福島第一原発で”チラ見え”した東電社員の「慢心」と「油断」 【ラストに映像あり】

3月9日 福島第一原発を取材したヤフーニュース個人オーサーたち(左端が筆者)

 3月9日、原発事故4年のタイミングで福島第一原発内を「ヤフーニュース個人」のオーサーの一人として取材した。

 福島第一原発内に滞在したのは3時間ほど。

 その前後も各1時間半ほど東電の人たちと一緒に過ごし、別の日に都内で行なわれた取材説明会も含めると合計で数時間、東電の原発担当者や広報担当者と一緒にいる機会を持った。

 テレビ局の記者時代から福島第一原発を見つめてきた人間として久しぶりの福島第一原発取材だった。

 個人的に関心があったのは、「東電社員の意識・姿勢・態度」が事故4年経って、「変わったのか」どうかという点だった。

 福島第一原発を案内してくれる東電の社員たちは、生真面目なほど取材に協力的に案内してくれた。

 たとえば、原発内をバスで移動するが、バスに乗るたびに靴の上にビニールの袋をさらに重ねて泥を車内に持ち込まないようにする。記者らが乗り込むたびにビニール袋を履かせてくれる姿は「献身的」と表現してもいい。彼らは報道陣が来るたびにこの作業を繰り返しているのだろう。

バスに乗るたびに取材班の靴にビニールカバーを履かせる東電社員
バスに乗るたびに取材班の靴にビニールカバーを履かせる東電社員

 事故後、いろいろな場所で「頭を下げ続けてきた」東電社員たち。

 会話をしていても「真面目な人」が多いと感じる。

 特に技術畑の社員は細かいことでも質問すると、そのつど考えながら回答してくれて、それぞれが働きがいをもって仕事をしていることが伝わってくる。

 それなのになぜ彼らはこうも頻繁に汚染水漏れ事故を起こしてしまうのだろう。

 もちろん、かつて人類が経験したことがない原発事故の収拾という未知の分野の作業であり、技術的にも手探りをしながらという面があるに違いない。

起こしてしまうのは技術的な問題などで不可抗力な面があるとしても、なぜそれを公表しないままでいいと判断したのだろう。

彼らと一緒にいた数時間、ちょっとした会話などから、東電社員が語る”本音”に「慢心」と「油断」がチラチラと見え隠れしたのでお伝えしたい。

★なぜ汚染水漏れを長い間、公表しなかったのか?

 2月に明るみになった福島第一原発のタンク上部の雨水が外洋に流出した問題。

福島第一原発内の汚染水タンク群
福島第一原発内の汚染水タンク群

 東電は1年近く前から流出の事実を把握していたのに発表していなかったことから、地元の漁業関係者や周辺自治体、政府からも不信を持たれる事態になっている。信頼回復に向けたこれまでの努力が水泡に期した感じだ。

 この点について、彼らの”本音”はどうなのだろう?

「(従来、問題になってきた地下水が原発で放射能汚染されるという形の汚染水ではなく)元が雨水だったのでそっちには頭が回らなかったというのが正直なところ。汚染の濃度もたいしたことはないとはまでは言いませんけど…」

 会社員や公務員なら誰しも経験があると思うが、自分が「…とまでは言いませんけど」という言い方をする時、本音では「…」だと思っている、ということを表す言葉だ。自分の経験でも、あえて、そういう言葉を使うのは「建前としては言えないけれども」「本音はこうなのだ」と伝えたい場合だ。

 つまり、この言葉は、東電の人たちが「本音」では、雨水の流出を内心では「たいしたことはない」と考えていることを示している。

 しかも、雨水については地下水経由の汚染水と違って「公表する必要があると思わなかった」という現場の職員の感じ方が根強くあったことも伝わってくる。地下水の放射能汚染の度合いも雨水であったも汚染されているなら同じ「汚染水」ではないか、と思うのが一般的な感じ方だと思うが、東電内の感じ方は違うようだ。実際に「たいしたことはない」なら、実際の放射能汚染の濃度などきちんと数字を上げて説明すべきだろう。あるいはマスコミがあえて伝えていないのだろうか。

