「メディア・イベント」としての改元 テレビが伝えた「ことほぐ」言葉

5月1日 日本テレビ『news zero』で紹介されたネット上の言葉

「天が味方している」

「皇居が笑っている」

「日本はやっぱりすごい国」

など、数々のテレビ番組で語られたスタジオのアナウンサー、ゲストコメンテーター、あるいはインタビューに登場した一般の人たちによる言葉は、平成から令和に変わる日本人の「集合的記憶」につながる形で、何度もテレビで放送されました。

5月1日 NHKニュース「即位」で紹介されたネット上の言葉
5月1日 NHKニュース「即位」で紹介されたネット上の言葉

「ことほぐ」

という言葉があります。漢字だと「言祝ぐ」あるいは「寿ぐ」と書きます。広辞苑によると「言葉で祝福する」という意味だということですが、テレビでも「ことほぎ」の言葉がこの期間、相次ぎました。

 このお祝いムードで、お祝いスタンスを過剰な形で表現した言葉、「天も味方してくれている」「皇居が笑っている」というような、普段のテレビではあまりしない「神がかった」表現までテレビで放送されることになりました。

 多くの場合、報道番組、あるいは情報番組という、それぞれの放送局がいつも以上に責任をもった看板番組でこれらの言葉が語られています。

 メディア研究の分野では

「メディア・イベント」

という言葉があります。

 政治イベントや経済イベント、商業イベント、学術イベント、文化イベントなどと対照的に、マス・メディアにあわせて意図的に作られる社会的な出来事を「疑似イベント」と呼び、報道される目的のために仕組まれた催しのことを指します。

 そのなかでも、テレビで中継・報道されて

「社会にとって何らかの中心的な価値や、集合的記憶の一面にスポットライトをあてる祭典」

として人々に理解されるようなものを特に「メディア・イベント」と呼びます。

 メディアのコミュニケーションやジャーナリズムの研究者にとっては比較的知られた概念です。(参考:大石裕著『ジャーナリズムとメディア言説』勁草書房 2005年)

 さて、4月30日から5月1日の改元、そこでの退位や即位の儀式や令和の最初となった5月4日の一般参賀はことごとくテレビで中継されました。国民はその映像を繰り返し見ることになったわけです。一般参賀には14万人が訪れました。

 人が訪れるのと同時にメディアでも大きく伝えられ、まさに日本の歴史上でも滅多にない「メディア・イベント」となりました。「メディア・イベント」というとき、主に国民規模の共同体を統合する文脈で捉えられます。まさに令和になったときのテレビ番組は「日本人」であることの”一体感”を醸成するものばかりでした。

 筆者は退位や即位、一般参賀のテレビ放送をウォッチしてきました。改めて振り返ると、この出来事はまさに非常に大きな「メディア・イベント」だったことが改めてわかります。

 もっと冷静に伝えるべきだったのではないのか? 報道番組であれば手放しで賛美するだけでなく批判的な視点も入れるべきだったのでは?など、放送への評価はいろいろあると思いますが、ここではテレビでどんな「ことほぐ」言葉が連発されていたのかを振り返ってみましょう。

●5月1日に午前10時25分から11時45分までの間に放送された日本テレビの『news every. 特別版』を見てみましょう。

 天皇、皇后両陛下が車で御所と皇居を移動する様子を生中継する場面で以下の言葉が飛び出しました。ちょうど新緑が映える晴れの天気に恵まれたので、番組ではそのことを話題にしていました。

5月1日 日本テレビ「news every.特別版」
5月1日 日本テレビ「news every.特別版」

藤井貴彦アナウンサー

「さらにですね。空が晴れやかで、所さん、お二人にとって今日一日が晴れて良かったなという思いがあったんでしょうか?」

所功京都産業大学名誉教授 

「本当にうれしいですね。やはり天も味方してくださったというか。本当にことほいでくださっている感じですね」

 

この場合、「ことほいでくださっている」の主語は誰なのかというと、「天」あるいは「神様」と見るべきでしょう。

藤井貴彦アナウンサー

「小山さん、やはりお二人にとって晴れというのは?」

小山泰生さん(天皇陛下の元同級生)

