日テレ社員だから? みのもんたの息子だから? それ、関係ないでしょう。

みのもんたの次男で日本テレビ社員の御法川雄斗容疑者(31)が窃盗容疑で逮捕されたという話。

テレビや新聞各社はニュースとして取りあげた。テレビでは9月11日の昼ニュースで各社がいっせいに報道した。

深夜に酔っぱらって路上で寝ていた40代の男性会社員からカバンの中に入っていたキャッシュカードを盗み、コンビニのATMで現金を引き出そうとした疑いだという。

想像するに、このニュースは、容疑者が「日テレ社員」ということだけで報道すべき事件だと判断された。さらに加えて、「みのもんたの次男」という付加価値も加わり、ニュースバリューが上がった報道だろう。

だが、冷静に考えてみれば、事件そのものは連日、都内のどこかで頻繁に起きている、かっぱらいや置き引きなどの一つに過ぎず、通常、こんな事件の容疑者が逮捕されたりしても、それだけではけっしてニュースにはならない。新聞のベタ記事はともかく、少なくともテレビにニュースにはならないはずだ。

「日テレ」と「みのもんた」という2つの付加価値がついて報道されることになったのだ。

各社の報道の見出しを見てみると、「日テレ」か「みのさん」のどちらに重点を置いているか微妙に違う。

それぞれの「微妙なスタンス」が伝わってきて興味深い。

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「みのもんた重視派」は読売、毎日、フジ。

「みのさんの次男、他人のカードで現金窃取未遂容疑」(読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130911-OYT1T00556.htm

「窃盗未遂:容疑でみのもんたさん次男逮捕 警視庁」(毎日新聞)

http://mainichi.jp/select/news/20130911k0000e040161000c.html

フジテレビは昼ニュースでの見出しは「みのもんた氏の息子 逮捕」だった。

逮捕された御法川容疑者の映像があって顔が分かる。

弔問客を受け入れてる映像なので、おそらく、みのもんたの夫人が亡くなった際に撮影された映像だろう。

フジテレビがネットにアップした原稿では、「みのもんたさんの次男、他人のカードで現金引き出そうとして逮捕」となっていた。

http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00253617.html

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一方、「日テレ重視派」はNHK。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130911/k10014450851000.html

NHKはニュースでの見出しは「日本テレビ社員 窃盗未遂容疑で逮捕」とした。映像も本人の映像は使っていない。

ただし、HPでは「みのもんたさん次男 窃盗未遂容疑で逮捕」にしている。

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「両方併記派」が多数派といえるだろうか。朝日、産経、テレ朝、日経など。

「日テレ社員逮捕 窃盗未遂の容疑 みのもんたさん次男」(朝日新聞)

http://www.asahi.com/national/update/0911/TKY201309110172.html?ref=com_top6

「みのもんたさんの次男、日テレ社員を逮捕 窃盗未遂容疑」(産経新聞)

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130911/crm13091111370003-n1.htm

「みのさん次男の日テレ社員逮捕 窃盗未遂容疑」(日経新聞)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1101R_R10C13A9CC0000/

「みのさん次男を逮捕 日テレ社員、窃盗未遂容疑」(東京新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013091102000240.html

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テレビ朝日も見出しは両方併記型だが、伝え方は「日テレ」重視型。

みのもんた氏次男・日テレ社員逮捕 窃盗未遂容疑(テレビ朝日)

http://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000012200.html

ただし、字幕では「日テレ社員」が大きく強調されている。

「日本テレビ」を強調する。

報道する側の感情をうがってみれば、日テレへの「ざまあみろ」感情を見てとれなくもない。

しかもテレ朝だけ、連行される本人の映像を放映していて、顔がはっきり分かる形で報道している。

「してやった」というテレ朝の報道デスクの鼻息が画面を通して聞こえてきそうだ。

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ちなみに今回の事件で当事者側にも立つといえる日本テレビとTBSではどう報道したのか。

日本テレビは昼ニュースで「窃盗未遂容疑で日本テレビ社員逮捕」と伝えた。「日本テレビ」を強調した報道だ。後半、日本テレビとしての発表コメントは出したが、みのもんたとの関係は一切出さなかった。

逆に夕方の「news.every.」では、「みのもんたさん二男が窃盗未遂の疑いで逮捕」となり、「みのもんた」が強調されていた。後半、みのもんたが各社に送ったファックスでのコメントも紹介された。「次男が世間をお騒がせしていることについて、父親として申し訳ない気持ちでおります」と。

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みのもんたが朝の情報番組「みのもんたの朝ズバッ!」の司会を務めているTBSはどうだったか。

