『マツコの日本ボカシ話』。休止の経緯を番組制作者がモザイク出演して暴露してほしい。政治家の内幕もね。

前代未聞の放送休止

 始まったばかりのレギュラー番組が初回放送の後、突然、放送中止になる。

 

 そんなことはテレビ業界では「前代未聞」だ。

 それが実際に起きてしまった。

 

 TBSが火曜深夜に始めたバラティ番組『マツコの日本ボカシ話』。

 出演するタレントはマツコ・デラックス(41)ただ一人。毎回いろいろな職業の人たちが登場して「テレビでは話しにくいことを、顔をボカしてお話いただきます」というコンセプト。各業界の赤裸々な内幕話をバラすというものだ。

 第1回放送の10月22日深夜のテーマは「生保レディー」。現職と元職の2人の女性がマツコの対面に座り、顔をモザイクにして、内情を披露した。

 話題ごとに緞帳のようなCGが出てくる。

「契約を勝ち取る裏テクニック」の話題では、いわゆる「枕営業」のエピソードが登場する。●冨町(●は伏字)にあるスーツ屋さんのオーナーと八丁堀の焼き鳥屋などで酒を飲んだ後で、近くのビジネスホテルで迫られて関係を持ったが、その翌日にオーナーから「即全契約を他社から切り替える」という電話が来て、1年ほど関係を持つことになった、というエピソードが語られる。

 

 このスーツ屋さんはその後倒産したと語られる。

 他にも生保レディーの「枕営業」を期待してくる男がいて言い寄られたという話も披露される。

 「生保レディーの気になる給料事情」の話題では、自分で持ち出すもの、タオルなど配るものが全部有料。最高で年収5000万とか年間2000億売り上げる「伝説の生保レディー****さん」(****は伏字)の話が出てくる。社員ではなく代理店だという。

 重役ルームの一角にそういう伝説の生保レディーがいる部屋もあるという。

 

 ****さんは会社形態にして今、娘が承継しているという。

 「生保レディーと上司の不思議な関係」の話題では、支部長と食事に行ったら「気になっていたので一度関係を持たせてくれ」と言われた。支部長は「いい男」。35~45歳くらいの素敵な男性。生保レディーの世界は人の入れ替わりが激しいので「つなぎとめる役」なのだという。

 「枕営業がバレて離婚した」の話題では、実際に離婚して再婚した元生保レディーの話が登場する。

この元生保レディーは、母親も同じ会社で生保レディーを2代続けてやった生保レディーだが、母親は夫の他に年下の彼がいたという。本人も離婚したという。

 「2ちゃんねるで分かる生保レディーの秘密」の話題では、「生保業界2ちゃんねる」というネット掲示板があって、56歳で枕営業するという保険レディーとか、「中出しOK」という人もいるというネット情報が紹介される。生保レディーの証言として、朝は必ず朝礼があり、金曜は夕礼があるなどの話も出てくる。

 最後に、生保レディーに素晴らしいところもある、学歴がなくても普通の主婦でも困っているシングルマザーでもなりやすい職業だ、という説明も申し訳程度に入る。門戸を広げている。後に学生時代に父親が死んだけど大学に行けるのは生命保険のおかげだとかなり強引な肯定的なシーンが出てくる。

 枕営業って悪いことばかりでもない、というマツコの感想が入って番組は終わる。

これ、放送しても大丈夫か?

 筆者がテレビ放送の批評家として番組を見て気になった点がある。

(1)「事実」として放送できる裏付けをとっているのか?

(2)話し手や登場する会社、関係者が特定できるのではないか?

(3)特定の業界や職業へのネガティブな「偏見・先入観」を増幅する放送になっていないか?

(4)問題関心が下ネタ、エロネタばかりにあって、わざわざリスクの高いモザイクな番組として放送に値するものなのか?