汚染水の流出非公表に地元反発 東電は陳謝(2月25日・朝日新聞)

東京電力福島第一原発から港湾外の海に汚染水が流出していた問題で、地元の福島県からは25日、流出を公表してこなかった東電の姿勢に一斉に反発の声が上がった。建屋周辺の地下水をくみ上げ、浄化後に海に流す「サブドレン計画」の交渉は棚上げに。信頼関係が失われ、廃炉計画に影響する可能性も出てきた。

出典:朝日新聞デジタル

 東電が汚染された雨水の流出を公表していなかったことは政府も遺憾の意を表した。

 

 他の場合でも、まだ公表されていない事実があるのではないのかと考えるのが人情だろう。

★「原則公開」と発表しながら、何が「原則」で何が「例外」かを明確に答えられなかった広報担当の社員

 東電は、全データを「原則公開」という方針を発表した。

東電、全データ原則公開へ=30日に新基準、雨水流出で―福島第1(3月6日・時事通信)

東京電力福島第1原発で放射性物質に汚染された雨水が排水路から外洋に流出した問題で、東電は6日、周辺環境に直接影響を及ぼす水やほこりの全放射線データを原則公開する方針を決めたと発表した。同日の取締役会で決定した。具体的な基準などを策定し、30日に公表する予定。

出典:ヤフーニュース

 この点についても福島第一原発を案内してくれた広報担当社員に尋ねてみた。

「原則公開」というのは「例外」もあるという意味だ。今回の汚染水流出を把握して1年近く公表しなかったことで、政府や地元には東電不信が強まっている。そこで原則公開の原則を今月末に公表する。どこまでどのように公表するのかは広報担当としても当然、関心を持って調整しているだろう。

 

そう思って、どこまでが「原則」で、どこが「例外」なのか、質問してみた。

 広報担当者は個人としてこの事実を知らされた時に「どうして?」という思いだったという。

 

 こうした重要な事実を公表しないという感覚が信じられないという思いだったことがわかる。

 彼のように、地元自治体、漁業者、マスコミらの世間の風当たりをいつも感じる場にいる広報担当者と、そうでない部署にいる人間では意識に差が出てしまうということだろう。

 ただ、その彼にしても、何が「原則」で何が「例外」なのか、という質問に対しては理解できない回答を示した。

「たとえば、(汚染されていない)水道の蛇口が閉まっていなかったとして、その水が海に流れたからといって、いちいち公表するのも…。そういう意味では例外があるということ。原則はすべて公開する、ということです」

 いった誰が、福島第一原発から「汚染されていない水道の水」が海に流れ出たとして、この事実を公表しろ、というのだろうか?

 

 そんなことを公表しなくてもいいのは、”社会の常識”というものだろう。

 だが、広報担当者とのやりとりでわかったことは、東電という会社は”社会の常識”が通じない面がある、ということだ。

 ”社会の常識”として、これは公表すべき、これは公表すべきではない、とかなり細かくマニュアルのように決めないと理解できない社員が相当数いる、ということなのだろう。

 よく考えてみれば私たち国民はいろいろなことを東電まかせにしている以上、かなり深刻なことだ。

 汚染していても「雨水」ならば公表しなくていいと考えてしまう人たちが多いなど、彼らの”常識”は”社会の常識”とは違う。

 一方、大事なことは、

「原則公開」とすると、「原則」だから「例外」もあるよね、という話になり、「例外」をいくつも作って、また抜け穴ができてしまう、

ということだ。

 考えてみてば、「雨水」も東電社員の間では「汚染水」ではなく「例外」と考えられていたからこそ、社員は漏れていてもずっと公表しなくていいと思っていたのだろう。

 だからこそ「例外」を作ってはならない。

 広報担当者が例として出した「水道の蛇口が開いてきれいな水が流出した場合」などは、机上の空論で「言葉遊び」というものだろう。そんな言葉遊びで逃げるような余裕があるならば、本当にまだ隠されていない事実がないのか、社内点検をする方が先だろう。 

