キャスターは「3年かぎり」。プロデューサーも3年で交代。派遣労働の見直しでテレビの制作現場は大揺れ

テレビ局、特にキー局では大変な事態になる。

視聴者からすれば、テレビのニュース番組や情報番組でお気に入りのキャスターがある日突然、交代になる。

番組の終わりで、局アナが「ところで××キャスターは、今日いっぱいで番組を卒業することになりました。明日からは**キャスターが代わりを務めます」と挨拶して、その事実が視聴者に公表される。

卒業する本人は「これまでどうもありがとうございました。私にとっては充実した3年間でした。後任の**キャスターをこれからもよろしくお願いします」と涙声で去っていく。

ここまでは現在でもよくある光景だ。

だが、労働者派遣制度が安倍政権の思惑通りに改正されれば、この卒業の場面が機械的に事務的に「3年ごとに」各局で繰り返されるようになるかもしれない。どんなに視聴者の支持を集めている人気キャスターであっても例外ではない。

派遣制度に関する見直しを検討していた厚生労働省の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」(座長・鎌田耕一東洋大教授)が8月20日、最終報告案をまとめた。

どんな仕事であっても労働者1人あたりの派遣期間を「原則3年」に統一する。これまでも派遣の人に仕事をまかせられるのは「最長3年まで」だったが、26の業務だけは例外で「期間制限なし」になっている。この26業務は、通訳、秘書、ソフトウェア開発など専門性が高い業務とされ、その中にはテレビの仕事である「アナウンサー」や「放送番組の演出」も入っていた。この例外がなくなる。

つまり、テレビ局でニュース番組などに登場する派遣のアナウンサーや番組を制作する派遣プロデューサーや派遣ディレクターは、これまでは期間制限なしでテレビ局で働くことができた。仮に1年契約であっても更新しながら、事実上ずっと働き続けることが可能だった。ところが最終報告案通りになると、最長でも3年までしか働くことができなくなってしまう。

問題は派遣労働のルールの変更なのだが、実はテレビ局という職場、なかでも番組の制作現場は、「派遣労働で成り立っている」と言っても良い。特に東京キー局ではテレビ局の社員の仕事はむしろ、そうした派遣の人たちに指示するなど、派遣の人たちにうまく働いてもらうことが基幹業務の一部になっている。そうした派遣社員の「査定」も一年ごとに行われている。テレビ局の社員が派遣社員の仕事ぶりを評価し、報酬ランクを言い渡す。

たとえば、キー局からケーブルテレビやCS放送などに配信している24時間ニュースチャンネルでニュースの原稿を読むキャスターたち。ここでスタジオに登場する読み手のうち局アナはごく少数で、元地方局のアナウンサーだった女性キャスターなどは派遣社員だ。つまり、所属は違う会社なのだ。

あるいは、地上波の情報番組。早朝から国内で起きた事件・事故からエンタメ、スポーツまでの情報を楽しく見せる番組のプロデューサーやディレクターたちも、テレビ局の社員はむしろ少数で、番組制作会社からの派遣社員が多い。こうした派遣社員には、むしろキー局の社員以上にすぐれた能力を持ち、番組制作の経験もあって、一目置かれている人も少なくない。報道番組でも同様だ。昔ながらの「派遣のベテラン」が番組制作や報道現場を支えているといって過言ではない。

その人たちが一斉にテレビの制作現場にいられなくなってしまうとしたら、テレビ制作の現場は一体どうなってしまうのか。私は取材経験を蓄積した記者やディレクターたちが減少するなかで報道現場から取材倫理などが失われつつある現状を、「報道現場の劣化」と呼んで問題視している。古くからある良質のテレビ文化が失われつつある。ますますギスギスした制作現場になりつつある。労働者派遣制度の変更で、こうした傾向にますます拍車がかかってしまうのではないか。テレビ制作の現場を愛する人間としてはそのことが一番おそろしい。

今回の最終報告案にある労働者派遣制度の見直しは、一見、もっともそうにみえる書き方をしている。

派遣元と無期契約を結んでいる場合は、働く期間に制限はなく、同じ人が派遣先でずっと働くことができる、というのだ。

テレビ局の制作現場でいうならば、派遣元(テレビ局に派遣社員を送りこむ番組制作会社)との間で、その派遣社員が無期契約を結んでいるならば、派遣先(テレビ局)でずっと働くことができる、ということになる。

ところが、番組制作会社は契約社員、嘱託社員などといった非正規の有期の契約で雇用されている人が多い。

無期で雇用されているのは、かなりのベテランで制作会社でも幹部を務めるプロデューサーなど一握りだ。

となると、法改正でどうなるか。1つの派遣先(テレビ局)で働き続ける3年の上限を過ぎれば、別の派遣先(=別のテレビ局)に移る必要が出てくる。テレビ局の制作現場の仕事はいつも人を募集しているわけではないので、うまく仕事が見つからなければ失業してしまう。制度が変わったからといって、派遣元の番組制作会社が急に無期雇用を増やすかといえば、そうはならない。それでなくともテレビ局からの制作費が激減していて制作会社の台所事情は苦しい。人件費がかさむ選択肢を選ぶインセンティブはない。

今回、厚労省の研究会がまとめた最終報告案は、安倍政権の肝いりで進められたものだ。

2007年頃、労働者派遣法は労働の規制緩和で「ネットカフェ難民」「ワーキングプア」などを大量に生み出した背景だとして社会的な批判を浴び、昨年、民主政権の下で労働者保護をやや強化する方向で法改正された。これに対して経済界がより派遣を使いやすいようにと要求して、安倍政権が年明けの通常国会で改正することを6月の成長戦略に明記し、検討されていたのが問題の最終報告案だ。

最終報告に盛り込まれてもこれで最終決定ではない。労使双方の代表も議論の中に入る労働政策審議会で話し合い、年明けの法改正という手続きは踏むことになるが、国会のねじれがなくなり、衆参両院で与党安定多数ではこれらの手続きも事実上形式的なものに近い。

そこで各テレビ局を含めた放送業界に要望したい。

より質の良いテレビ番組を放送する。視聴者により支持される番組作りをしていく。それが最優先課題である放送業界にとって、労働者派遣法の改正がはたしてこの方向で大丈夫なのか。改めて研究・検証すべきではないか。一番打撃を受ける業界は放送業界なのだから。

毎日の楽しみにしていたお気に入りのニュース番組の女性キャスターがある日、突然、涙を浮かべて卒業していく。

その理由が「派遣アナウンサー」で「3年が上限」だからなんて、あんまりじゃないか。

放送とは、血や心が通ったもののはずだ。