渡辺美樹氏 ワタミの「過労自殺」で”初めての謝罪”。その真意は?

渡辺美樹氏が遺族に対して謝罪したのは「初めて」だった。

会社に入って間もなかった森美菜さん(当時26歳)が居酒屋での調理の業務に未明まで従事し、その後にほとんど眠る時間もないままに本社での研修に参加した末に自ら命を断ったワタミフードサービスの「過労自殺」事件(2008年)。

この事件がきっかけで、ワタミは「ブラック企業」の代名詞のように報道されることが多くなった。

昨年12月美菜さんの両親が東京地裁に提訴した損害賠償裁判の第2回口頭弁論が行われた3月27日。初めて出廷した当時の経営トップ、渡辺美樹氏(現参議院議員)が、法的な責任は認めなかったものの、道義的責任は認めて、両親に対して初めて面と向かい、頭を下げた。

朝日新聞デジタルは以下のように書いている。

ワタミ過労自殺訴訟、渡辺氏が争う姿勢 「見解に相違」

ワタミグループの居酒屋で働いていて過労自殺した従業員の遺族が、会社や当時代表取締役だった渡辺美樹・自民党参議院議員らに損害賠償を求めている裁判の第2回口頭弁論が27日、東京地裁であった。渡辺氏が初めて出廷し、「法的責任に関して見解に相違がある」と争う姿勢を示した。  裁判では、2008年6月に投身自殺した森美菜さん(当時26)の両親が約1億5300万円の損害賠償を求めている。美菜さんの自殺は、月141時間の残業が原因だとして、12年2月に労働災害に認定されている。しかし、ワタミ側は異常な長時間労働はなかったなどと反論している。  出廷した渡辺氏は、「道義的責任について重く受け止め、心よりの謝罪を申し上げます。本当に申し訳ございませんでした」などと述べ、遺族に頭を下げた。

出典:朝日新聞デジタル

ワタミは、市民団体や労働組合、弁護士、大学教員らが実行委員を務める「ブラック企業大賞」で一昨年、昨年と2年連続で「入賞」している。他にそんな企業はない。特に昨年は「大賞」に選ばれている。

実行委員会によると「両親が会社を訪れて、渡辺美樹氏との面会を求めても応じない。謝罪を求めても応じない。反省の色がまったく見られず、ブラック企業の中でも悪質さが目立つ」ことが大賞の授賞理由だった。

そんななかで、両親は昨年12月に会社側と渡邊美樹氏の双方を提訴した。

当時の朝日新聞デジタルの記事にはこうある。

ワタミ過労自殺、遺族が渡辺美樹氏ら提訴

ワタミグループの居酒屋「和民」に勤めていた娘を過労自殺で失った遺族が9日、ワタミや当時代表取締役だった渡辺美樹氏らを相手どり、約1億5300万円の損害賠償を求める裁判を東京地裁に起こした。会社側が安全配慮義務を怠ったと主張している。  亡くなった森美菜さん(当時26)の父豪さん(65)と母祐子さん(59)が同日記者会見して明らかにした。美菜さんは2008年4月、ワタミ子会社ワタミフードサービスに入社。神奈川県横須賀市内の店舗に配属されたが、同年6月、社宅近くで自殺した。月141時間の残業があったとして12年2月に労働災害に認定されている。  訴状によると、美菜さんは所定労働時間が8時間だと説明されていた。実際は、平日で午後2時から翌日の午前3時30分過ぎまで働き、休日にはボランティアで研修に参加していた。  渡辺氏には、経営理念を暗記するテストを社員に強制するなど、ずさんな労務管理を進めた責任があるという。渡辺氏は今年7月の参議院選挙で当選、経営からは退いている。  ワタミの広報担当者は「遺族には改めてお悔やみを申し上げる。訴状内容を確認し、誠実に対応する」とコメントした。

出典:朝日新聞デジタル (2013年12月9日)

ワタミ側は、この時点でも「お悔やみ」は口にしても、「謝罪」はまだしていない。

3月27日の日刊スポーツ(Web版)も、渡辺氏の謝罪の様子を書いている。

「ワタミ」訴訟 渡辺美樹氏、法廷で謝罪

居酒屋チェーンを経営する「ワタミフードサービス」の正社員だった女性が過重労働のため自殺したのは会社側が安全配慮義務を怠ったためとして、両親が同社と親会社「ワタミ」の元社長、渡辺美樹参院議員らに損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が27日、東京地裁であり、渡辺氏は「自ら絶たれた命の道義的責任を重く受け止める」などとする陳述書を提出し、法廷で謝罪した。  女性は森美菜さん(26=当時)で、2012年に過労自殺による労災と認定された。ワタミ側は恒常的な長時間労働ではなかったとし、安全配慮義務違反があったことを否定した上で請求棄却を求めている。渡辺氏は陳述書で「法的責任の見解相違については司法の判断を仰ぐ」とした。  一方で「私のこれまでの発言が遺族に『不誠実』と受け取られたことも謝罪する」などとし、ワタミグループが再発防止策をまとめたことも明らかにした。  父親の豪さんは「道義的責任と法的責任は区別できないはずだ。渡辺氏らの経営責任を追及したい」と話した。(共同)

出典:日刊スポーツ(Web版)

自分の過去の発言についても「『不誠実』と受け取られたことも謝罪する」としている。

これまで道義的責任さえ認めてこなかった渡辺氏が一転して姿勢を転換させ、謝罪した背景には何があったのだろうか?

