「認知症の徘徊老人」マスコミ各社一斉報道 きっかけを作った「NHKスペシャル」はあっぱれ!

6月5日のテレビのニュースや新聞記事は一面も含めて各紙で「認知症の身元不明者」に関する記事が並んだ。

朝日新聞も読売新聞も日テレもフジテレビもTBSも・・・一斉に「認知症」のニュースばかりだ。

認知症で保護、13人身元わからず 警察庁が初公表(朝日新聞)

認知症が原因で徘徊(はいかい)し、昨年、警察に保護されたものの、住所や名前などの身元がわからない人は5月末段階で13人に上ることが5日、警察庁のまとめでわかった。身元不明者の数の公表は初めて。警察の手違いが原因の事例も指摘されており、警察庁は同日、行方不明者の早期発見や身元確認などの対策を取るよう、都道府県警に通達した。  昨年、家族などから警察に捜索願(行方不明者届)を出された認知症の人は1万322人。うち151人の所在が今年4月末までに判明していないという。  まとめによると、警察に出された捜索願は都道府県警別で大阪が2114人と最多。兵庫(1308人)、愛知(811人)、京都(411人)、茨城(364人)、警視庁(308人)、岐阜(280人)、福岡(279人)、広島(259人)、岡山(255人)が続いた。

出典:朝日新聞デジタル

京都―盛岡、一人で移動か…認知症不明者が保護(読売新聞)

認知症の行方不明者が遠隔地で保護されるケースも相次いでいる。  京都市では5月末、盛岡市で独りで暮らしていた女性(72)が保護された。両市間の約700キロを一人で移動してきたとみられ、京都府警右京署が新幹線で盛岡市まで送り届けた。  同署などによると、5月27日早朝、京都市右京区の寺院の境内でお辞儀を繰り返す女性を住職らが見つけた。通報で来た署員に「お告げがあった」などと話したという。荷物は手提げかばんだけで、中にあった住民基本台帳カードなどから身元が判明。自宅近くの民生委員が26日に姿を見ており、同日中に盛岡を離れたらしい。  同署は関東に住む親族に連絡したが、「交流がない」と引き取りを拒否されたため、署員2人が同行して盛岡市の職員に引き渡した。女性は認知症の症状が悪化して入院したという。

出典:ヨミウリ・オンライン

テレビも同様だ。

認知症により行方不明になった人、2013年は1万人超え(フジテレビ)

2013年の1年間に、認知症により行方不明になった人が、1万人を超えたことがわかった。 警察庁によると、2013年の1年間に、警察に届け出があった行方不明者のうち、認知症または認知症の疑いがある人は、1万322人で、2012年の9,607人から、715人増加した。 このうち、2014年4月末時点で、所在がわかっていない人は、151人いるという。

出典:ヤフーニュース(FNNニュース・フジテレビ系)

認知症で行方不明 去年は全国で1万超(日本テレビ)

 去年、認知症が原因で行方不明になったとして届け出があった人の数が、全国で1万人を超えることがわかった。  警察庁によると、去年1年間に認知症が原因で行方不明になったとして警察に届け出があった人の数は全国で1万322人に上り、統計を取り始めた2012年から7.4%増えた。また、過去に行方不明の届け出があり、去年のうちに所在が確認できた人は1万180人で、このうち388人は死亡していた。

出典:日テレNEWS24

認知症でずっと身元不明だった人が誰なのか判明したというニュースもあった。

認知症身元不明:保護18年 渋谷の男性と親族が確認(毎日新聞)

 18年前に埼玉県狭山市の路上で保護され、身元不明のまま同市内の特別養護老人ホームで暮らす認知症の男性について、同県高齢介護課は5日、東京都渋谷区の野村正吉さん(82)と判明したと発表した。狭山市内で同日、親族数人と面会し、本人と確認された。今後について同課では、「市や親族と相談し、野村さんにとって最良の方法を考えたい」としている。

出典:毎日新聞

なぜ、6月5日のマスコミ各社の一斉報道になったかといえば、警察庁が「認知症身元不明者」に関するデータと今後の対応策を記者発表したのがこの日だったからだ。

では、なぜ、警察庁はこうした記者発表をしたのだろうか?

