「イッテQ」疑惑をテレ朝「モーニングショー」が検証したらクロ!

11月9日のテレビ朝日「モーニングショー」から

異例!ライバル局による疑惑検証

 しのぎを削り合うテレビ局同士の間でも、片方がもう一方の疑惑を検証することは滅多にない。それは「放送業界」という同じ業界にいて、いわば運命共同体という面もあって日頃は協力し合う面もあるからだ。刑事事件になったケースや裁判やBPO(放送倫理・番組向上機構)などの結論が出た場合でもない限りは、他局のことは批判的には取り上げない、というのが暗黙のルールになってきた。

11月9日のテレビ朝日「モーニングショー」がこの暗黙のルールを打ち破った!

 ”文春砲”ともいわれ、今や政財界から芸能界をめぐるスキャンダルまでスクープを連発している週刊文春が、11月8日発売の誌面で暴いた日本テレビ「世界の果てまでイッテQ!」をめぐる疑惑。発端となった文春の記事は、番組で取り上げられた「年に一度の村祭り」として紹介された「ラオスの橋祭り」が実はそもそも伝統の祭りとして存在していないこと、番組側のイニシャティブでセットが組まれて参加者が集められたと思われること、参加者には賞金まで支払われた、などという疑惑を報道していた。

 それについて、11月8日午後に日本テレビが報道各社に向けて「見解」を公表して、番組の公式ホームページにも載せた。それは以下のようなものである。

 

今回の企画は、現地からの提案を受けて成立したもので、番組サイドで企画したり、セットなどを設置した事実はなく、また、番組から参加者に賞金を渡した事実もございません。

出典:「週刊文春」 ( 11 月 15 日号) 掲載 「世界の果てまでイッテQ!」の記事に関する 見解

 こういう状況の中で、テレビ朝日「モーニングショー」は、異例ともいえるライバル局の疑惑について現地取材した結果を9日の朝に放送した。同番組では、ニュース番組でスクープ報道の際によく使う「独自」というテロップを入れて、「現地コーディネーターを直撃」「ラオスの橋祭り『私が提案』」として報道した。

 コーディネーターというのは、世界各地にいる現地在住の人たちで、テレビ局などの現地ロケを手伝ったりする仕事のことだ。海外ゆえに言葉の壁の問題や習慣の違いの問題などがあるため、今のようにメールや電話で現地の人と瞬時にやり取りができる社会になっていても、テレビ局や制作会社の海外ロケでは「コーディネーター」と呼ばれる現地の人を雇うのが通常だ。

 コーディネーターは多くの場合、現地に長く住む日本人か日本語が上手な現地の人というのが大半で、取材やロケの際の通訳も兼ねる場合が多い。

 

 さて、テレビ朝日「モーニングショー」は、司会の羽鳥慎一が日テレ出身であることなど遠慮することなく、現地取材した検証結果をVTRで放送した。

 それは週刊文春を、そのまま映像でなぞるような取材ではあったが、このため、より説得力をもって視聴者に伝わったはずだ。

疑惑1 祭りは存在するのか?

 実際に「イッテQ!」で放送されたイベントを見ていたという現地の住民に聞いてみると、この祭りについて、「イッテQ」の収録の時に「初めて見た」と言う。そんな祭りの存在は「ラオスではこれまで見たことがない」と言うのだ。

 「イッテQ!」が報じた「橋祭り」の収録の際には、横で「コーヒーフェスティバル」が開催されていて、このフェスティバル関係者は同じ会場で行われた橋祭りについて「ゲームショーだと説明された」と証言した。

 在日ラオス大使館も「そんな祭りはない」と証言していると伝えられた。

9日のテレ朝「モーニングショー」
9日のテレ朝「モーニングショー」

 つまり、肝心のラオスの橋祭りは、テレビ朝日の取材でも、存在しない、虚偽のものだったことが判明した。

 

疑惑2 参加者は賞金で集められた子どもたち?

 この点について、「モーニングショー」は「イッテQ!」のロケ現場を仕切っていたタイのコーディネート会社を取材してその結果を報道した。

 その結果、この会社は準備をしていたことや橋祭りに参加した子どもたちに賞金を渡していたことが明らかになったという。

テレ朝「モーニングショー」で現地コーディネーターの証言を報道
テレ朝「モーニングショー」で現地コーディネーターの証言を報道

 「モーニングショー」のコメンテーターである玉川徹もスタジオでコメントしていたが、動画でみると、この「橋祭り」のセットにはかなりの金額がかかっていたことはテレビの世界にいる人間ならば容易に想像できる。それを仮に「現地コーディネーター」が用意し、賞金も渡していた、ということになれば、日本テレビの局員であるプロデューサーやチーフ・プロデューサーが関与または承知していた、と見るのがテレビ業界では当然だろう。

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「実際にはラオスの伝統行事として存在していなかった橋祭り」というイベントを、テレビ番組のために「準備して」、セットも含めて用意して、ということを現地コーディネーターが認めたとなると、日本テレビが8日に発表した見解は「ごまかし」以外の何物でもない、ということになってしまう。

想像とは大きく違った日テレの見解

 8日の午後に、日本テレビが公表した「見解」は、「日本テレビ 情報・制作局長」の名前で出されている。

 

 筆者はこの「見解」について、事前には日本テレビ側が非を認めて謝罪するのだろうと想像していた。

 それは日本テレビにはこうした問題での痛恨の記憶があるからだ。

 

2008年の「真相報道バンキシャ!」で岐阜県で裏金作りが継続しているという報道をめぐって、記者らを欺いて虚偽の証言をした人物のインタビューをそのまま報道してしまい、当時の社長が辞任する事態にまで至っている。そうした過去の辛い経験で懲りているからこそ、他の民放キー局に比べると、「やらせ」「捏造」などの事件は比較的少ない。

出典:ヤフーニュース個人「イッテQ」やらせ疑惑を暴いた文春砲のインパクトは?

