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愛想笑いで周囲に合わせてしまうヒロインを演じて。通っていたバーにしばらく近づけなかった理由とは?

水上賢治映画ライター
「まっぱだか」で主演を務めた津田晴香  筆者撮影

 神戸にある元町映画館が開館10周年を迎えて製作した映画「まっぱだか」は、もはや必然ではないかという男女のめぐり逢いの物語だ。

 めぐり逢うのは、神戸の街の片隅で生きる俊とナツコ。

 恋人を失った過去からまったく立ち直れない俊は、毎夜浴びるほど酒を飲んでは酔いつぶれている。

 役者志望のナツコは、周囲から求められ押し付けられた「明るく元気」というイメージに嫌気が差しながら、その期待を裏切らないよう振る舞う自分という人間にストレスを抱えている。

 いつからか心から「笑う」ことを忘れてしまった二人が、「互いにそのとき最も必要だった存在」としてめぐり逢うことになる。

 「めぐり逢い」とするとなんだかロマンチックな出会いを想像してしまうが、そうではない。

 すれ違いのラブロマンスでもない。

 深く傷つき、失意を抱え、やり場のない孤独の先の日常に起きた「ささやかな奇跡=めぐり逢い」といったほうが近いかもしれない。

 俳優としても活躍する安楽涼と片山享が共同監督で作り上げた本作でヒロイン・ナツコ役を射止めた津田晴香に訊く。(全四回)

「まっぱだか」で主演を務めた津田晴香  筆者撮影
「まっぱだか」で主演を務めた津田晴香  筆者撮影

修羅場になるあのバーは行きつけだったけど行けなくなりました(苦笑)

 過去3回の記事で、ナツコ=自分自身と明かした津田晴香だが、実はいまだに役をひきずっているところがあるという。

「修羅場になる、あのバーも行けなくなったんですよ。

 あのシーンはほんとうにきつくて、もう思い出しちゃうから入れなくなっちゃったんです。

 もともと良く行くバーで、マネージャー役を務めている方が実際はバーテンダーをされていて、その方とも顔なじみで。

 お店に行きたいんですけど、あの記憶が甦ることを考えるとなんか苦しくなって足が向かないんですよ(苦笑)。

 最近、ようやく行けるようになりましたけど、ほんとうにしばらくは近づくこともできなかったですね」

自分の気持ちに素直な俊は、うらやましかった

 心から笑えないでいるナツコの心にひとつの明かりをともすのは、柳谷一成が演じた、笑うことを忘れてしまった男・俊になる。

 この男の姿はどう映ったのだろうか?

「ナツコでありわたしになりますけど、俊はすごくうらやましかったです。

 わたしは、どうにかこの場を楽しくしようと考えるタイプだったから、一緒にいる相手に無理しても笑顔で対応して、その場を穏便に済ませてきた。

 でも、俊はそんなことは一切考えていなくて、自分の沈んだ心、ボロボロになった気持ちを隠そうとはしない。他人にどう思われようが関係ないんですよね。

 他人からすると自暴自棄になっていて迷惑なやつだなと思われるかもしれないですけど、俊は自分の気持ちに素直で、その気持ちを素直に表に出しているだけなんです。

 だから、素直に『うらやましいな』と思いました。また、ナツコは俊に自分にはないものがあるので、ひとつの憧れを抱いたと思いました。

 俊の姿をみて、そんなに自分も気を張らないで生きなくてもいい、楽にいてもいいんだと気づいたところもあったと思います。

 だからこそ、二人はどこか心通じるものもあったのかなと思いました」

「まっぱだか」より
「まっぱだか」より

俊と吉田は、こういう友情があるんだと思って、すごく感動しました

 片山享が演じた横山、柳谷が演じた俊、そして、もうひとり重要人物として登場するのが片山と共同監督を務めている安楽涼が演じた吉田だ。

 彼は俊の友人。時に俊を叱咤激励しながら、いつも見守っている人物だ。

「わたしは、吉田がなんで俊になんでこんなに強く当たるのかはじめはわからなかったんですよね。

 わたしは相手のことを知れば知るほど、仲良くなればなるほど、強い言葉がかけられなくなってしまう。

 だから、吉田の言動がわからなかった。

 でも、作品を見て、彼はきついことをいって、優しい言葉もかけないけど、俊のことを見捨てていない。ずっとそばに一緒にいることがわかって、こういう友情があるんだと思って、すごく感動しました」

 元町映画館から発信された本作は、そこから飛び出て、いま全国公開の運びとなった。

 このことはどう受けとめているだろうか?

「すごくうれしいです。そのひと言に尽きます。

 ほんとうに自分自身が映っているので、ちょっと恥ずかしい気持ちもあるんですけど、ひとりでも多くの人にみていただければうれしいです」

「まっぱだか」より
「まっぱだか」より

今まで以上にお芝居に真剣に取り組んでいきたい

 今後についてはどう考えているだろうか?

「『まっぱだか』を経験して、自分がお芝居が好きなことを再確認できたんです。

 いままでもお芝居が好きだなとは思っていたんですけど、なんで好きなのか、自分が惹かれるのかを考えることはなかったし、なぜかはわからなかった。

 でも、今回のナツコを演じてわかりました。たぶん、役を通してだったら、自分の気持ちに素直になって、セリフではあるけれども、自分の正直な気持ちをもっていうことができる。ある意味、自分の思っていることを素直に言って相手にぶつけることができる。だから、お芝居が好きなんだと気づきました。

 だから、いまは今まで以上にお芝居に真剣に取り組んでいきたいと思っています」

【津田晴香第一回インタビューはこちら】

【津田晴香第二回インタビューはこちら】

【津田晴香第三回インタビューはこちら】

「まっぱだか」ポスタービジュアルより
「まっぱだか」ポスタービジュアルより

「まっぱだか」

監督:安楽涼、片山享

出演:柳谷一成、津田晴香、安楽涼、片山享、

タケザキダイスケ、大須みづほ 他

脚本:片山享、安楽涼

撮影:安楽涼、片山享

録音・整音:杉本崇志

音楽:藤田義雄 主題歌:Little Yard City「Walk With Dream」

ポスタービジュアルおよび場面写真は(C)元町映画館

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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