昼ニュースで「他人のキャッシュカードで/日本テレビ社員を逮捕」という見出しの字幕。

「日本テレビ」が強調されていた。

ニュース原稿の最後で「御法川容疑者は司会者のみのもんたさんの次男です」というコメントを入れたが、コメントに合わせたテロップは入れなかった。ニュースのテロップはかなり細かく出るのが普通なので異例だ。「日本テレビ社員」などのテロップは入れていたのに、「みのもんた」は入れずで、後者が強調されないよう、意図的に入れなかったのだろう。

翌9月12日朝の「みのもんたの朝ズバッ!」では司会のみのもんたは「夏休み中」で出演しなかった。ニュースのコーナーで「日本テレビ社員が逮捕」という形で伝えられ、やはり「日本テレビ」を強調。ただし、スタジオのリード部分で、テロップを出さなかった。あまり、この問題で視聴者の注意を引きつけたくないという意図だろう。

ラストでみのもんたのファックスでのコメントが紹介された。「次男が世間をお騒がせしていることについて、父親として申し訳ない気持ちでおります」と。

ニュースとして淡々と伝えたという形で終わっていて特に番組としてキャスターコメントはなく、すぐ次の項目へ移った。

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さて、殺人や放火などの凶悪犯罪と比較すると犯罪として比較的軽いケースなのに、容疑者の「属性」によって大きく報道されてることがある。

今回のニュースがまさにそうだが、容疑者が有名企業に勤務しているとか、有名人(あるいは有名人の家族)という場合にそうなることが多い。

公務員、学校教員、大学教授、弁護士、政治家、タレント、その家族などが容疑者の場合にはニュースが大きくなりがちだが、特に同じ「マスコミ関係者」、さらに「同業他社」の社員や関係スタッフとなると、報道する側はどうも血が騒ぐような印象だ。

必要以上にその「属性」が大きく強調される。

マスコミ同士のたたき合い。

特に、テレビ局同士では、ライバル企業の関係者がかかわった事件を大きく報道する傾向が見てとれる。

まるで手をたたいて喜んでいるのではと想像させるほどに。

テレビ局や関連会社の社員やそのスタッフの場合、以下のような逮捕のケースが過去にニュースになっている。

JR駅のエスカレーターでの盗撮行為...

酔ってタクシー運転手を殴った...

酔って警官を殴った...

酔って駅員を殴った...

酔って電車の中で見知らぬ女性客のほおをなめた...

コンビニでおにぎりを万引き...

本屋で本を万引きした...

酒気帯び運転した...

出演者に強制わいせつ...

下半身を露出して公然わいせつ...

麻薬の所持....

もちろん、過去にはNHKの委託カメラマンによる殺人事件や九州朝日放送のディレクターによる児童買春などのように本人の名前を出して大きく報道すべき重大事件はある。

でも、ことさら大きく取り上げすぎでは?と首をかしげるような事件も少なくないのだ。

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有名企業やマスコミの看板を背負って「報道」という仕事をしている以上、ある程度、他の人よりも高い倫理が求められるもの理解できるにしても、これらの人たちは逮捕されたり、起訴されて有罪になったら、司法上の制裁を受けるほか、懲戒解雇などの社内処分も受けることになる。

事柄の重大性に見合う形で彼らは社会的な制裁を受けるのだ。

だが、その事件は大きく報道されるべきことなのか、というのはまったく別の問題である。

なんでこれが報道すべきニュースなの?というようなものもある。

たとえば、盗撮で逮捕されたケースなどは、県迷惑防止条例違反の容疑だ。

軽微なものはいわば「みせしめ」「スケープゴート」になったようなケースだともいえる。

痴漢や盗撮がニュースとして報道されたケースを見てみると、公務員とか大学教授、教員、マスコミ関係者など、なんらかの「属性」が

強調されているものが多い。もちろん、犯罪であることに変わりはないが、重大犯罪かと問われるなら、そうではない。

また日経新聞であった記者によるインサイダー取引事件、共同通信の人事部長によるマスコミ就職志望女子学生へのセクハラのような、「業務に関すること」「報道者としてやってはいけないこと」ならば、大きく取りあげるのは当然だと思う。

