先週木曜日(12月15日)に週刊新潮がスクープしたTBS系のローカル民放・岩手放送での「ステマ疑惑」。

 攻める週刊新潮と守りの岩手放送という構図がその後、明確になっている。

 新潮側は、同社記事のネット版である「デイリー新潮」でも記事を配信。

 番組を視聴していない人にはややわかりにくいこの問題を告発していく姿勢を貫いている。

問題になっているのは、昨年9月に東北5県で放送された「宮下・谷澤の東北すごい人探し旅~外国人の健康法教えちゃいます!?」なる番組のワンシーンである。

 岩手県内在住の外国人に健康の秘訣を聞いて回るというこの企画で、温泉旅館を訪れた出演タレントたちが、唐突感ありありの“湯船につかって身体を温めないと免疫力が上がらない”との会話を展開。画面が切り替わり、順天堂大学免疫学講座の奥村康・特任教授が「温泉は免疫力を上げる」と解説、「忙しい現代社会でも手軽に免疫力を高める食べ物がある」とナレーションが続いたのち、「それがR-1と名前が付いている乳酸菌です」と教授が太鼓判を押す、というものだ。

  約7分間にわたって放送されたこの“脱線”に、局外部の審議委員から〈あざとい〉〈視聴者をバカにしている〉などの批判が噴出。編成局長らは、番組内でR-1の情報が盛り込まれることを条件に明治が「料金」を出し、かつ「提供」社に明治の名は入れない「ノンクレジットタイアップ方式」を取った、と明かした。先の奥村教授は「明治から寄付を受けて大学に講座を開設している。言わば、“利害関係者”」(経済誌記者)で、明治とIBCはステルスマーケティングを行った形。

出典:デイリー新潮

 要約すると週刊新潮の記事は以下のようになる。

 「明治」の「R-1ヨーグルト」という製品を事実上宣伝する内容を含んだ番組を放送したことで岩手放送の番組審議会でも批判が続出した。番組審議会での外部委員(地元の大学教員や新聞社幹部など)からの質問に対して、週刊新潮は岩手放送側が説明した番組審議会の議事録を入手して記事にした、という内容だった。

岩手放送は番組審議会の内容をどの程度、視聴者に公開していたのだろうか?

 岩手放送の公式ホームページには、番組審議会の議事について、ごく大雑把な内容のみ報告している。

 第605回番組審議会について

2015年11月18日(水)開催

議題:『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅~外国人の健康法教えちゃいます!?』

出典:岩手放送ホームページ

には「委員の主な発言」としてわずか1ページにごく簡単に掲載されている。

「番組内で医者のコメントがあるが、明らかに特定の商品を想起させる。 スポンサー名が出ていないが番組か広告なのか紛らわしく、視聴者に誤解を与える ようなことは避けるべき」

「健康法の 取り上げ方、医者の話は通販番組の一部のようだった」

「特定の商品を紹介する ような内容ならスポンサー名を明示すべきではないか」

 掲載されているのは委員の発言だけで、これを受けて岩手放送という会社が今後どう対応しようというのか、さっぱりわからない。

 週刊新潮が詳しい議事録の内容を報道したのに比べると、公開された情報だけを読んでも、審議会でどんなやりとりがあったのかわからない状況なのだ。  

 しかも岩手放送の弁明や会社としてのスタンスが不明確だ。

こうした不十分な情報公開でも、岩手放送は視聴者には十分だという姿勢なのだろうか?

 ところで週刊新潮の発売の前日の12月14日、岩手放送は自社のホームページで今回の報道に関連して「弁明」する文章を掲載している。

 

●議事録の内容には下記の事実誤認とそれに基づく発言が認められました。

番組の制作について

弊社の独立した編成権、制作権に基づいて制作しております。(株)明治には素材の提供のみをお願いしたものです。

(事実誤認による具体的な発言例)「主に東京のセールス部門と、大手広告会社と提供の宣伝担当の方とコミュニケーションを取りながら番組が成り立っている構造があります」→研究成果の提供を受けた事実はありますが、宣伝担当の方が番組制作にかかわった事実はありません。

研究成果と商品の混同について

当該番組につきまして、弊社社員より「特定商品の効能訴求を意図した」旨の発言がありましたが、これは弊社社員の誤解による発言でした。番組内には商品を紹介するくだりは全くありません。

(事実誤認による具体的な発言例)「R-1乳酸菌の扱いについては、ノンクレジットタイアップという方式です。」「それはまさにインフォマーシャル、単純に商品だけでなく商品に付随する情報も伝えたい。」→この番組はタイアップにより制作されたものではなく、したがってクレジットが入ることはありません。また、この番組は情報番組であり乳酸菌の研究成果を紹介したものでインフォマーシャルとは異なるものです。

※他の発言につきましても精査し適正に対応してまいります

●制作の担い手として

本審議会で取り上げられた番組につきましては、番組全体の粗さが審議会委員より強く指摘され審議対象となりました。今後は放送局として更に責任を強く持って番組制作に臨んでまいります。

出典:岩手放送ホームページ

 わかりにくい文章だが、要約すれば「タイアップではない」し、「インフォマーシャルとは異なる」という内容だ。

 番組は岩手放送が「独立した編成権、制作権に基づいて制作」したもので「明治」という会社は番組制作にはまったく関係ないし、「研究成果の提供を受けただけ」だという主張のようである。