「本当に新緑がきれいで皇居が笑っているというのか、そういう感じでございますよ」

「皇居が笑っている」

 この表現を筆者は今回はじめて聞きました。

●5月1日午後に同じく日本テレビで放送されていた『情報ライブ ミヤネ屋』でも司会者の宮根誠司とゲストコメンテーターのおおたわ史絵との会話は、「日本礼賛」ともいえるような方向に向かっていきました。

5月1日 読売テレビ『情報ライブ ミヤネ屋』
5月1日 読売テレビ『情報ライブ ミヤネ屋』

宮根誠司キャスター

「おおたわさん、平成という時代は非常に災害も多かった。そのたびに天皇皇后両陛下が被災地に赴かれ、我々と同じ目線でお話くださり、励ましてくださいました。そこがまさに平成の時代の象徴というものを具現化されたと思う。

今度は新しい天皇皇后両陛下はどのような形をお示しになるのでしょう?」

おおたわ史絵(=総合内科専門医)

「そうですね。これだけ、世界という意味で見ると、争いや戦いが多い中で、日本は平成の30年間は世界と戦争することなく過ごしてきた。

あの、やっぱりすごい国だと思うんですね。

これはおそらく新天皇陛下も新皇后陛下も望んでいらっしゃると思いますので、やはり世界の平和と日本の平和というのを第一に考えていくべきだと思います」

宮根誠司キャスター

「日本という国は見事な国ですね」

「日本は見事な国」

 この言葉は新天皇の即位に関連して唐突な感じで飛び出しました。宮根キャスターがこの言葉を言わなければならない会話の流れでは必ずしもなかったように思いますが、宮根キャスターはこの言葉で強引にコマーシャル前のコーナーを締めくくりました。

●5月4日の午前9時55分から10時10分までの間、フジテレビが放送した『FNN特報 新天皇陛下 初の一般参賀』も見てみましょう。

 番組の進行を務めた佐々木恭子アナウンサーの言葉は局アナとしてはかなり過剰な言い回しが多いものでした。

5月4日 フジテレビ『FNN特報 新天皇陛下 初の一般参賀』
5月4日 フジテレビ『FNN特報 新天皇陛下 初の一般参賀』

(一般参賀での天皇陛下のお言葉を聞いた後で)

佐々木恭子アナウンサー

「改めてどのような思いで聞かれました?」

乃万暢敏さん

(=小学校から大学院までの18年間、天皇陛下と同級生)

「いやあ、これはこの日にふさわしいお言葉なので、天皇家がどういうものか、どういうふうにしていくのか、すべての、日本にとどまらず、人たちの心を一心に集められているお言葉ですね」

佐々木アナ

「こう、決意に満ちた、1分足らずのお言葉ではありますが、決意に満ちたお気持ちを感じますね」

 通常、報道番組の中でキャスターであるアナウンサーが「決意に満ちたお気持ちを感じる」などと自分の感想を語る表現は、報道番組の現場では、冷静に信頼性あふれるべきキャスターとしての役割を超えてしまい、「やってはいけない伝え方」とされています。しかし、この日の佐々木アナはそうした自分の個人的な感情をそのまま表現した言葉が目立ちました。

5月4日 フジテレビ『FNN特報 新天皇陛下 初の一般参賀』を司会する佐々木恭子アナ 
5月4日 フジテレビ『FNN特報 新天皇陛下 初の一般参賀』を司会する佐々木恭子アナ 

佐々木アナ

「いやあ、あの、でも本当に、この何か晴れやかな日に立ち会えることが、橋本さん、私たちもまたうれしくなりますね」

橋本寿史解説委員

「本当ですね、しかも、この晴天のなか、やはり皆様のお姿、晴天のなかだと特に映えて、拝見ですますので、とてもいいお姿を、この画面からも見ることが私たちもできました」

佐々木アナ

「(5月)1日の日も大変、晴れやかな表情を見せてくださいました天皇皇后両陛下。

今日はいっそう晴れやかで穏やかでいらっしゃいました」

「私たちもまたうれしく」「とてもいいお姿」

 報道番組の中で客観的な描写を超えて個人的な思いを繰り返す伝え方は通常あまりやりませんが、今回はフジテレビの報道局として意図的に指示したものなのでしょうか。知りたいところです。

●5月5日のテレビ朝日『サンデーLIVE!!』。これは1週間のニュースを振り返り、世の中の大きな流れを視聴者に見せていく報道番組ですが、ゲストコメンテーターが個人的な感情を吐露する表現が目につきました。