きっかけを作ったのは、5月11日の「NHKスペシャル」の放送だった。

「NHKスペシャル」のホームページによると、放送内容は以下の内容だ。

5月11日に放送されたNHKスペシャル "認知症800万人"時代 行方不明者1万人 ~知られざる徘徊の実態~

認知症の人、認知症の疑いがある人が徘徊などで行方不明に…。 こうした認知症の行方不明者について、NHKが各都道府県の警察本部に取材した結果、その数は2012年の1年間でのべ9,607人にも上り、うち351人が死亡、208人が2012年末時点でも行方不明のまま、という実態が明らかになった。 ほとんどの場合、事件でも事故でもないため情報が公開されず、埋もれ続けてきた認知症の行方不明者。 番組では、全国各地の警察への取材や自治体アンケートなども行い、認知症の行方不明者の実態と全体像を初めて明らかにする。 また、動き出した対策の現場も取材。浮き彫りになる課題を見つめ、悲劇を少しでも減らすために社会はどうすれば良いのか考えていく。 去年11月に2夜連続で放送し、大きな反響のあったシリーズ「“認知症800万人”時代」の第3弾として放送。

出典:「NHKスペシャル」番組ホームページ

NHKはホームページに「認知症行方不明1万人」という特集欄を設けている。

(http://www3.nhk.or.jp/news/ninchisho/2014_0511.html)

そのなかで社会部の矢野良知デスクが取材のプロセスを明かしている。

わたしは介護や医療の取材を続けてきたなかで、認知症の人が徘徊し行方不明人になったり死亡したりする人がいることは知っていたものの、年間1万人近くに上っていることに驚きました。そこで去年11月から、記者とディレクター1名ずつで取材を始めました。

最初は関東近県で行方不明になったことがある人の家族の方からお話を聞いていきました。この中で、行方不明にならないよう24時間気が休まることがないご家族の大変さや、行方不明になり亡くなったご家族の思い、それに行方不明になったまま家族を探し続けている人がいることを多くの方から聞くことができました。

全国の警察本部にも改めて取材を行い、おととし1年間に行方不明になった人は9607人。大半はすぐに見つかるものの、このうち、死亡が確認された人は351人。その年の末の時点でも行方が分からないままの人は208人に上ることが分かりました。

私たちが気づかないところで、大変なことが起きているのではないか。取材態勢を、東京、大阪、名古屋から記者4人、ディレクター3人に増強しました。

すべての市町村・家族や遺族へ取材

行政への取材も進めました。全国のすべての市区町村1741カ所にアンケートを実施し、66%に当たる1146から回答をいただきました。

こうした取材を続け、最終的に、ここ数年の間に、行方不明になったことがある人を介護するおよそ400の家族から貴重な声をお聞きすることができました。このうち139の家族からはアンケートにお答えいただきました。その後、死亡が確認された116人について、ご遺族や自治体から取材しました。

こうしたなかで、徘徊で保護したものの、認知症のため名前や住所が分からず、身元が分からないまま施設で暮らしている人がいることも分かりました。こうした人は、全国で少なくとも4人いました。

これは「NHKスペシャル」が放送された5月11日の記述だ。

「NHKスペシャル」では、2007年に群馬県館林市で保護されたが7年間も身元が分からない「ヤナギダさん」という女性が登場している。

身元の特定につながるような手がかりはあった。靴下にはかたかなで「ヤナギダ」、下着には「ミエコ」と書かれていた。結婚指輪とみられる指輪の内側には「5.12」、「StoM」と書いてあり、5月12日が結婚記念日だと推察された。それなのに警察などのシスムテムで照合しても身元が特定できないまま7年間が過ぎ、介護施設で暮らしているという。

NHKスペシャルが「ヤナギダさん」のことを放送した5月11日夜。

その日のうちに「ヤナギダさん」は、東京・浅草に住む柳田三重子さん(67)ではないかという問い合せがあった。

翌日、夫が施設を訪れて本人と確認された。かつてはニッポン放送のアナウンサーだったことも判明した。柳田三重子さんは7年ぶりに夫と再会したものの認知症が進み、呼びかけにも反応はほとんどみられなかったという。