ただ、どうも説明が「自分はそうは思っていないが…」という、当事者意識の欠如と緊張感のなさを感じたのも事実だ。

 どうも東電という会社は、全般的に「場当たり的な対応」が多すぎる印象を受ける。とりあえず「頭を下げる」、とりあえず「マスコミの取材を受ける」。その延長で、とりあえず「原則公開」という感じなのだ。つまり、事故を起こした原子力発電所として今も外に放射性物質を放出している、という「あってはならない」状態がずっと続いていて、今も「状況がコントロールされている」とは言いがたいということを、身にしみていない印象なのだ。

 ただ、印象はどこまで行っても印象でしかないので、それは個々の読者に判断してもらうしかない。

 

 

★作業員の死亡事故が増えたのは、「働く作業員の数が増えたから」で「割合が増えているわけではない」

作業中に転落死事故が起きたタンク
作業中に転落死事故が起きたタンク

 写真にあるオレンジ色のクレーンの後ろに見えるタンクでは今年1月、作業員が転落して死亡する事故が起きている。

昨年3月にも別の場所で作業員が死亡する事故が起きるなど、作業現場では「作業工程を急かされるあまり、死傷事故も多発している」(3月10日・東京新聞)と批判されている。

 この点について、私たちを案内してくれた東電の広報担当社員は以下のように言う。

「1年前は1日あたり約3000人だった作業員は現在、約7000人です。そう考えると、必ずしも割合が増えているかといえば増えているわけではありません」

 作業する人の数が増えているから、事故の数が多くなるのはある意味、当然の話だというのだ。

 もっとも広報担当者はこう付け加えるのを忘れなかった。

「もちろん、会社として、だから『いい』というわけではありません」

★私たちが訪れた翌日(10日)も、東電は福島第一原発で汚染された雨水が地中に漏れ出ていたことを公表した。

比較的高濃度の汚染された雨水 約750トン流出(NHK)

東京電力福島第一原子力発電所の汚染水をためるタンクを囲うせきから、比較的高い濃度の汚染された雨水が、推計でおよそ750トン外に流れ出たことが分かりました。

出典:NHK ニュースWeb

 ストロンチウムなどが検出されたという。

 現状において、福島の海がこれ以上放射性物質で汚染しないようにするには、東京電力に汚染水流出防止をがんばってもらう他はない。

 東電という会社に事故の責任があることは確かでも、国など他の機関がそれを代行できる仕組みにはなっていないのだから。

 今回、そうした東電社員としての「本音」が透けてみえた東電。

 もちろん、心の底の「本音」はもっとドロドロしたものがあるだろうけど、人間である以上、組織である以上、自分たちを正当化する「言い訳」も口にしたくなるのは人の常というものだろう。4年経ったことで、ある意味、そうした余裕も生まれてきたのかもしれない。

事故から4年経って、「謝罪慣れ」してきた東京電力。

それゆえの「慢心」や「油断」がチラリと見えているというのが個人的な感想だ。

 だとすれば、国民もマスコミも、東電まかせにしてはこれからも東電のミスや間違いはこれからも続くだろうと覚悟したほうがいい。

 汚染水対策が万全かどうか。

 発表されるデータに抜け落ちているものがないのか。

 外から厳しい目をもってチェックし、東電の人たちが緊張感を持って仕事をしているかどうか折にふれて確認していく必要がある。

 興味ある人は、作業員の事故の増加や雨水の流出などに関する東電の広報担当者の説明の映像をチェックしてほしい。

(この記事の画像や動画はすべて「Yahoo!ニュース 個人オーサー代表撮影」)