ニュースキャスターの新しい形?「オオサンショウウオ」と自虐した有働由美子の凄み

10月1日「news zero」で挨拶する有働由美子キャスター(筆者撮影)

「大丈夫だったわよ」

「news zero」の直後の「月曜から夜ふかし」でマツコ・デラックスが有働由美子に言った言葉だ。

「大丈夫だったわよ。本当。あのね、大丈夫か大丈夫じゃないかわからないくらい、あんまり(有働の個性が)出ていなかった。ニュースってそんなにキャスターの人が出ないんだなってわかるね」

 マツコからの最上級の褒め言葉だろう。

 その「news zero」の有働の初日はどうだったのか。

「どうも・・・」

 空の画面にフレームインして視聴者に挨拶する有働。

 開口一番はいきなり「どうも・・・」という言葉だった。

 これは視聴者と一緒にいるという彼女なりの演出だったのだろう。ごくふつうの言葉「どうも・・・」。

 いきなりカメラ目線の挨拶をするのではなく、外から画面に入ってきて自然な形で話し出した。

こんばんは。はじめまして。有働由美子と申します。今日から「news zero」を引き継がせていただくことになりました。

 この後で、ニュースキャスターとしてのニュースの話題に移る。

さっそくですが、今夜、ノーベル賞、日本人受賞という、驚くようなニュースが入ってきました。本庶 佑先生、おめでとうございます。

こんな日にこの「news zero」を始めることができて・・・、私が始めることができて・・・えーと、ま・・・、ありがとう、は変だな・・・、えーとすみません。本当にうれしいです。

なんとNHKから民放のニュースキャスターへと華麗なる転身をはかったその冒頭の挨拶で、「えーと」「変だな」を連発したのだ

で、あのー、この「zero」なんですけど、私も、世の中がこう、いろいろ動いていて、何が正しいのか、それからどういう価値観でニュースを見ていったらいいのかに、正直、自信がありません。

 それでぜひみなさんの、ニュースに関する、それから、世の中に関する考えをこちらの方(画面上の「みんなで会話 #news zero」のテロップを指さす)に送っていただければと思います。そして、みなさんと会話するニュースとして、伝えていければ、と思って・・・おります(少しかんでしまう)。ニュースのその先を一緒に考えてください。

 この後でこの番組では先輩キャスターである櫻井翔とのかけあいトークが始まる。かけあいは有働アナの真骨頂だ。

 リラックスして笑顔を浮かべながら、「ノーベル生理学・医学賞に本庶 佑氏」のニュースから伝えていった。

 本庶氏と同じ京大のノーベル賞受賞者である山中伸弥教授が生出演すると、さっそく有働はトーク力を発揮した。

「山中教授、夜分遅くに・・・。あっとちょっとなんか眠そうな表情でいらっしゃいますが、申し訳ありません。ありがとうございます」

「とんでもありません。有働さんの初日に出演できて光栄です」

 スタジオの笑いを誘いながらの生インタビュー。山中教授から本庶氏の研究の奥深さについて解説してもらいながら、話題は山中氏と本庶氏が2人で行くというゴルフ中の会話にも話題を広げながら、本庶氏の研究スタイルを他の番組にはない視点で視聴者に伝えようとした。

有働キャスターは他の出演者との距離感も近かった

10月1日「news zero」スポーツコーナー(筆者撮影)
10月1日「news zero」スポーツコーナー(筆者撮影)

 スポーツコーナーで、若手の山本紘之アナとスタジオでかけあう時にも、キャスター席の前に立つ山本アナと直接やりとり。NHK「あさイチ」などで鍛えた自然体のトーク力はここでも発揮された。

 

 その後の日本テレビ「月曜から夜ふかし」に生放送した有働。

 番組の冒頭の言葉が大事だとスタッフに言われていたので、「カンペは要らない」と言いきって、こっそり自分の手に書いていたのに、いきなり飛び込んできた「日本人がノーベル賞を受賞」というニュースでそれどころではなくなった裏事情を暴露した。

 スタジオの観客女性たちに「きれい!」と騒がれても、その後に自虐的に言ってのけた言葉がニュースキャスターらしからぬものだった。

「(化粧を)とればオオサンショウウオ!」

 こういう人間らしさが有働由美子という人の魅力だ。化粧をとってしまえば、オオサンショウウオに似ているのだという。形容される相手として女性ならばうれしい相手であるはずはない。それをテレビで平然と暴露できるのは「大人の女性」としての貫禄といえる。まさに、すっぴんになれる魅力だ。それにしても、いくら別番組とはいえ、ニュース番組の放送直後に同じチャンネルで言ってのける有働由美子の豪胆さ。視聴者との距離の近さの感覚。これには驚いた。

 

ニュース番組特有の「堅さ」をとれるか?

 これまでNHKアナから民放のキャスターに転身した人は数多かったが、「NHKの堅さ」を取れない人ばかりだった。

 古くは草野仁、相川浩、森本毅郎。比較的最近だと膳場貴子、堀尾正明など、NHKのアナウンサーから民放のニュースキャスターに転身したケースは枚挙にいとまがない。

 しかし、必ずしも成功しているとは言いがたい。その多くは「堅さ」が取れないことにあった。「堅さ」は元NHKというだけでなく、ニュース番組という番組の性質からもつきまとってくる。

 NHK出身ではないが、朝日新聞の記者出身の星浩や共同通信の記者出身の後藤健次が民放ニュース番組のキャスターになった時も、この「堅さ」がついてまわった。

 視聴者に対して、迅速で正確な情報を伝えなければならないニュース番組。字幕などの間違いもすぐに訂正を求められる。スタジオでのコメントも見識が必要だ。視聴者だけでなく、出演者も、制作スタッフもそう考えている。そうした「正しさ」の呪縛が常につきまとうのだ。

 「ニュースキャスター」という役割が宿命のように持つ「堅さ」。先人のキャスターたちはそれにガチガチに縛られていた。官僚出身だが、「news zero」の前身の「NEWS ZERO」のメインキャスターで有働の前任者といえる村尾信尚もその堅さが最後まで抜けなかった。「堅さ」はテレビでは「親しみやすさ」の対局にあるので、多くのキャスターたちが親しみやすい存在であろうと、スタジオでも、取材先でもそのように映るよう振る舞おうとする。けれども、テレビというメディアは「振舞っている」かどうかは視聴者にたちどころに見抜かれてしまうのだ。

 そうした「堅さ」を払拭できた民放キャスターは、「自分はジャーナリストではなく司会者」と言い切った久米宏。それにジャーナリストでありながら、一級の文化人でもあってテレビでの伝達というものを本質的に理解していた筑紫哲也ぐらいだろう。彼らは親しみやすい存在だった。

 あるいはニュースキャスターではないが、NHK出身のキャスター成功者としては池上彰がいる。

 

 有働由美子なら、久米や池上の域に達するのかも・・・

 そんな予感を感じさせる。

 

 別の番組とはいえ「(化粧を)とればオオサンショウウオ」とまで暴露する有働由美子の「等身大ぶり」はあなどれない。久米宏や池上彰らのレベルに匹敵する、キャスター人生を歩むのかもしれない。いずれにしても、ニュースキャスターという縛りのなかで「等身大」の「有働由美子らしさ」を存分に発揮した夜だった。

 おそるべし、有働由美子。