「あまちゃん」は終わらない! 音楽通も「やられちゃう」ヒミツに迫る

いろいろな仕掛けやヒミツがドラマに隠されている「あまちゃん」。

その一つに「音楽」に関するヒミツがある。

「あまちゃん」が大ウケの理由に「音楽」に関するヒミツがあるのではないか、と音楽は素人の僕でさえ、薄々気がついた。

今回はそこに迫ってみたい。 

「あまちゃん」の物語は「逆算」で成り立っている。

たとえば最終週になって、登場した、薬師丸ひろ子の声による「潮騒のメモリ-」。

小泉今日子バージョンの「潮騒のメモリー」よりも、はるかに「大人の歌手」っぽい、のびやかな透明感のある声だ。

つまり、小泉今日子バージョンの歌をずっと聞かされてきた視聴者からすれば、最終週に薬師丸ひろ子が演じる鈴鹿ひろ美が「アイ ミス ユー・・・」と、しっかりした第一声を放った場面は、それまでの小泉今日子の、もともと若い頃からの声が揺れるヘタウマっぽい声質での歌のイメージを根底からぶっ飛ばされる。

歌い方が小泉よりも、よほど本格的なのだ。

(小泉今日子の歌がダメだと言ってるわけじゃないので、小泉ファンの方、誤解ないように・・・。)

目を閉じて、想像してみてほしい。

小泉バーション→薬師丸バージョン、という最終週での、歌声の「変容」。

「なんだ、この人、こんなにうまかったのか」

「なんだ、この人、まさに『封印』していたんだ」

と見ている者に思わず衝撃を与えるほどだ。

聴いていた小泉今日子演じる天野春子が思わず「プロだ」と叫ぶくらいに、薬師丸バージョンは歌い手としてプロっぽい。

そして、断片的にしか聞こえてこなかった「潮騒のメモリー」の歌詞が、全体としてもストーリー性を持ったイメージとして初めて視聴者の前に姿を現す。

つまり、小泉バージョン→薬師丸バージョンへ、という土壇場での「変容」。

「高揚」。

かつての哲学かぶれ青年たちがよく使った言葉を用いるならば止揚(アウフヘーベン)。

さらに一段バージョンアップした喜びの高まり。

それは「歌手としての小泉今日子」と「歌手としての薬師丸ひろ子」への、冷静な評価と計算をした上での、脚本であり、キャスティングなのだ。

ウソだと思うならば想像してみてほしい。

もしも、この2人が入れ替わった、逆のキャスティングだったとしたら。

天野春子を薬師丸ひろ子が演じて、鈴鹿ひろ美を小泉今日子が演じたとしたら・・・

最終週での、「潮騒のメモリー」を鈴鹿ひろ美本人が初めて歌うこシーンでのカタルシスは果たして得られたであろうか。

絶対に無理だったと思う。

小泉と薬師丸の2人の歌声までも計算尽くした見事な展開、というほかない。

いやあ、渋いキャスティングです。

渋い脚本です。

お見事!

(パチパチパチ)

「逆回転」で物語が作られている?

ドラマに込められた「逆算」。

それは用意周到だ。

計算され尽くされている。

アキとさかなクンが司会する幼児向け教育番組で「逆回転」というコーナーがあった。

割れ物を落として割っても、アキが「逆回転」と叫ぶと、壊れたものがまたくっつく。

VTRを逆回ししているだけなのだが、ドラマ全体が「結末」から計算されて、逆回しで「途中の物語」が紡がれているように思われる。

たとえば、北三陸のジオラマ。ドラマの中で、北三陸の歴史などを説明する時に必ずと言ってよいほど登場してきた。

2台ずつ走る、北三陸鉄道のディーゼル車両の模型とともに。

そして、3・11の大震災。

それをドラマでは青いガラスを街のジオラマに散りばめて「津波」を表現した。

北三陸鉄道の車両も孤立し、身動きできなくなっていた。

この表現方法も最初から計画していた「逆回し」の演出だったのでないか?

最初から3・11での「津波」はジオラマを使って、青いガラスで描こうと・・・。

ここまで予め構想していたとすれば、宮藤官九郎ら制作スタッフの「構想力」「イメージ力」はとんでもないほど細かい。

あるいは「潮騒のメモリー」で、「北へ行くのね」という歌詞は、それに合わせて、最終週で「北へ行く」人、北へ去っていく人が登場することも想定されていたのではないか。

こう考えると、いろいろなヒミツが見え隠れする。

音楽業界の通がこのドラマで「やられちゃった」。

音楽に詳しい人たちが「あまちゃん」で唸っている。

歌のレコーディングのシーン。

レコーディングの際にブースの中と調整室との間でトークバックという会話用の装置を使って、歌い手側と収録する演出側・ミキサー側がやりとりする。

「消しゴム付きの鉛筆で、トークバックボタン、押してたの、分かった?(((^^;))

そんなメッセージを送ってきたのは、長いことソニーミュージックで音楽プロデューサーを務め、その後、音楽をネット配信する「レコチョク」を立ち上げ、現在は電子書籍の配信会社「ブックリスタ」の社長を務める今野敏博だ。

高校時代からの友人で56歳。

今は社長業をやっていても、音楽プロデューサーとしての長い歴史が彼の根底にある。

「俺は、レコーディングのシーンにも、感動してる。 芸が細かい!(((^^;))」

「あまちゃんは、先週の金曜日、土曜日も山だった。 レコーディングシーンが、出てくるだけで、俺はやられちゃうんだけどね。」

音楽業界に長くいて、レコーディング風景が日常だった人間が見ても、あの「消しゴムのついた鉛筆」でトークバックボタンを押すという場面は、業界の仕事をきちんと再現するリアルなものだったのだ。