 口語体で簡単に表現すれば、以下のようになるだろう。

(以下、口語訳した文責は筆者)

 週刊新潮が記事にしましたが、どこまで公開するかは岩手放送が決めることになっている議事録の非公開部分が外部に流出したことは「遺憾」です。

流出した議事録の内容で会社側による発言部分については、「事実誤認」がありましたので訂正します。週刊誌が報道した議事録では、明治が関与した「タイアップ」だった、という発言を岩手放送の幹部からありましたが、事実ではなかったので次のように訂正します。「タイアップ」ではなかったし、「インフォマーシャル」(いわゆる「ステマ」)とは違います。

 要するに、R-1ヨーグルトを販売している明治とはまったく関係なく、岩手放送が自分の判断で自分の編制権、制作権で独立に制作したものであり、タイアップなどではないので「R-1乳酸菌」が登場したのも、自らの判断で登場させたものだ。その際に明治から「研究成果の提供」だけは受けた、というのが岩手放送の公式見解だということになる。

 だとしても岩手放送に対して以下の5つの責任問題が残る。  

 テレビの制作現場の常識では理解しにくいが、岩手放送の主張通りに明治は関与していないということにしたとしても、不可解な点や視聴者への責任という問題は残る。それは会社の経営責任も直撃してしまう。

 

 その1、なぜR-1乳酸菌が登場した? 説明責任

『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅~外国人の健康法教えちゃいます!?』は東北に住む外国人が様々な健康法を紹介するというコンセプトの番組だが、そこに登場したトウガラシ健康法、バナナを洗って食べるなど食材にこだわる健康法、日本文化に精通する健康法、など様々な「外国人の健康法」に加えて、外国人が紹介しない形の健康法として「R-1乳酸菌」が唐突に登場したのはなぜか? 番組コンセプトの外国人の健康法とは違っていたはずだが? 

 そもそもこの不自然な登場が番組審議会で各委員から質問攻めにあって岩手放送の幹部は明治の関与を審議会で白状したわけだが、「事実誤認」であくまで自らの判断だったと主張するのならば、改めて「R-1乳酸菌」の場面を挿入したのはどういう理由だったのかイチから説明してほしい。「タイアップ」でもなんでもないならとても不自然だからだ。

 その2、特定商品への誘導の責任

スポンサーは関係なく自らの編成で番組を作った、という言い分を貫くのであれば、結果として、特定の商品へ視聴者を誘導するように見えてしまう不自然な放送をしてしまったわけだが、そうした放送をしてしまったことへの責任をどう考えるか? やはり視聴者への裏切りではないのか? それとも岩手放送という放送局は時々こうした「特定商品への誘導」を視聴者にわからないようにしていたのだろうか? R-1は例外だったのか、それともよくあるケースだったのか?

   

 その3、提供先の隠匿の責任

 明治から「研究成果の提供」を受けたことは岩手放送の訂正後のホームページでも認めている。では、なぜ「明治」の名前を放送で明らかにしなかったのだろう?

 通常は情報番組などで外部の会社などから資料などを提供された場合は提供先を明示するのが、テレビ放送のルールだ。それを隠したまま放送するのは重大な放送倫理違反になる。

 その4、経営責任

 岩手放送としては、番組審議会での会社側の説明に「事実誤認」があったとしている。

 番組審議会という会社における重要な場で間違いがあった、ということだ。それを今になって訂正したということはそこに出席していた

鎌田英樹・代表取締役社長を始め、経営陣の責任はどうなるのだろう? その場で訂正しなかったということは社長も責任があると思うが、いかがか? 視聴者への説明を誤って行っていた責任を果たすべきだと思うが、経営陣はどう考えているのか?

その5、報道機関としての責任

 放送局は言うまでもなく公的な責任を持った報道機関である。平時はお気楽な健康番組や観光情報の番組を放送していても、大地震などの災害、大事件、戦争などいざという時には報道機関としての色彩が濃い番組内容になっていく。放送局はどの局もそうした「公共性」「公益性」を持っているからこそ、視聴者が信頼してくれるのだ。

 そこで放送される番組内容はできるだけオープンな形であり、検証可能なものでなければならない。

 誰かの作為によって、特定企業のPRが紛れ込んでいてはならない。

 紛れ込ませるのであれば、視聴者にも「これはコマーシャル」だと理解できるようにするというルールが法律上も倫理上も求められている。

果たして現在、放送局はそうした倫理を守っていると言えるのだろうか?

 ネットニュースの世界では、ステマ疑惑やコピペ問題などがあると「ヨッピー」氏や「山本一郎」氏を始めとして様々な論客が議論し、徹底追及を行って自浄作用を促す動きが芽生え始めている。

 

 それに比べると、テレビは本当に旧態依然としている。

 

 1年以上前に開催された番組審議会の議事録の内容で「事実誤認」があった、として今頃になって実際の発言を「訂正」するような子どもだましの対応がまるで有効だと考えているようだ。

 だが、岩手放送のような「付け焼刃」の対応でも許されていた時代はもう終わりを迎えつつあると考えるべきだろう。

 むしろ、終わらせなければいけない。

 

 本来、怒るべきは番組を見て、それと知らされないままに特定商品へと誘導されてしまった東北5県の視聴者である。

 岩手放送の対応を見る限り、東北5県の視聴者は軽んじられている。

 それとも東北の視聴者はこうした「うわべだけ」の対応を許してしまうのだろうか?