【メディア分析】NHKで安倍さんの露出時間が長いのは公職選挙法違反では?

6月22日NHK「ニュース7」は安倍総裁の演説を1分1秒放送

筆者はかつて民放テレビで長く記者をしていた経験を持ち、現在は大学で「ジャーナリズム」を専門に研究し、学生たちに教えている人間です。

このため、今回の参議院選挙でも新聞やテレビがどう報じているのかに注目してウォッチしています。

参議院選挙の公示日の6月22日(水曜日)や最初の週末を迎えた6月25日(土曜日)のテレビでのニュースでの取り扱いを検証していて、民放各局とNHKのニュースでは扱いが相当に違うことに気がつきました。

簡単にいうと民放各局のニュースは各党の党首が露出している時間が「機械的に平等」といえるほど厳密なのに比べて、NHKのニュースだけが「機械的に平等」を守っていない印象なのです。

NHKでは選挙期間中も民放と比べて安倍さんの露出時間が突出して長いという事実が判明しました。

公示から投票までの期間のニュースは、各党で不平等な扱いをすると公職選挙法に抵触してしまう可能性があるので機械的に各党の党首や候補の演説の持ち時間を「平等」にするように配慮します。それが長年、民放の報道現場で働いてきた筆者の「常識」でした。実際に民放ニュースを見てみると、ほぼそうなっています。

ところがNHKニュースだけは自民党の党首である安倍首相の露出する時間が非常に長いのです。

こうした取り扱いは選挙の「公明かつ適切」を目的とする公職選挙法に違反するのではないでしょうか?

そんな疑念を持ったのでみなさんにもお知らせしようと思います。

今日もニュースで各党首の遊説は放送されるはずですのでストップウォッチを片手にぜひ計測してみてください。

6月22日(水)の参院選が公示された夜のニュース。

この日は、参院選が公示され、各党の党首らが街頭に立って訴えた「第一声」の様子をテレビ各局は伝えました。 

こうしたニュースでは公示後、投票が終わるまでの「選挙期間中」は公職選挙法が適用されるので、ふだんの「選挙期間以外の時期」と比べても各党を平等に取り扱うということをテレビの報道現場では徹底します。しかも、登場させる順番も実際に議席を持っている政党で議席が多い順に、自民、民進、公明、共産、大阪維新、社民、生活、こころ、改革と9つの政党を機械的に並べていきます。

もちろん、「第一声」の演説などは各党の党首の演説の言葉の映像をキリの良いところで編集するので言葉尻まで編集する際に多少の誤差は生じてしまいます。それでもほぼ同じくらいの長さで映像を編集する、というのは選挙の時期が来ればニュースの現場で行われている通常の作業です。

この夜の日本テレビの「NEWS ZERO」を実際に見てみましょう。

日テレ「NEWS ZERO」での民進党・岡田代表の演説(15秒)
日テレ「NEWS ZERO」での民進党・岡田代表の演説(15秒)

「参院選公示」のニュースでの自民党・安倍晋三総裁の演説は16秒。民進党の岡田克也代表の演説が15秒、公明党の山口代表が20秒、

共産党の志位委員長14秒、大阪維新の会の松井代表18秒、社民党の吉田党首15秒、生活の党の小沢代表16秒、日本のこころの中山代表

16秒、新党改革の荒井代表17秒となっています。

おそらく「15秒程度で編集する」という方針で各党の第一声を編集した結果だと思われます。

公示日、フジ「ユアタイム」は各党首を4秒で均等に放映
公示日、フジ「ユアタイム」は各党首を4秒で均等に放映

フジテレビの「ユアタイム」は、各党党首の第一声は映像のみで音声は使っていません。このため、自民党から改革まで等分に各党4秒ずつ編集し、こちらも機械的な均等さで扱っています。

では、NHKの「ニュース7」ではどうでしょう。

公示日の6月22日のNHK「ニュース7」
公示日の6月22日のNHK「ニュース7」

この日の放送は参議院選挙公示に合わせていつもよりも放送時間を拡大して伝えました。

こうした「重大時」には公共放送であるNHKの放送を信頼して見る、というのが多くの国民の視聴習慣になっていると思います。

さて、各党の党首の演説の映像の長さを比べてみましょう。

党首の動画が画面に映っている時間で計測しました。

公示日の「ニュース7」第一声では安倍総裁が最長の1分超
公示日の「ニュース7」第一声では安倍総裁が最長の1分超

自民・安倍総裁1分1秒、民進党・岡田代表51秒、公明党・山口代表40秒、共産・志位委員長35秒、大阪維新・松井代表23秒、社民・吉田党首20秒、生活・小沢代表21秒、こころ・中山代表19秒、改革・荒井代表17秒。

