「貧困ジャーナリズム大賞」はネット発信のみわよしこさんと下野新聞の連載

9月4日夕方、社会の貧困問題について優れた報道をした「個人」に贈られる「貧困ジャーナリズム大賞2014」の各賞が発表されて表彰が行われた。主催は、貧困問題に関する個人や団体によるゆるやかなネットワークである反貧困ネットワーク(代表世話人・宇都宮健児)だ。

今回で7度目となる「貧困ジャーナリズム大賞」では、自薦他薦と合わせて43作品が選考対象となり、そこから「大賞」2、「特別賞」2、「賞」9の合計13作品が選ばれた。

今回は初めて大賞として「インターネットで発信されている記事」が選ばれた。

大賞に選ばれた、みわよしこさんはヤフー・ニュース個人やダイヤモンド・オンラインなどで「生活保護」について発信している。

おかしいことは「おかしい」と言おう みわよしこの記事一覧

出典:ヤフーニュース個人 みわよしこの記事一覧

生活保護のリアル みわよしこ

急増する生活保護費の不正受給が社会問題化する昨今。「生活保護」制度自体の見直しまでもが取りざたされはじめている。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を知ってもらうことを目的とし、制度そのものの解説とともに、生活保護受給者たちなどを取材。「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

出典:ダイヤモンド・オンライン「生活保護のリアル」

また、もう一つの大賞には、下野新聞の連載「希望って何ですか 貧困の中の子ども」が選ばれた。

子どもの貧困率 14.9%-。少子高齢社会の「希望」であるはずの子ども。その6人に1人が貧困の中で生きている。かつて「1億総中流」と言われ、その安心感に慣らされた私たちに、実感はあるか、目を背けてはいないだろうか。きっと目を凝らさないと見いだせない。私たちは子どもの姿を見つめ、考え続けたい。

「希望って何ですか」と。

「希望って何ですか 貧困の中の子ども」は下野新聞で連載

出典:下野新聞オフィシャルサイト

さらに漫画の作品も初めて入賞し、貧困問題に関する報道が様々なバリエーションで広がりつつある現状を反映した。

→ 入賞した、さいきまこ「陽の当たる家~生活保護に支えられて~」

ささやかだけれど、幸せな生活を送っていた沢田一家。ところがある日、夫が突然の病に倒れ、収入が激減。窮地に立たされた沢田一家は…!?

出典:秋田書店のホームページ

反貧困ネットワークが9月4日に発表した受賞作品の対象者の一覧と選評は以下の通り。

【貧困ジャーナリズム大賞】

●ダイヤモンド・オンラインなどでの一連の生活保護報道

(ジャーナリスト・みわよしこ) 

インターネットを中心に生活保護の問題を「受給する側の視点」を意識して発信し続けている。なかでも保護基準の削減や生活保護法改正の影響など最近の国の政策についてリアルな事例を出しながらの検証は的確だ。さらに今も広がる水際作戦の実態、外国人の受給の是非、訴訟になったケースなど、大手マスコミが扱わない細かい論点から多くの記事を書いて注意喚起した。彼女のネット記事は、新聞やテレビなどマスコミ報道にも影響を与え、「生活保護バッシング」一色だった世論を変えつつある。生活保護について多角的な報道を重ねた功績を高く評価する。

●下野新聞 長期連載

キャンペーン報道「希望って何ですか 貧困の中の子ども」

(山崎一洋社会部部長代理以下、下野新聞社編集局「子どもの希望」取材班)

2014年1月1日1面から6月29日まで計60回の意欲的な連載。8章に分かれ読者からの反響もまとめた。栃木県内の社会的養護の体験者のサロン、定時制高校、母子家庭支援など、現場を丹念に歩き取材し、子どもの貧困の実態を報道。「子どもの貧困を放置することは社会による虐待」と言う支援者の言葉を紹介。英国取材も実施し、子どもの貧困対策の必要性を喚起した。読者の反響も大きい。地方ジャーナリズムが可能性を追求する挑戦として高く評価する。                         