一度のニュースに終わらせることなく、長く検証報道をしても良いくらいだと考える。

それは報道機関として働く人間の根幹にかかわることだからだ。

でも、本業とは関係のない容疑事実でマスコミの会社名を強調するのはいかがなものか。

たとえば、テレビ局の「社員」ではないケースでも、「○○テレビ制作会社」「○○テレビ制作スタッフ」「○○テレビ専属カメラマン」などと「○○テレビ」が強調される。

テレビ局でADや雑用のアルバイトしている大学生など全国津々浦々で、ごまんといる。

彼ら彼女らが犯罪行為に手を染めたとして、職場が強調されてしまうのは迷惑千万だろう。

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「ざまあ、みやがれ!」

ニュースなのに、それを伝える側のゲスな根性が見え隠れしている。

もちろん「報道機関で働く人間は、一般の人たちと違ってより高度な倫理を求められるから、小さな犯罪でもニュースにするのだ」という言い方はあるだろう。

だが、本心は「日テレでやらかしましたね。ざまあみろ!」という気持ちがまったくないと言ったらウソになるだろう。

で、きっと、そうしたニュースはたぶん一般視聴者や読者の溜飲を下げる面もあるに違いない。

底にうずまくのは「おまえら、高い給料もらいやがって、チャラチャラしやがって、ざまあみろ!」という感情だ。

ねたみ、そねみが入り交じった「劣情」に火をつけるニュース。

それはテレビや新聞などの真っ当なジャーナリズムがやるべきことなのか。

もっと他に伝えるべきニュースがあるでしょう。

けっきょくはここにも、他のマスコミとの競争意識のあまり、報道機関として本当に力を入れて報道しなければならない問題をどこかへ追いやって、一時の感情で伝えるという、日本独特の島国的な報道が繰り返されることになる。

ゴシップならば週刊誌にまかせておけば良いではないか。

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事件が起きるたびに「勤務先のコメント」もニュースの一部として報じられる。

今回でいえば、「日本テレビ総合広報部は『当社の社員が逮捕されたことは誠に遺憾です。事実経緯の詳細が明らかになり次第、厳正に対処いたします』とのコメントを出した」というような部分だ。

これもおきまりのパターンなのだけど、どうなのだろう?

取材し報道すること自体が、「おたくの社員教育はいったいどうなっているの?」といわんばかりだ。

取材する記者たちもよく考えてほしい。

社員教育で、「窃盗をやってはいけませんよ」「痴漢行為はやめましょう」「暴力事件を起こしてはいけないよ」とやっている会社などありますか? 

全国探せば、あるのかもしれないけど、効果はないし、人格が出来上がってから入社してくる会社はしつけを教える家庭でも教育機関でもない。

31歳の大人に対して、あらためて「犯罪はいけないこと」と教えても意味はないし、勤務先に管理責任を問うような取材をすること自体が間違っている。

こういう取材をする時は、会社が「厳正に処分します」という言葉を引き出したいだけなのだ。

つまり、「クビにしろ」という形の無形の圧力。

やはり読者、視聴者の感情を意識した「溜飲を下げる」効果を期待しているのだ。

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同じ理屈で、「親のコメント」を求めるのもどうなのか。

今回の御法川容疑者の件でいえば、父親である、みのもんたに責任を問うことは明らかに筋違いだろう。

だって、容疑者は31歳の立派な成人。

本当に日本という国は何かあれば「親の顔が見たい」という島国根性から抜け出せないでいる。

逮捕されてコメントを取れない本人に代わって、親に「申し訳ない」と謝らせないと気が済まない。

凶悪な殺人事件が起きれば、いわば「みせしめ」のように、容疑者の実家の前から記者やレポーターが中継する。

でも、個人主義が確立されている欧米で、親の責任を責めるような取材・報道は見たことがない。

日本だけの、とっても「前時代的な報道」なのだと気がついてほしい。

見渡せば、犯罪容疑者の家族に対する人権侵害といえるような報道も今もなお後を絶たない。

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今回の件で罪を問われるべきは、「みのもんた」でも、「日本テレビ」でもない。

御法川雄斗という31歳の大人1人だ。

もし容疑が事実だと認定されれば彼は司法的な制裁を受け、おそらくは懲戒解雇されて無職になるという社会的な制裁も受けるのだ。

それで十分ではないのか。

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「やられたら、やり返せ! 倍返しだ」というのはドラマ「半沢直樹」のセリフだ。

だが、今回報道される側にまわった日本テレビも、たぶん、しばらく後で他局の関係者が似たような事件を起こしたら、鬼の首をとったように大きく報道するのだろうと想像する。

テレビ各社はそういうことを繰り返してきた。

不毛な争い。

無意味なエネルギーではないか。

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もうそんなこと、やめませんか?

もしマスコミ同士が、感情にまかせるままに「マスコミの社員が起こした事件」を大々的に報道するようなことを続けるならば、その時は自社の「社員教育」がどうなっているかも含めてくわしく検証報道してほしいと本当に思う。

大人になった容疑者でも親の教育方針が問われるならば、伝える側のマスコミがどんな教育を成人して独立した子どもに接してしているのかぜひ見せてもらいたい。

同業他社の犯罪を興奮して報道している記者やデスクのみなさん。

もう、やめませんか。

いつか自分にも絶対、返ってくるよ。

あなたたちがやるべき仕事は、もっと他にたくさんある。