 この4点だ。

(1)誰が書いたか分からない「2ちゃんねる」の掲示板情報を、裏付けを取らずに、そのまま読み上げるのは、単なる噂話を流布しているのと変わらない。裏付けを取るということは、「事実」として局が確認すること。いつどこで誰がそうした行為をしたのか確認されたものとして放送すること。逆に言うと、裏付けが取れていない事柄は放送してはいけない。

 それを許すと、テレビ放送は名誉棄損だらけになってしまうからだ。この点で、かなり事実確認がゆるい印象を受けた。

 モザイクの生保レディーたちの話の内容も同じだ。彼女らが本物の生保レディーであるという確認したのか。彼女らが話を誇張せずに「事実」を話しているという確認はしたのか。

 番組を見る限りでは、それをした印象はなく、好き放題に話をしていただけのようだ。

(2)生保レディーたちが「**生命」(**は伏字)とか「●冨町」とかそこだけ伏字にしたり、音声をカットしても、特定しやすい番組だった。●冨町は、どう考えても東京都中央区の新富町だと察しがつく。

 だとすれば、「新富町のスーツ屋」ですでに倒産した店のオーナーとなると人物の特定がされるのではないか。「伝説の生保レディー****さん」も業界関係者なら、すぐにピンとくるのではないのか。こうした情報を出し方や個人保護の方法が乱暴でずさんだ。

(3)全体として「生保レディー」という職業が枕営業を武器にする人たち、という職業全体へのネガティブな印象を大きくする。枕営業をしている人が仮にいるとしても少数だろう。下半身に頼らない仕事をしている彼女たちへの性的な偏見、先入観を増幅させる、偏見増幅装置になっている。プライドを持って働いている生保レディーの気持ちを大きく傷つけたに違いない。何でも性的な話、エロい話に落とし込む、下衆な番組だった。支部長という仕事についても同様で、生保業界全体への誹謗中傷だったともいえる。

(4)モザイクで音声もチェンジしてしまうと、テレビは簡単にウソをつくことができる。たとえば「生保レディー」ではない女性を連れてきて生保レディーを演じさせて、内幕話を披露するようなヤラセもやろうと思えば可能だ。ヤラセかどうかは、その出演者や制作スタッフにしか分からない。 

 だからこそ、報道のルールでは、モザイクの使用は他に手段がない「必要最小限の手法」とされる場合が多い。制作者が視聴者から信用してもらっている前提で、その信頼関係を壊さないような慎重さを持って制作者側の責任感を意識しながらモザイクをかけて放送するのだ。

 それだけ慎重な、緊張感を持って使用するはずの「モザイク」という手段は、報道番組の場合は大きな組織の不正を告発する内部告発者とか、事件の被害者とか、加害者の関係者など、本人が特定されてしまうと深刻な不利益を被る場合に限られる。娯楽番組だからどうでも良い噂話でも人の名誉を傷つける内容でも好き勝手を話しても良いということにはならない。

 今回の「枕営業」の話が果たして、そうした放送するに足るテーマだったのか。大いに疑問だ。

突然の放送休止

 TBSは番組のHPに突然、「放送休止」のお知らせを載せる。

お知らせ

「マツコの日本ボカシ話」の全編ボカシという表現・演出方法には、局の内規に抵触するおそれがあることから、一旦、番組の放送を休止し、表現・演出方法の再検討を行います。

出典:TBS 『マツコの日本ホカシ話』の番組HP

 放送が始まっていきなりの放送休止だ。「何かがあったはず」と考えるのがテレビ業界の常識だ。真っ先に頭に浮かんだのが登場した「保険レディー」が実は偽物だったとか、証言内容にウソがあったのでは? という疑問だった。

マスコミもネット上でも”憶測”がいろいろ

 マスコミ各社はこの異例の「放送休止」をニュースで伝えている。

TBS社長、マツコ番組休止で謝罪「やらせが理由ではない

出典:サンスポ・コム

 サンケイスポーツでは、「やらせはなかった」と経営トップが名言している。

 またスポニチアネックスはTBS側の以下のコメントを引用している。

佐々木卓編成局長は「(演出方法は)事前に知っていたが、ド深夜のバラエティー番組であったために、当社の内規を意識していなかったというのは事実。全編ぼかしで放送するということが初めてでしたので、それは(放送前に)もっと議論をすべきだった」とし、「内規はニュースなどで必要な時に限定的に匿名インタビューを使うというものだが、バラエティーィ番組であるものの、全編がぼかしという番組が毎週続くというのはバラエティーについても厳格に考えたほうがいいと、報道後に、社内のコンプライアンス部門から複数指摘を受けた」と経緯を説明。「やらせとかではない、番組内容に問題があったわけではない」とあくまでも表現方法の問題だったことを強調した。