【貧困ジャーナリズム特別賞】

●漫画「マンガでわかる生活保護 陽のあたる家~生活保護に支えられて」    

(漫画家さいきまこ /秋田書店「フォアミセス」)

普通に暮らしていた一家が父親の病気をきっかけに生活に困窮し、生活保護受給しようとしたらどう扱われるのか。水際作戦、世間の冷たい視線、支援者の姿勢など、生存権を保障する生活保護制度の重要性を伝えた。漫画という媒体で、わかりやすく、生活保護行政の実態をリアルに伝えた功績を評価する。

●ETVハートネットTV「子どもクライシス」シリーズなど、子どもの貧困に焦点を当てた一連の番組

(NHK 青山浩平、山崎啓明、和田雄介など「ハートネットTV」取材班)

2014年は子どもの貧困対策基本法が制定され、政府の「大綱」が策定されるなど「子どもの貧困」解消に国が本格的に取り組んだ元年になった。「ハートネットTV」は「子どもクライシス」シリーズを中心に、児童虐待の増加や一人親家庭の貧困の状況、地方自治体による子ども支援事業削減の影響などを多角的に報道。支援を必要とする子どもたちが数多いことを繰り返し伝え、マスコミ報道の先導役を担った。他のシリーズでも、ネットで応募するベビーシッター業者による幼児死亡事件の背景や改善策へ向けた議論に切り込むなど、子どもの貧困をめぐる議論をリードした点で他メディアの追随を許さなかった。                          

【貧困ジャーナリズム賞】

●NHKドラマ「サイレント・プア」第1回~9回

( チーフ・プロデューサー 陸田元一 ほか制作スタッフ)

大阪・豊中市社会福祉協議会での実践を実質的なモデルにして、社会福祉協議会のコミュニティ・ソーシャル・ワーカーによる支援の現状をドラマ化。ゴミ屋敷で周囲から孤立する高齢者、認知症の老人、引きこもり、アルコール依存症など、従来の福祉行政では必ずしも手が届かなかった現代的な貧困現象について、当事者に徹底して寄り添うことで解決を模索する主人公の姿が共感を呼んだ。もちろん、現実社会はすべて理想通りに行くことばかりでないにせよ、あるべき支援とは何か、ドラマを通じて視聴者に考えさせた功績は大きい。

●TBS報道特集「生活保護“改革”のもとで親族にも影響が」

2014年7月19日放送

(TBS 報道局 秋山浩之プロデューサー、阪野悦子ディレクター)

7月に戦後初めて実施された生活保護法の本格的な「改正」。政策の変更が受給する当事者に何をもたらしたかを実態を検証して報道した。大きく強化された「扶養義務者への照会」が受給を萎縮させかねない問題や行政によって照会が機械的に行われて30年以上音信不通の親族についてまで扶養を求めたケースもあったことなど、制度改正の「負の面」を伝える数少ないテレビ報道だった。

●山陽放送 RSK地域スペシャル メッセージ「格差社会を生きる ~ホームレス2013~」など地方都市・岡山におけるホームレス報道

(山陽放送 報道部 米澤秀敏)

行政のデータでは11人しかいないとされた岡山市のホームレス。しかし実際の数はその何倍もいる。山陽放送は行政が見落としていた路上生活者たちの存在に密着した。借金が困窮のきっかけになった人、親族に頼れない人など地方都市・岡山で路上生活に陥った人たちを長期取材。支援する人たちの活動を追いながら、ひとたび住所をなくすと就職が困難になる問題点などをリアルに伝えた。ドキュメンタリーのカメラワークも見事で、今後も継続報道を期待する。

●毎日新聞佐賀支局および水戸支局における難病に関する一連の記事および単行本「難病カルテ」の出版  

(毎日新聞 水戸支局・蒔田備憲)

難病には、多種多様な症状があり、難病患者の生活について連載報道がなされることは実は少ない。症状の進行にともなって就労の困難に直面することも多く生活困窮に陥ることは珍しくないことを読者にわかりやすく情報提供されている。多くの当事者インタビューとともに、所得保障の制度などについての専門家インタビューもなされており、難病患者をとりまく生活困難を明らかにしている。当事者が前向きに生きる姿を伝えようとする報道姿勢にも共感した。

