強姦事件「盗撮ビデオ」で示談を迫った弁護士 「許せない」と怒りの声上がる

刑法177条の強姦罪 やや下の180条で「親告罪」とされる

「強姦魔そのものも許せませんが、盗撮ビデオの存在を材料にして『これが出ると傷つくことになる』などと被害者女性を脅すような振る舞いをした弁護士も、性犯罪に苦しむ女性を精神的にセカンドレイプするのと同じで許すことができません」

 こう強い憤りをみせているのが、強姦被害者の女性たちから相談を受けるなど、性暴力の問題に関する様々な活動を行なっている東京のNPO「しあわせなみだ」の代表を務める中野宏美さんだ。中野さんとは、私がテレビ局で記者をしていた頃からの旧知の関係である。

 問題となった強姦事件は、宮崎県で起きた。

 2013年、宮崎市内のオイルマッサージ店に客として入った20代の女性A子さんを40代の経営者の男Bが襲い、性行為に及んだ。

 A子さんによると、拒絶の意思を示したが、暴力で身体の自由を奪われて恐怖にさらされたとしている。

 A子さんは被害を弁護士に相談したが、示談をめぐる交渉の段階で、A子さんの弁護士はBの弁護士から「一連の行為を撮影したビデオがある」と知らされ、「告訴するならA子さんは法廷でこのビデオを見せられることになる。苦痛だろう」などとして「示談に応じるならこのビデオを処分する」と伝えられたという。

 A子さんはそんなビデオがあることは知らなかった。

明らかに「盗撮行為」である。

 しかもBの弁護士は、「ビデオの処分」するかわりに、金銭をいっさい支払わない形での「示談」を求めてきたという。

 これではまるで、盗撮行為を行ないながら(それ自体、A子さんの同意を得ていない犯罪行為である)、「このビデオを出してほしくなければオレの言うことを聞け」と言っているのと大差ない。

「性暴力」にくわしい中野さんのところにもこの弁護士の行為について情報が伝わり、彼女はさっそく当事者らから事情を聞いて、ネット上の署名「チェンジ・ドット・オルグ」で署名集めを開始した。

署名タイトル「宮崎強姦ビデオ加害者側弁護士懲戒請求、ならびに被害者に対する不当な圧力をなくす仕組みの構築」

今回、性犯罪裁判を起こした被害者が、加害者側の弁護士から「示談に応じれば性犯罪時のビデオを処分する」と持ちかけられました。

被害者は「断れば自分の動画が流出するかも」と、大変な恐怖を感じています。

(中略)

さらに裁判では、法廷で、加害者や裁判官のいる前で、自分に起こった性犯罪を、自ら説明しなければなりません。

性犯罪裁判を起こすことは、本当に大変なことです。

それにも関わらず、加害者側の弁護士が、性犯罪被害時のビデオを武器に、示談を持ちかけるのは、あまりにもひどいのではないでしょうか。

基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする弁護士が、被害者を恐怖に陥れることを、許してよいのでしょうか。

そしてこの署名は、性犯罪裁判に限らず、私たち市民が、被告側弁護士による被害者の人権侵害を許さない、という意思を示すものです。

加害者側の弁護士の脅迫によって、被害者の人権が損なわれることがないよう、

被害者が安心して裁判で自分の権利を回復できるよう、

市民の感覚が反映された裁判を実現していくために、

社会を動かす署名にご協力ください。

出典:change.org 「宮崎強姦ビデオ加害者側弁護士懲戒請求」

 こうして集めたおよそ1万5千人の署名とともに問題の弁護士の懲戒請求を求める要望書を3月3日、宮崎県弁護士会の会長宛に提出した。

 この日の様子は全国ニュースではほとんど出なかったが、宮崎県ではそれなりのニュースになった。映像付きで見ることができる。

宮崎放送「NPO法人が弁護士の懲戒を請求」

示談交渉をめぐり、弁護士の懲戒を請求です。宮崎地裁で公判中の強姦事件の裁判に関し、被告の弁護人が証拠ビデオの存在を示して告訴取り下げの示談交渉をしたのは問題だとして、NPO法人の代表らがこの弁護士の懲戒を県弁護士会に請求しました。

