”未練”がにじんだ大越健介キャスター 出演者たちの卒業コメント(1)

テレビ番組は、ちょうど替わり目。

年度いっぱいで番組を降板する出演者たちは「卒業」というテレビ業界用語で、”最後のあいさつ”をしている。

『報道ステーション』のコメンテーターを降ろされた(?)という元経産官僚の古賀茂明氏は予定調和のお約束を破る爆弾発言ばかりが話題になったが、その陰に隠れるように「卒業」していくキャスターたちの最後のコメントは味わいがある。

それをいくつか紹介したい。

3月27日(金)がキャスターとして最後のコメントになったNHK『ニュースウォッチ9』の大越健介キャスター。

この日は、番組冒頭にドイツの旅客機墜落事故の副操縦士についてドイツの検察当局が彼の関係先から「勤務禁止を命じた診断書」が見つかったというニュース速報が流れるなど、ややバタバタ感があり、大越キャスターもとちるというほどではないが、珍しく何カ所かでコメントをかんでいた。大越氏はキャスターとしての安定感が抜群で、感情は(彼の大好きな野球の話題以外には)あまり出さず、こうしたことはあまりないことだった。

番組の最後の大越キャスターのコメント

今日も盛りだくさんでしたが私たち3人は今日でこの番組のキャスターを交代します。

(この後で2人の女性キャスターがそれぞれ挨拶)

ゆっくりとご挨拶をしたいところでしたけど、なかなかそうはさせてくれないのが、ニュースの現場だと思います。

でもね、(と隣の2人の女性キャスターに向かって)

それで良かったんだというように私は思います。私たち3人それぞれ進む道は違いますけれども、

本来、記者である私も含めて、いずれまた別の機会に画面を通して、みなさんにお目にかかりたいと思います。

それまでの間、しばしの間、お別れです。

さようなら。

そして、またいずれお会いしましょう。

長い間、ありがとうございました。

このコメントは、アナウンサーはともかく、記者出身である大越氏が口にする言葉としては異例だと思う。

彼がいずれ就く可能性がある政治部長や解説委員などのポストでもテレビ出演することはあっても、「いずれお会いする」ことにはならない。そこには「キャスターとして戻ってくる」という特別な意味が込められているように感じた。

「画面を通じて」「みなさんにお目にかかりたい」

「しばしの間、お別れです」

再び、出演する機会を待ち望み、必ず果たす、という強い意志を感じさせる。

私自身は、大越健介キャスターの登場とともに平日午後9時のNHKニュースが、視聴率主義の傾向が強まり、ことの重要性は度外視して視聴者の関心が高いものから放送する項目の並べ方や自民党への「配慮」が強くなっていった印象を受けていた。

2013年7月2日、『ニュースウォッチ9』が前の月にイギリスで行なわれたG8サミットで、安倍首相とオバマ大統領が「非公式」に協議していたという「独自映像」を報道した。G8サミットでは、「サミットに合わせて通常は行なわれる日米(公式)首脳会談が開かれなかった」として野党の民主党からも追及されていたなかで、自民党政権に配慮したような「不自然な報道」だった。

しかも、このニュースが放送されたのは、参議院議員選挙の公示のわずか2日前という微妙なタイミングだった。

大越キャスターは、ニュースの終わりに「2人の表情を含めて、真剣なやりとりの様子が伝わってきたのは初めてです」とコメントした。

そのコメントは、大越氏の本心だったのだろうか。

政治部の記者として長年やってきた実績を考えると、あのタイミングでの放送に躊躇や戸惑いがなかったとしたら、まともな記者ではない。

私は大越氏は「言わされた」のではないのか、という印象を持っている。

大越キャスター時代の『ニュースウォッチ9』の特徴の一つに、安倍晋三首相の「肉声」を聞かせるシーンがきわめて多くなった点がある。

この番組では、記者会見でも「ぶら下がり」でも国会答弁でも、安倍首相の「音声とりきり」シーンがやたら多い。これはNHK内部や民放のテレビ記者、大手新聞の記者たちのほとんどが口にしている印象である。

かつて、ここまで自国の首相の肉声を連日流すことに熱心だったニュース番組はなかったと思う。

ところが、キャスターを務める最後の週になった3月23日(月)~27日(金)の間、安倍首相の「音声とりきり」はただの一カ所も放送されなかった。

もちろん、この間の主なニュースがドイツの旅客機の墜落事故だったという理由はあるだろう。

また、辺野古での作業をめぐって、沖縄県と安倍政権がまっこうから対立する構図となって、政権側が菅義偉官房長官を前面に出して首相をあまり表に出さなかった事情もあったのかもしれない。

それでも、『ニュースウォッチ9』が安倍首相の肉声を1週間も使わなかったというのはきわめて異例の出来事だった。

そういう意味では、最後の最後で大越キャスターが「キャスターらしさ」を発揮したのかもしれない、という推測はできる。

最後のキャスターコメントからは、大越氏の「言葉にできない思い」が伝わってきた。

「しばしの間、お別れです」

何らかの形での捲土重来を期したいと思う。

政権も注目するなかでの看板ニュース番組のキャスターという重しがとれた時に、大越氏がジャーナリストとしてどんな発言をするのか、視聴者の一人として楽しみにしたいと思う。