「消しゴム側でね! これを、天野春子がやった。 それが大写しに! だから、意図的な演出。 (((^^;) 俺もたまにやったので、 胸きゅん。」

「まずは、鉛筆で、トークバックするのが、通。 (((^^;)  ただし、その場合、芯側と言うのは、あり得ないけどね。」

「それぞれの人で、心にささる箇所は違うだろうねえ。」

そうか。音楽業界の通は、消しゴムのついた鉛筆の、消しゴム側でトークバック・ボタンを押すのか。

なんだか、テレビなどの業界でも流行りそう。

僕自身はどちらかというと音楽にはうとい人間だ。

だから、細部にわたって「潮騒のメモリー」の歌詞やメロディにこだわって、音楽が非常に大きな要素になっていることまでは分かっても、音楽的に見て、どういう成り立ちなのかは正直よく分からない。

音楽を担当した大友良英のことも、恥ずかしながら「あまちゃん」を見るまで知らなかった。

なので、音楽業界に長くいた今野敏博のメッセージを以下、引用させてもらう。

「大友さんは、そもそもアバンギャルドな人だし、クドカンの『グループ魂』についても、触れないと。(((^_^;)) 」

「まずは、音楽担当の大友良英は、ギタリストであり、ターンテーブル奏者。 即興演奏や、ノイズミュージックが彼の本質。 時々、あまちゃんの中でも、不安げなシーンで、ノイジーなギターサウンドが聞こえてくるけど、あれが彼の真骨頂。なので、あの音楽がかかると、笑い出してしまう。 鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)が、「潮騒のメモリー」をあまカフェで歌うシーンには、ちゃんとバックバンドで出演。 ギター、ピアノ、ヴァイオリン、チェロのアコースティックな編成だが、もちろんギターを担当。 実は、夏ばっぱ(宮本信子)と橋幸夫のデュエットシーンにも出演しているらしい。これは、ネット情報。今度確認せねば。」

「グループ魂(グループたましい)は、ライブチケットが取れない事で、 有名なロックバンド。演劇仲間で、バンド組んだって事だけどね。(((^^;) もっとも、チケット取るのが、困難なバンドと言っていい。2002年にデビュー。 メンバーは、破壊(阿部サダヲ):ボーカル- 暴動(宮藤官九郎):ギター、作詞、作曲 バイト君(村杉蝉之介):大道具、ハーモニカ- 港カヲル(皆川猿時):MC、ボーカル、作詞、永遠の46歳 小園(小園竜一):ベース、作曲 石鹸(三宅弘城):ドラム、作詞、作曲 遅刻(富澤タク):ギター、作曲、編曲 なんと、うち二名は、あまちゃんに出演。 村杉蝉之介は、アイドル評論家ヒビキ一郎。 皆川猿時は、高校教師、磯野心平。 ギターは脚本のクドカン。 今までに6枚のメジャーアルバムを発売している。 レコーディングシーンのディティルは、そのあたりの、 豊富な経験からきている。」

北三陸や東京までアキの追っかけをしていた超オタッキーなヒビキ一郎役は、ギターを弾いて作詞・作曲をするらしい。

へえ、クドカンがバンド作っていて、そのメンバーが「あまちゃん」に出演しているなんて、知らなかった。

音楽を愛する人たちから見ても、これは・・・という凄腕メンバーが楽しみながら作っているドラマだったのだ。

ちなみに大友良英のブログ「大友良英のJAMJAM日記」をネットでみつけたので、紹介しておく。

3月31日。いよいよ明日、「あまちゃん」の初回が放送されるというタイミングで、大友は「音楽」のヒミツについて記している。

「ここでは、どこにも紹介されないテーマ曲と劇伴の演奏メンバーやスタッフを紹介します。 録音は昨年の9月からはじめていて、すでに130曲も作りました。劇伴のほうは、実はこれでもまだ半分で、放送がはじまる4月以降にも音楽をとりつづけます。そのメンバーは、またここで後日発表しますね。」 「劇伴の他にも、劇中に出てくる曲が沢山あって、例えば、スナックのシーンで何曲も出てくるカラオケの制作に、高井康生とイトケン。これらは、ありものの流用ではなく、全て、カラオケがつくられた時代等々、さまざまな要素を考慮しつつ、この番組のために作り直したものです。 さらに、今は詳しくは書けませんが、中盤以降に出てくるアイドルたちの歌う曲や80年代の歌謡曲の制作も、シークレットメンバー達ですすめております。劇伴の第2弾、3弾の録音メンバーとともに、このへんも順次、発表していきますので、お楽しみに。」

出典:大友良英のJAMJAM日記

(僕) 「あまちゃん」の成功には『潮騒のメモリー』が最後の最後まで寄与したと思うけど、音楽的にはどうなの? 80年頃のアイドル曲? (今野) そうそう。 松田聖子あたり? 松田聖子には、『小麦色のマーメイド』と言う曲もあるし。 まあ、松田聖子は、もう少し明るい曲多いけどね。

社長になったり、大学教授になったりしたいいトシをした中年オヤジたちが、「あまちゃん」の話題で、メールやメッセージを飛び交わす。

最終回では、「潮騒のメモリー」に載せて、復旧した北三陸鉄道の車両が走る。

沿道の人たちが手を振る。

見ていて涙がこぼれた。

これも「音楽の力」なのだと思う。

最終回が終わっても、「あまちゃん」には音楽だけみても語り尽くせない、いろんなヒミツが隠されている。

音楽の他にもいろいろなヒミツがあるはずだ。

最終回が放送されたら、きっとすぐに連続で見られるまとめの再放送があるだろうから、それを録画して他のヒミツを解明しなくっちゃ!

「あまちゃん」はまだまだ・・・終わらない。