出典:宮崎放送のニュース(3月3日)

テレビ宮崎「撮影動画で示談交渉 弁護士に懲戒請求」

県弁護士会に懲戒請求をしたのは性暴力撲滅を訴える東京のNPO法人「しあわせなみだ」の中野宏美代表です。

きょうは県内で女性問題に取り組むNPO法人のメンバーが代理で提出しました。

中野代表は、今回の示談交渉はビデオが女性の同意なく撮影されている点や女性が「脅された」と感じた点を理由に不当な圧力であると訴えています。

また、インターネット上で募った懲戒請求などに賛同する1万4000人以上の署名も提出されました。

県弁護士会では懲戒請求について今後、綱紀委員会で調査するとしています。

出典:テレビ宮崎のニュース(3月3日)

この他、NHKも県内ニュースで伝えた。

 

また地元紙も懲戒請求の日の前から伝えている。

宮崎日日新聞「NPOが弁護士懲戒請求へ 宮崎市の強姦示談交渉」

2015年2月27日

 強姦(ごうかん)などの罪に問われた宮崎市のオイルマッサージ店経営の男の弁護人が、被害を訴えた女性側に「当時の様子を写したビデオがあり、示談に応じれば処分する」と持ち掛けたのは不当な圧力として、性暴力撲滅を訴える東京の民間団体の代表が3月3日、宮崎県弁護士会にこの弁護士の懲戒を請求する。

出典:宮崎日日新聞(2月27日)

西日本新聞「弁護士、強姦事件の映像で示談要求」

2015年01月17日

 宮崎市のマッサージ店で女性客に乱暴したとして強姦罪に問われた男(44)の私選弁護人が、被害者女性側に「犯行の様子を撮ったビデオがあるが、示談に応じれば処分する」と述べたことが17日、分かった。

出典:西日本新聞のサイト(1月17日)

 いったいなぜ弁護士がこのような行動をするのだろうか。

 それは強姦罪が「親告罪」だという事情がある。

 

 つまり、被害を受けた本人が警察に訴え、相手を処罰する意思を明確に示さない限り、相手は罪に問われない。告訴がなければ警察の捜査は行われないし、告訴が取り消されてしまえば捜査は終了する。本人の告訴がなければ検察も起訴できないので裁判にもかけられることはない。

 被害者は何度も「その時に何か起きたのか」の事情を聞かれるし、実際に裁判になれば、「本当に拒んだのか?」「逃げられたのに逃げなかったのではないか?」なという質問にも答えなければならない。

 なお、示談の交渉は決裂し、けっきょく、被害女性A子さんはBを告訴し、裁判が始まっている。

 こうした事件での常であるが、加害者側とされるBは、A子さんとの間に合意があったと主張している。

 裁判でその暴行シーンのビデオを見ることになったA子さんは以下のように感想を書いている。

起訴された後、法廷で証言をしなければならなくなり、そのビデオに写されているのが自分なのかを確認しなければなりませんでしたが、自分がレイプされている映像を見て、家に帰りつくと猛烈な頭痛に襲われました。捜査機関の方がビデオを見た上で起訴しているわけですが、法廷で述べたとおり、映像は、当時自分の頭で思っていたほどは強くはなかったですが、抵抗している様子は映っていましたし、言葉でも何度も拒否していましたので、これのどこが無罪の証拠なのか、弁護人はそういえば私が告訴を取り下げると思っていたのではないかと今は思います。その日は、しつこいくらい夢に出てきてまともに眠れず、次の日は仕事を休んでしまいました。

 法律で決められていることだと説明を受けてはいますが、ビデオを見れば分かるのに、法廷で証言し、弁護人から繰り返し「抵抗できたのではないか」という趣旨の尋問を受けなければならないというのは、被害女性にとってこれほど屈辱的なことはないと思いました。

