったと考えます。

番組のホームページにも詳しく記載しています。

このような放送をしたことについて、視聴者の方々、関係者の方々、何より、取材を受けていただいた方々にお詫び申し上げます。

いただいたご指摘をしっかりと受け止めて、こうしたことが再び起きないように努めてまいります。

出典:ヤフーニュース個人(水島宏明)2017年3月3日『TBS「ビビット」がホームレス報道で謝罪放送』

 

 一連の経緯を見てみると、この問題は現在のテレビ報道や情報番組制作の「現場」が抱えている様々な問題につながっている。TBSと読売テレビには共通点と相違点があるので以下、指摘しておきたい。

【共通点】

●その1 報道番組と情報番組の区別がなくなっている

 昨今、夕方の報道番組とりわけニュース番組を見ていると、限りなく両者の境界が不明確になっている。どちらも北朝鮮のミサイル問題、改元、事件事故、芸能ニュース、生活ネタなどが混在とした作り方になっている。これは全国放送とローカル放送を問わず、全国各地で生じている問題である、

●その2 厳しい視聴率競争

 それゆえに報道すべきものを伝える、という報道の使命よりも、「視聴率」に意識が向きがち。このことは取材して映像をまとめる番組スタッフだけでなく、番組を統括するデスクやプロデューサーも同じ傾向がある。

●その3 忙しすぎるスタッフ

 細かい「見せ方」ばかりが評価の対象になりがちなため、一本のVTRを念入りに面白く作るための「作り込み」に時間とエネルギーを割く傾向がますます強まっている。

●その4 番組内での「優秀なスタッフ」が担当

 TBSの『ビビット』で担当したディレクターは番組関係者や上司によると「優秀なスタッフ」だという評価だった。同じようなテーマで他の人よりも熱心に「突っ込んだ取材」をしてきてわかりやすいVTRを作るという。「多摩川河川敷のホームレス問題」を一手に担当していたという。河川敷に住むホームレスの人たちを「多摩川リバーサイドヒルズ族」などと揶揄して悪ノリしていた。それゆえにそのコーナーをそのディレクターに「おまかせ状態」にしてしまっていてチェックが効かなかったという。

 読売テレビの『ten.』はどうなっていたのかわからないが、伝えられる「悪ノリ」ぶりから想像する限り、そうした悪ノリが番組内で評価されていたのではないかと想像できる。

●その5 細切れされたチェック体制

 直前までスタッフが編集室にこもって作業するなど、作業が非常に細切れになってしまっているため、上司であるデスクやプロデューサーも事前にチェックすることが困難になっている。放送を見て初めて、こういう内容だったのかとトップが理解するような現状がある。

●その6 番組として「やってはいけないこと」と「やるべきこと」への意識が希薄になる

 一つひとつのテーマを「ネタ」として扱う意識になってしまう。その結果として、やってはいけないこと、放送人としてやるべきことなど、放送人としての使命感や役割意識が希薄になる。

●その7 ”社会問題”がどんどんデリケート化。勉強してないと最新の感覚がわからない

 今回の読売テレビの問題は日頃のLGBTをめぐる「マウンティング」やそれに伴う自殺事件などに目配りしていれば防げる問題。だが、そうしたデリケートな社会問題がこのところ増加する傾向があるため、関係者の意識がそちらに向いていない可能性がある。

【相違点】

 TBSと読売テレビとの間には相違点もある。

〇その1 健全な感覚を示した出演者

 TBS『ビビット』の場合には司会していたキャスターも含めて、仮に違和感をもったとしても放送中に特にコメントすることなく、スルーした。しかし読売テレビ『ten,』ではコメンテーターの一人が問題視して番組中に「報道番組がこんなことやっていいのか?」などと発言した。

 このことは、コメンテーターに本来求められる役割を果たしたケースだと言える。

 番組側も、番組の流れをただ先読みしてそれに同調するようなコメントをする人物だけではなく、場合によっては番組内容に対しても批判的なコメントをする人物をコメンテーターとして配置するべき。今回の読売テレビのケースではコメンテーターに結果として救われたと言っていい。

〇その2 すばやく謝罪

 読売テレビが、会社として早い段階で「謝罪」したこと。これは組織の危機管理として適切な対応だと評価していい。放送での謝罪まで1ヶ月以上かかったTBSと比べると、今は大きな問題になっても長い目で見れば沈静化する方向に進んでいくはずだ。そのあたりは組織としての迅速な対応は評価できる。

【今後の展開】

 では、今後の課題はどうなっていくのだろうか。以下、指摘しておきたい。

◇その1 BPOできちんとけじめを

 現時点においては人権侵害の訴えが具体的な形で起きているわけでないが、放送倫理上の問題としてBPO(放送倫理・番組向上機構)で審議すべき事案だろう。これについては、読売テレビが自らBPOの「放送倫理検証委員会」に対して報告すべきだろう。考えられる先手を打っていくことが肝心だ。

 そうすれば結果的に「放送倫理違反」にはなっても、BPOから指摘される前に、「自社ですでに対応している」というふうに対応できるはず。

◇その2 当事者を呼んで再発防止のための記者やスタッフ勉強会を

 TBSでは『ビビット』の事件の後で、ホームレス問題に詳しい支援団体の関係者やホームレスのドキュメンタリー取材をしたことがある他社の制作者などをたびたび呼んで「再発防止」のための勉強会、研修会を社内で開いている。TBSはそのことをおおっぴらに表明しない形で地道に続けているが、評価できると思う。

 今回の読売テレビの場合、性的なマイノリティーの関係者を講師に呼ぶべきだろう。放送したような「性別」に関する質問などがそうした悩みを抱える当事者に対して、傷つける放送になるのかなどを「当事者の生の声」から知るような機会をつくってほしい。

◇その3 検証番組の放送を

 いすれにしても早い段階で、なぜ問題が起きてしまったのか、それを関係者に詳しい聞き取りをして、その結果を検証番組として放送すること。それがこういう問題で放送局が早急に行うべきことである。

 以上、今回の読売テレビの問題にあたって思いつく内容を列記した。報道現場では多忙になればなるほど、こうしたデリケートな問題が自覚しないうちに「ネタ」として、時には「悪ノリ」の対象になってしまうことがある。今回のことはそうした構図があることを改めて知らせてくれた。

 テレビへの信頼、なかでもテレビの報道(番組)に対する信頼感が揺らぎ始めている現在、単に一つの局や一つの番組だけの問題とは考えず、テレビ業界やBPOなどテレビ関係者は肝に銘じて、信頼できる対応に努めてほしい。