 今回、報道の内規をバラエティーに採用にした点については「顔を出してしゃべるよりも表現も激しくなるし、より詳細なこともしゃべることになる。その影響を考えれば、報道的な基準で考えないといけないと判断した。バラエティーでよくあるイニシャルトークとは違う。誇張などがおこないように内容に厳しくチェックしていかないとならない」と話した。

出典:スポニチアネックス

 これは私が指摘した(4)の問題が理由だという説明だ。TBSは「ヤラセとかではない」とするが、この言葉を信じるならば、このまま放送を続けていればいつか身元の確認などのないままに虚偽の証人や証言が出てくることになったかもしれない。この種の問題は近年、発覚すれば即、経営者が辞任せざる得ないほどの不祥事として扱われるので、TBSは危機管理上、早めに手を打った、といえるかもしれない。

 

 他方、(1)から(3)の点はどうだったのか。TBSの会見ではそのあたりの話が出ていないようだが、(3)で指摘した生保業界への誹謗中傷という指摘が生保業界からあったようだ。

 J-CASTニュースは今回の出来事で様々な憶測が出ていることを伝えている。

『生保業界からクレームがあったのでは?』 TBSマツコ新番組、突然の休止に憶測出回る

出典:J-CAST ニュース

 ハフィントンポストが掲げた見出し。

『マツコの日本ボカシ話』第1回で放送休止 営業からクレームか

出典:ハフィントンポスト日本語版

 また、サンケイスポーツは、30日にTBSが行った記者会見を受けて以下のように伝えた。

「マツコ番組に『生保会社からクレーム』 TBS、定例会見で説明」

また、「マツコの日本ボカシ話」(火曜後11・58)の放送休止については、佐々木卓編成局長が「(局内の)議論不足。考査せずに放送してしまい、猛省している」と謝罪した。休止の理由は22日の初回放送で生命保険業界の“枕営業”を取り上げ、同局の営業サイドが抗議したためといわれているが、佐々木氏は「視聴者、生命保険会社からクレームがあった」と説明した。

出典:サンケイスポーツ

 スポーツ報知は

「マツコ休止番組『品がない』TBS社内外から批判 再開は未定」

・・・22日の初回放送を受け、取り上げられた生命保険業界を含め「品がない」などと局内外から批判が殺到したという。・・・

出典:スポーツ報知

 生命保険業界が怒るのは当然だろう。

 かつてのテレビCMで「**(企業名)のおばちゃん、今日もまた笑顔を運んでいるだろか」と歌われた良いイメージが残る生保レディー。電化製品のようにモノとしての商品が存在しない生命保険会社にとってはイメージこそ命だが、今回の「枕営業」の話はそのイメージを根底から揺るがしてしまった。ただし、スポンサーの抗議があったとしても、今回の放送が、たとえば「生保レディーに対するセクハラ被害の実態」

などの社会問題を訴えるという色彩が強い番組だったなら、局がすぐ放送中止などをすべきではなかったはずだ。問題はあまりにも中身がなかったことだろう。

殻を打ち破る「テレビ」を目指すマツコ

 筆者が去年、雑誌記事でインタビューした時、マツコ・デラックスは「今のテレビ番組はアレしちゃいけないコレしちゃいけないと行儀がよくなり過ぎている」と現状への閉塞感を吐露し、昔のテレビのように「もっと毒があって世間から怒られるような、型にハマらない面白さがある番組を作りたい」と希望を語っていた。

 マツコのいう「昔のテレビ」が具体的に何を指すのか詳しく聞かなかったが、その話を聞いて筆者の頭に浮かんだのが『11PM』だ。1965年から1990年にかけて日本テレビで放送されていた『11PM』。たまたま先日、昔のテレビ番組を見るシンポジウムの席で何本か見る機会があったが、どれも迫力があってぶっ飛んでいた。