考えうる背景としては、「ブラック企業」の対策・解消に厚生労働省も本腰を入れて取り組み始め、ワタミ自らも労働環境の改善に向かわざるえなくなったことが考えられる。

渡辺氏が法廷で謝罪した同じ日の日本経済新聞(Web版)には以下の記事がある。

ワタミ、人手不足解消へ60店閉鎖 居酒屋の1割

 ワタミは27日、運営する居酒屋の1割となる60店を2014年度中に閉店すると発表した。昨年設置した外部の弁護士などによる有識者委員会が店舗の労働環境の改善を指摘していた。今後は閉店した店舗の人員をほかの店舗に振り分けて慢性的な人手不足を解消させる。外食産業では景気回復で人手不足が深刻だが、人手不足解消を理由とした閉鎖は珍しい。  同社が昨年7月に設置した有識者委員会は1月にまとめた報告書で「所定労働時間を超える長時間労働が存在する」、「労働時間を正しく記録していなかったことがある。(労働者が)そのように指示されたことがある」などと指摘していた。  ワタミはこれを受けて、居酒屋の大量閉店を決めた。閉店でパート・アルバイトを含む約770人の従業員を確保し、営業を続ける店舗に振り分ける。1店あたりの正社員の数も現状の1.66人から1.83人に引き上げる。同社は「店舗削減による業績への影響は精査中」としている。  ほかにも店長職の場合、これまで会議や研修などに年間で275時間を費やしていたが140時間に削減する。またメンタルヘルス相談窓口や、コンプライアンス委員会も社内に常設する。

出典:日本経済新聞Web刊

労働者派遣法の改正や雇用特区など、さらなる労働の規制緩和に人一倍熱心だと言える安倍政権においてさえ、ブラック企業問題は「若者の使い捨て」と問題視されている。

そうした現状を考えると、渡辺氏がこれまで、自殺した森美菜さんの「本人の問題」だと言わんばかりの主張をくり返し、遺族の感情を逆撫でし、世間の顰蹙を買っている状況が続くのは得策ではないと判断したのだと思われる。

また、過労自殺問題から波及してマスコミ全体がワタミグループの他の会社でも問題があったのでは?と調査取材をする事態になっている。

以下は、ワタミグループで行っている高齢者向けの宅配給食の事業について高齢者が死亡する事故が起きて遺族が提訴したという記事だ。

今年2月26日の配信だ。

「宅配時に安否確認せず」ワタミを提訴

横浜市で1人暮らしをしていた女性(当時72)が死亡したのは、弁当宅配員が安否確認を怠ったのが原因として、長男(51)が26日、弁当宅配会社ワタミタクショク(東京)と、ワタミグループ創業者の渡辺美樹参院議員らに計2200万円の損害賠償を求めて横浜地裁に提訴した。  訴状によると、長男は昨年2月、週5日の弁当宅配時に女性に異変があった場合、家族らに連絡する安否確認サービスの契約をワタミタクショクと結んでいた。  不在時には専用ボックスを玄関前に出すことになっていたが、昨年8月12日、女性の応答がなく、ボックスも出ていなかったのに宅配員は長男に連絡せず、弁当を置いて立ち去った。女性は翌日、心不全で死亡しているのが発見された。  原告側は「当日の横浜市の最高気温は約35度で、応答がなければ安否に配慮するのは当然。連絡していれば救助できた可能性は極めて高い」と主張。渡辺氏については、サービスづくりに関わったのに、宅配員に十分な教育をしていなかった過失があるとしている。  長男は提訴後「渡辺氏らは家族の前で謝ってほしい」と話した。ワタミ広報は「訴状を確認していないためコメントは差し控える」とした。(共同)

出典:日刊スポーツ

過労自殺の裁判と同様に、この宅配業についての裁判でも、会社側のみならず「渡辺美樹氏個人」も訴訟相手として登場する。

渡辺氏やワタミ関連企業が叩かれ出している。

「道義的」な点に限定しながらも、渡辺氏が遺族に「謝罪」したというのは、それだけ危機意識が強い表れだと受け止めることができる。

ただ、タイミングは遅きに失した。

美菜さんが亡くなってから、もうすぐ6年にもなる。

森美菜さんの場合、過酷な労働環境があって、過労自殺は労災だったという認定もされている。

それでもなお「謝罪」を拒んできたワタミ側と渡辺美樹氏。

裁判に訴えられて、6年経って初めて謝罪を行う、というでは企業の危機管理としてもあまりにお粗末すぎる。

しかも、経済的な対価をともなう「法律的な責任」ではなく、あくまで「道義的な責任」に過ぎないと釘を刺す。

そこには企業経営者としての「誠実さ」を見ることは出来ない。

あるいは、この後に及んで初めてワタミグループへの逆風の大きさを知ったということなのか。

いずれにせよ、ワタミおよび渡辺美樹氏は、裁判所の中でも、外でも、会社として、個人として、「誠意」を見せていかないと、今後ますます追い込まれていくばかりだろう。

「ブラック企業」の汚名をそそぐにはどうすれば良いのか。

本当に気がつかないのだろうか。