それにしても手がかりがありながら、なぜ、7年間も身元が分からなかったのか。

夫も三重子さんが行方不明になった後、警察に届け出をし、警察も顔写真を載せた公開チラシも作っていた。

しかし、警察では顔写真などの情報を登録しない、あるいは、(警視庁と群馬県警というように)警察本部が異なると情報が共有されないなどの問題点があることも分かった。

その後もNHKは、保護された認知症老人の確認システムの問題点などを繰り返し報道している。

警察は、届けが出された全国の行方不明者の情報をオンラインのシステムで共有しています。 警察関係者によりますと、このシステムには、行方不明者の名前や住所、生年月日のほか、身長など体の特徴も登録できるようになっています。しかし、このシステムは、まず名前で検索する仕組みになっているため、今回の柳田さんのように警察が「エミコ」という違う名前で検索した場合はそれ以上、調べることができないということです。 また、家族から提供を受けた顔写真や服装などの情報は、登録する仕組みにはなっておらず、そうした手がかりがあっても別の警察本部がシステム上、確認することはできないということです。 ことし4月、大阪市内の施設で暮らす男性がNHKのニュースをきっかけに行方不明になってから2年後に兵庫県内の74歳の男性と判明したケースでも男性の写真などの情報は兵庫県警の内部で共有されただけで大阪府警には伝わっていませんでした。 警察関係者は、「システムで共有されている情報は膨大で、同姓同名でも数百件の検索結果が出ることもある。事件性が薄いと判断された場合、一件一件確認作業を進めるということはほかの業務との兼ね合いで集中的にできないのが現状だ」と話しています。 そのうえで「断片的な情報で検索しても効率よく絞り込めるよう、情報の登録や検索の方法について、システムの見直しが必要だ」と指摘しています。

出典:NHK ニュースWEB(5月12日)

NHKでは「NHKスペシャル」を皮切りに「認知症の身元不明者」の問題についてキャンペーン報道をくり返し、システムの改善を警察庁に迫った。

そして警察庁が当面の改善策を発表したのが6月5日で、この日の各マスコミの一斉報道につながったのだ。

もちろんNHKだけでなく毎日新聞なども認知症の問題について熱心に報道してきた。だが、今回の「NHKスペシャル」のインパクトは大きかった。

新聞各紙の報道は、警察庁がシステムをどのように改善するかを伝えている。

警察保護の認知症高齢者、家族が写真閲覧可能に(読売新聞)

 長年、行方不明だった認知症の高齢者の身元が判明するケースが各地で相次いでいることから、警察庁は5日、警察が保護した人の写真を全国の警察本部や警察署に備え付け、行方不明者の家族らが閲覧できる仕組みを導入するよう、各都道府県警に指示した。  警察に保護された認知症の高齢者らは、身元が分からない場合、警察官職務執行法に基づき、24時間以内に保護された地域の市町村に引き渡され、介護施設などに入所する。警察が身元不明のまま市町村に引き渡したケースは昨年、157人に上り、5月末時点で13人の身元が不明のままだ。

出典:http://www.yomiuri.co.jp/national/20140605-OYT1T50067.html

認知症不明者:確認強化 照会項目増やし…警察庁通達(毎日新聞)

◇昨年の自治体引き渡し157人 うち13人身元判明せず  認知症が原因で行方不明になる人が相次いでいる問題で、警察庁は5日、捜査の現場で活用されている身元確認照会システムを状況に応じて使うことや自治体との連携強化を求める通達を各都道府県警に出した。警察庁が認知症に特化した総合的な通達を出すのは初めて。2013年に警察で保護して自治体に引き渡した人数は157人で、このうち今年5月末時点で13人の身元が判明していないことも明らかにした。  警察庁によると、13年に認知症で行方不明になったとして届けがあった人数は1万322人で、前年より715人(7.4%)増加した。認知症のため、保護されても名前が分からず身元が判明しないケースもあり、関係者から対応の見直しを求める声が上がっていた。

出典:毎日新聞のホームページ

NHKの取材班による粘り強い報道が、認知症で徘徊して行方不明になっている老人の問題について、社会や警察などの対応を促した。

警察庁は「認知症による身元不名者・行方不明者」について初めてデータを発表し、身元確認紹介システムなどの運用を見直さざるえなかった。

テレビ番組が世の中を動かすことを「報道活動」とか「報道キャンペーン」などというが、実際に世の中が動くところまで持っていけることはめったにない。

「NHKスペシャル」を始めとする「認知症・行方不明1万人」の報道は、テレビがマスコミ全社の報道を引っ張った見事なキャンペーンだった。

あっぱれ!

民放や新聞各紙のニュースだけで情報を得ていると見落とされがちだが、

きっかけを作ったNHK取材班の地道な努力が、”社会を一歩前進させたこと”は記憶されるべきだ。

超高齢化社会に突入した日本で、認知症をめぐって改善しなければならない問題は数多い。

NHKには引き続き、継続報道を望みたい。