 女性の裸がこれでもかと出てくる。ストリップショーやポルノ映画がそのまま放送されていて、ベッドシーンも頻繁に登場する。そんなエロの反面、硬派な報道もやっていた。日本が帝国主義時代だった頃の植民地政策での創氏改名や強制徴用などの数々を現地取材しドキュメンタリーで放送。あるいは初の東京サミットで浮かれる東京も風刺した。全国から大量の警察官が動員される厳戒態勢やホテルがすべて埋まった状況を江戸時代のパロディーで描いた。愛川欽也が扮する水戸黄門が宿泊する宿がなくて助さん格さんと野宿したり、筑紫哲也が「まるで2・26事件と同じ」と言ったり、なかなかラディカルな、毒を含んだ笑いがあった。

 筆者はマツコが本当にやりたい番組は、手作り感のある社会批判や文化批判を込めた笑いなのだと感じている。

 

 マツコは『マツコの日本ボカシ話』が始まる前、次のような抱負を語っている。

 マツコさんは番組の魅力を「顔を出さないから話せることがある。そこを狙っている」とコメント。今後、話を聞いてみたい業界の関係者について「結婚や葬式、風俗業界の人。本能に携わっている人のバカみたいな話を聞きたいですね」と話していた。

出典:毎日新聞デジタル

 今回の『日本ボカシ話』は本来やりたい番組に化ける可能性も秘めていただけに、マツコにとっては、始まったばかりの番組の放送中止を決めたTBSへの不信は募っていることだろうと想像する。

リニューアル案はこれだ!政治家も官僚も出す暴露番組として出直せ!

 『マツコの日本ボカシ話』は放送休止が決まっただけで、「打ち切り」になったわけではない。

 報道の規範を今後、取り入れていくなら、いっそのこと、「報道」を意識したバラエティ番組に作り替えてはいかがか。

 たとえば

「アベちゃんに逆らえない! 官邸スタッフが覆面で語る政権の中枢」

どうだろう。特定秘密保護法案が可決さそうな情勢で、こうした番組は絶対に必要だと思う。

 ただしハードルがかなり高そうだ。

「高級官僚が語る!自民党を手なずけて省の利権を守るノウハウ」

も面白そうだ。

「自衛隊の隊員が語るいじめの構造」

「警察官に広がるネトウヨ思想」

「議員秘書が暴露するセンセイたちのセクハラ」

「暴力団と銀行 実はみずほ以外も  銀行員が語るヤクザと銀行」

 こう考えれば、覆面座談会をやるにしても、やるべきテーマは山ほどある。かつての『11PM』のように時にはエロだって悪くない。かつて筑紫哲也は『11PM』を「厳然とした建前のある世の中で、その足を掬うような俗悪さが大好き」と評していたのだ。エロも社会批評につながるなら良い、という理屈だ。もちろん政治や社会の現状について鋭い批判精神を持って映し出してほしい。

 そうした「覚悟」がTBSにないのであれば、テレビで一方的な覆面座談会などやってはならない。面白おかしさだけを追求する視聴率主義に走れば、必ず、今回の「生保レディー特集」のように人を傷つけてしまう番組になってしまう。

 前述したような「毒がある」「笑いもある」番組としてならば『マツコの日本ボカシ話』をリニューアルして再スタートさせることを歓迎したい。

TBS制作スタッフの匿名座談会をリニューアル初回で

 そこで条件がある。自分たち制作者のことを棚に上げないでほしい、ということだ。

 まず隗より始めよ

 今回、突然の「放送中止」に追い込まれたことで現場であたふたさせられた制作スタッフの本音を聞かせてほしい。顔をボカした制作スタッフによる告白特集をリニューアルした『マツコの日本ボカシ話』の初回として放送するのだ。

 放送中止の本当の理由は「報道の規範に抵触」なのか「スポンサーの圧力」なのか。

 制作スタッフにはどのように説明されたのか?

 その時のそれぞれの思いは?

 マツコは「放送中止」を聞いて怒らなかったのか?

 今回の「放送中止」に至るプロセスもネタにしてしまう。それがテレビマンの心意気ではないのか。

 それくらいの居直りがなければ、本当に面白い娯楽番組など作れない。

 民放連会長も務める井上弘会長や石原俊爾社長、ぜひ検討いただきたい。

 「放送中止」の経緯にはボカシを入れずに。正々堂々とね。