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95歳で逝った名バーテンダーを偲んで。山形の地域雑誌「giinika(ジーニカ)」に込めた思い

水上賢治映画ライター
映画「YUKIGUNI」より

 山形県酒田市にある喫茶店「ケルン」のバーテンダー、井山計一さんは、いまから60年以上前にカクテル「雪国」を創作。その「雪国」は時代を超え愛され、いまやスタンダードな一杯として世界的に知られる。

 生きながら伝説のバーテンダーとなっていた井山さんが95歳で天寿を全うし亡くなったのは昨年の5月10日のこと。各メディアで報じられたので、ニュースで触れられた方も多いだろう。

 追悼の意味を込め、生前の井山さんの姿を収めたドキュメンタリー映画「YUKIGUNI」の製作者たちに話を訊くインタビュー特集。

 昨年、撮影を担当した佐藤広一監督と、渡辺サトシ監督のインタビューを届けてから間が空いてしまったが、最後に劇場用パンフレットを編集し、井山さんにロング・インタビューをした山形在住の編集者でライターの井上瑶子さんに訊く。(全四回)

リモートでの取材に応じてくれた井上瑶子さん 筆者撮影
リモートでの取材に応じてくれた井上瑶子さん 筆者撮影

地域雑誌という「雑誌」を作った理由

 第四回は第三回に続き、昨年3月に創刊し、井山さんのような山形に根差してモノづくりをする人々や地域コミュニティを取材した地域雑誌「giinika(ジーニカ)」についての話。

 地域雑誌という「雑誌」の形態にした理由をこう明かす。

「もうインターネットおよびSNSの時代ですから、はじめはウェブサイトなどで記事を発表していくことも考えました。

 でも、雑誌という手にとれるモノにすると、実際にそれを扱ってくださる場所ができて、その場所を訪れた誰かが手にしてくださる。

 手にしてくれた人は、誌面に出てきた気になるコミュニティに参加したり、雑誌を手に実際に現地に行ってみて、そのコミュニティや人と直接出会うこともできる。

 雑誌にすることで、そんなふうに人を介して価値観の輪が拡がっていけばいいなと考えたんです。

 地域に根差した創作活動や市民活動を知り、直接出会うことでその場所に持続的にかかわる人が増えたり、その創作を応援する人ができたり、一緒に楽しみたいと身体を動かす人が増えていったら、それは地域としてとても心地よくて楽しいなと」

すでにある地域とのつながりやモノづくりに、

『giinika』もご一緒させてもらえたら

 だから、現在、「giinika(ジーニカ)」を置く場所は書店に限らないという。

「もちろん多くの書店さんにお世話になっていて、『giinika(ジーニカ)』を置いていただいています。

 ただ、書店さんに限らず、わたしがこれまで取材したり通うなかで、『かっこいいモノづくりをされているなあ』『素敵な場所だなあ』と思う人や場所には積極的に置いてもらいたいなとお願いしていて。

 それぞれの場所にすでにある地域とのつながりやモノづくりに、『giinika』もご一緒させてもらえたらうれしいなという思いです」

井山さんのような町を愛している人のことを伝えていけたら

 山形にも地域情報を載せたフリーペーパーや雑誌があると思うが、そことの兼ね合いはどう考えているのだろうか?

「山形には素敵なフリーペーパーも、『giinika(ジーニカ)』とは比べものにならないぐらい分厚い地域情報誌もあります。

 その中でどんなふうに共存できるのかなと考えたとき、『giinika(ジーニカ)』では、利益のみならず地域や分野全体の前進を暮らしと重ねて見据えていらっしゃったりするような、そんなわたし自身が共感する創作や活動を、しっかりひいきして紹介していきたいなと思っています。

 とにかくわたしは『どうしてこの固有さが生まれているのか』とか、『この方々は仕事のなかで、地域のことをどんなふうに自分ごとにされているのか』といったところを紹介していけたらと考えています。

 井山さんではないですけど、私利私欲ではない、そのまちや分野を純粋におもしろがって愛している人だったり、よりよい社会を目指して活動している人たちのことを伝えられたらなと思っています」

「YUKIGUNI」より
「YUKIGUNI」より

地域の活動や歴史を見つけて、私自身が知れたら

 それからこんな思いもある。

「また井山さんの話に戻りますけど、井山さんは伝説のバーテンダーと言われていました。

 でも実際のところ、わたしもそうですし、もしかしたら渡辺監督や撮影の佐藤さんも、なんとなく井山さんやケルンのお店については聞いていても、この作品にかかわるまでは実際にお店に行ったことはなかったんですよね。

 わたしたちからすると、すごい何かを成し遂げられていたとしても、職人さんや作家さんたちって、ご自分のことを自ら『すごい』とはあまりおっしゃらない。

 すごい技術や活動をおもちでも、アピールすることに無関心だったり、日々に集中されている方が多かったり。だから地元の方々にも、なんとなくは知られていてもあまり深くは知られていないようなことがたくさんあるように思います。

 そういった地域の活動や歴史を見つけて、私自身が知れたらいいなと思っています」

『giinika(ジーニカ)』は、東京のジュンク堂書店池袋本店でも取り扱い中

 現在、『giinika(ジーニカ)』は、東京のジュンク堂書店池袋本店でも取り扱い中だ。

「ぜひお手にとってご覧いただき、興味がわく人や場所がありましたら、お出かけいただるとうれしいです」

【井上瑶子さん第一回インタビューはこちら】

【井上瑶子さん第二回インタビューはこちら】

【井上瑶子さん第三回インタビューはこちら】

映画「YUKIGUNI」より
映画「YUKIGUNI」より

映画「YUKIGUNI」

詳しい情報は、映画公式サイト  にて

場面写真はすべて(C)いでは堂

「giinika」 撮影:大沼洋美
「giinika」 撮影:大沼洋美

井上瑶子さんが編集・発行 山形の地域雑誌『giinika』発売中!

詳細は公式サイトへ https://www.giinika.com/about.html

東京では「ジュンク堂書店池袋本店」にて販売開始!

→ https://www.giinika.com/220529-junkudo-ikebukuro.html

<やまがた秋の芸術祭/YIDFF 2023 プレ・イベント

山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 リバイバル上映

YIDFF 2021 ON SCREEN!>

開催日程:10月7日[金]-10日[月・祝](4日間)

会場:フォーラム山形 スクリーン3、5(山形市民会館 南隣)

※「カマグロガ 」の回にゲスト出演決定!

日時:10日12:30~スクリーン5

トークゲスト:西尾沙織さん(お日さま農園)、井上瑶子さん(編集者)

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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