 「バンキシャ」事件の際、当時の日本テレビの最高実力者だった氏家齊一郎氏は、当時の社長も辞任させて、担当の局長も更迭するなど同じ業界の中でも厳しい対応で世間の批判を堪えたのだ。

 ところが、8日の午後、実際に出されたコメントは疑惑を全面的に否定したようなニュアンスで、一部「誤解を招く表現」があったことを認めながらも「謝罪」という言葉は一切ないものだった。

 日本テレビの「news zero」などのニュース番組ではオリンピック・パラリンピック担当の桜田義孝五輪担当大臣が国会でのちぐはぐな答弁の原因を事前通告がなかったためだと撤回した問題で「撤回したものの謝罪はありませんでした」と批判したが、日本テレビも国際問題に発展しかねない問題で表現に問題があったことを認めながらも謝罪しようとしない。

 論理をすり替えたり、「番組側」などという曖昧な言葉を多用したりしながら、「日本テレビに責任はない」と居直ったような姿勢といえる。

 

 見解の文章を読んだ筆者は「まずいな。日テレはルビコン川を渡ってしまったな」という感想をもった。

 テレビ朝日「モーニングショー」では、同日に行われた日本テレビの別の記者会見の映像も放送したが、局側の責任者にこの問題で質問したところ、日本テレビ側は「この見解がすべて」と回答している。

もう、後戻りはできない段階に進んでしまった

 週刊文春だけでなく、テレビ朝日までも、「イッテQ!」の疑惑をクロと評価したのだ。

 さらにはフジテレビも「イッテQ!」に出演した現地ラオスの少年たちを取材して以下のように伝えている。

“ラオスの橋祭り”に参加した少年は、「(参加することについてどのように誘われた?)『日本人がイベントをやるから参加しませんか?』と先生が言った。全部で30人くらい参加してほしいと言っていた」、「コーチから、サッカーのトレーニングになると言われた」などと話した。

出典:FNN プライムニュース

 民放連会長も務める大久保好男社長は、このフジテレビやテレビ朝日の報道を受けても今のままのように詳しい事実を伝えないままの状態を続けさせるのだろうか。

 民放のライバル企業が異例の検証作業を行なっている背景には、「イッテQ!」が国民的な人気番組であり、その人気がウソのないリアルなドキュメンタリーとしての一面もあることからの「問題意識」もあるだろうと想像する。

 筆者が見たところ、もはや事態はBPO(放送倫理・番組向上機構)に持ち込まれるのは必至の状態だ。なぜなら週刊文春だけでなく、テレビ朝日、フジテレビまで次々に検証してクロと評価した出来事だ。

 それなのに日本テレビはフジテレビのニュース班やテレ朝の情報番組がたった1日程度でできた検証さえ、やるともやらないとも言わず、「これからも視聴者のみなさまにご支持いただける番組作りに邁進する所存です」などと書いているだけだ。それでは局には自浄能力がないと判断されても仕方ないだろう。となるとBPOにその役を引き受けてもらうしかないだろう。

 そうなってしまえば、「見解」に名前を出した「局長」も無傷ではいられないに違いない。民放連会長を務める大久保社長自身の進退にまで事態が及ばないとも限らない。

そうなると「イッテQ!」という番組の存続まで厳しくなってくる局面があるかもしれない

 今は、まだ高視聴率番組として好感度も高いが、このまま対応を誤り続ければ、スポンサーまで色々と言ってくるに違いない。

 番組の存続を願う視聴者や出演者らの期待に本当に応えるためには、迅速に「事実」を究明して発表し、謝罪すべきことは謝罪することであろう。

 

 企業の危機管理ということを考えても、週刊誌で報道された箇所をはぐらかすような見解を発表して、「それがすべてです」というだけの対応で納得するほど現状は甘くはない。

 新聞記者たちに聞いてみると、日本テレビは8日の「見解」の発表の後も、「ラオスで橋祭りという行事は結局のところ行われていたのかどうか」とか「橋祭りがラオスで行われていたのであれば、いつ、どの地域で行われていたのか教えてほしい」などの報道各社の質問に対して、答えない姿勢だという。これでは報道機関としての基本姿勢を疑問視されかねない対応だろう。

 企業の危機管理、という面でみても、日本テレビにとって現状がプラスに働くことはない。

 まずは「事実」がどうであったのか。きちんと究明して把握した上で外部に説明することだ。

こんな対応をトップが許しているのであれば、その会社は報道機関の看板を下ろした方がいい 

 もしも、の話だが、「バンキシャ”虚偽報道”事件」の際に英断を奮った氏家齊一郎氏がまだ存命で、引き続き日本テレビで指導的な立場にあったならば、今どう判断するだろうか。現在のBPOの形もつくった立役者であり、日テレが今にいたる絶好調の基礎をつくった名経営者である。

 日本テレビ、その大株主の読売新聞、あるいは民放業界の関係者ならば容易に想像できるだろうから、よくよく考えて対応を考えてほしい。

9日のテレビ朝日「モーニングショー」より
9日のテレビ朝日「モーニングショー」より