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どうしても演じたかった役を射止め、ロマンポルノ出演へ。おじさんとばかりと付き合うヒロインを演じて

水上賢治映画ライター
「手」で主演を務めた福永朱梨  筆者撮影

 1971年に製作がスタートし、昨年の2021年11月20日に生誕50周年を迎えた<日活ロマンポルノ>。

 その数々の傑作を生みだしてきた伝説のレーベルは、50周年を機に新たな領域へ。

 昨年からロマンポルノ作品の多様性、エンタテインメント性、芸術性を訴求する「ロマンポルノ50周年記念プロジェクト」が始動。 その一環で、<現代のさまざまな生き方や個性を認め応援する「今」を切り取る>をテーマとする新企画<ROMAN PORNO NOW(ロマンポルノ・ナウ)>から新作映画3本が届けられた。

 皮切りとなる第一弾作品「手」は、松居大悟監督が、山崎ナオコーラの原作をもとに、年上の男性ばかりとつきあってきたまだ20代のさわ子の心のざわめきを描く。

 年上の男性に頼りたいわけではない。都合のいい女でもない。むしろおじさんよりも大人で凛としている。でも、求めてやまない愛情からは遠ざかっている。

 そんな20代半ばのヒロインの複雑な胸中を見事に体現してみせているのが、福永朱梨だ。

 深田晃司監督の「本気のしるし」のみっちゃん役も大きな反響を呼んだ彼女に訊く。(全四回)

「手」で主演を務めた福永朱梨  筆者撮影
「手」で主演を務めた福永朱梨  筆者撮影

脚本を前にしたとき、さわ子の気持ちが立体的にこちらに伝わってきた

 前回(第一回)で、原作を手にしてさわ子をどうしても演じたいとの思いに駆られたことを明かした福永。

 脚本を読んで、さわ子へのその思いがさらに深まったという。

「原作でも十分、気持ちが伝わってきて、さわ子が他人に思えなかった。さわ子が遭遇することが他人事に思えなかった。

 で、脚本を前にしたとき、今度はそのさわ子の気持ちが立体的にこちらに伝わってきたというか。

 脚本はさわ子と誰かとの対話が中心になってくる。その彼女の会話の中の言葉に触れたとき、さわ子の存在がより輪郭がくっきり見えたんです。

 さわ子は複数のおじさんとお付き合いするわけですが、これを表面だけでとらえると、押しに弱くて、つい求められると関係しちゃうように見えてしまう。

 もしくは、おじさんに関してはあまりこだわりなく付き合っているようにも映ってしまう。

 いずれにしても、彼女は自身であまり判断していない、選択しないで関係しているような印象を受ける。恋愛とか結婚とかあまり考えず、ドライに割り切っておじさんたちと付き合っているのかなと思われる。

 わたしも最初は誰にでも合わせてしまう、周りに流されてしまうタイプなのかなと思ってたんです。

 でも、脚本の彼女のセリフを細かく読み解いていくと実は違う。

 相手によって話し方や使う言葉を微妙に変えている。それは一見すると相手に合わせているようにみえる。

 でも、実は違ってあくまでさわ子にとってその人といるときの心地よい距離や関係なんです。つまり受け身でも主導権を握っているわけでもない。

 互いにとって心地よい、リラックスしていられる関係をさわ子は自分の意思で見つけている。

 だから、おじさんたちとの関係も流されていない。自分の意思を反映させての関係なんです。だから、さわ子には『こんなおじさんと付き合っちゃって』みたいな後悔が一切ない。

 それが彼女の言葉の端々から読み取ることができる。そこで、さらにさわ子を深く知ることができた気がします。

 このほか、演じていく中でも彼女には発見がいっぱいあって。『おもしろいの子だな』と思ってずっと演じていました。

 ほんとうに興味の尽きない役でしたね」

「手」より
「手」より

松居監督の「さわ子を特別な存在にしたくない」という言葉を受けて

 その中で、演じる上で大切にしていたことはどういうことだったのだろうか?

「いまの話につながることではあるんですけど、松居監督がリハーサルのときに、こうおっしゃっていたんです。『さわ子を特別な存在にしたくない』と。

 さきほども話しましたけど、彼女はおじさんとばかり付き合っていて、はたから見ると特殊に見えると思うんです。でも、松居監督ははじめから『特別な存在にしたくない』とおっしゃっていた。

 そのとき、わたしはちょっと『はっ』としたんです。『もしかしたら、ちょっとさわ子を特別視していたところがあるかも』と。

 でも、改めてさわ子ときちんと向き合うと、松居監督の言葉通り、さわ子はどこにでもいる、ふつうの女の子で特別ではない。

 ですから、さわ子を特別視しない、どこにでもいる女の子であるということは常に意識して演じていました」

さわ子はこの社会に自分の存在意義を見出せていないところがある

 年上の男性にしか興味がもてないできたさわ子だが、会社の同僚の森との出会いで心境に変化が。

 この森との関係はさわ子にとっていままでにはない感情が生じることになる。

「さわ子の森に対する思い、心から好きになってしまったのかどうかは松居監督とすごく議論したんですよ。

 みてくださった方もどう感じるのかなと思うんですけど、わたしはちょっと本気で好きになりかけていたんじゃないかなと。

 さわ子はどこか自分の所在がないというか。この社会に自分の存在意義を見出せていないところがある。

 その中で、おじさんたちは、彼女の承認欲求を満たしてくれる。常に肯定してくれますから(笑)。

 でも、森さんはちょっと違う。彼はさわ子に自分が認められるとかどうでもいい、承認欲求を満たすコップがあったら、それがいっぱいにならなくていい、いやそんなコップはそもそも不要!と教えてくれた人だった。

 自分という人間をそのまま受け入れてくれた人だった。だから、わたしはさわ子にとって森さんはかけがえのない存在だったのではないかと推察しました」

(※第三回に続く)

「手」より
「手」より

「手」

監督:松居大悟

原作:山崎ナオコーラ「手」(『お父さん大好き』文春文庫)

出演:福永朱梨 金子大地

津田寛治 大渕夏子 田村健太郎 岩本晟夢 宮田早苗 / 金田明夫

ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中

場面写真はすべて(C)2022日活

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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