 あちこちの報道番組にゲストとして引っ張りだこの中央大学法科大学院教授の野村修也弁護士です。

 前日の4日の一般参賀の際に、天皇陛下が気温が上昇したことを受けて集まった人たちの健康を気遣うコメントをされた点について、以下のように話しています。

5月5日 テレビ朝日『朝刊LIVE!!』
5月5日 テレビ朝日『朝刊LIVE!!』

野村修也弁護士

「『このように暑い中、来ていただいたことに感謝いたします』というお言葉は、6回のうち2回あったんです。もともとあった言葉につけ加えられたということですが、何か私たちに対する思いやりを感じられる一般参賀だったなという感じがします。

私個人としては、あのお言葉を聞いて、

何か心の中に染み入ってくる

ようなわかりやすさ、伝わりやすさをすごく感じました。

個人としては令和の時代に何かこう、ちょっと

怒りとか憤りを感じたときに、

あのお言葉で感じた、令和が始まるときを思い起こして、

自分自身の

気持ちを整えたいな

いう気がしました」

 野村弁護士は一般参賀の天皇陛下のお言葉でよほど感情を動かされたようで、この点について繰り返し述べています。

東山紀之キャスター

「野村先生、この陛下のお言葉、いかがでしたか?」

野村修也弁護士

「私、聞いていて、心にすーっと入って来るような感じがしたんですよね。とってもわかりやすい言葉でしたし、世界の平和を求めているという気持ちが、==なんとなく私たちの願いと一致していて、==すごくわかりやすかったなという気がしましたね」

5月5日 テレビ朝日『朝刊LIVE!!』でコメントする野村修也弁護士
5月5日 テレビ朝日『朝刊LIVE!!』でコメントする野村修也弁護士

 ここで野村弁護士が「私たちの願いと一致して」とか、怒りを感じたときにこの出来事を思い出して「心を整える」と発言した点に注目してみると、新天皇の即位という「メディア・イベント」を通じて、日本国民が統合されて「国民の集合的記憶」となりつつあることが理解できると思います。 

 一方でメディア研究でいう「メディア・イベント」は、

『支配的パラダイムの補強』という観点が優先」される

(参考:前掲書)ものだという指摘があります。つまり、現存する体制を補強するような要素があるものだというのです。野村弁護士のコメントをよく聞いてみても、そううした要素があることは合点がいくだろうと思います。

 他方で、今回の天皇の退位と即位においては、国事行為も含まれている「政治イベント」であったものが、テレビ各社が大きく伝えたことで、いちやく「メディア・イベント」になってしまい、結果的に、

ジャーナリズムが本来もつべき批判的な視点が薄まってしまった

ことも否定できません。

 「批判的な視点」といっても、即位や退位そのものにケチをつけるということではなく、今後の皇位継承に関してどんな問題があるのかなど皇室が抱える問題についてはテレビも新聞も具体的な形ではこの間、ほとんど触れませんでした。

 具体的な形で、という意味は、皇位継承問題にいえば、焦点になる女性天皇、女系天皇、女性宮家の問題を、たとえば女性宮家を創設するようなことになった場合に、眞子さまと小室圭さんが結婚した場合に小室さんが皇族になるのか、というような形を指します。

 週刊誌では具体的な皇族などの名を出して報道していますが、テレビや新聞はこの問題に関してまったく触れていません。このため、テレビや新聞だけ見ている人には、こうした問題が具体的な皇族などを想定した形で理解できない、という状態につながってしまっています。

 「メディア・イベント」として、『支配的パラダイムの補強』という側面が強くなってしまうと、本来、国民が知るべき情報が必ずしも十分に伝わらない状態になります。

 今回の退位や即位も、死を伴うものでなかったために「お祝いムード一色」になりました。

 とはいえ、

「ことほぐ」だけでは、本来、国民として考えておかなければならない問題を見落としてしまう

ことにつながりかねません。

 

 私たちは今回の退位と即位にかかわる一連の出来事についての「報道」がどのように行われていたのかをよくよく注意しておく必要があると思います。

 

今回の改元で多くの人が感じた「象徴天皇制」の長所を、きちんと今後につなげていくためにも。

5月1日 日本テレビ『news zero.』に寄せられた新年メッセージ
5月1日 日本テレビ『news zero.』に寄せられた新年メッセージ