公示日(22日)のNHK「ニュース7」新党改革の荒井代表の演説は17秒
公示日(22日)のNHK「ニュース7」新党改革の荒井代表の演説は17秒

明らかに安倍さんの演説の放映時間が長くなっています。

NHKに聞いてみないとわかりませんが、NHK側としては各党の持ち時間の均等を意識しつつも最大議席数の政党から「差」をつけて長さを配分した、という主張でそうしているのかもしれません。 ただ、選挙の公正は何よりも守るべきものです。

テレビの出演者が選挙に立候補したらその人物が出ている場面は全面カットされるのがテレビ界では常識です。

あるいは、テレビの出演者が立候補までしなくても、特定の候補や政党の応援をおおっぴらに行っている場合には、当面の間(選挙が終わるまでは)その出演者の出演は見送られるのもテレビ界では常識です。

そうしないと、選挙の公正さをテレビ放送が妨げることになってしまい、場合によっては選挙管理委員会などから指導されるなど大きな問題になりかねないからです。

では公職選挙法上、NHKのニュースのなかで設けている各党首の「露出の差」は許されるものなのでしょうか。

議席数に差があるとはいえ、実際に国会に議席を持つ政党なのに自民党の安倍さんが1分1秒で、新党改革の荒井さんが17秒。

この露出時間の差はジャーナリズムの常識からみても大きすぎると感じます。

NHK「ニュース7」ではこのVTRの後で各党の党首と中継を結び、生放送で選挙戦での各党の訴えについてインタビューしました。

その際の各党の持ち時間を計測したら、結果は以下のようになりました。

22日の「ニュース7」安倍総裁の持ち時間は22分35秒
22日の「ニュース7」安倍総裁の持ち時間は22分35秒

自民・安倍21分57秒、民進・岡田12分04秒、公明・山口7分57秒、共産・志位7分00秒、大阪維新・松井5分55秒、社民・吉田4分10秒、生活・小沢3分47秒、こころ・中山4分10秒、改革・荒井3分44秒。

22日の「ニュース7」。共産・志位委員長の持ち時間は7分00秒
22日の「ニュース7」。共産・志位委員長の持ち時間は7分00秒

自民党と比べると共産党は3分の1以下、新党改革は6分の1程度。

同じ政党同士なのに、あまりに差をつけすぎだといえないでしょうか。

では、公示後に初めての週末となった6月25日(土曜日)のニュースでの各党首の訴えはどうだったのでしょう。

日本テレビの「news every.サタデー」の扱いは、

自民・安倍20秒、民進・岡田18秒、公明・山口18秒、共産・志位18秒、大阪維新・松井17秒、社民・吉田16秒、生活・小沢16秒、こころ・中山16秒、改革・荒井17秒。

25日の日テレ「news every.サタデー」大阪維新の松井代表の露出は17秒
25日の日テレ「news every.サタデー」大阪維新の松井代表の露出は17秒

16秒~20秒という「機械的な平等」が保たれています。

NHKの「ニュース7」では、

自民・安倍40秒、民進・岡田32秒、公明・山口28秒、共産・志位20秒、大阪維新・松井20秒、社民・吉田16秒、生活・小沢16秒、こころ・中山14秒、改革・荒井11秒。

25日のNHK「ニュース7」の安倍総裁の露出は40秒
25日のNHK「ニュース7」の安倍総裁の露出は40秒

同じ政党同士なのに、やはり自民の安倍さんと改革の荒井さんの間には4倍近くも大きな差があります。

機械的なほどに「ほぼ同じ秒数」で統一している民放と比べると、NHKの扱いは明らかに突出しています。

同じ政党なのにこうした差別的な扱いをされていて、新党改革は怒らないのでしょうか。

公示の後、投票開票までの選挙期間。

公職選挙法によってふだん以上の「公明かつ適切」な取り扱いが求められ、映像の露出においても民放各社は平等な取り扱いに神経を尖らせている期間です。

ところがNHKだけはどうも基準が違うらしく、ニュースでの安倍さんの映像や音声が流れる時間が圧倒的に長いことがはっきりしました。

こうしたテレビ報道は、選挙の結果にどう結びついているのでしょう。

実は「党首が露出する時間」と選挙の結果との相関関係があるとの指摘が研究者の間でされています。

つまり、人々の目に触れる時間が長ければ長いほど、有権者はその政党に入れてしまう傾向が強いというのです。

選挙が公示される前、つまり選挙期間外でも、NHKのニュース番組は安倍さんの露出時間が長いというのは多くの人たちの実感です。 

政党の党首である他に一国を代表する総理大臣でもあるのですから、ある意味仕方ない面もあると思います。

しかし、選挙期間中はとりわけ露出についても平等をはかってほしい。そうでないと公正な選挙ができないからです。

公職選挙法が適用されるはずの選挙期間中でさえ、NHKでは安倍さんの露出時間が他の党首に比べて際立って長いことが判明しました。

このことは選挙の公正さを妨げているのではないでしょうか。

大きな疑問が残るところです。

この問題に対して、公職選挙法を管轄する選挙管理委員会や総務省、さらにNHKはどう答えるのでしょう。