●朝日新聞 連載「女が生きる 男が生きる」の第2シリーズ

「そこにある貧困」編および「そこにある貧困」反響編

(朝日新聞 今村優莉、今村尚徳、岡林佐和、山田佳奈、尾形聡彦)

2014年3月のベビーシッター事件の掘り下げから母子家庭の置かれる状況を伝えただけでなく、その背景にある「男は稼ぎ手、女性は家庭」に仕向ける社会の構造に踏み込んだ特集。子どもの貧困の背後には女性の貧困があるという視点は未だに貴重。現政権の女性が「輝く」政策への痛烈な批判ともなった。読者の反響も大きい。ユニークなレイアウトが内容を的確に伝えた。

●西日本新聞 官製ワーキングプアをめぐる一連の報道

(西日本新聞 社会部 竹次稔、森井徹)

非正規公務員問題に関心が集まるようになったのは2007年頃からだ。当初メディアも全国紙やキー局中心の報道だった。ところがこの数年は、全国紙であっても各地の記者が積極的に報道を始めた。この西日本新聞は、正月元旦号の1面と3面、さらには3日付でも掲載した。記事も全国課題に加え、取材をふまえた地域課題をしっかり取り込み、九州7県の非正規公務員のうち女性が7割を超えている実態を報道するなど「地方紙」の水準の高さを示した。

●東京新聞 生活困窮者の立場での生活保護「改革」をめぐる一連の報道

(東京新聞 論説委員 上坂修子)

戦後初の生活保護法の本格「改正」や基準の大幅削減を生活困窮者の視点から批判的に報道。法案作成や法令制定にあたって官僚らによる恣意的な文言の挿入などを一面で大きく検証した。なかでも「扶養義務調査の強化」によって、「水際作戦」を合法化させるかのような運用が各自治体で始まっている事実を特報。「不正受給」を通報させる専用電話の設置が受給を萎縮させている実態も伝え、社説でも批判するなど主要メディアの中では異彩を放つキャンペーン報道を展開した。制度へのバッシングが目立った生活保護制度について大事なセーフティーネットと捉える視点から、不正受給防止に偏重する「改革」が困窮者に与えるマイナス影響を繰り返し警告した功績は大きい。

●週刊文春「ユニクロでの障がい者社員へのいじめ・パワハラ告発」報道

2014年5月1日号

(ジャーナリスト横田増生、週刊文春編集部 白川遼太郎)

各メディアが「ブラック企業」という一面を意識しながらも報道を躊躇しがちなユニクロについて、週刊文春は障がいを持った社員への「パワハラ」「いじめ」という切り口で報道した。なかでも障がい者を雇用して助成金を取得しながら、他方で「仕事がのろい」などと大声で怒鳴りつける、炎天下で作業させる、タバコの灰を這って掃除させる、退職を強要するなどのパワハラやいじめが横行している実態を克明に伝えた。前年のワタミ追及キャンペーンに続くブラック企業追及の報道姿勢を称えたい。

●週刊東洋経済「特集 雇用がゆがむ 官製ベア・残業代ゼロ・解雇解禁の点と線」2014年5月24日号

(週刊東洋経済 野村明弘、風間直樹)

安倍政権下で進められている雇用“改革”の全体像をわかりやすくつかんだ特集である。正社員、非正社員、生活困窮者自立支援での就労支援制度、原発作業員、外国人労働者と幅広く取材し、いま、進んでいる改革が労働者の生活を不安定化させるおそれがあることを明らかにしている。特に、経済産業省が平社員まで残業代ゼロにすることを画策していることをスクープしたことは高く評価したい。

国による「子どもの貧困」の割合が過去最悪になるなど、貧困問題が国民の生活のあちこちに影を落とし始めている。

そんななか、一見地味なこうした報道に日々従事しているジャーナリストたちの活動を心に留めておきたい。

(参考サイト:「貧困ジャーナリズム大賞」http://antipoverty-network.org/award)