出典:毎日新聞 2015年1月21日宮崎強姦ビデオ:被害女性が公表した手記全文

 強姦という、女性にとっての精神的、身体的な打撃を与える犯罪行為で相手を処罰するためには、事実を自ら警察に訴え、しかも裁判でもその時の状況を証言していかねばならないという現状における被害者の苦痛が記されている。

 

 

 親告罪であることを悪用して「盗撮ビデオ」によって本人が何の慰謝料ももらえないまま「泣き寝入り」するように求めたのが、今回の弁護士の行為だといえる。

 「盗撮ビデオ」をめぐって示談を求められた時のA子さんの心境も毎日新聞に書かれている。

警察の方からは、マッサージ店から私のビデオは押収されなかったので、撮影していなかったのだろうと説明され、安心していましたので、被告人がビデオを撮影していて、それが今弁護人の手元にあるということを知らされた時は、自分の人生が終わったような恐怖を覚えました。法廷で証言をした後にビデオの存在を知らされている他の被害者の方も同じようなつらい気持ちだと思います。

 その後、弁護人から提案された示談の内容は、とても私に選択肢を与えられていると思えるものではなく、伝えられた私としては、脅されたような恐怖でいっぱいでした。私に返して当然の盗撮したビデオを処分することが私のメリットであるかのような説明も納得できるものではありませんでしたし、お金で解決するものではありませんが、0円という提案も私を被害者としてすら認めないというように感じられました。

出典:毎日新聞 2015年1月21日宮崎強姦ビデオ:被害女性が公表した手記全文

 法務省の調べによると、性犯罪に遭った女性が警察に届け出をするのはわずか13%に過ぎないという。

 異性から無理やり性交をさせられた女性のうち、67%が誰にも相談していないという内閣府のデータもある。

「多くの女性たちが『盗撮ビデオが流出するのではないか?』と恐れて、被害に遭っても泣き寝入りをしている現実があります。

それなのに弁護士ともあろう人が「盗撮ビデオ」の存在をちらつかせて、「告訴取り下げ」を求めてくるなんて…。驚きました。そういう人間が弱い者の味方、正義の味方としてバッジをつけていていいのでしょうか?」(中野宏美さん)

 性暴力被害で女性たちが泣き寝入りするのを数多く見てきた中野さんによると、今回のようなことも「氷山の一角」だという。

 今回の弁護士の行為は、それでなくとも傷ついた被害者女性への「不当な圧力」だと考え、それをなくしていく運動を広げていきたいと語る。

 この問題をきっかけに強姦事件で被害者が泣き寝入りしたくてもすむようにと訴える中野さんは、明日(3月9日)、東京でこの問題のシンポジウムを開く予定だ。

 親告罪という形が続くべきなのか。被害者が訴えたとしてもその本人のプライバシーや尊厳を守る形での捜査や司法手続きはないのか。

 あるいは、弁護士としてやっていいことと悪いことはどこまでなのか。

 いろいろな面で疑問や不十分な点があるが、性暴力という理不尽にさらされた人が、法の力で相手を処罰してほしいと願う時に、性犯罪特有の理不尽まで引き受けなければならないとしたら、そうした状況はまっさきに改善される必要がある。

*===========================================

【3/9:東京】

ヘンな社会にしないためにワタシたちにできること

~なぜ弁護士は強姦盗撮ビデオで示談交渉できるのか~

===========================================*

【日時】

☆3月9日(月)14:00-16:30

【場所】

☆東京ウィメンズプラザ 第2会議室A

JR/東急東横線/京王井の頭線/東京メトロ副都心線 渋谷駅 宮益坂口から徒歩12分

東京メトロ銀座線/半蔵門線/千代田線 表参道駅 B2出口から徒歩7分

出典:NPO「しあわせなみだ」ホームページ