規制撤廃でテレビはすべて「ニュース女子」化する!?

2017年1月2日にTOKYO MXで放送された「ニュース女子」

 3月15日に、放送法にある「政治的公平」の規制を安倍政権が撤廃する方針だというスクープを伝えた共同通信。

 一週間後の3月22日に共同通信は同じ放送制度の改革について新たなスクープ記事を放ちました。

 民放については今ある規制のほとんどをなくしてしまうというのです。

 

安倍政権、放送の規制を全廃方針

ネット通信と一本化

 安倍政権が放送制度改革で、テレビ、ラジオ番組の政治的公平などを求めた放送法の条文撤廃に加え、放送局に義務付けた番組基準など、NHK以外の放送関連の規制をほぼ全廃する方針であることが22日、分かった。

 放送という制度を事実上なくし、インターネット通信の規制と一本化して、ネット動画配信サービスなどと民放テレビ局を同列に扱い、新規参入を促す構えだ。しかし偏った番組などが氾濫する恐れがあり、民放の反発も予想される。

 政府文書によると、放送局に番組基準の策定や番組審議会の設置を義務付けたり、教養、報道、娯楽など番組ジャンルの調和を求めたりしている規定を撤廃する。

出典:共同通信 公式サイト(3月22日)

 筆者は、元々は民間放送のテレビ局にいた人間ですが、現在は大学でテレビ放送などについて教鞭を執りながら、「ギャラクシー賞」などで知られる放送批評懇談会の放送批評誌「GALAC」の編集長を務めています。それゆえ、テレビのニュースや報道番組は日頃から目を通し、安倍政権で一気に進められようとしている放送制度の改革についても人一倍、関心を持っています。

 一週間前の「政治的公平」の原則撤廃の報道の時にも、NHKや民放キー局は社内では大騒ぎしながらも、自局のニュース番組で報道することはありませんでした。同じように昨夜もテレビでこのニュースについて目にすることはありませんでした。

 一方で、NHKも民放各局でも、あるいは番組制作をしている制作会社も、関係者が同じように口を揃えるフレーズがあります。

 「規制が撤廃されたら、みんな『ニュース女子』みたいな番組ばかりになってしまう!?」

 そうです。昨年、沖縄での米軍基地反対運動に参加している人たちに対して、「あの人たちは日当をもらって活動している過激な人たちで、救急車を止めるなどの迷惑行為を行っている。しかも在日韓国朝鮮人の女性が背後にいて外国人の勢力とも関係がある」などという、思わせぶりのデマを放送して、BPO(放送倫理・番組向上機構)から「重大な放送倫理違反」や「人権侵害」だと判定された番組「ニュース女子」です。

 この番組は、インターネットでも視聴ができますが、「事実の裏付けをきちんと行わないで誹謗中傷が多いネットでの番組」を事前にきちんとしたチェックをせずに、地上波放送局の「TOKYO MX」で放送してしまったことをBPOは重大な放送倫理違反や人権侵害と判定しました。

 

 BPOは「放送倫理検証委員会」と「放送人権委員会」の2つの委員会で、これを放送してしまった地上波のテレビ放送局「TOKYO MX()東京メトロポリタンテレビジョン」を厳しく断罪したのです。

 このあたりのことは、

テレビ報道が激変するかという緊急事態なのにニュースで伝えないテレビ各局

出典:ヤフーニュース個人(2018年3月22日)

でBPOの放送倫理検証委員会の意見書を引用して説明しています。

 BPOは「砦」という表現を使って、放送はネットのように規制や倫理のない、いい加減なメディアになってはいけないと強調しているのです。

これに対して、放送では、番組制作にあたり、取材による裏付けを欠かさないこと、節度ある表現を保つことなどが求められているうえ、放送倫理を守っているかどうかを放送局自身がチェックする仕組みもある。

出典:BPO放送倫理検証委員会 2017年12月14日 第27号委員会決定

 つまり、この回の「ニュース女子」はきちんとした裏づけ取材を行わず、基地反対派の人たちを「テロリスト」と呼ぶなど、誹謗中傷の表現が含まれる番組でしたが、きちんと考査をされないままに地上波で「放送」されてしまったことには大きな問題があった、としたのです。

 この「ニュース女子」は、このBPOの委員会決定の影響もあって、きちんとした裏づけ取材をしていない、いい加減な報道の代名詞のようになりました。つまり、「ネット」では仮にそういう番組が流されていたとしても、「放送」ではこういう番組をつくることや放送で流すことは許されない、というのがBPOの見解でした。以来、テレビなど放送業界の関係者の間では「ニュース女子」は「ネット的なもの」の代名詞として語られるようになったのです。

 そこに飛び込んできたのが、上記の共同通信のスクープ報道です。

 「放送という制度を事実上なくし、インターネット通信の規制と一本化して、ネット動画配信サービスなどと民放テレビ局を同列に扱」うというのです。放送局にとっては、文字通り、「ニュース女子」のような番組だらけになってしまう、と考えるのはあながち大げさなこととはいえません。

 放送局の関係者たちの間では、昨日の共同通信のスクープ報道を元にこの話題で持ちきりです。

「『ニュース女子』を作ったDHCテレビが今の地上波テレビと同じようになってしまうのか?」

 「BPOが今回、『重大な放送倫理違反』と断罪したような倫理規範はどうなるのか?」

 「そもそもBPOという放送倫理を守る組織は一体どうなってしまうのか?」

 「そうすると、今回はBPOがダメだとした『ニュース女子』の報道は、新しい制度では許されるようになってしまう?」

 放送局だけではなく、民放連、BPOなどの関係者たちの間でも、「地上波の番組が『ニュース女子』みたいになってしまうのでは?」という恐れが広がっています。

 それにしても、なぜ今このタイミングで、放送制度の改革がこのように報道されるのでしょうか。おそらくは今この問題を流すことでテレビ局を牽制するなど、なんらかの「政治的な意図」が政権側にはあるはずです。そして本当は大きな問題であるはずなのに、なぜ地上波のテレビ局やラジオ局はこの問題について報道したり、議論したりしないのでしょうか。

 

 テレビというメディアの行く末がかかっているとしたら、もっともっと国民が関心を持っていく必要があると思います。